あらすじ
なぜ日本人は、気候変動問題に対する関心が低いのか。そのヒントは司馬遼太郎や村上春樹らの小説、さらに『鬼滅の刃』『虹色のトロツキー』『満州アヘンスクワッド』などの漫画作品にあった。「未来を変えること」と「過去を新たに見出すこと」は別のものではない。両者は同じ対象を二つの側面から眺めたのであり、その視線は緊密に結びついている。哲学から現代思想、文学、サブカルチャーにまで精通する著者が、日本人が切り捨ててきた<我々の死者〉、そして〈未来の他者〉をキーワードに、過去・未来と現在との「分断」の正体を暴く。
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Posted by ブクログ
「人新世の資本論」以来の超大作の予感がする新書。
地球温暖化に対して関心の低い日本人を「未来の他者」への思いがないと読み、
その原因を、「過去の我々」=「我々の死者」に向き合えなくなった日本人に見る。
話は「鬼滅の刃」の舞台がなぜ大正時代なのか、から始まる。
続いて太宰治が敗戦をテーマにした小説を書いていないこと、
朝ドラ「おしん」の夫が敗戦直後に死ななくてはいけなかった理由、
戦国時代から明治維新までの人物を描き続けた司馬遼太郎が、
なぜか昭和を書いていないこと。ノモンハンを描いていないこと。
そしてそのノモンハンを描いた唯一の小説家が村上春樹のねじまき鳥クロニクル
だったこと。
あの残酷な捕虜殺しのシーンがなぜ描かれなくてはいけなかったか、、、
アジア太平洋戦争、大東亜戦争の敗戦によって、昭和の価値観が崩れ去ったことが、
今の日本に大きな影響を与えていると著者はいう。誰も決着できていないのだ。
それがゆえに、我々の死者が不在になり、未来の他者を意識できなくなった。
価値観の崩壊、ということか。
天皇を頂上に抱いていた国体はその頂上をアメリカに置き換え、
それがいまだに日本の政治のベースになっている。
空襲と原爆で一般市民を焼き殺したアメリカにしっぽを振る似非右翼。
いまも沖縄を、少女を犠牲にし、各地の基地からピーファスが垂れ流され、
国民の健康を損ねてもお構いなし。属国日本であることを喜ぶ日本政府。
まさに戦前の価値観が壊された弊害だ。
壊れた価値観を如何作り直すか。
この新書にその責は負うべきではない。
壊れた事実を日本人が再度認識させることが、この新書の役割なのだろう
凄い新書だ。
Posted by ブクログ
取り扱うテーマ、本、映画、漫画など多岐に渡りとても面白い。世界では気候変動への関心が特に若者に高いが日本では若者にも無関心なテーマ。
未来の他者という視点の欠落。存在しない他者。未来の他者と、過去の死んでしまった他者。
存在しない他社への想像力の欠如。
Posted by ブクログ
氏の著作は、出たら気にはなる訳で、本書も然り。でも、タイトルを見てもピンとこないし、難解そうだし、今回はちょっとパスかな、と思っていたもの。その後、いくつかの書評での推薦を見て、やはり読んどこう、と。問題提起は、なぜ日本において、将来の温暖化などに対する配慮がなされにくいのか、ということ。そこで、我々の死者として最たるもの、かの戦争に視点が向けられる。必然的に、そこには確たる歴史の分断がありそうだけど、そういった過去と、未来への目線は、両立しうるものだと。論旨はそういうことで良いのかな?考え続けないといけない視点。