あらすじ
非凡な力を秘めながらも気性難を抱える競走馬・シルバーファーンが、
騎手、馬主、調教師、調教助手、牧場スタッフ、取り巻く人々の運命を変えていく。
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北海道・日高の競走馬生産牧場で、「幻の三冠馬」と呼ばれた父馬・シダロングランの血を引いて産まれたシルバーファーン。
牧場長の菊地俊二は、ファーンの身体能力に期待をかけつつも、性格の難しさに課題を感じていた。この馬が最も懐いている牧場従業員のアヤが問題児であることも、悩みの種である。
馬主となったのは、広瀬という競馬には詳しくない夫人。茨城県・美浦にある厩舎を擁する二本松調教師とともに牧場を見学に訪れ、ファーンの購入を決めた。不安を覚える調教助手の鉄子(本名:大橋姫菜)に、二本松は担当を任せることを告げる。
ファーンは、俊二の兄である菊地俊基騎手とのタッグで、手のかかるヤンチャ坊主ではあるものの順調に戦績を重ねていくが、あるレースで事故が起こり……。
手に汗握る競走展開、人と馬の絆。
わずか数分のレース時間には、全てが詰まっている。
「――それでいいよ。最高だ、お前。」
一頭の馬がこんなにも、人生を豊かにしてくれる。
『ともぐい』で第170回直木賞を受賞した著者による、感動の馬物語!
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Posted by ブクログ
タイトルがかっこいいですよね。そして表紙の芦毛の馬のやんちゃそうなかわいらしさとタイトルに合わせたバックのシルバーの装丁がまた良き。
北海道に住むものとしては馬産がどう描かれ競馬という独特の世界をどう表現していくのか注目していました。
専門用語的なものや状況的なものもあり前知識なしで読んでも知らない人にはわかるだろうか、と思う箇所も何箇所かありますがほぼ理解できるのではないかと思える親切な書き方がなされていると思います。
河﨑先生も生き物に関わる生業をされてたとは言え、馬産は全く違う業態なので相当取材されたのではないかと推察。馬産と言ってもサラブレッドと輓馬とポニーなんかとじゃまた全然別の生き物扱いかと思うほど別物ですし。
「俺らの仕事を堅気と思うな」という言葉が出てきます。競馬だけでなく馬産はどこからどこまでもギャンブルだとはよく言われその世界では耳にすることでもありましょうが、そこのところを関わりない人にわかるように表現するのは並みの苦労ではないと思います。
トラブルメーカーの、馬産を底から理解していない若くて血の気の多い従業員を登場させ関係性を引っ掻き回してくれるることで、他の作家ならば描きにくくできれば避けて通りたいであろう化製場など業種の裏側をも見せようとするのはさすがと感じます。
河﨑先生の熱意といいますか、綺麗事だけではない生き物との関わりを描き出すことへの執念のようなものも感じます。
p181〜182や最終盤での馬房のシーンのように少し砕けた「ぷっ」と吹き出してしまうようなシーンがほっこりとさせられたり脱力させられたり。楽しげなシーンは筆が乗っていて楽しんで書かれている感じも伝わってきます。
馬のドラマだけどもやはり本作も人間ドラマが面白いですね。トラブルメーカーの成長や裏切りにあって陰気だった馬主女性の変貌ぶりも素敵。
何と言ってもシルバーファーンを除けば主人公である女性調教助手の痛快っぷりというか柄がいいのが本作の魅力ですね。本名の姫奈がすっ飛ぶほどのアイアンな感じがまさに鉄子というアダ名(通り名?)の通り。
終盤で先代の奥さんが仏壇に向かうシーンが出てきます。
小さい個人の生産牧場は何代も前から家族経営で細々と繋いできているところが今でもたくさんあります。繋げず廃業してしまった牧場はその何十倍もあるでしょう。
眼の前の馬は、今そこに携わっている人間だけではなく、たくさんの先代や挫折した関係者やその他何らかで関わってきた人間の思いも背負っているという重みを感じるシーンです。競馬は勝負であり大金も絡むけれど、それだけではない、他の業態にはない人間のドラマを感じさせる世界だなと思います。
競馬に興味はなくても、馬と共に生きる人間の世界に興味を持ってくれる人が本書で少しでも増えてくれたら嬉しいです。
Posted by ブクログ
芦毛の馬は昔から好きで、何で好きなのか考えるとやはり目を引くからだと思う。そして、ドラ夫と同じようにヤンチャで気まぐれな乗馬クラブにいた芦毛の馬を思い出して懐かしくなった。
大人しくて言うことをよく聞いてくれる優等生な馬ももちろん可愛いが、ヤンチャで騎乗者を無視するが負けん気は強くやたら人間らしい馬(ドラ夫)はもっと可愛い。手のかかった子ほど可愛いと言うのは、こう言うことなのだろうか。
馬だけでなく、登場人物も良かった。ドラ夫の生産牧場のオーナーは良い馬を生産したいという飾らない気持ちを持っているのが良い。問題児のアヤはオーナーにも楯突くし、なかなか大変な性格ではあるが、間違いなく馬が好きなんだろうと思える。(ドラ夫に懐かれたり、騎乗のセンスは羨ましい限り。)騎手の俊基も流石、見事な走りを見せてくれるし、落馬してもドラ夫から離れないところに拍手したい(騎手なら日常茶飯事とはいえ、やはり落馬して酷い怪我をしたら再び同じ馬に乗るのは怖いと思う)。
見事なデビュー戦からハラハラさせられた日本ダービー、忘れられない菊花賞、どのレースも大切だった。全員の気持ちが一つになってレースを見ていたシーンは、読んでいて鳥肌が立った。
結局、競馬は人間のエゴで馬にとって酷いことをしているという意見は甘んじて受ける。けれど、自分の育てた馬が優勝する興奮と喜びを味わえるのは、競馬業界に関わる人たちだけなのだ。
この本は文句なしに、競馬と馬の育成の面白さを教えてくれた。
Posted by ブクログ
今作は競馬馬シンバーファーンの誕生活躍引退までと、その周りの人々。重い展開はなく、スカッと爽やかに聞ける。
サラブレッドの一生は勝っても負けても過酷。足は繊細だし、練習はキツイ。存在し続けること自体がものすごい競争なのだそうだ。
ファーンとテツコとトシキの未来に、さちあれかし。
余談だが、父が厩舎で働いていた事があったので「馬はイイ!馬は…………イイぞぉぉぉぉぉ!」と言う話を思春期に耳タコが出来るほど聞いて育った。一度だけ間近で見せてもらったらむちゃくちゃデカい!!父の言う「カワイイ」は私にはちょっと分からなかったが、父が好かれていたのはよく分かった。甘えるし、来たのが分かると「こっちも!」と主張する。
賢く美しい生き物。馬。