あらすじ
日露関係の緊張が極限までに高まり、まさに風雲急をつげていた1903年、「もはや開戦止むなし」と腹をくくった、海軍大臣・山本権兵衛は、意外な男を、決戦を指揮する、連合艦隊指令長官に抜擢した。その男こそ、本書の主人公・東郷平八郎である。山本は、その人事を明治天皇に奏上する際、「東郷は、運の良い男ですから」と起用を理由づけた。明治日本は、存亡の命運を、東郷平八郎という男が持つ“強運”に賭けたと言っても言い過ぎではない、その言葉通り、東郷は、まさに“強運”、もしくは、“天祐”と呼んでも良いかのような戦闘経過によって、敵国ロシアの旅順艦隊、ウラジオストック艦隊、そして世界が怖れたバルチック艦隊のすべてに圧勝する。その勝利の折に吐いた言葉、「勝って兜の緒を締めよ」は、歴史に残る名言として、現代に語り伝えられている。後の他国の提督たちにまで尊敬された、日本海軍随一の名提督の活躍を描く書き下ろし長編小説。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
日露戦争にて連合艦隊を率い日本海海戦に勝利した東郷平八郎を扱った小説。彼が幕末・明治維新期の薩摩で海軍を志し、やがて英国留学を経て国を守る海軍軍人として活躍していく姿を描く。
薩摩時代の優しくも厳しい母や、偉大な先達からの教えに人としての基礎を学び、英国ではネルソン提督を目標に、良き師・理解者に恵まれて国際感覚を身に着けた海の男として成長していく。そして長年の海軍勤務に捧げた労苦はバルチック艦隊への勝利として結実する。
物語は最後に、まじめで奢らない彼の姿がにじみ出た、連合艦隊解散宣言文で終わる。"・・・古人曰く、勝って兜の緒を締めよ、と"
あとがきにもあるように、現代では非難されることもある人だが、功績は功績として評価すべきだし、彼の想いを深く理解することが必要だと思う。解散宣言中の"百発百中の砲一門は、百発一中の敵百門に匹敵する"を、戦力無視の精神主義に取ったり、逆に馬鹿正直に読んで実際は対抗し得ないと非難する向きもあるが、宣言全体で言いたいのは、武器を持つだけで満足するな。決して鍛錬を怠るな。国を守る緊張感を持ち続けろ。ということではなかったか。そこの理解は後に続く人間の資質が問われるところだと思う。
作品としては薩摩弁がふんだんに使われているのに好感が持てる。