あらすじ
富生が故郷の館山を離れ上京してから20年以上が経った。母が亡くなってからほとんど帰省することがなくなった実家には、78歳の父が一人で暮らしている。その父の様子が最近おかしい。久しぶりに実家を訪ねた富生が目の当たりにしたのは、父の「老い」だった。不安に駆られた富生は父との同居を決めるが、東京には付き合って8年になる恋人がいて……。
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Posted by ブクログ
あったかい、小野寺さんのお話しはそれに尽きます。
梓美さんとのお別れは辛かったけど、館山でテレワークをしながらお父さんを見守って行く富生さんのこれからに幸あれと思います。
ほんの少しだけど蜜葉市が出てきたのも嬉しかったです。
Posted by ブクログ
出たばかりの小野寺史宜さんの新刊。
主人公は40歳の独身男性。
母が亡くなってから、78歳の父が一人で故郷の千葉の館山市に暮らしている。
その父の様子が最近おかしい。
車をぶつける…何度も同じことを聞く、歩くのが遅い…目の当たりにしたのは、父の「老い」だった。
以下、ネタバレあり。
主人公は仕事を不安に駆られ父との同居を決め、会社に申請して仕事を在宅にして、都内から館山市に引っ越してしまう。
しかしそのことを付き合っていた彼女に相談もせず決めてしまったため、二人の間に溝が生まれ、別れることになる。
父親はおそらく認知症だ…はっきりとしたことは記されないが、行動や発言から何となく読者もわかる。
40歳の今の章と、若い頃の主人公の様々な思い出の章が交互に描かれ、昔の父親と老いた父親との違いが時間の流れを感じさせる。
僕の父は60歳で心筋梗塞でこの世を去った。その時点から母は1人で住み、20年前から僕が家族と二世帯住宅を建て、一つ屋根に住んでいる。
母はこの夏に95歳になった。
『もし亡くなったのがお母さんで、お父さんが一人残されたとしたら、一緒に住むだろうか…』そんな話をした。この小説を読んで、もしも親父が長生きしていたら…そんな空想をさせてくれる本だった。
ただストーリーとしては大きな展開は無く、淡々と物語が進み、父親との二人の生活(父親の介護)がこれから続いていくことを暗示して終わる。もう少しドラマティックな何かがあってもよかったかなあ。
その点がちょっと惜しかったなあ。
Posted by ブクログ
父を亡くした直後、役所の手続きで町に出たときに本屋で偶然手に取ったのがこの本でした。
あまり会話は多くなかったけれど、僕を否定することもなく、静かに見守ってくれた父。その記憶と、いま自分も息子を持つ身になったことが重なり、「これは自分にとってぴったりのテーマかもしれない」と思って読み始めました。
主人公・富生さんは78歳になる父の介護をきっかけに、東京から千葉へ引っ越してきます。父には認知症の兆しがあり、不安を抱えながらも息子として支える日々が始まります。
作中で描かれる父の姿は、知っているようで実は知らなかった断片にあふれていて、うどんを茹でるのが驚くほど上手だったり、不器用ながらも確かに伝わってくる愛情があったりします。男同士の距離感、近すぎず遠すぎずという関係が、とてもリアルに感じられました。
個人的に胸に迫ったのは、富生が8年付き合ったパートナーと別れる場面です。父を選び、介護を選ぶその姿は確かに献身的で美しいのですが、同時に「もっと彼自身が幸せになる道を選んでもよかったのでは」とも思わされました。
全体を通して「父との関係」「老い」「息子としての責任」といったテーマが、温かさと切なさをもって描かれています。僕自身、父を思い出しながら、そして息子を育てる立場として何度も胸に響く箇所がありました。
親が高齢になってきた人や、自分と父との関係を振り返りたい人には特におすすめです。心の奥にじんわりと残る一冊でした。