あらすじ
時は平安。十四歳の少女、比子(なみこ)は婿となる男を置いて逃げた――
「源氏物語」の空蝉のように。
それから十年。ひとりで生きていくことを決めた比子は、縫い物を司る御匣殿(みくしげどの)の女房としておひとり様道を邁進していた。
そんな折、新しい蔵人頭が赴任してくる。
日に焼けた肌と鋭い目を持つ美丈夫は、比子の夫となるはずだった藤原禎光(ふじわらのよしみつ)だった。なるべく距離を取ろうとする比子だけれど、宮中で評判の「けしからぬ物語」をめぐる事件に禎光と一緒に巻き込まれ……。
雅やかな平安京で、失われた恋と謎の物語がはじまる。
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Posted by ブクログ
平安時代の後宮が舞台となると、藤原家が栄華を誇った華やかなりし頃をつい想像するが、この物語はタイトルからも分かる通り、もう藤原家の力も強くない頃のお話。
源氏物語も100年前のもの、一強の氏族はおらず、院政が敷かれ、ちょっとしたことで権力が右往左往する時代。
実際に作中でも、某院が儚くなったことから権力争い(のようなもの)が起きる。
主人公である比子の心すら揺らしてしまうほどの騒動が。
咎人の娘である自分を救うための婚姻だったとはいえ、その婚姻から逃げ出し宮中勤めをしていた比子。
10年後、夫になる予定だった男性が現れたことで、今更ながら様々なことが動き出す物語。
過去の因縁もそうだし、先述の権力争いも関わってくる。
また比子は物語好きということもあり、宮中で回し読みされていた物語に関わる騒動も入ってくる。
その物語に隠された意味も気になるところではあったが、とにかく比子と元婚約者との駆け引きが気になって気になってついつい読み進めてしまった。
彼の本心が中盤まで見えてこないこともあって、比子と一緒にやきもきすること多数。
途中から彼視点も入ってきたので、多少視野は広がったが、それでも彼は全てを見せてくれる訳ではないので疑心暗鬼になってしまう。
彼の好意を素直に受け止めていいのか、それとも政治的な裏があるのか。
宮中が落ちぶれた今だからこそ、ちょっとしたこともより穿って受け止めてしまう……敢えてこの時代設定にした意味はここにあったのではないかと思う。
また比子も彼も出会った当初とは違い、十年の年を重ねて、互いにより大人になった。
だから、諸々の問題を片付けて、二人結ばれてハッピーエンドとはならない。
そうそう甘い世界ではないのだ。
比子にとって、今の居場所は職場。
そして、少し性格に難はあれど、頼もしい同僚たちもいる。
自分だけが守られて、ここから先も権力争いの中に身を投じていく彼をただ待つ身にはなれない。
だから、彼の妻という道を歩まないと選択し、彼もそれを受け止める。
そして、それでも彼は同じ道を歩むことを諦めないとも。
こういう締めにするのかと、安易なハッピーエンドにしなかったのが個人的には好みだった。
それに、希望が持てるラストでもあったので。
予定調和ではない、大人な恋愛だなと感じた。