【感想・ネタバレ】梧桐に眠るのレビュー

あらすじ

直木賞受賞後、初の長編連載が待望の単行本化!

天平の寧楽(奈良)、欲望渦巻く平城京に
投げ出された異邦人と浮浪者たちーー。

国家の秘事に巻き込まれて唐から来朝し、
不安と孤独な生活を強いられた袁晋卿(えんしんけい)は、
浮浪児と出会い、心を通わせていく。
争いの渦の中でもがき生きる彼らの姿を
稀代の作家が精緻な筆致で描く、衝撃のデビュー作『孤鷹の天』へと続く物語。

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Posted by ブクログ

 まさに澤田氏にしか書けない物語。唐から来た異邦人と孤児の二人を中心に、玄昉と藤原広嗣でここまで豊かに、これほど面白く描き切る力量には舌を巻く。特に、物語の終盤・太宰府に赴く四名の組み合わせが良い。いずれも唐語を操りながら、京では“異物”として扱われる孤独な存在。ただ、志邑だけが最終章で急に主役のような扱いになった点には少し違和感があり、中盤でもう少し存在感をにじませても良かったように思う。

 本作では、石上乙麻呂の排斥、広嗣の乱、玄昉の死といった有名な事件は描かれない。それを“あえて描かない”という選択こそ、名作家ならではの大胆さだと感じた。

 孤児だった駒売・狗尾・挟虫の三人の生き方も実に興味深い。孤児時代は性格こそ違っても、物乞いで生き延びるしかなかった彼らが、ひとたび安息を得ると次の欲へと手を伸ばしてしまう。それは悪ではなく、ごく自然な変化。晋卿の恩を忘れたと批判するのは筋違いで、むしろ狗尾の強かさや嗅覚は、孤児として培われてきた“普通”の帰結であるとも言える。恩を忘れず太宰府まで付き添った挟虫の方が、ある意味では異例なのだと思う。

 狭虫の「帰る家がないから、どこへでも行ける。孤児で良かった」という言葉には深い真理が宿っており、考えさせれる。現代でも、社会に規則正しく順応することで得られる利益がある一方、生きづらさや不公平を感じることも少なくない。どちらの生を選べるかという点こそ、現代人の特権とも言えるだろう。この観点で、広嗣を不憫に思う晋卿の気持ちにも共感できる。広嗣こそ、貴族社会でなければもっと自由に生きられた典型的な人物だったのではないか。籠の中の鳥。澤田氏の『夢も定かに』の「藤影の猫」で描かれた、伊勢斎宮へ向かう前夜の皇女(斎皇女)の哀しさを思い出した。

 梧桐の木――鳳凰の棲む木の下で眠ることができる幸福を静かに考えさせてくれる物語。

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2025年12月02日

Posted by ブクログ

吉備真備や玄昉とともに、遣唐使船に乗り込んで日本に渡ってきた袁晋卿が、藤原広嗣の客人になり、市井の人々と交わりながら、痘瘡の病禍を乗り越え、力強く生きていく物語。

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2025年10月11日

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