【感想・ネタバレ】本質観取の教科書 みんなの納得を生み出す対話のレビュー

あらすじ

自分とは異なる立場や考えの人と、いかに対話し、合意形成していけばよいのか分からない。それどころか、深刻な信念対立を目の当たりにし、対話への希望を失ってしまう。そんな人は多いのではないだろうか。本書は、「本質観取」と呼ばれる哲学の思考法・対話法を、誰もが実践できるようになるための入門書である。「言いっぱなし」でも「論破!」でもない。分断をのりこえ、真に生産的な対話をもたらし、民主主義を成熟させるための対話の極意、奥義とは? 実践で活用できるワークシートや、ファシリテーションのコツなども収録。

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Posted by ブクログ

様々な人が互いの違いを認め合い、そのうえで誰もが納得できる共通了解に向かっていくこと。理論編には納得できる部分が多かったが、実例を読むと、本当に本質と言えるのか疑問を持った。

「いいケア」とは何かを考える事例では、進行役と四名の参加者によって対話が行われ、最終的に「その人の自覚的・無自覚的な願いを想像したかかわりである。いいケアの実現には、対等性の志向、対話的なかかわり、ケアする人の貢献感が必要である」という結論が示される。しかし、これは本質というより、参加者全員の意見を均等に取り入れた結論に見えた。

企業の例として紹介されているSCSKの経営理念「夢ある未来を、共につくる」の本質観取についても同様で、最終的な共通了解は「不可能が可能になる未来を、私たちはみんなで実現する」というものだった。これは元の理念を言い換えただけに近く、前後でどのような理解の深化があったのか分かりにくい。「理念の本質を言葉にできれば、目指す方向が明確になる」と説明されているが、著者が想定する成果の細かさと私が期待したものとの間にずれがあるように感じた。

この二つの例からは、進行役の限界も見えてくる。役割の性質上、意見の選別や切り捨てが難しく、最終的な結論が当たり障りのないものになりやすいように思われる。

「本質観取」は、宮本常一が記録した「寄りあい」と似ている。村で取り決めを行う際、人々が時間をかけて納得するまで話し合い、地域ごとに意見をまとめ、折り合わなければ持ち帰って再度話し合うという過程は、「本質観取」の集団的な理解形成に通じる。語り手が自分たちの体験に基づいて語ることで、他の参加者にも伝わりやすくなり、意見の対立があっても時間を置きながら考え合う点も共通している。

異なるのは、最終的な責任の所在にある。「本質観取」では結論の責任を参加者全体に分散するのに対し、「寄りあい」では最終的に最高責任者が決定する。この違いが、結論の性質にも影響しているように感じた。

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2025年11月27日

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