あらすじ
(株)Kエンジニアリングの人事部で働く小野は、不当辞令への恨みから、会社の不利益になる人間の採用を心に誓う。彼女が導き出した選考方法は、顔の縦と横の黄金比を満たす者を選ぶというものだった。自身が辿り着いた評価軸をもとに業務に邁進していくが、黄金比の「縁」が手繰り寄せたのは、会社の思わぬ真実だった・・・・・・。ボディ・ビルを描いた『我が友、スミス』で鮮烈なデビューを果たした著者が、本作では「就活」に隠された人間の本音を鋭く描く!
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Posted by ブクログ
おもしろかった。
黄金比の縁(おうごんひのえん)。
最初はオウゴンヒのフチ?と思ったが、エンだった。読み進めると「縁(エン)」が重要だと分かってくる。
本書はいわゆるお仕事小説であるが、主人公はとある理由から自分の所属する会社を恨みながら勤務しており、復習のために在籍し続けている。
主人公、小野が務めるKエンジニアリングは、化学工場の設計を請け負う大企業である。理系の小野は新卒入社で入り、希望通り花形である「プロセス部」のチームに配属された。エンジニアリングで世界を変えることを夢見ていた。しかし、ある事件により、人事部に飛ばされてしまう。「会社に不利益になる人間はうちの部署には置けない」と告げられて。
小野はKエンジに勤めて10年を超えた。そのほとんどを人事部で過ごしてきた。社内では数少ない女性社員であり、女性ならではの視点をいつも期待され新卒採用を担当している。
新卒採用担当者は3名。採用のプロセスは、書類選考、一次面接およびグループディスカッション、二次面接、最終面接だ。
異動して間も無くして、選考において客観的な基準などはなく、ほとんどが担当者の経験値や勘に頼っていることを小野は理解した。同時に、人が人を選別することの残酷さを感じ、そもそもそんな判断をしてはならないのではないかとまで考えるようになる。
先に書いた通り、小野はある事件により飛ばされ、会社への復讐を誓った。小野が考える、人事部でできる復讐とはこうだ。「可能な限り会社にとって不利益な社員を雇う」、「そしてさっさと辞めてもらう」。
そこからがおもしろい。
小野は会社への復讐を誓いながら、同時に人が人を選ぶことの残酷さと傲慢さを意識している。だから、確固たる基準を持って採用しなければいけない。小野が選んだ基準は「顔の黄金比」である。つまり目鼻立ちが整っているかどうか。10年務めることで、小野は一瞥しただけで判別できるようになる。
ある時、会社にとって重要で大規模な案件が発生する。公共系の仕事であるその案件は、新入社員だったころの小野が担当するはずだった案件でもある。これを受注できれば、傾きがちだった会社の業績は大きく上向く。
人事部である小野には大して関係のないことだが、しかしあることに気がつく。数年前に役員を辞したある男性と、新入社員の面接に来た若い男性、この2人が妙に顔が似ている。そして会社を辞めた役員は、現在、お役所仕事をしている。まさかこれは、談合あるいはコネ入社というやつでは?小野は、大胆な行動でその深層に切り込んでいく。
そんな感じの話で、コメディ色が強い。主人公のキャラクター自体がおもしろい。
また、1〜2時間で読めるくらい短い。上記に書いたあらすじも、もうオチの目の前だ。
ちなみに、本書の一行目は以下のように始まる。
りんかい線の緑を見ると、今年も……
わたしは漢字に弱いので、「エン?フチ?ミドリ?」と一瞬分からなくなったが、これは「ミドリ」だ。一行目に、わざわざ書名と誤読しやすい字を持ってくるということは、何らかの意味がある?叙述トリック的な……?と思ったが、別に関係なかった。え、関係ないよな?
Posted by ブクログ
勤めてる会社に復讐するには。
会社の花形の部から左遷のように人事部に異動させられた主人公は、会社に不利益を与えるために顔の黄金比で採用・不採用を決定することにした。
なんだこれ?な展開ですが文章の説得力が凄まじい。石田さん独特の文章が小気味よい。数ページごとに笑ってしまう。
主人公も泣き寝入りするだけじゃなくて独特の思考で我が道を行く。
「私も含め不細工な顔のほうが、会社に不利益だろう。それは本当だろうか。不細工な顔のほうが、会社に不利益だろうか?」(P50~51)からの「日中の執務室にはそこここに同僚がおり、皆が不細工だった。」(P51)は一度本を閉じて笑ってしまいました(汗
最後はヒヤッとしましたが楽しかったです。主人公の会社人生は続くのかな?
氷河期は遠くなったのか、こういった小説が書かれるようになったんですねぇ。
解説は朝井リョウさんで「解説まで笑ってしまうのか」と思いましたが真面目な朝井リョウさんでした。
Posted by ブクログ
理系の男性が多く就職するような、男女日が9:1の、時代に追いつけていない化学企業の新卒採用の話。
主人公は、「女性」という理由で難癖をつけられ、自分がやりたい仕事から人事部へと移動させられた。
そんな進むべき「前(志をもって進むべき目的)」を奪われた主人公は、採用担当としての権利を活かし、会社を徐々に崩壊させる復讐を、新しい「前」に設定する。
それは、「顔の黄金比」のみで学生を選対すること。
顔の黄金比のいい学生は、離職率が高く、会社にいつまで経ってものさばるような「凡人」にはなる確率が低いからだ。
複数の基準を持って人間を総合的に評価する「新卒一括採用」とは、全くの矛盾の行動だが、そもそもそんなシステムは欺瞞であり、成り立たない。
だからこそ、顔の黄金比での採用基準がまかり通る…
日本の採用システム、会社組織の不条理さと、正しくはないが「自分の美学・信念」を持って職務を全うする主人公の皮肉さが相待って、とても痛快な部分もあった。