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Posted by ブクログ
「灰色の五つ穴は、五個でひと組。仕立て屋ウェブスタ-に、代々伝わってきたボタンだよ。」仕立て屋のおばあさんはそう言った。
汝これを五星形につけ、我を訪れよ
されば我、五度路をゆずり、
汝を我がもとへ呼びよせん
汝再びそろえ、我を訪れよ
されば我、あまねく道をゆずり、
汝の前によみがえらん
我、ここより永遠に旅立つ
荒れたる丘より谷に降り、緑の森に憩うまで
Posted by ブクログ
全然知らない作家、知らない作品でしたが、とても面白くて、すごく得した気分です。
日本人作家の作品ですが、読んでいるとスーッとイギリスの児童文学の世界に入っていきます。
私は小さい頃から日本の児童文学より、海外のものの方が好きでした。
なぜかとつらつら考えるに、日本の作品に出てくる子どもって教科書的ないい子なんですよ。
私自身教科書的ないい子だったので、それってとてもつまらないと思っていました。
それに比べて外国の作品に出てくる子どもって、もちろんいい子もたくさんいますが、親と喧嘩したり、家出をしたり、大人と駆け引きをしたりと、なんともステキにたくましいではありませんか。
そしてこの作品も、引っ越してきたばかりの街で、不思議なことに出合うバートラムが主人公。
古着屋や古道具屋のあるゆびぬき小路の奥にある、偏屈な仕立屋のおばあさんと知りあったことから謎が始まります。
仕立屋はなぜ、ひとつだけ違うボタンをつけるのか。
ボタンはバートラムに何をさせたいのか。
残りページがあとわずかになっても、作者がどう決着をつけたいのかがわかりませんでした。
だからずっとドキドキ。
正直言って、結末は地味です。
大きく何かが変わるということはありません。
”着心地ってものは、仕立てにゆとりがなけりゃだめなんだ。(中略)そして仕事というのは、自分にとっていちばん大切なものを使うことなんだとね。(中略)仕立てに使うわたしの時間と、仕立屋として生きてきた、すべての時間のことさ。大切なものほど、手放さなければならないんだよ、バートラム。”
機械化が進む世の中で、自分の技術で生きてきた仕立屋としての自負がバートラムに語られ、バートラムはそれに対して「仕立屋の時代はまだ終わっていないよ」と言います。
そういうことを理解できたとき、バートラムは一歩大人になったのだと思いました。
これからもゆびぬき小路は存在し、バートラムが訪れることもあるでしょう。
でもきっと、バートラムは学校の友だちを増やし、少しずつゆびぬき小路から離れていくのでは?とも思うのでした。
Posted by ブクログ
作者も内容も判らず手にした本が面白かった時は、何とも言えない喜びがありますな。
古着屋で5つ穴のふしぎなボタンを付けたコートを手に入れたバートラムは時をさかのぼるのだった。
まるで翻訳児童書のような雰囲気を持った作品です。時と人によって紡ぎ出される物語が素敵です。昔気質の気難しいおばあさんとバートラムのやり取りも、何とも微笑ましく温かいですし。ボタンを巡る現在と過去の物語はあちこちに伏線が張られ、それが解きほぐされていく様に惹き付けられます。派手さはないが、じっくりと読み浸る作品でした。