あらすじ
好きだけど、触れあうことはできない。
そんな私は異端者なのだろうか。
主人公の志川は、新卒で就職した不動産会社を辞め、現在、SMの女王様をデリバリーするお店の電話番をしている。友達には「そんな職業は辞めたら?」と眉をひそめられたが、女王様の中でも美織さんという最高に素敵な人に出会い、そこそこ幸せに暮らしていた。
ある日、あこがれの美織さんと初めてごはんを食べに行く約束をして舞い上がるものの、当日にドタキャン。そのまま音信不通になってしまう。彼女の常連のお客さんなどにこっそり連絡を取り行方を探るうちに、どうも自分の知っている美織さんとは違う面ばかりが見えてきて・・・・・・。
過去、志川が不動産会社を辞めた理由は、あこがれの男性社員・星先輩と付き合う寸前に、先輩が自分に求めている性的なことが一切無理だと気づいたからだった。好きだったのに。付き合えないと正直に言っただけで、志川は同僚に悪女扱いをされ、そのまま会社にもいづらくなり、退社することになってしまったのだ。
私はアセクシャルなのだろうか? 「ない」ことを証明するのは、悪魔の証明だ。もしかしたら、まだ見ぬピンクのひつじに会えるかもしれないのに・・・・・・。なんでも性的なことや恋愛に結びつける世の中に馴染めない主人公の戸惑いを通じて、現代社会を描く問題作。
アセクシャルの自身に戸惑い、彷徨い、清爽と一歩を踏み出す――。
小説すばる新人賞受賞から10年。物語はしたたかに進化する。
【著者プロフィール】
渡辺優(わたなべ・ゆう)
1987年宮城県生まれ。2015年に「ラメルノエリキサ」で第28回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。他の著作に『自由なサメと人間たちの夢』『アイドル 地下にうごめく星』『クラゲ・アイランドの夜明け』『アヤとあや』『カラスは言った』『私雨邸の殺人に関する各人の視点』『月蝕島の信者たち』などがある。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
もはやLGBTQの「Q」の部類は、人類の数だけ
存在していると理解した方がいいのかも
しれないです。
主人公はアセクシャルという男性と性的な関係を
築くことができない女性です。
そのアセクシャルに対する周囲の人々の理解は
様々で、軋轢を生んでばかりいます。
風俗店の電話番としてアルバイトする主人公は、
ひょんなことで風俗嬢の一人と打ち解けることに
出来そうになりますが、その風俗嬢は突然姿を
くらましてしまいます。
主人公は姿をくらました風俗嬢の身辺を調べる
ことにより、明らかになる彼女の秘密と、
自身のアクセシャルという性癖に対する葛藤が
相まって、自身の進むべき道を見出す
ことになります。
現代の青春小説とはこういうものなのかも、
大変な時代になったものだと痛感する一冊です。
Posted by ブクログ
読書のマンネリ化に一撃をくらうBestでした。読みやすく、程良いレベルの謎を追求するテンポも。おかげで本を読む楽しさを取り戻せた。特に「悪魔の証明」。ある物をあると証明はできても、ないものはないと証明するには、世界中のすべてをくまなく探し尽さないといけない。それは愛や性欲もまだ本人もないと言い切れるまで、くまなく探し続けなければならない。私も主人公よりのアセクシャル?アロマンティック?なのだと思う。恋として好きならばその先は恋人になるのが普通だと、小学校の性教育でも習ってきた、無性愛者などこの世に存在はしていない。
昔から「本当に人を好きになったことが“まだ”ないんだよ」と言われてきた。だから私もその“まだ”を追いかけなきゃと、順序を経てして付き合った人もいたけど、なんだか違う。人として好きなのにその先に必ず進まなければならない不思議。主人公のように強い拒否反応はなくても、なくてもいいのに何故しなくちゃダメで、しなかったらそれはすべてを受け止めておらず愛した事にはならないのか。そこに世間と私のズレがずっと不思議だった。
そもそもなんで性犯罪が起きるのか風俗などが存在してるのか、自分を抑えきれない程の衝動、罪を犯してまでお金を払ってまでしなくてはダメな行為、そんな事なんてこの世に存在しなくない?と思ってたけどそれは、私のほうが存在してない側だった。ただ確かに“ない”と言いきれるのかも未だわからない、ただ好きな対象が異性で、その先恋になって進めた先に愛があってもその行為がなければこの先誰とも生涯を共にし誓う事もできなくてひとりなんだと思ったら、好きで愛してるのにそれは相手や世間にとっては愛してないのと同意義なんだと思ったら、不安になる。なんで私の事理解ってくれないの!なんて怒る事はまだ一度もなくて薄っすらどうして生まれてきたのかな〜とぼんやり思ったりもする。子供を産む前提として人間として認めてもらえない。その疎外感はあるけど
最後の女王様が別に大丈夫、恥ずかしくないよ。別にこれまでの人生言い訳も必要ない、理解されたいとも思ってなくて「孤独もだめなの?」そして
誰もが皆それぞれの、天国。地獄じゃなくて、天国。
その表面だけじゃなくて裏面も同時に存在してて、
結局なにもわかってない。孤独がダメなのかどうか、愛というもののルールも本当には誰もよく知らないままこうだと思いこんだままなのではないのか。
じゃぁ誰もが皆地獄の方ばかりでなくて、自分だけの天国だと思う方に進めばいい、周りがそうだからじゃなくてもいい。
そしてあの女王様は庭付きの家を札幌にと言ったけれど多分札幌にはいない。植物を多種多様に育てたければ不毛の地には行かないだろうなと、そして主人公の下の名前も最後まで知らなかった事も衝撃で読み返してしまった。ずっとそこにあったのに見えてなかった気付いてなかった知ってた気になってた、知ろうともしてなかった。それって結局このテーマのアセクシャルやアロマンティックのようなQという存在に似てる。当たり前にあると思っているものを立ち止まってもしかしてないのでは?と気がついた人がいるかどうか。それだけの話で下の名前を知られてない人は孤独という事とはまた別なのではないかなと思った。どうであれそこにその人はいて生きているってだけ。
Posted by ブクログ
この本を読みながら、私自身も主人公と一緒にセクシャリティについて考え、迷いました。
主人公の孤独に共感したり、この世界のセクシャリティルールにイライラしたりと、重たい感情が溜まっていく感覚になりましたが、読み終えた後にはやっと腑に落ちるような、肩の荷が降りたような安心を得ることができました。
ぶっ飛んでいるけど、正直に生きてる美織さんにわたしも抱きしめられたいです(笑)
世界に対する目線が、ちょっとだけ変わるきっかけになる本でした。おもしろかったです。
Posted by ブクログ
面白いを通り越して放心。
志川さんに大共感の嵐吹き荒れまくってしんどかった。
自分でさえも分からない手に余る感情を、どう頑張ったって他人に分かってもらえるはずもなく。
けど誰か1人でも理解者がいて何の理由もなく隣にいて抱きしめてもらいたい時がある。
そんな時は、美織さんが言ってくれたお笑いコンビや歌謡曲のデュオでもなにか特別な関係が見つかればいいし、誰もが皆それぞれの地獄があるように、その反対に天国を見つけることができればいいな、と思った。
この小説を読んで、まだ輪郭はぼやけててはっきりしてないけど、自分にはもう天国がたくさんあることに気付かされた。
志川さんの他者に向ける純粋な「好き」という真っ直ぐな気持ちを見て、自分ももっとあれこれ考えずに受け入れて伝えていきたいな。
志川さんにだけの感覚と正解と悩みがあって、志川さんが他者に抱く無関心さに対する羨ましさと、自分と重なるところと、同じようにキレ散らかしたい事象と、みんながいるワールドに自分だけがいない孤独と寂しさがほんと〜〜〜〜に刺。
笑いのセンスはないし音痴だから、お笑いコンビもデュオも向いてない。けど、好きな歌や作品を一緒に楽しめるペアと 好みは違うけどそれも楽しめるペアと、いろんなペアが組めると良いな〜〜。
Posted by ブクログ
「スーパーセックスワールドってなんなんだよ」と思ったコミカルなスタートだったが、テーマは意外と重いものだった。アセクシャル——たしかに無味無臭で、なんとも実感が湧かない定義ではあったが、それと向き合うことがこれほど深い悩みを抱えるということなのだな、とあらためて感じたし、勉強になった。
総じて心理描写がわかりやすく、気楽にスイスイ読めて、それでいて味わい深い箇所もいくつもあり、読後の満足感は高い。
> 「自分には帰る場所があり、愛してくれる家族がいるということに。でも、生まれながらに与えられたそれらの愛は尽きていく。来年、再来年、いや、明日にだって親は倒れ、死ぬ。」
>
この一節を読んだとき、自分の両親が旅立ったときのこと、そして今後、私が息子を残して旅立つときのことに思いを馳せた。
Posted by ブクログ
女王様の電話番
渡辺優
集英社
友だちが浮気をされたときはヘビーでセンシティブでお通夜か裁判みたいな深刻な空気になるけれど、友だちが浮気をしたときはポップでライトでちょっとしたパーティーみたいな空気になる。どちらも世界に発生した事象は同じなのに。なぜ?
この世界はどこまでもスーパーセックスワールドなのだ。こういう世界で生きているのに、そういう世界には耐えられないというのはどうしてだろう。
『誰もがそれぞれの地獄を背負っている』ーって、ウェルギリウスだったかな。ほんとね、その通りだなって思うの。ひとにはひとの地獄がある。
やがてお湯が沸いた音だけが聞こえ、美織さんはキッチンに消えた。空調と、その風で草木がそよそよと揺れる音だけが響く。深い緑を見ていると、自分がどこにいるのか一瞬わからなくなる。どこにいて、誰と喋っているのか。
悪いとが正しいとかは、私にはわからない。でも、私はそうしたいなって思ったから。そのほうがいいなって思ったから、そうしたの
いいの。私はね、ひとを幸せにするのが大好きだから。志川さんが喜んでくれるならうれしい。私でよけれが、いつでも抱きしめられに来て。
美織さんはたぶん、ひととの距離感がバグっている。他にもいろいろな感覚がバグっているように思う。でもその掌の温度は本物だし、私は彼女のちょっとどうかしてるふるまいの中にある他人への優しさも、かなり一方的で、独善的なものではあるけれど、嘘はないように感じている。
Posted by ブクログ
スーパー◯◯◯ワールド。何回と出てくるワードなんだけど始めはギャグみたいで笑えていたけど、大事な言葉に感じてくる。
アセクシャル、今まで知らなかった。そして他にも知らないマイノリティーな人等がいるのだろう。
当然の様に異性を恋愛の対象とする大多数、当たり前に考えてしまうのも仕方ない気がするが、改めて色んな人がいる事を認識しないとな。
一般的でないと将来も不安になるって気持ちもよく分かる。大丈夫って言葉も多用されているが、ホントに少数派は多数派に押しつぶされてると思う。
それでも人は人の温もりを求めているのが共感できた。必要なんだ。
悪魔の証明ってなるほどと思わされた。そりゃないものの証明はできないよ。
Posted by ブクログ
初めてのアセクシャルに触れた作品。知らなかったので、勉強になりました。全体的に社会の風刺を感じさせる。SMの女王様的な内容はほぼないのでそこを感じたい人向けではないけど、美織女王様を追っていくのが楽しかった。風俗関係の仕事のノリってこうだよね。そうじゃなかったら生きていけないもの。でもそれをとっても軽く書いてるところが好き!事件なのか?!と追ってついつい先を読んでしまった笑
わたしも美織様に気づいたら惚れていたのかしら?
Posted by ブクログ
アセクシャルの人々が性的サービスの電話番だったら。ないことを証明することはとてもとても難しいし、不可能に近い。証明が難しいそれを、必要とされる社会になっていると思う。
p.17 長く生きているぶん世の中に対してなあなあになっているタイプのご老人を知っているつもりだったのに。これが性風俗店の予約電話だという意識が影響しているのだろうか?性風俗を利用するお客さんというものに偏見をもっているせいだろうか?もし私が女王様の電話番ではなく、健全なマッサージ師の電話番だったなら、こんなイライラは感じていなかっただろうか?
p.189 私、アセクシャルなのかもしれない」
大学時代にはじめてその言葉を知ってから、何度となく考えてきた。
自分はもしかしたら、そうなのかもしれないと。でも、それをどうやって確かめたらいい?
目の前の人間に性的欲求を抱かないことを確認することはできる。でも、世の中のすべての人間に性的欲求を抱かないことを確かめるには、すべての人間と親しくなり、距離を詰めて、それでもやっぱり無理だったという工程を踏まなくてはならない。そんなの不可能だ。無いことを証明するなんて、私には無理。
Posted by ブクログ
評価が難しい本。3と4の間ぐらい。
まず、一気に読み進めてしまった程、読みやすい本だったけれど登場人物のほぼ誰にも共感できなかった。
それはきっと私の「当たり前」と登場人物(主人公だけに限らず)の「当たり前」が著しくズレていたから。
私が「人として美しくないよね」と思うことをしちゃうのが私には受け入れられなかった。
そういう「当たり前」のズレを浮き彫りにする作品だなと感じた。
ただ、「好き」だと思っていた美織さんの失踪を通して、自分の性自認や自分の「当たり前」と他者の「当たり前」を考えていく過程、他者に理解して貰えない、自分が異質であると感じるが故の「大丈夫」という言葉は軽いように見えて重いのかもしれない。
未知のものは怖い。
分からないことは不安。
だから、自分の知っている枠の中に押し込めようとして傷付ける。
知ることは大事。だけど、自分に分からないものを、そのまま「私には分からない。でもあなたはそうなんだね」と受け止めることが何よりも大切なのかもしれないなと感じた
Posted by ブクログ
「ない」ことを証明するのは、悪魔の証明だ。
もしかしたらまだ見ぬピンクのひつじに出会えるかもしらないのに。
「ない」というのは世界中全てを探して、ようやく「ない」と言える。
おばちゃん探しは途中から飽きてきたけど、ノンセクシャルについてはいい本
Posted by ブクログ
直木賞候補作と言うことで読んでみました。
タイトルから「英国の女王様」とかを想像していたら、そうじゃなくて・・・あっ そっちの女王様ね?!
知らない世界のお話しだけれども、主人公は普通の人に感じすらすら読み始めたら、「アクセシャル」と言う言葉が。
セクシュアリテァな言葉で、曖昧で誤解されやすく人に説明しにくい。
アクセシャルな自身に戸惑いながら生活していく主人公。
あまり今まで読んでこなかった感じの本でしたが、読みやすく楽しかったです。
Posted by ブクログ
この世界はスーパーセックスワールドだ。
…そんなキャッチーでインパクトある最初の一文に釘付け、首ったけ。
性愛を抱かないアセクシャル、主人公の志川は、自分がそうなのかもしれないと思っている。
でも性的な欲求が「無い」と証明するのは、自分自身に対してだって難しい。
異性愛や同性愛、様々な性愛が取り上げられるこの世界で、
取り残されたような寂しさがなんとも妙なリアルさで描かれているなあと思った。
何度も出てくる「大丈夫」のワードが印象に残っている。
「一方的に呼び出してきた待ち合わせの相手が席で二人してカレー食べていたら」、
呼び出された人はどう思うのか。
日常の些細な言動の中にも、人それぞれに「大丈夫」の線引きがある。
性的志向だけじゃなく、この「大丈夫かどうか」を見きわめるのは、
○○ハラスメントって言葉が増殖していく、現代の人間関係の生きづらい距離感みたいなのがにじみ出てて面白いと思った。
そして、いちいち悩んでしまう志川だけれど、
センシティブで臆病な人なのかと言うと、そうでもない。
職場から個人情報持ち出しちゃったり、待ち伏せしたり勝手に家に入っちゃったり…かなりモラルが低い部分もあって、
それを
「私ってこういうところがあるんだよなあ」と自分の特性として受け入れちゃっている。
このあたり、全然共感出来ないところが、また面白い。
読者として、志川のことをわかったつもりになって突き放される。
他人のことを簡単に理解できたなんて思っちゃいけない、そんなメタ体験だった!
Posted by ブクログ
疑問に感じているのに、人には聞けなかったこと、誰にも教わらなかったことを、作者がズバリ書いてくた!
私は女友達とも、面と向かって話したことがない。でも友人らも本当は疑問に感じたり悩んだりしてるんじゃないか、と思った。
好きという気持ちだけじゃダメなのか…?
多様性、マイノリティーの奥まで切り込んだ内容だった。
Posted by ブクログ
性的サービスを提供する方の女王様をデリバリーするお店の受付で電話番をする志川という女性が主人公。作品中に出てくるキーワードとして「大丈夫」や「スーパーセックスワールド」の2つが頭に残った。志川はアセクシュアルで他人に性欲を感じない。でも、「好き」という感情は男女関係なく持てる。そのため、男女/女女の関係で誤解も招く。言葉としては「大丈夫」や「セックス」と同じものを使っても、その意味するものは人それぞれ異なる。軽く読めるのだが、いろいろ考えだすと深みにはまりそうだ。
Posted by ブクログ
この世はスーパーセックスワールドである、という衝撃的な文章で始まる。
そのとおりである。
好きという感情、おつきあいという過程、その先には性行為があり、結婚したら、レスであれば離婚理由にもなり得る。
自分はメジャーだと思っているので、そのような世界が普通だと生きてきたけど、そうではない世界もあり、そうではない世界で生きてきた人たちにとっては、スーパーセックスワールド自体がその人たちの存在を否定してしまう。
主人公はアセクシャルに分類されると自分では思っているけども、誰とも性行為ができないという悪魔の証明を世の中に求められている。証明できなければ、それは嘘なんでしょうと。
そんな不毛な世界、嫌だよなぁ、、と読んでて思った。
そんな感情もなく、単にハグしてくれる美織さんが、主人公にとって救いの人だったんだな。
主人公も美織さんも、人との距離感はちょっと近すぎるとこはあるけども。
私はLGBTQのことはうっすら知ってるくらいで、近くにはっきりそうだと分かる人に会ったことがない。気付いてないだけだと思うし、どの人にもグラデーションでいろいろな事情があるものだとも思う。
だから、自分の普通を誰に対しても押し付けないように、自然に皆生きていけるようになるといいなと思う。
Posted by ブクログ
飽きさせない内容でとても面白かったです。
LGBTQIA+という概念は知っていても、こういった物語として擬似体験する事で、より深く知り得たように感じます。とは言っても未だ表層に過ぎないかもですけど。
Posted by ブクログ
割り切れぬ「モヤモヤ」の奥に宿る、圧倒的な誠実さ
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渡辺優『女王様の電話番』は、一人称の語りを通じて人間の内面を深く掘り下げていく、非常に誠実な小説だった。だからといって読者に心地よい共感をさせてくれるような、分かりやすい作品ではない。
むしろ読み進めるほどに主人公の行動には納得がいかない場面が多く、戸惑いを覚えることも少なくない。
風俗店の客と簡単に会ってしまったり、亡くなった客の家に忍び込んだりと、その倫理観や行動原理には多くの疑問符が浮かんでしまう。
特に、吉野ちゃんとのダイニングでの会話は、率直にいって品を欠いている印象が否めず、読んでいてとても困惑した。
そうした違和感を抱えたまま辿り着くラストも、劇的なカタルシスがあるわけではなく、どこか呆気なさすら漂う。主人公の選んだ人生が正しかったのか、それとも間違っていたのか、その答えは最後まで明確には示されない。
本作を読んでいる間、常に割り切れない「モヤモヤ」を抱え続けることになるのだけど、「安易な解決」や「正しい選択」に逃げず、人間の多面性や割り切れなさをそのまま描ききろうとする姿勢にこそ、この小説の凄みと誠実さがあると感じる。
モヤモヤと葛藤しながらも、なぜか深く惹きつけられてしまうからこそ、紛れもない良作なんだろうと思う。
Posted by ブクログ
我々は確かにスーパーセックスワールドに生きているし、自分もそちら寄り。しかしアセクシャルは勿論、LGBTQ他いろんな人いる。昔に比べ理解は広まってるとはいえ、当事者でなきゃ本当はわからないし、生理的に嫌悪する古い人もいるだろう。しかもジャンルの中でもみな同じではない。だからジャンルでなくその「人」を見ればいい。誰もがそれぞれの地獄がある。でもそれぞれの天国もあるんだ。美織さんは嘘つきのとんでもないヤツだと思ってたが、 堂々として潔くブレない女性だったのが良かった。常識的には大分壊れてはいるんだけどwあと、「私あの人嫌い/苦手」の会話にドキッとした。人それぞれ見方違うよねーって。「正欲」との比較も。
Posted by ブクログ
この本を読んで、風俗店で働くスタッフの人情話が書いてあって、難しい立場だということがわかりました。
仕事上のサービスと恋愛との線引きが難しいと改めて思いました。
面白い作品でした。
Posted by ブクログ
生と性が密接に結びついているこの世界の対極的な2つの孤独の物語のように感じた。
また、失踪した一人の女王様の謎が少しずつ明らかになるミステリー仕立てにもなっており面白く読めた。
主人公が見ている世界は、性風俗産業の中にいるにも関わらず現実味に欠けており、まるで仮想空間のように思える。また、登場する人物も彼女にとって善人だけであるという点や好きな人と肉体的に繋がれないという主人公は、ネット空間あるいは仮想空間上の存在を思わせる。その世界が「スーパーセックスワールド」という空間なのだろう。
女王様を探すためコンプライアンス違反を簡単におかしたり、次々と明らかになる女王様の別の顔を知っても、それを都合よく解釈しようとする感覚は、「SNS上の人間は皆善人」と信じる感覚に似ていて危うく感じる。
私たちは発達障害や性についてラベリングすることで分かった気になっているが、その様態は人によって全く違うという点まで考えが及んでいないことが多い。そのことについては改めて反省させられた。
さて、このような主人公が求めていたのは「人の体温」であったというのは、現代のネット社会中心の人間関係の課題を象徴しているようであり、「人と繋がるとは何か?」ということを考えさせられた本であった。
Posted by ブクログ
新卒で就職した不動産会社を退職し、女王様をデリバリーするお店で電話番をしている志川の物語です。
人間好きで大胆不敵。そしてアセクシャルな女の子が主人公。何だかNHKドラマにもなった『恋せぬふたり』を思い起こさせるストーリーでした。
そんな要素もありつつ、ある日突然音信不通になり、姿を消した『女王様』美織さんを探していくというミステリー要素もあり2倍に楽しめました(*´꒳`*)
馴染みのない風俗という世界で志川が予想外の行動でズンズンと進みながら美織さんを探していきます。
その過程で、ふと自分を振り返り、何故美織さんにここまで執着してしまうのかという想いを突き詰めていきます。
最後まで志川も美織さんも私の理解できる範囲を超えて縦横無尽に物語の中を闊歩していってしまいました:(;゙゚'ω゚'):
そんな考えもあるのか〜と思いつつ、共感はできないな‥と。
最近は、『想定外』の小説を読む事に喜びを覚えてしまう自分がいます(*´∀`*)
Posted by ブクログ
直木賞候補作
星4.5
主人公は大手不動産会社の社員だったものの、好きな人から性的な振る舞いをされただけで、それが受け入れられず、会社を退職してしまった志川。
自分は、性を受け入れられない、「アセクシャル」ではないかと思い始める。
生活のため始めたのは、デリバリーヘルスで、女王様を派遣する電話番の仕事。
そこで、憧れの50歳の女王様(なぜか私の頭の中では鈴木保奈美)と知り合うのだが、女王様が失踪してしまい、禁じ手の捜索をするという物語。
アセクシャルという言葉について、主人公も周りの人たちも、Wikipediaなどで調べたりするのだが、確かな定義は分からない。そもそも、LGBTQにしたって、人それぞれなんだろうな。
ヘテロ(異性愛者)だって人それぞれなんだから。
直木賞候補作にならなかったら読まなかったかもしれないが、女王様の失踪をからめ、ページを捲る手が止まらなかった。
主人公の心のひだも、なかなかうまく書けていると思った。
追記 2026.7.31 島清恋愛文学賞
Posted by ブクログ
なかなか面白くいっきに読み終えた
この世はスーパーセックスワールド
そうかもしれないけど
アセクシャルが奇異なのは若いうちだけなんですがね…とおばさんは思います
そりゃまあ個人差があるだろうけどね!
Posted by ブクログ
人は誰しも何かを語るときは自分自身を基準に良し悪しを決めがちだろうし、自分を基準に評価できないことは「一般的には」とか「世間的には」などとどこかで聞き齧った大多数の意見を正しいとばかりに批判の材料とする。しかし一般論に当てはまらないからといって批判される筋合いもないし、極小数派にすら属さないからといって存在していないことにされる必要もない。誰もが自分本位に生きているし、生きていい、それが一番楽だということ、なのだと思う。
Posted by ブクログ
初めての世界を垣間見た。ノミネート作品だから読んでみようかなと思い手にとった。文章はとても読みやすくスラスラ読める。こういう世界もあるんだなぁ。
Posted by ブクログ
登場人物たちが精神的に幼ない。幼さで物語が動くところが腑に落ちなかった。友人のセンシティブな言葉を聞いたあとに、「そんなことありえない!」と言える無神経な大人は少ないのではないか。起承転結の転の部分がその登場人物たちの動きと言動に支えられているから、説得力にかけるのではないかと気になった。
Posted by ブクログ
設定に驚き。優しい色使いの表紙からは想像しなかった女王様。びっくりした。
物語の冒頭、話の本筋に入る導入部分がやや長く感じた。テンポが遅いような。どうせならその業界のことをもっと教えてほしかった。
自分の性自認?を通して、人との関わりや自己肯定をしていけばいいのか、みたいなことを思った。
Posted by ブクログ
SMの女王様をデリバリーするお店の電話番となった志川が、美織女王様の行方を捜しながら、性的なことができない葛藤を見つめていくストーリー。
セクシャリティを扱っているように見えて、「自分の理解の範囲外の人がいること」を扱っている1冊。
アセクシャルを告白した志川に、吉野が「そんなひといるわけないじゃん」と発したシーンは、『性欲』のワンシーンを思い出した。
あなたに理解できないからと言って「ない」わけではない。
あなたの世界で「見えていない」だけだ。
そう伝えたくなる。
そんな理解できないものを「ないもの」として扱い、尊厳を傷つける人に対して、相手を傷つけないように接しようとする志川にはグッときた。
そんな志川も、いなくなった美織女王を探す中で、相手の見えなかった一面や価値観に戸惑う。
誰もが全てを理解できるわけでも、見えているわけでもない。
だからこそ、理解できないものでも、受け入れることはしようと思った。