あらすじ
派遣社員、彼氏なし、家族とは不仲。冴えない日々を送る葉奈は作家になる夢を叶えるべく、戦時中の沖縄を舞台に勝負作を書くこと決意。しかし取材先で問題の当事者ではない人間が書くことの覚悟を問われ…。
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Posted by ブクログ
読み進めるのにとてつもない痛みを伴う作品でした。繊細で重い「慰安婦」と「沖縄」をテーマとし、過酷で悲惨な内容は衝撃的ですが、目を背けずに読み切る覚悟も必要と思いました。それでも、久々に強く心揺さぶられる一冊との出会いでした。
物語は、現在パートで作家を目指してもがく契約社員の「私」と、戦時中パートで朝鮮半島から連れて来られ、沖縄本島や離島で"慰安婦"として軍に搾取された「わたし」の2人が語り手です。交互に視点が変わり、時代を越えて交差します。
深沢さんの、2人の女性に込めた想いがひしひしと伝わります。とりわけ、慰安婦について表面的にしか理解していなかった作家志望の「私」を通して、読み手にも有無を言わせずその無自覚さを強烈に突き付けます。
尊厳が奪われ心が壊れるような描写が多いのですが、民族や当時の立場を超えた人の温もりや優しさも垣間見られ、救いもありました。
深沢潮さんは、在日韓国人の両親をもち、後に日本国籍を取得している女性作家です。もがきながら取材する作家志望の「私」は、自ずと深沢さんと重なります。
直接の当事者ではないにせよ、巻末の膨大な量の参考文献・映像の一覧を見ると、記述の精度へのこだわりと入念な考証がうかがえます。
読後、当時確かにいた彼女たちに向けて、美しい海の光景、韓国の望郷の歌・アリランを想いながら、せめてその魂の安寧を祈りたい気持ちでいっぱいでした。深く胸に刻み込まれるような感銘を受けました。もう少し深沢潮作品を読んでみたいと思いました。
※ 以下は最近の気になった報道です。世の中の風潮への不安と危惧が拭えません。スルーしていただいて構いません。
つい先日、週刊新潮のコラムで、深沢潮さんが名指しで「日本名を使うな」などと差別的論調の被害を受けたようです。深沢さんは会見で、謝罪と誌上批判・反論する場を要求するも、コラムは打ち切りになり、根本的な解決に至っていないと…。
先の参議院選挙でも大きな社会問題となった「日本社会の外国人への排外的空気」…。悲しいし、人権感覚を疑います。とても居心地悪いです。
セクハラやパワハラなどの暴力、差別や搾取は現在も無くならず、普遍的な問題ですね。
Posted by ブクログ
とても読みやすい文章で、綺麗な終わり方だった。でも読んでいてずっと苦しくて、途中で何度か読むのをやめようかと思うほど残酷で覚悟のいる作品だった。悪い意味ではなく、それほどテーマが重く、真剣に受け止めなければいけないものだから。
知ること、向き合うことは軽い気持ちで出来ることではないけど、それでもなかったことにしてはいけない。
彼女の心が段々とすり減っていく姿や、死を願い、死を拒む気持ちが胸に突き刺さった。
彼女の最期に、少しでも良い思い出が巡ることを願う。
ずっと、アリランの歌声が響いている。
Posted by ブクログ
プロの小説家デビューを目指す女性と朝鮮慰安婦の二つの物語が同時進行する。自分の存在価値を認めさせたい小説家の卵と一方は死ぬことも出来ずにただ「あな」として生かされる女性。場所が移動するたびに日本名が与えられて、決して本名は誰にも言わない。小説家の卵が内面的に成長していく中で、やがて二つの物語は…。慰安所の表現はかなりキツく心を抉られそうだった。深沢潮さんの本はこれで4冊目だが、読むたびにハマっていく。
Posted by ブクログ
悲しくて辛い話。
苦しさが長く続いて最後の数行でどうにか希望を見出す事が出来る。
女性として生まれたことの意味と男性として生まれることの責任とかを考えさせられる。
時代背景によって男女の性の扱い方がこんなにも違ってしまうのかと、わかっていたようで本当の苦しみは全く理解していなかったんだとこの作品を読んで痛感。それぐらい具体的な描写に目を背けたくなるような表現も多いですが、反日、反韓とか関係なく、1人の女性の強く行きた生き様を多くの人に読んでみて欲しいと思いました。