【感想・ネタバレ】一心同体だったのレビュー

あらすじ

体育で誰とペアになるか悩んだ小学校時代。親友への憧れと嫉妬で傷つけ合った中学時代。うちらが最強で最高だった高校時代。女であるが故に、なし崩しに夢を諦めた大学時代。仕事に結婚にコロナに子育てに翻弄される社会人以降の日々・・・・・・1990年から2020年。10歳から40歳。平成30年史を背景に、それぞれの年代を生きる女性たちの友情をバトンのようにロンド形式でつなぐ、かけがえのない“私たち”の物語。共感の声が続々! シスターフッド文学の最高傑作!!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

◾️record memo

あの瞬間、あたしも、自分の顔が好きになった。好きになれた。可愛いとか可愛くないとか、人からさんざん言われて、切り刻まれてきた自分の顔が、北島の「好き」のひとことで救われたんだ。北島はあたしを、たったひとことで救ってくれたんだよ。

五分前を知らせる電話が鳴ると「やっぱシメはこれかな」って、SPEEDの『my graduation』を誰からともなく入れる。誰もSPEEDなんか別に好きじゃないのに、カラオケに来ると毎回必ず四人で歌った。
そういう、いつものカラオケ。いつものパターン。あの時間のかけがえのなさにいまごろ気づいて、一人で焦って、青くなってるよ、あたしは。

とにかく、女子グループに加わって、受け入れられて、超仲良しなんて、ほんと、中学時代のあたしには考えられないことだった。考えられないくらい幸せなことだった。四人で最後に撮ったプリクラを、あたしは自分にも女友達がいるんだっていう、たしかな証拠みたいにして生きるよ。それはすごく、あたしに自信をくれることだから。彼氏がいるより、女友達がいる方がすごいことだよ。これはまったく本当に!

誰か私に、あなたは悪くないよって言って。
私が犯した浅はかな間違いを取り返すチャンスをちょうだい。

------あ、なるほど、そういうことだったんだ。
瞬時に、あたしはすべてを悟った。
女は結婚してないと、こんなにバカにされるんだってことを。あたしって世間じゃここまで下等な生き物だったってことを。こういう、どうってことのない普通のおばさんたちが、誰かの妻ってだけで、どんだけ調子こいていたのかを。そうじゃない人をバカにすることで、いじましく自分たちの自尊心を守っているんだってことを。

あたしは留袖ではしゃぐ独身差別ババアを見ながら、無性に悲しい気持ちになっていた。男に傷つけられると怒りがわくけど、女に傷つけられると悲しくなる。この世はあたしが生きるには汚すぎる。

知らない街でもスタバの中は安定のシアトル感であたしたちをやさしく包む。喧騒にまぎれて、ふわふわした心地で。スタバで楽しくしていると、普通の女の子に上手に擬態できてる気がして、あたしはなんだか満たされる。

あたしは重度の音楽依存症だから、ちょっと外へ出かけるにも、CDウォークマンと愛聴盤をあれこれ収納している分厚いCDケースが手放せなかった。そのときどきの精神状態に合わせて、自分で自分に処方箋を出すみたいに、聴く音楽を選ぶ。ベル・アンド・セバスチャンで現実世界にシールドを張り、景気づけが必要なときはダフト・パンクでドーピング、感傷に浸りたいときはジェフ・バックリィの『ハレルヤ』に限る。

「ちはる、こんな縁もゆかりもないところによく住めるな」筒井麗子が言った。
「よく考えたらすごいことだよね。名前も変わって、知り合ってたった数年の人と知らない街に住むなんて。それってすっごい、人生の大冒険」
あたしは生まれてはじめて結婚をリアルに考え、そのとんでもなく乱暴なシステムに呆然となってる。
「冒険っていうか、ほとんど賭けじゃん。宝くじじゃん」
「賭けって、人生を決めるときにいちばんしちゃダメなやつでは?」

結婚かぁ。そこにたどり着くのは、いつのことだろう。ていうかそれって、絶対マストなことなんだろうか。あたしはただぼんやりと、好きなことをして生きていきたいとか、好きなことを仕事にしたいとか、素敵な感じになりたいとか、そういうあてのない欲望しか抱いたことがなかった。結婚なんてまともに考えたこともなかった。あたしが結婚してもいいと思えるのは、北島くらいだ。北島と結婚して、女ふたりで生きていいっていうなら、まあ、してもいいかな、結婚。

「卒業して環境変わると、ほんと縁って切れるじゃん。エスカレーター式の私立に行ったような子はさ、よくも悪くも世界狭くて、ほとんど変わらないメンツでつるみつづけるらしいけど。あたしみたいに公立行ったりしてるとさぁ、卒業後はほとんどバラバラだから。たまに集まってもお互い探り入れるみたいな近況報告するだけで、ちはるとも全然連絡とってなかった。はっきり言って、ほとんどちはるの存在忘れかけてたころに、いきなり招待状が来たんだよね。それって友達なのかなぁ?数合わせに声かけただけなんじゃないかなぁ。あたし正直もう、ちはるのこと全然わかんないんだよね。なんであんなキモい男を結婚相手に選んだのかも、もう訊けないし。本当にこんな微妙な田舎に一生住んでいいと思ってんのかなぁ。それってちはるの本心なのかなぁ。そんなこと考えたりもして、祝うに祝えないっつーか」

「なにそれ、ちはる、めっちゃさびしかったんじゃん。やりたいこと見つけて、結婚相手も見つけて、順調に生きてんのかと思ったら、めっちゃさびしいんじゃん。はーあ、なんだよ、うちらみんな超さびしいんじゃん。さびしいのになにやってんだよ。バカじゃないの……」

見た目だけはたしかに二十五歳、もしくはそれ以上。大人びてるし、落ち着いてる。けど、住むところもなくて人生あやふやで、人間として実際のレベルはやっと十九歳ってところだ。十九歳だったらまだ格好がついたのに。十九歳だったらよかったのに。

「信じられない!正社員なんて新卒でなきゃもうなれないかもしれないのに。まだ研修中なんでしょ!?客室清掃が終わったら次はフロントに行けるかもしれないんだし、もうちょっとつづけなさいよ!絶対つづけるべき!」
菱田さんはすごい剣幕で言う。
あなたは、自分のために怒ってくれている菱田さんを、うざいと思う。あなたは彼女の説得を無視する。ちょうどあなたが、お母さんの言うことをいつも無視するように。なぜってあなたは二十歳。あなたはとても若い。あなたの若さはときどき醜い。目も当てられないくらいに。

「正社員は正社員しか、結婚前提の恋愛対象に入れてないからね」
え、そうなんですか?という言葉を、あなたは飲み込む。
あなたはいつからか、玉の輿めいた上昇婚ストーリーを、心の奥底で信じている。誰かがあなたを見つけてくれると、なんの根拠もなく思い込んで生きている。経済力と包容力のある男らしい人が、あなたにひと目でぞっこんになって、なんでも言うことを聞いてくれて、幸せにしてくれると思っている。でもそれは、世界中の小さな女の子に吹き込まれたおとぎ話であって、現実には起こりえない。あなたには起こりえない。

------無理をしないで、人と比べないで、これは競争ではありません。
その言葉は、空腹に流し込んだホットミルクみたいに沁みる。あなたを芯からあたためる。

あなたは苦しい。あなたはつらい。けれどあなたは、その体を容れ物にして、これからも生きていかなくちゃならない。あなたはあなたとして、やっていかなくちゃいけない。あなたはあなたを、あなたのままで、愛するしかない。

あなたはずっとロングヘアーだったけど、実はショートの方が断然似合う。髪を切ってからの方が、あなたはあなたという感じがする。いままでずっと、誰かの擬態をしてたみたい。そう、あなたはずっと、擬態をしていたのだ。若くて、きれいな、女の。

無理をしないで。
自分とだけ向き合って。
人と比べないで。
これは競争ではありません。
こうして、あなたは三十歳になる。
三十歳になる。

ああ、まただと、私は思った。内定をもらったのを打ち明けたときと、同じ空気だ。別々の道を歩きはじめた時点では気づかなかった。無邪気に「お互いがんばろうね」なんて言っていた。だけど一年が経ち、二年が過ぎ、社会人三年目にもなると、ようやくわかってきた。私たちは取り返しがつかないくらい引き裂かれ、違う世界の住人になっていることに。それから、私たちがなにによって分断されているのかも。要するにお金だ。

私は、イヴがりんごを食べて知恵をつけてしまったみたいに、お金の稼ぎ方も、お金の使い方も、知ってしまったのだ。

ごはんに行くとするなら、相手はどのくらいの予算を考えているのか。一緒に旅行に行くなら一泊いくらくらいのイメージなのか。相手の"普通"と自分の"普通"をすり合わせなくちゃいけない。なにしろみんな、自分の思い描く"普通"しか、世の中にはないと思ってるから。

これまで自分の給料は、私の努力に見合った金額なんだ、私はそれだけの仕事をしているんだと疑ったことがなかった。けどそれは思い上がりも甚だしく、私の給料は、大島さんみたいな人をスポイルして、割増しされた結果であって、自分の力なんてまるっきり関係なかった。ただ本社に総合職で入れたから、いい給料を割り当てられてるだけ。ラッキーだっただけ。

結界に拒まれたみたいに、私はフードコートの中に入れない。立ちすくみ、呆気にとられて眺めつづける。子育て世代の親のなかに、おじいちゃんおばあちゃんがぽつぽつ交じり、三世代でテーブルを占拠していたりする。子孫繁栄!そんな古来のドメスティックな幸せを絵に描いたよう。同じ血を体に流す家族という集合体が、一斉に食事をし、腹を満たしている姿はなかなか強烈だった。

その美しきサークル・オブ・ライフは、この巨大なコミュニティからはじき出されている部外者の私にはいささかグロテスクに映った。たった一つしかない家族像の、圧倒的な正しさにくらくらする。

平凡な男だなぁ。こんな平凡な男が、職があって、家があって、妻があって、子がいるのか。二人目が生まれるのか。私はふと、ショッピングセンターにやって来るあの、同じ鋳型で鋳造されたみたいな、画一的な家族像を思い出した。お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃん、ぼくわたし。みんなが同じ幸せに向かって、いっせいにカートを走らせてる。生活してる。なんだろうあの感じ。あの噎せ返るような濃い空気。圧倒的な血縁主義。遺伝子を次の世代につなげることへの剥き出しの執着と悦び。生きているのはなんのため?血を絶やさないため?その輪からぽつりぽつりとこぼれ落ちた人は、どこに行けばいいんだろう。私や大島さんみたいな人は。

またスタッフの子が妊娠で退職。赤ちゃん欲しかったんだねって訊くと、あっけらかんと、いやぁ〜彼氏をつなぎとめたくて必死で、と言われ、ああ、やっぱりそういう利己的な動機で子供つくる人もいっぱいいるんだよなって、ちょっとほっとする。

女の子たちはたまに、ぎょっとするほど身も蓋もないことを言う。貪欲で、生々しい。そのことを恥じる回路が切れてるみたいな、空恐ろしい生命力とたくましさ。見た目はみんな、ふにゃふにゃしてるけど。

義母は私のことを、人前では「お嫁ちゃん」と読んだ。お嫁ちゃん……。その言い方の、言葉にできない気持ち悪さ。

「嫁」は、その家でもっとも低い位置に置かれた、雑用係みたいなものだ。掃除婦であり、飯炊き女であり、洗濯女。あらゆることをタダでやる、便利な存在。
そしてなにより子供を二人か三人"産む機械"。ある種の人たちは、本当に素で、ナチュラルにそう思ってる。
十ヶ月間お腹の中で育てて、さらに生まれてから最低十八年、つきっきりで世話をする"育てる機械"でもある。

いま、彼氏と一緒に住んでるけど、あんまり世話焼かないように気をつけてる。家賃だってちゃんと出してるし。とにかく自分から、すすんで奴隷にならないようにしてる。お母さんみたいに甲斐甲斐しく世話を焼いて、家庭的アピールして、結婚してもらおうなんて浅ましい考えはもうしない。

たとえば過度な恋愛至上主義が、どれだけ女性にとって有害かという指摘。私たちはロマンティック・ラブ・イデオロギーにずぶずぶと浸かって育ったけど、ああいう恋愛観から抜け出さないと、一生男から与えられる"幸せ"だけを指標にして生きていくことになる。

性被害に遭わないように空手を習わせたい。恋愛至上主義の罠に嵌らないようにシスターフッドの物語を読ませたい。女の子の人生には危険が多すぎて、その罠を回避させるために、なにをしてあげられるのか考え出すと、不安で眠れなくなる。涙がでる。

親がどれだけジェンダーステレオタイプをかわそうとしても、あらゆるところから、「女の子だねぇ」「女の子は女の子らしく」の価値観は、雨のように降りそそぐ。せめてその雨をしのげる傘くらいは用意してあげたいけれど。

女の子たち、怖がらずに、人に質問したいことがあれば訊いていいよ、踊りたかったら踊っていいよ、嫌なときは嫌って言いなさいね、まわりを気にしないで、好きな服を着ていいんだよ、愚痴ばかり言ってるのがいちばんつまらないよ、あなたは大丈夫、あなたならできるよ。

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2025年07月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

花いちもんめとか体育の時間のペアを組みましょうはすごく苦手だった。だって私も選ぶ側ではなく、選ばれる側だったから。
学生時代それぞれ楽しかったはずだけど、今でも繋がってる人って片手で数えられるくらい。
みんなどこに行ったのだろうか。
小学生の時はフルネームで親に紹介していたな。

女性は差別される側だと書かれていたけど、それでも自分の人生を諦めたくない。
仕事も頑張りたいし、子育ても頑張りたい。

登場人物がリレーのようにお話を紡いでいって、最後元に戻ってきたと分かった時はすごくすかっとした気持ちになった。

各年代で共感ポイント多すぎるし、年代や人によって書き方が違っているのももっと読みたいという気持ちになった。

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2025年09月21日

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