あらすじ
地方都市・天島市で造船業を営んできた大家・扇谷家で2025年4月、予言者として一族を繁栄させてきたおばあさまの手帳が見つかった。手帳によると、おばあさまは100歳となる今年死亡するらしい。一族の皆が集まり、家じまいをすることになるのだが、本家の娘・立夏には気になることがあった。それは認知症になって以来、おばあさまが繰り返し「若い頃、桜の木の下に死体を埋めた」と言っていたことと、言葉なき者の声を聞く能力を持つ立夏は、それが本当だと知っていること――。
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Posted by ブクログ
扇谷家は、女性に特殊能力が現れる一族。それゆえに限られた家の相手と婚姻関係を結び、秘密を維持していた。
予知能力者の時子は、自分の死期を知らせる予言帳を曾孫の立夏に託す。時子自身は認知症が進み、ただ「桜の木の下に死体を埋めた」とことあるごとに話すのみになっていた。それは本当なのか、だとしたら誰なのか。
過去と現在を行きつ戻りつしながら、扇谷家の面々の視点で一族の姿が描かれる。
自分の意志を無視され、家のために決められた道を歩まされた時代。予知された出来事は初めから決まっていたのか、それとも揺らぐなかで変わっていくものなのか。現代になっても「家」に縛られそうになるが、あえて自らの道を選び取る人たちの覚悟が描かれる。
それは真面目で悲壮な覚悟なのだが、だからといっていたずらに深刻にならないところが面白い。時子の秘密も重いものだが、根底に勘違いがあるし。からっとした作風とでもいうのだろうか。読後感がいい。
Posted by ブクログ
思ったより不思議な感じはしなかった。
この物語は、扇谷家という一族の断片的なファミリー・ヒストリーである。一話の主人公である立夏からすると曾祖母の時子が、認知症を患って施設に入所したことから、彼女の住んでいた家を親戚一同で家じまいするところから始まる。
不思議な、と題しているのが何故かというと、この扇谷家に生まれる女性には超能力が発現するからだ。曾祖母の時子は予知能力者。自らの死期を記した予言帳なるものを、立夏の片付けそうなところに隠しておき、見つけさせた。
予言帳には時子が十一月の十三日に死ぬことが書かれていて、家族はその日までに誰も住まなくなった家をどうにかしようとする。だが、気がかりな点が一つあった。時子は認知症になってから頻繁に、自分は昔人を殺して桜の木の下に埋めたといっていたのだ。
この謎を中心に物語が進むのかと思ったら、そうではない。物語は総勢十八人の扇谷家に関係する親戚の中の、大叔母・恵美子、父の従弟・羽矢彦、父の従妹・美雲のエピソードを中心に断片的なストーリーがまとめられている。それも、予言帳とは関係のない若い頃の、受験に悩んだ話やプロポーズした話や子供が生まれる時の話だ。
そういった誰にでも起こり得るエピソードの中に、少しだけ不思議な力のエッセンスが匂う。
時子の人を殺したという話も淡々と明かされ、他のエピソードと同じように扱われている。というか、まず立夏たちがその言葉の真偽を探ったり、死んだ男が誰か突き止めようとしたりしないのだ。まあ、おばあさまならやりかねないけど、記憶を混同してるんだろ、で終わりである。
視点がすべて扇谷家の人間になっているのも、この物語から「不思議」が失われている一因かもしれない。彼らにとっては昔から家族の中で当たり前に守られ、利用されてきた力。予言も千里眼も、霊と話す力も、想定内とされて淡々と進む物語だった。
文章はとても読みやすく、ストレスもまったくない。物足りなく感じたのは期待値が高すぎたせいかな。