あらすじ
【小説すばる新人賞、史上最年少受賞から8年】
三重で育ち、京都の大学に入学した数学好きの田辺朔。
大学生活に馴染めず、漫然と授業に出て、バイトをしているうちに一回生前期は終わってしまった。
後期に入り、旧文学部棟の地下、通称「キューチカ」でひっそりと経営されているバーのマスターである先輩の夷川と出会い、朔の大学生活は一変した。
夷川につれられ、初めてのウイスキー、タバコ、そしてバーやクラブなど、これまで見たこともない世界を知っていく。
しかし、ある日をさかいに、何の前触れもなく夷川はナイジェリアへ留学に行ってしまった。「バー・ディアハンツはお前に任せる!」の一言を残して。
そこからマスターとしてバーに立つことになった朔は、その大学内の不思議なバーで数々の出会いと別れを経験する――。自由奔放な女の子に振り回されたり、学生運動紛いに巻き込まれたり、自分の行く末に悩んだり……
二十代前半の「不変」と「今」が詰まった圧倒的青春小説!
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Posted by ブクログ
色んな人の生き方があって、世界がある。
大学生活が終わる直前に読んだ。
バーに行ってみたくなった。
ただ私は場所じゃなくて人に救われる。
Posted by ブクログ
青春でした。
基本的に、理系の主人公はどこか醒めていて淡々と話は進むけれど、大学生らしい恋愛・酒・タバコといった若々しい熱量や、変人の先輩、気になるあの子に翻弄される姿が爽やかに心へ爪痕を残します。
Posted by ブクログ
若い方の作品はほんと素敵ねぇ、と思いながらどっぷり浸らせていただきました。
史上最年少ですばる新人賞を受賞された作家さんですが、意外に感じたのは、一回り以上違うはずの自分の学生時代とキャンパスライフの印象があまり変わらないこと。
え? 今の若い子って、こんなにハチャメチャやるの……?
もっとスマートでドライなのかと勝手に思っていましたが、お陰様で自分の青春の思い出に引き寄せて読み進めることができました。
ファム・ファタールの野宮さんと、乗り越えるべき壁としてそびえる夷川さん。
父親不在の機能不全家庭で育った野宮さんが人として未完成な若いうちに、彼女の中へ入りこんで懐柔していった(と主人公の田辺くんは見ている)夷川さんのグロテスクさが冴えていました。
彼のマッチョイズムから強烈な洗礼を受け、地下サークルのバー「ディアハンツ」を守り、そして彼からの卒業に成功した田辺くんにあっぱれと言いたいところですが、一方でそんな田辺くんも日岡さんを振り回しているところにリアリティを感じます。
人からの影響って、プラス面もマイナス面も渾然一体となって、ぐちゃぐちゃになって押し寄せてくることがありますね。
モラトリアム期であればなおのこと。
だからこそ臆病な田辺くんは、人との関わりでなく「場所」や「学問」を志向したのでしょう。
田辺くんは抑制的で控えめ、そして自覚的な青年ですが、日岡さんや北垣君に対しては割と鈍感というか、ナチュラルに傷つけている場面がありました。
そういう相手こそ大切にしてもらいたいなと、おばちゃん目線で感じてしまいます。
なんにせよ、みんな自分の生き方を真剣に見つめていてえらい!
若者を応援する気持ちがあふれてくる、素敵な小説でした。
京都という場の設定も素晴らしかったです。