あらすじ
ミイラ化した死体は何を語る?
引きこもりを抱えた家族を襲う悲劇。彼らは被害者か、それとも――。
光崎教授が抉り出す、深い闇とは?
浦和医大法医学教室にミイラ化した遺体が運び込まれた。亡くなったのは40歳の独身女性で、死後2週間が経っていた。
まだ4月だというのに埼玉で見つかった4体目の餓死死体だ。埼玉県警の古手川によると、女性は大学受験に失敗して以来20年以上引き籠っていたという。
同居していた70代の両親は先行きを案じ、何とか更生させようと民間の自立支援団体を頼ったが、娘は激昂し食事も摂らなかったらしい。
彼女はなぜ餓死を選んだのか? それとも親が嘘を?
だが、解剖を行った光崎教授は、空っぽであるはずの胃から意外なものを見つけるが――。
死体は嘘を吐かない――傑作法医学ミステリー第5弾!
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Posted by ブクログ
ヒポクラテスシリーズ5作目。
冒頭は妻と娘を無差別殺人で殺されるシーンから始まる。
犯人は長らく家に引きこもっていた30代の男だった。
1、7040
40代の自室に引きこもっていた女性がミイラ化して死亡。遺体の状態からは餓死。同居していた両親は長い間、亡くなった女性とは没交渉だったという。しかし近隣の聞き込みから女性と両親が言い合う声が聞こえていた。疑問に感じた古手川は解剖を要請する。
2、8050
50代の自室に引きこもっていた男性が餓死状態で死亡。同居していた両親。亡くなった息子に暴力を振るわれていたことにより、母親が入院していたので、付き添いの父親も共に留守。密室状態の中で死亡していた。餓死による自殺か、と思われたが…
3、8070
10才年上の認知症の妻をかいがいしく世話をしている夫。しかし妻が寝てしまうと風俗街に通っていた。妻が死んで風俗で贔屓にしているフィリピン人女性と結婚することを夢見る夫。しかしその夫が浴槽で溺死した。事故死かと思われたが…
4、9060
矍鑠とした90代の老人。元警察官で民生委員も務めていた。毎日散歩をしているのに、なぜか現民生委員が連絡すると会えない。散歩しているところを古手川が質問すると90代の老人ではなく、60代の息子が父を演じていた…
5、6030
もうすぐ60で定年間近の経産省の官僚。同期入省の男の息子が無差別殺人を起こし、騒然となる。息子同士も同い年で息子の環境もよく似ていたことから、不安に駆られる。息子はロスジェネ世代と呼ばれ、就職に失敗し、長らく引きこもっていた…
今回も素晴らしい仕上がりの小説だったと思う。しかし、身につまされることが多く、一気読みはしないように心がけた。飲まれてしまいそうで。
冒頭のシーンが全体を淡く包むような仕立てになっている物語が多い著者だが、今回もそうである。犯罪とまでは言えない見えない意志の支配というものに興味があるのかなあ。こういう話で思い出すのはクリスティ「カーテン」である。
引きこもりを家から出す、引き出し屋や不登校児を家から出すサービスなど需要があるところに商売の種があるのだなあ、と感じることはニュースを見ていて思うことだ。どのような手法でアプローチしていくのかは千差万別でどの方法が正しいかは多分、結果論でしかない。十数年前まではOKとされていたことが現在は駄目だということもたくさんある。必要としている人は藁にもすがる気持ちだろう。それでも人は見たい物を見、聞きたい物しか聞かない部分がある。大変だと思うこと、長くかかり、効果が見えづらいものを避け、自分が出来そうで単純に苦境から脱出できそうなことを試しがちだ。それが犯罪であるなら、よっぽど追い込まれているに違いないのだ。解決策がすぐには思い浮かばないのが、とても悔しい。
5の6030で判野啓一が起こした事件は多分2019年に川崎で起きた事件を参考にしたものだと思う。当時、やり場のない怒りが沸いた覚えがある。「ヒポクラテスの悔恨」で最後に光崎が言った「己の欲求を満たそうとして何の抵抗もできない弱者に牙を剝く。その時点で、お前はお前の姉を殺めた人間のクズと同等に堕ちたんだ」という言葉に深く頷きたくなる。
加害者家族の問題もあるかと思う。TEDという動画サイトがあるが、そこに銃乱射事件を起こし事件後に自殺した少年の母親が演説しているのをチラリと見たことがある。米国では加害家族でも守られることもあるのだと(そうでない場合もあるのじゃないかとも思う)知った。日本でも、そうなれば、また違った選択をとる人もいるのではないかと考えることがある。
Posted by ブクログ
今回の「見えざる敵」は引き篭もりや老老介護といった社会的問題…と思わせておいて実は。
普通の社会生活を送っている一市民でも、一歩間違えればこういう地獄へ陥ってしまう。
社会や行政が悪いのではなく人間の中に潜む弱さ危うさも一因なのかも。