あらすじ
俳諧の確立のため奥州への旅を望んだ松尾芭蕉。弟子の曾良はその旅に同行することに。師の抱える矛盾に翻弄されながらも、名句が誕生する瞬間に立ち会える感動も味わう。その凄みや壮大な野望を実感するごとに、彼が創作のためには自らとの別れすらも欲していることに気付いてしまう。曾良視点で描く、俳諧の巨人との道中記。軽妙な文体で描かれた珍道中を楽しみつつ、紀行文の最高峰に込められた奥深さ、名句誕生の瞬間に立ち会う感動を体感できる、青春小説の名手による画期的な初の歴史小説!
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Posted by ブクログ
『おくのほそ道』の旅を曽良の視点で記述する。「おくのほそ道」には書かれていない、いわゆる「謎」とされる部分を次々に解き明かしていく。だいたいそうだろうと思うような話もあれば、著者による新解釈が語られる話もある。
新説の例として、曽良と芭蕉の別れがある。芭蕉は、記録に変化を付けるため、曽良と別れることを初めから意識している。曽良もうすうす感じ始め、須賀川で等躬からそのことを教えられる。曽良は曽良で徐々に自分でも意識し始め、最後は山中温泉の地で、「自分の俳諧のため」別れを自分で言い出す。
だいたいそうだろうというのを一つだけあげれば、尿前の関。曽良が経路を変えたため、申告の滞在日数、出る予定の関所と異なってしまったため、番人に隠密ではないかと怪しまれ、結局袖の下によって通過できたという話。こういう話をクリアに次々と語っていく。自然にすっと読めていく。面白い。
曽良と芭蕉の会話も楽しい。なにしろ芭蕉は「わたしはわたしが嫌いだ」と言い放つほど、自分勝手だ。しかし天才ではあり、曽良もそれは認める。特に、自分のあるいは他人のものでも、詠まれた句の改善(読み直し)がすごい。曽良は「作り直しの現場に居合わせられることに、わたしは無上の喜びを感じる」とまで言うのだ。著者の解釈ではあるが、その深い解釈には納得である。驚くのは、最後の解説に、俳人の小澤實が、「驚くべき読みである」としていることだ。すごい。この作者の他の本も読まなければ。
Posted by ブクログ
著者は私の大学の後輩にあたる。主に青春小説を書いてきたのだが、本作では誰もが知る松尾芭蕉を取り上げている。しかも、これまた有名な『おくのほそ道』が題材だ。視点人物は、芭蕉の弟子であり旅の同行者の曾良である。
曾良が、芭蕉より5歳年下であることは初めて知った。芭蕉は「俳聖」などと呼ばれても、聖人とは言えないだろうと予想はしていた。しかし、これほど子供っぽいところがあったのは驚きである。これではマネージャあるいはアテンダント役の曾良が気の毒でしょうがない。曾良に感情移入しそうになった。
そして作中で曾良が何度も繰り返し驚嘆するのは、芭蕉の「作り直し」 の才が凄いこと。不世出と言っている。作り直しの天才か。それから「俳句」と「俳諧」の違いが少しわかった。
Posted by ブクログ
<目次>
略
<内容>
『青春と読書』(2023.8~2024.10)連載のものを加筆訂正したもの。河合曽良を主人公に、松尾芭蕉の『おくのほそ道』の道中を描いたもの。オーソドックスながら、俳句の解釈はすごい。そこまで考えるかはともかく、文学的にもなかなかなものでは?