あらすじ
一九七八年、久保田悦子はアルバイト先のスナックで、杉千佳代と出会った。舞台女優を目指す千佳代は所属する劇団で、『アナベル・リイ』のアナベル役を代理で演じるが、その演技はあまりに酷く、惨憺たるものだった。やがて、友人となった悦子に、千佳代は強く心を寄せてくる。フリーライターである飯沼と入籍し、役者の夢を諦めた千佳代は、とても幸せそうだった。だが、ある日店で顔面蒼白となり倒れ、ひと月も経たぬうちに他界してしまった。やがて、悦子が飯沼への恋心を解き放つと、千佳代の亡霊が現れるようになる。恋が進展し、幸せな日々が戻って来る予感が増すにつれて、千佳代の亡霊は色濃く、恐ろしく、悦子らの前に立ち現れるようになり――。
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Posted by ブクログ
小池真理子読むのが多分初めてで、濃厚でちょっとずつ読んだ。怖かった。もっとドロドロした人間模様かと思ったら、こまやかな、小さな幸せや重たくない親しみの表現が好ましいだけに、それがブツッと切られていくのが穏やかに怖かった…。
著者が意識したという「黒衣の女」が、もともと一番好きな小説のひとつなので、たしかに、
全て終わった後・取り返しのつかないことが起きた後の回想、
幽霊はただ姿を現して人が死ぬだけ、というのが作中で物凄く怖いことである、
なぜなら主人公の人生をひたすら歪めていくから、かけがえのないものを失わせるから、
というの、似てる気がする。じゃあ好きなわけだ…となった。
ホラーだとお化けが出てぎゃーという話が好みなので、それが起きて全部変わってしまった後の長い人生の話は本当に怖くて、予想外に良かった。
「なつかれた」という表現の、あくまで些細さと、結果の重大さとどうにもならなさ、
そういう愛に付きまとわれて受け入れざるを得ない話だった(実際に何が起きてたかはともかく、主人公はその見方を受け入れざるを得なくなった)というの好きだった。
Posted by ブクログ
2022(令和4)年に単行本として刊行された小池真理子さんのホラー長編小説。
ホラーといってもあまり恐怖感がないのは、例となって出現するのが、主人公がごく親しくしていた女性であって、危害をくわえられなそうな雰囲気がしたからだ。
が、淡々とした文章で描き出される幽霊談は相変わらず美しく、小説として充実したものだと思う。
小池さんの文体は単に「淡々としている」というよりは「暗い雰囲気のおとなしさ」を呈しているように、今回気づいた。