あらすじ
土地開発と不動産事業で成り上がった昭和の旧華族、烏丸家。その嫡男として生まれた治道は、多数のビルを建て、東京の景観を変えていく家業に興味が持てず、祖父の誠一郎が所有する宝刀、一族の守り神でもある粟田口久国の「無銘」の美しさに幼いころから魅せられていた。家に伝わる宝を守り、文化に関わる仕事をしたいと志す治道だったが、祖父の死後、事業を推し進める父・道隆により、「無銘」が渋谷を根城にする愚連隊の手に渡ってしまう。治道は刀を取り戻すため、ある無謀な計画を実行に移すのだが……。やがて、オリンピック、高度経済成長と時代が進み、東京の景色が変貌するなか、その裏側で「無銘」にまつわる事件が巻き起こる。刀に隠された一族の秘密と愛憎を描く美と血のノワール。
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Posted by ブクログ
やっと追いついた!
4冊読むのに何年もかかってしまった。
最初はループオブザコードを読むために走り始めたのに、2作も新作が出て嬉しい悲鳴です。
今年発売のはすぐに読める!準備万端!
荻堂顕さんの文章、キャラクター、セリフはほんとにカッコイイ。退屈なところが1行もなかった。
序盤に出てくる藤永って男がめちゃくちゃ良くて、彼が言う言葉は全部メモっとくぐらいいいですね。
今回は二段ではなくなった分、1ページ毎にみっしり文章が詰まってて、安心の濃厚さ。
ストーリーはSF、アクション、サスペンスが盛りもりやった前3作とは毛色が違って、終戦前から2000年代まで1人の男が生きた道筋を辿る話。
ループオブザコードであった会話の面白さが濃縮されたような話です。
父子ものなのでその点もかなり嬉しかった。
憎くて仕方のない相手と同じことをしてしまっている事に気づく……
「信じた道を走った。……走って、走って、それで、いきなり道が消えた」
「迷っていた道から抜け出せたというよりは、一本道を行ったり来たりした末に、ようやく前進する気持ちになった。」
「人間の生涯において、何かが掛け合わされることなど決してなく、負というのは常に足し合わされて、僕たちは更なる負債を背負っていく。」
匿名
荻堂顕――その筆致は、東京という都市の多層的な地層を、刀剣の地景のように一筋一筋切り出す。
都市の「継ぎ目」や歴史の断面を、鋭い審美眼で描き出す新進気鋭の作家だ。
世田谷成城で育ち、早稲田大学で学びながら、バーテンダーや格闘技インストラクターなど異色の職歴を重ねてきた。
まるで都市の迷宮に点在する路地裏のような経歴は、彼の物語世界にも独特の奥行きを与えている。
この代表作『飽くなき地景』では、旧華族の血脈や名刀の来歴、東京の変貌が複数の時代のレイヤーとして交錯。
刀剣の「不均一」を美とする感性を、都市や人間の歴史の「継ぎ目」へと拡張し、そこに真の美を見出す慧眼が光る。
また、『ループ・オブ・ザ・コード』では反出生主義や疫学調査を題材に、現代社会の構造を顕微鏡のように観察し、抹消と再生のドラマを描いた。
荻堂顕の物語は、都市、歴史、人間の弱さと優しさを一つの「景色」として凝視し、静かな波紋のように読者の心に広がる。
ただのフィクションではなく、過去と現在、虚構と現実、硬質な知と柔らかな情が精妙に交わる、新しい文学の地平を切り拓いている。
Posted by ブクログ
直木賞候補作。祖父から鎌倉時代の刀工、粟田口久国の刀を受け継いだ烏丸治道の半生。東京オリンピックや汐留シビックセンター等、現実の戦後の東京の変遷を織り込み、マンション供給による東京の街の変化を刀剣の武器から美術品への変化になぞらえ、烏丸一族の愛憎史、生家のゼネコンの発展と危機対応と盛りだくさんの内容。受賞は逃したようだが読み応えがあり面白かった。
Posted by ブクログ
1944年~2002年間、時代と共に移り変わる大都市東京と人を描く。膨大な資料を読み込み、当時の象徴を物語に融合させる著者の技量に唸る。戦後の復興、旧華族の没落、骨肉の争い、親子の愛憎…急所満載。第172回直木賞候補作。
Posted by ブクログ
なんかこう、地味な話のわりに読ませる一冊でした。旧華族に生まれた治道が父や腹違いの兄と反目しつつも自身の夢につきすすめようと生きる。青年期こそ、青臭いながらもまっすぐであったのにだんだんと・・・な感じがなんとも言えない読み心地。そして彼が敵視している父親が読んでる限りそんなに悪い人物にも思えない。むしろ令和の時代からすると彼の経営方針は時代に沿いつつも先を見据えた的確なものともいえるし、ところどころで治道に対してきちんと道を示している。まあ母親に手を上げたり愛人つくりまくったりとかはあるにせよ直接的な描写があんまりないからなあ。
いっそ治道のほうがいろんな意味であやうさを抱えてる感じがしました。祖父としてはそれを見抜いて粟田口久国を兄に託したのでは?とも思えてしまう。実際に最後では治道の周りにはもう誰もいなくなってしまってるし。。。
こういうことを読んだ後にもくよくよ考えたりしてしまうような面白さがありました。
Posted by ブクログ
力作だけど主人公の行動チグハグで共感、理解出来ない場面しばしば。同族企業のファミリーヒストリーに突然、談合の元締め植良会長等の実名が飛び出しモヤモヤ感も募る。都心の風景を「無数の思惑の結果として建てられた卒塔婆の群れ」「不揃いが出来上がったのではなく、不均一が街を形作っていた。それこそが東京の地景だった」東京の地形、地景など蘊蓄や新鮮な比喩は楽しめた。
Posted by ブクログ
祖父から三代続く父子の確執、受け継がれる守り刀に纏わる怨念じみた物。物語自体は面白く、刀剣に関する蘊蓄には興味津々。だが主人公の自分勝手な正義感やこだわりが鼻についた。登場する女性たちがあり得ないほど不幸なのと、円谷選手を思い出させる高橋選手が気の毒だった。
Posted by ブクログ
主人公は旧華族の烏丸家の嫡男である治道。大叔父が作り、一族の暮らしを支える建設会社を継ぐ気はない。祖父の遺した美術品を管理して後世に伝えたいと考えていた。烏丸建設をより大きくしたのは父の道隆だった。彼は治道よりも数日早く生まれた庶子の直生を跡取りとすべく建築の道へ進ませていた。経営者として冷徹だが当然の判断だった。
祖父が亡くなった時、治道は父から遺書はない、と告げられた。その後しばらくして、祖父の形見であり家の守り神と教えられていた日本刀が無くなっていることに気づく。友人である重森の機転によりなんとか刀のありかを突き止めたが、そこは愚連隊の松島組の事務所だった。藤永という男は父から刀をもらったというばかりで返してもらえそうにない。その後、とんでもない計画を練るが、果たして‥というのが第一部のあらすじだが、第二部以降、その後何年か経過後の治道らの姿を描いていく。
治道は文化事業、兄は建設や都市整備などへの関心が高いとか、どこかできいた話。と思ったら参考資料にその名もあった。
史実も踏まえてよく考えられた話で、面白かった。最初なかなか進まなかったが、途中からは一気に読み終えた。長かった分、昭和の時代はいろいろあったなぁと改めて感じられる作品だった。
Posted by ブクログ
観念的夢想的な主人公と、現実的即物的な父、兄との確執。
祖父が遺した蒐集品、特に一家の守り刀という無銘の粟田口久国の保存に一生を捧げる主人公は、久国が写しだと知り、家庭を放棄し、理解者である愛人と別れ、兄の極めて現世的な不祥事を揉み消すために大学時代からの盟友との関係を代償にし、兄が精魂を傾けて建てた汐留の高層ビルに自らが追い求めた刀剣の神髄を感じてしまう。
ノワールとの謳い文句だったので大学時代の愚連隊藤永との因縁がその後の人生を狂わすのかと思ったが、違った。
全編に漂う厭世観や虚無感。三島由紀夫にも通じる無常観。
Posted by ブクログ
登場人物達に共感できず、またびっしりと書かれた長編に読み切るまでに長時間掛かってしまった。
最初は10年単位、その後は20年単位で、各章がある程度劇的な内容なのに、それが次の章にあまり描かれていないのでストレスを感じてしまう。
世捨て人のように趣味に生きた祖父と、その反対に仕事と女に入れ込んだ父親。父親に反発しながら、家を捨てられない主人公の治道。祖父が家宝としていた「刀」に纏わる名家の物語。刀が愚連隊に渡って、取り返すために大学生の治道が友人の助けを受けて拳銃を撃つところまでは面白かったのだが。刀が前途ある青年の命を奪ったり、どんどん暗くなる。妾の子供が自分よりも先に生まれていて、大揉めになったり、商売で不正隠蔽のために更に不正を重ねたり。ワイドショー的な内容で、直木賞の候補になったのだろうか?
Posted by ブクログ
私の評価は登場人物が好きかどうか、共感できるかどうかによって変わるみたい。
この小説に登場する人達は、残念なことにあまり好きなタイプではなくて…
前半の刀を取り戻そうとしている頃に戦後〜現代までの時代背景がしっかりと感じられたところは良かった。
Posted by ブクログ
前作『不夜島』がとてもよく、また宣伝文句に惹かれて読んでみたものの、「一振りの刀が巻き起こす美と血のノワール」なんかではなかった。東京と昭和と名家生まれた人間のクロニクル。力作なのだとは思うが、またたしかに血は流れるが、けっしてノワールなんかではない。この宣伝文句に完全に欺された結果、物語を楽しむことができなかった。この宣伝文句を付けた人間に憎しみを覚える。作者も気の毒だと思う。もし作者がこの「美と血のノワール」という宣伝文句をよしとしているのならば……。
Posted by ブクログ
まあ、、、おもろいんだが、
好みではなかった
めっちゃ昭和で、昭和ノリが嫌いなわけではなく、
おもてたのと違うかった、というのが敗因
刀剣のクダリだけ、もっと深く読みたかった(主観)
とはいえ、
筒井先生の『大いなる助走』とか字面みるだけで、
再読したくなるねぇ。懐っ
酒とタバコと女と暴力
そしてじぇねこんに田中角栄よ
>踏ん反り返り、
>葉巻を吸い、
>そして、
>妻子を顧みなかった。
昭和は遠くなりにけりや。
そういえば、
この前の2020のオリンピックも東京で
2025の万博も大阪やね
そういうことか?
Posted by ブクログ
『ループ・オブ・ザ・コード』と比べ、格段に読みやすく面白かった。一本の日本刀を中心に、少年時代から晩年へ一人の男の物語。最後に悟った境地が儚い。
Posted by ブクログ
私は好きだけど、小説の佇まいからすればエンタメど真ん中というより昭和の純文学の方が近い気がするので、合う合わないは結構分かれそう。荻堂さんがどれほど意識して書いたかは判然としないけれど、読んでいるあいだずっと三島由紀夫という個人がチラついた(刀剣、ボディビル、日本的な美を出されれば仕方ない)ので、三島由紀夫賞という舞台での評価も聞いてみたくなった。多分候補にはならないと思うけど。小説とは関係ない個人的なことで言えば、先月旅行の中でトーハクに行ったばかりなので作中に出てきたのが嬉しかったし、また行きたいなと思ったりもした。
Posted by ブクログ
天邪鬼かな。
ページの割に文の多い本で読むのが大変でした。
読む限り、兄を嫌っていたと書いていますがそれ程嫌っているように感じられなかった、読みきれなかった。
父を軽蔑していながら、父に愛されているところを読むとそんなに嫌ってないじゃん、って思ったり。
天邪鬼なのかなって思いました。
重森さんが一番辛かったね。
Posted by ブクログ
不動産やビルといった都市開発事業を営む一族の中で、祖父が残した刀に尋常ではない執着をみせる主人公の葛藤と愛憎、そして刀をめぐる事件などが昭和の長いスパンの中で描かれており、一種の大河小説のような趣のある作品になっている。
が、結論から書いてしまうと私の苦手なタイプの小説で、文章そのものがダメというわけではないんだけど、読者が場面や風景を自由に想像する余地を与えないほど地の文で細かく書き込まれているので、書かれたままをただ頭の中でリフレインするだけの読書になってしまい、読み終えるのにかなり時間がかかり、疲れた。
舞台の大半は昭和なんだけど、文章も同様で完全に一昔前のもの。これは当時の空気をそのまま描きたかったという著者の意向らしいんだけど、私のようにその知識が無い状態で読んじゃったりすると、令和の時代にここまで押しつけまがしい話ってどうなの、といった感じでかなり困惑したというのが正直なところ。
これで登場人物が魅力的であればまだ救われたんだけど、主人公は刀に対する執着以外はパッとしないし、周囲の人物造詣も想像の域を出ないかなあ。
帯に「美と血のノワール」ってあるけど、そもそもノワールってこういうものなんだっけ?という点も疑問が残る。
それでも美点を挙げるとすれば、前述した主人公の刀に対する執着が全く論理的でない点で、これは現代日本で保守や平和主義者を自称している言論人や政治家たちの精神性と完全にオーバーラップして読めたので、そのあたりは結構面白かった。
なんだかんだ筆力はある作者だとは思うけど、今回は相性が悪かったようで。次作に期待します。
Posted by ブクログ
直木賞候補作ということで読んでみました。
今年は昭和100年。
(ここでこの内容をぶつけてきたか~)
出版社の戦略がちらつきます。
今、私の手元にある帯にはこのように書かれています。
”僕は憎んだ
父が築く東京の景色を”
この一文を読んだときに、スターウォーズ的なストーリー(息子が父を倒す話)を想像したのですが、読んでみると、そこまでではない感じでした。
主人公・浩道のぼんくらっぷりがずっと続いていく感じだったなぁ。
恵まれた環境でぬくぬくと育ってきた感じが、どこまでも続いていく・・・。
彼には欲望ってものはないのか?
私が読む限り、感じなかった・・・。
彼自らが動いて、何かを成すということがないのですよ。
むしろ、彼の兄貴(腹違いの)・直生の方が、欲望だの野望だのギラギラとしたものが前面に出ていて、ここまで欲望丸出しだとすがすがしささえ、感じられました。
(帯の内容から兄貴寄りの話かと思っていたのだが)
それは置いておいて、昭和生まれ(後半ね)の私は、昭和の懐かしさを感じることもできました。
ゼネコン業界の裏側が赤裸々に描かれている点が興味深かったです。
「大型案件の受注の仕方」
「土地買収のリアル」
「ゴシップの収束方法」
どれも想像できそうな内容ではあるけれど、文章としてリアルに突きつけられると妙に生々しい。
企業がスポーツ選手のスポンサーになるメリットや、そのための社内稟議の通し方なんかも書かれていて、「企業って、こうやって裏で動いているんだな…」としみじみさせられました。
スポーツ選手が企業からのプレッシャーを受けながらも、命がけで戦っている姿も描かれています。
「好きなことを仕事にするって、綺麗事だけじゃない」
大人になるって、こういうことだよな…と実感せざるを得ませんでした。
大人になってやりたい事をやり続けるためには、子どものように無邪気なままではいられないのが実情なのでしょう。
個人的に驚いたのは、途中出てくる刀のストーリー。
「え?これどうつながるの?」と思っていたら、最後に見事に回収されて、思わず唸りました。
全体を通して、「昭和という時代の空気」と「ゼネコンという世界」が巧妙に描かれた読み応えのある一冊でした。
「あの頃の日本」「バブルの残り香」を感じながら、昭和100年を迎えた今、もう一度「父と子」「企業と個人」というテーマについて考えさせられる、そんな物語でした。
Posted by ブクログ
序盤に主人公烏丸治道が、父が無法組長に一族の守り神でもある粟田口久国の「無銘」を渡したと知って、物騒な方法で奪い返そうとした物語を読み、このあとが読み切れるだろうかと不安になりました。
その後治道も社会人となり、父親の会社に入社して時代に即した生き方をしていく様子が描かれると、今度はこの作品のテーマが見えなくなりました。
あらすじにある「刀に隠された一族の秘密と愛憎を描く美と血のノワール」とは一人のマラソンランナーや、治道の異母兄と刀との関係でもあり、主人公との苦悩を描いているようでもあり、とふらふらしつつ読み終えました。
私にとって著者の作品は初。出会いは大切です。今回は可もなく不可もなくといったところでした