あらすじ
「綺麗な人でしょう。心はもっと美しいんだよ。ほんと、憧れの人!」「カリスマってああいう人のことを言うんだろうな。」
「あの人はカリスマ性がある反面、ものすごく傷つきやすい人。」「うちの家族はまだ、あの人に心を操られたままなんです。」
「そういえば、ルミンさんて、プライベートなことは話さない……。」
16人のさまざまな証言をもとに、女の正体にせまる1作。
女は一体何者で、なぜ嗅ぎ回られているのか…?読めば読むほど謎が深まり、ゾッとするラストは頭から離れない……。
「怖いトモダチ」、ひょっとしたらあなたの隣にもいるかもしれませんよ…?
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Posted by ブクログ
あなたには、「怖いトモダチ」がいますか?
(*˙ᵕ˙*)え?
多い少ないこそあれ、それを知り合いという言葉まで広げればこの世のすべての人に『トモダチ』の存在があります。その関係性は人それぞれでしょう。ほんのちょっとしたキッカケから知り合った先に一生涯深い繋がりをもつ関係性が築かれる場合もある一方で、二度と顔も見たくないと、離れていく場合も少なくないと思います。なかなかに『トモダチ』との関係性も難しいものだと思います。
さてここに、そんな『トモダチ』との関係性の先に一人の女性の姿を浮かび上がらせていく物語があります。
・『ああいうのを、カリスマっていうんですかね』。
・『人の心を操る達人ですからね』。
・『ものすごく苦しんで、悶え死んで欲しい』。
『トモダチ』に対するさまざまな思いが浮かび上がるこの作品。16人の人物が次から次へと”証言”を続けていくこの作品。そしてそれは、”16人の証言”のその先に「怖いトモダチ」の実像に読者が恐怖する”ミステリー”な物語です。
『読者のみなさんへ。
これから私は、とある「トモダチ」について、
関係者への聞き取りを始めます。
「いい人」、「悪魔」、証言は食い違う…
本当のことを言っているのは誰で
トモダチは一体、何者なのか?
知れば知るほど謎が深まる
ミステリーの世界へようこそ。』
一人目の証言: 『こんにちは。面談、今終わったの?わたしはこのあと。久し振りだよね、学校行事、ぜーんぶコロナで飛んじゃったから…』と話し始めたのは『隆(りゅう)くんママ』。『わたし、ちょっと気になってるんだよね、木下先生のこと』と語り始めた『隆くんママ』は、『オンライン授業』で『板書が間違ってるのを指摘』されたことで『そんな言い方されたら、先生、悲しい気持ちになりますっ』と反応した木下のことを『小学二年生相手に、教師があんな言い方するって、ありえる?』と話題にします。『来年こそはいい担任に当たりますように』と話す『隆くんママ』は、次に『在宅勤務が増えて』きたことで『オンライン・サロン』に入ったという話題を持ち出します。『中井ルミンさんて人が主宰してるサロン』と説明する『隆くんママ』は、彼女は『エッセイを一冊出してる』、『すっごく素敵な考え方をする人』、『彼女の書いたものを読んでると、目からウロコがポロポロ落ちて、世界が広がる』と中井ルミンのことを説明します。そして、『彼女の本「あなたはもっと輝ける!」』を『貸してあげる』と続ける『隆くんママ』は、この本を読んだことで『ネガティブな感情や思考と向き合えるようになった』と続けます。本を読んで『気に入ったら、オンライン・サロンにも参加してみたらいいよ』と続ける『隆くんママ』。
二人目の証言: 『サロンへの入会を検討中だということでしたよね。だったらわたしなんかじゃなくて、現役の会員に訊いたほうがいいんじゃないですか?…辞めた人に訊きたいことがある?へえ、何でしょうか?』と話し始めたのは『元サロン会員S』。『ルミンさんのブログ』が『入会したきっかけ』と話す『元サロン会員S』は、『辞めた理由』は『トラブルがあったわけじゃな』く『月三千円の会費がきつくなっ』たという『経済的な理由』だと続けます。『ルミさんですか?あの人は、すごい人です。ああいうのを、カリスマっていうんですかね』と話す『元サロン会員S』は、『わたし以外に、あのサロンを辞めた人』を『一人だけ、知って』いるとも話します。しかし、『退会理由』は『入会検討中の方に、あまり余計なことは言いたくないなあ』とも話す『元サロン会員S』。『ここだけの話にしてもらえます?端的に言えば、出禁になったんですよ…ちょっと一線を越えちゃった人だったんで』と話す『元サロン会員S』は、その原因が『退会した女性』が書いた『大石キラリ公式ブログ』にあったと説明します。『ルミンさんて、カリスマ性がある反面、ものすごく傷つきやすい人らしくて、その誹謗中傷ブログを読んで、半月くらい寝込んじゃった』とも話す『元サロン会員S』。
三人目の証言: 『あのう、メールくださったの、あなたですか?…どうも、はじめまして』と挨拶するのは大石キラリ。『ブログは放置してるんで。読んでくれる人がいたなんて、感激しちゃった』と語る大石は『で、ご用件は何ですか?わざわざ会わないといけないなんて、ちょっとびびってるんですけど』と続けます。『えっ、中井ルミン?知りませんよ、そんな人』と初めは否定から入った大石ですが、『オンライン・サロンの元メンバーから聞いた?ああ、そういうことですか』と反応が変わります。『その人もサロンを辞めたんですか?ってことは、わたしみたいに、あの悪魔にやられたクチかな。違います?』と逆に聞いてきた大石は、『もしかして、あなたもそうですか?あの悪魔に何かされました?』と続けます。そして、『とある「トモダチ」』の正体が徐々に明らかになっていく?『ミステリーの世界』を垣間見る物語がはじまりました。
“あなたは見破れる?16人の証言をもとに大人気エッセイストの正体を暴け!16人のさまざまな証言をもとに、女の正体にせまる1作。女は一体何者で、なぜ嗅ぎ回られているのか…?読めば読むほど謎が深まり、ゾッとするラストは頭から離れない…。「怖いトモダチ」、ひょっとしたらあなたの隣にもいるかもしれませんよ…?”という内容紹介に恐怖感が募るこの作品。顔のど真ん中を楕円形にくり抜かれた女性と対峙する右手を上げた女性の姿が不気味に描かれた印象的な表紙が頭から離れなくもなります。
そんなこの作品は、本の帯にも記された”16人の証言から浮かび上がる女の正体”、”彼女は悪女 or 聖女?”という言葉に集約された物語が展開していきます。そんな物語の特徴は”16人の証言”によって明らかになっていく『女』=『トモダチ』=中井ルミンに視点は移動せず、中井ルミンのことを話す人たちの言葉の中から自然と中井ルミンという人間の実像が浮かび上がってくるという手法をとっているところです。似たような想定を取るものとしては柚木麻子さん「伊藤くんAtoE」、川上弘美さん「ニシノユキヒコの恋と冒険」、そして瀧羽麻子さん「さよなら校長先生」などが挙げられます。いずれも本来主人公となるべき人物に視点が移動せず、あくまでそんな人物を知る側の人間たちが話す言葉の中に当人のイメージが浮かび上がっていく物語です。そして、この岡部えつさんの作品も中井ルミンと何かしらの関係がある人物たちが章ごとに中井ルミンについて語っていきます。その点では上記した三つの作品と同じような考え方とも言えますが、一方で大きく異なるのが、岡部さんの作品では、”16人の証言”を聞いて回る人物(”女X”とします)が設定されているところです。まずは、それがわかる表現を見てみましょう。
・隆くんママ: 『こんにちは。面談、今終わったの?わたしはこのあと』
→ “女X”は『隆くんママ』のママ友であることがわかる
・元サロン会員S: 『サロンへの入会を検討中だということでしたよね』
→ “女X”は『サロンへの入会』を装って元会員だった人物へ接触したことがわかる
・大石キラリ: 『あのう、メールくださったの、あなたですか?』
→ “女X”は、『元サロン会員S』からの情報を元にして、大石キラリへ接触したことがわかる
“女X”と三人の人物との関係性を見てみましたが、この作品は中井ルミンとは何者なのか?を探っていくメインストーリーの他に、読めば読むほど気になり出す”女X”の正体を追い求める物語でもあるのです。これは間違いなく面白いです。それぞれの章において16人の人物たちは”女X”に向かって語りかけます。それは、形式的には”女X”を介したものですが、この作品を読む読者に向かって語りかけてくるものでもあります。また、”女X”が、中井ルミンの実像を浮かび上がらせていくそれぞれの面々とのやり取り、こちらもよく練られています。上記で3つの作品を取り上げましたが、この特徴はそれらには全くみられないものであり、この作品ならではの魅力です。そんな”女X”の正体は作品後半で中井ルミンという人物の恐ろしさを倍増させるように明らかになりますが、このレビューではこの程度としておきたいと思います。これから読まれる方には中井ルミンだけでなく、”女X”にも是非注目してお読みいただければと思います。
さて、では、中井ルミンという人物がどのような人物なのかを複数の人物の語りの中に見てみましょう。
● 中井ルミンってどんな人?(好印象編)
・『オンライン・サロン』を主宰。『エッセイを一冊出してるんだけど、すっごく素敵な考え方をする人なんだ。彼女の書いたものを読んでると、目からウロコがポロポロ落ちて、世界が広がる』 by 隆くんママ
・『とてもいい人で、わたしたちをぐいぐい引っ張りながら、思考トレーニングをしてくれる』、『ずっと胸につかえていたものを、次々に言語化してくれる』 by ゆうきくんママ
・『一言で言えば真面目ですよ。真面目過ぎるくらい、真面目な人。責任感も強いし、努力家だし、他人に優しく自分に厳しい。頭もいい。非の打ちどころがなかった』 by 富野道隆(元夫)
いかがでしょうか?とても前向きな評価が並んでいます。元夫の『真面目』、『責任感も強い』、『努力家』といった表現からは中井ルミンに対する印象が極めて良くなります。一方で『隆くんママ』の『書いたものを読んでると、目からウロコがポロポロ落ちて…』という表現には若干きな臭いものを感じるところはあります。しかし、全体としてはイメージは悪くありません。では、次に逆の証言を見てみましょう。
● 中井ルミンってどんな人?(悪印象編)
・『あの悪魔に何かされました?』 by 大石キラリ(元サロン会員)
・『憎い。今すぐ死んで欲しいわ。ものすごく苦しんで、悶え死んで欲しい』 by 優美(元クラスメイト)
・『この世には、息をするように噓をつく人間がいるって、知ってます?…それですよ。ブログに書いてあることも、嘘ばかりに決まっています』 by 沙世(元クラスメイト)
いかがでしょうか?”好印象編”からは全く想像もできない言葉が並んでいます。『悪魔』、『死んで欲しい』、そして『息をするように嘘をつく』とまで言われる中井ルミンとは一体何者なのか?証言者は、中井ルミンとの関係性を振り返りその思いを聞き役でもある”女X”に切々と吐露していきます。そして、それと同時に読者の中には間違いなく中井ルミンという女に対する恐怖感も湧き上がってきます。
そして、物語にはさらに興味深い仕掛けが用意されています。それこそが、視点こそ移動しないものの中井ルミンが記した『エッセイ』が”小説内エッセイ”という形で記されているのです。一つだけ見ておきましょう。
『中井ルミンのエッセイ「マウント」
先日のオンライン・ミーティングのテーマが「マウント」だった。… 先日、仕事のために、ある専門知識が必要となった。たまたま知り合いに、その専門分野で働く人がいたので、教授を願うことにした…わたしはまず、彼女にその仕事の概要を訊ねた。さして難しい質問ではない。しかし、そのとたんに、彼女の表情が曇った。あれ?と思ったが、理由がわからなかったので、もう一度同じ質問をした。すると、こんな、思いもよらない返事がきた。「概要と言われても、困ります。ご存じのように…」』
ここで取り上げた『エッセイ』のテーマは『マウント』です。『自分のほうが優れていると相手に示す行動のこと』を指すその言葉で表される状況は、この『エッセイ』に先立つ『とある人物』の証言とも関連していくものであり、その証言の次にこの『エッセイ』が置かれることで読者はその意味するところ、その背景にあるところを理解していきます。これが極めて絶妙です。”16人の証言”だけでは見えなかった部分がこの『エッセイ』の存在によって補完され、中井ルミンという人物の姿がよりくっきりと浮かび上がってくるのです。数多の小説の中には、その作品中に小説を埋め込む”小説内小説”の構成をとるものがありとても魅力です。そして、この作品が用いる”小説内エッセイ”は、その指し示すところがそれ以外の部分である”16人の証言”と鮮やかに絡まり合って物語を深く見せていきます。このような構成の作品は私にとっては初となりますが、非常に面白い、巧みな構成だと思いました。
そんな物語は、上記した通り”16人の証言”によってさまざまな方向から中井ルミンの正体を浮かび上がらせていきます。そんな証言者たちは、”ママとも”からはじまり、”元クラスメイト”や”元夫”など中井ルミンの人生に関わってきた人たち広範囲に及んでいきます。上記した通り、この作品は”女X”がそんな人物たちに接触を試みていくからこそ成り立つものであり、読者が得ていく知識は”女X”と同じものでもあります。そうです。”女X”の中に浮かび上がっていく中井ルミンという人物の実像に迫る物語は、読者の中に中井ルミンという人物像を鮮やかに浮かび上がらせていくのです。そんな物語は、後半に至って読者の中に浮かび上がっていた中井ルミン像をさらに強固なものとすべく極めてリアルな説明をもって肉付けを行っていきます。”ミステリー”と内容紹介にある通り、この作品の本質は”ミステリー”にあることには違いなく、これ以上掘り下げていくことはネタバレとなってしまいますのでそろそろ終わりとしたいと思いますが、”16人の証言”によって一人の女性、中井ルミンの実像を垣間見せてくれるこの作品には、まさしく「怖いトモダチ」という書名そのままに『トモダチ』という存在に恐怖をおぼえる物語が描かれていました。
『ああ、なるほど…あの人の正体を知りたくなったんですね』。
あの人=中井ルミンの正体を追い求める中に”16人の証言”が中井ルミンの実像を浮かび上がらせていくこの作品。そこには、「怖いトモダチ」という書名が伊達ではないゾクゾクするような物語が描かれていました。次から次へと登場する証言者の語りに読む手が止められなくなるこの作品。リアル世界にもそこかしこにいそうとも思えてくる分恐怖が増すこの作品。
なるほど、身近にいるあの人ってもしや…と考え出すと余計に怖くもなる、怪談よりも遥かに怖い物語でした。
Posted by ブクログ
インタビュー形式で進む話。
読んでいるうちに、自分が自分でなくなるような、足元が不安定になるような恐ろしい気持ちになった。
こんなトモダチに人生を搾取されないように生きていきたいものだが、いい人の顔をしてそこら辺にいるんだろうなと思い、なお怖くなった。
Posted by ブクログ
面白かった! こんな人確かにいる!けど近くにいたら絶対イヤだ……なリアルさ。思い通りにしたいその人もアレなんだけれど、その周りにいる人も皆が被害者かというと……。自分も神輿を担ぐタイプなので気をつけよう。最後に登場人物紹介見直すと発見があったり。
Posted by ブクログ
トモダチの言動が巧妙に人を支配して操っていく。読んでいる自分も、トモダチの言動に違和感を感じるのに納得しそうになり、怖くなった。
自己愛性パーソナリティ障害についても分かりやすく書かれている。
面白かったです!
インタビュー形式で話が進んでいきます。
読みやすくてどんどん読んでるうちに、話に引き込まれました。続きが気になって、一気に読んでしまいました。
身近にもこういう人いるのかな?と思うとゾッとしました。
人との関わり方を考えさせられる、そんな作品でした。
Posted by ブクログ
色々な登場人物がある一人の人について語っており、それが人によって真反対なのが面白い。
『自己愛性パーソナリティ障害』について言葉を調べてもなかなか実感が湧かないが、物語を読んでこの障害がある人はこう言う人なんだなと言うのが分かるし、身近にいそうなのが何とも気味悪い…。
物語内の「他人を鏡にして写して、その鏡に自分を褒めさせている」という文章が何とも巧みでわかりやすいと思った。
著書は当時の人物が話をするように語られているので、読みやすい。また、登場人物が簡単に紹介されているのでごちゃごちゃにならなくて良かった。
Posted by ブクログ
有吉佐和子『悪女について』の現代版みたいだ…と思った。自己愛性パーソナリティ障害を深掘りした話。こんな人、確かにいるかもな~と調べたら実際に結構な割合でいるらしい…怖いな。
世の中のモラハラ気質な人、完璧主義な人、自尊心が低いのにプライドが高い人。怖いトモダチ予備軍はたくさんいるかもしれない。
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●はじめに登場人物の紹介ページがあり、
個々のインタビュー形式で話が繋がっていく。
・"中井ルミン"という人物がどんな人なのか?
・心酔している人と、恨んでいる人がいる
・インタビューをしている"わたし"は誰なのか?
一人称会話文なので、サクサク読める。
ただ、前後の関係性などもあるので、ある程度一気に読んだほうが面白いと思います。
人それぞれ価値観の違いというのもあるけど、この精神障害は治療で治せるものではないらしい。
自分の自尊心を保つためだけに、周りをコントロールするってある意味すごいな。
Posted by ブクログ
タイトルが全てを物語っている。自分の都合悪いことは全て攻撃と捉えて事実さえも解釈の違いにより相手に非があるように仕向けてしまう。息を吐くようにウソをつくけれど、それさえも解釈の違いのせいかと思わせてしまう。怖い友達だ。
Posted by ブクログ
P.200“感情のタカリ屋”ってうまい表現だと思った。
さて、私の周りにも自己愛性パーソナリティ障害かな?って人はいる/いた。
子供の頃から社会人になりたては、心かき乱されてメンタル不調になったりもしたけど、周囲の「それおかしいよ」によって気づくことができた。
もうそういう人に当たってしまったら、距離を置くしか方法はない。
こちらの気持ちを理解なんてしてもらえないし、「この人日本語通じてるかしら?」って感じにしかならない。
そのときの気持ちを思い出したりして、読んでぐったりした 笑
本としては、読書した!というよりネット小説な感じかな。
Posted by ブクログ
誰もが多面性を持っているのだろうから、付き合う人によって受け止められ方が違うのは当然かも。これほど印象が極端なのは、ちょっと異常じゃないかな。
Posted by ブクログ
中井ルミンという売れっ子エッセイストがとのような人間かが、様々な立場の人から語られていく。
読み進めるにつれて、人間の怖さというものが浮き彫りになっていき、空恐ろしくなる。
とても読みやすいので、お手軽に人間の怖さを味わいたい人におすすめです。
Posted by ブクログ
中井ルミン、という一人のベストセラー作家に振り回された人々の証言で構成されている。聖女と悪魔。誰に聞くかによって、中井ルミンという女性はまるでちがう人物であるかのような印象を受ける。
が、読者はきっと彼女には騙されないだろう。彼女は自己愛性パーソナリティ障害だ。
自己愛性パーソナリティ障害については元々関心があっていろいろ文献を読んだりしたこともあったので、その特徴や厄介さについてはある程度知識があった。
編集者の倉田理美さんや、文芸教室で小説家を目指す馬場紹子のような、感受性豊かで共感力の高い真面目な人間は彼女に食われて病んでしまうが、堂本江梨のようなミーハーで鈍感で浅はかな人間はきっと手のひら返しがうまく、彼女が脅威となって立ち塞がるようなこともないのだ、という点は発見だった。
面倒な相手だとわかったら、さっさと切り捨ててまたちゃらんぽらんに新たな偶像に縋ることができるんだな。堂本江梨のように生きられたら人生楽しいだろうな、と思わせてくれるある意味良いキャラです。
サイコパスを描こうとして失敗している小説は多いけれど、本書はその人物造形がとても丹念で、中井ルミンがもつ二面性の恐ろしさや残忍性が徐々に明るみになっていくストーリー展開、胸糞の悪いラストの着地も上手い。強いて言えば、中井ルミンの生育環境などまで描いてくれるとより厚みがでたように思う。
本書の物語がママ友の噂から始まるように、育児してるとその過程でいろんなママ友ができるけど、こういう傾向のある人いるよなぁと思った。そしてそれと同時に、ヒュッと恐ろしい考えが脳裏をよぎった。「自分は?」
私も、小中学生のときは多少その傾向があったと思う。子ども時代は誰しもある程度自己中心的な生き物ではあると思うけれど、振り返ってみると反省したくなる過去がいくつも思い浮かぶ。
今に至るまで良い関係だと思っている友だちとの思い出も、相手にとったら許せない過去だと認識されていたら?ふとそんなことがよぎって、かつての自分が恐ろしくなった。
互いに見えている景色が真逆だという可能性は、大いにある。今でこそ客観的に自覚しているが、過去に関わってきた誰かに本当のところはどう思われていたのか分からない。それを知る術はない。なんて恐ろしいことだろう。
私たちも、今一度自分の中に中井ルミンがいないか顧みたほうがいいのかもしれない。
自分が向き合っていると思っている相手は、心を持った一人の人間ではなくて、穴の開いた顔を隠すためにつくりあげた、理想の自分を映し出すだけの鏡ではないか?
こういうふうに、「これって私のこと?」って思わせて、俯瞰的な視点をくれるのって、小説特有の良さというか、文芸というものの醍醐味だよなぁとしみじみ思った。人に薦めてぜひ感想を聞いてみたい一冊。
Posted by ブクログ
似たような人はいますね。
周りもコントロールされているというのが本当に怖くて。
話が進んで見えてくる世界が怖かったです。
こういう人もいるのだと読んで知っておくのはよいことかと。
Posted by ブクログ
怖っ!!
といっても、ホラーやミステリーというより、これに近いタイプの人はリアルに集団の中に1人はいるかもしれない、気づかずにいるとイライラして死ぬという怖さ。
ママ友と回し読んだら面白い。え、もしかしたら私のどこかにこういう気質ない?よね?と背筋がひやっとする。
Posted by ブクログ
色々な人が、語り口調で自分の感じたその人の印象を話していく。
同じ人の事なのに、全然印象が違うのが怖かった。
サイコパスって、こういう人なんだなと改めて理解できた。最初は良い人だと思って騙されてしまい、あやつられてしまうのも怖かった。
Posted by ブクログ
なんかわかる気がする、こういう人いる。
言葉巧みに相手を言いくるめ、相手には自分が悪いのかもと思わせる、その上でこちらが許してあげる。
この本を読みながら私もすっかり中井ルミンに言いくるめられかけた。
あ、私の勘違いだったかって思ってしまった。
なんだか疲れた。
Posted by ブクログ
ある一人の女性について、
関わった人たちの証言で人となりが浮かんでいく。
手法的には、有吉佐和子の「悪女について」を
彷彿とさせるお話。閑話休題。
彼女のヤバさは浮かび上がってきたけれど、
結局のところ、
彼女自身をどうすることもできずに、
距離を置くことでしか
平穏は手にいれることができない。
できれば、落ちぶれるとこもみたかったけど、
そういう話ではなかった。
でも、ほころびは徐々にでてきているから、
遅かれ早かれ…かもしれない?
結局のところ、才能のある人には敵わないようだし。
とまぁ、すっきりとしないけれど、
楽しく読めました。
コミカライズで途中まで読んでいたし。
旦那さんが不憫だなぁ。
きっと彼女にチクリとさされた毒で
ああいうことになっただろうから。
天災に見舞われたと思って、
なんとか立ち直って生きてほしいですね。
Posted by ブクログ
読んでいて まるで他人のもめ事に巻き込まれた時のような疲労感を感じた。
程度の差はあれど〝森葵〟のような人は世の中には一定数存在するのだろう。
何より不愉快だったのが〝森葵〟こと〝中井ルミン〟がペンという武器を持ったこと。
人は(私もだけど)活字になったものを丸呑みしてしまうことがある。
その点で 最初から「本を出したいんです」と言っていた〝森葵〟の戦略は間違っていなかったとは思う。
とにかく疲れた本だった。
Posted by ブクログ
ある「トモダチ」について、聞き取り形式で話は進んでいく。
16人の証言から「トモダチ」の正体が浮かび上がっていく。ある人は「いい人」だと言い、ある人は「悪魔」だと言う。
果たして、彼女の本性はーー
個人的には、人によって「トモダチ」の印象が180°異なるところが一番の怖いところなんじゃないかなと感じた。
同じ人の話をしているのに、こんなにも見解が変わってくるのか…。
「自尊心を赤ちゃんみたいにあやしている」という表現が、妙にしっくりきた。
最後まで読むと表紙のイラストの意味が分かってきます。
読後感は全くスッキリしない(笑)けど、そこが逆にリアリティがあって良かった!
会話調なので読みやすく、普段本を読まない方にもおすすめ。
Posted by ブクログ
最近note初めてみたとこだったから特に興味持って読めたかも。
ストーリーはおもろくてどんなオチになるか楽しみにしてたけどオチ自体は期待よりはあっさり、って感じだった。
Posted by ブクログ
ポッドキャスト「真夜中の読書会~おしゃべりな図書室~」で紹介されていて読んでみた。
加藤元さんの「本日はどうされました?」や恩田陸さんの「Q&A」のような形式。
エッセイストの中井ルミンはカリスマ性があって彼女を崇拝する人達に囲まれている一方で、彼女の事を憎んでいる人も存在する。
彼女に関わる人達へのインタビューを通して、中井ルミンはカリスマなのか?悪魔なのか?というのが徐々に明らかになっていく。
自己愛性パーソナリティの話題が出てきて、明確に中井ルミンがそうだとは書かれていないけど、きっと彼女はそういう特性があるんだろうなぁと思う。
だけど、中井ルミンを批判している人達は?
事実を言っているかわからないし、被害者ぶっているだけでこの人達の方もそういう特性を持ってる可能性だってあるのでは?
いやいや、もしかしたらインタビューしているこの主人公?こそ中井ルミンを悪者に仕立て上げようとわざわざ色んな人に話を聞きに行っているのでは?
と疑いだしたらキリがなくなってくる。
バタやんさんも言っていたけど、中井ルミンのブログ、絶妙になんか嫌なんだよなぁ...笑
だから中井ルミンの言うことは、なんとなく信じたくないし悪者にしておきたい。
だけど中井ルミンを悪魔だと言う人達も極端過ぎる気がして、手放しに「かわいそう」と思えない。
実生活の人間関係でも同じで、誰を信じる信じないかって客観的に判断して正しく選択しているつもりでも、結局は単純に自分の価値観だとか好みによるのかも。
Posted by ブクログ
自己愛性パーソナリティ、初めて目にする言葉と意味。他人から褒められたい。注意されると攻撃されたと感じるし何個か当てはまる。ただ自分に人望がないから周りには害を与えていないが自己顕示欲は強い。共感もできないなぁと怖いトモダチではなく怖いジブンになっていった。
もしかしてカリスマと云われる人らも他人を蹴落としてのし上がっていくのかなぁ。よく笑顔でいればイヤなことや心が揺さぶられることはなくなる。苦労せずに成功するとあったけどルミンみたいな人が周りのサポートで成功したのかも。と思うほどのめり込んでしまった。
Posted by ブクログ
湊かなえさんの小説で見かける感じの、それぞれの登場人物の会話調の。
一人の人物について関わったことのある人達にインタビューして、調べていきます。
私が苦手とするタイプの人間について、これでもかこれでもかと印象を聞かされている感じ。悪い印象の話は、実際に友人から人の悪口を聞かされているような感覚で、この話はいつまで続くんだろう?とちょっとうんざり。
それで結局最後やりたかったことはできたのか、何なのか?真相はなんとなくわかったけど何がしたかったのかよくわからなかった。
Posted by ブクログ
1人1人の登場人物からの話という形のストーリー展開。
その人によっての中井ルミンへの感情やどういう人間に見えてるのかがわかっていく。読み進めていくと結局この人良い人なの?悪い人なの?と疑問が浮かぶ。
誰かにとってはそれが善で誰かにとっては悪になる。
人って色んな顔があるからやっぱり怖いなあと、自分の周りにもしそんな人が居たら病気だからと一言では片付けれないよなと。
スッキリとした結末ではなかったかな。
Posted by ブクログ
エッセイスト中井ルミンについて、インタビュー形式でいろいろ語られる。
人を見る目とはよくいうけど、その人の立ち位置によってルミンへの印象が全く違うのが面白かった。
クラスに必ず1人はこういう人いたなあ…
無言の圧力というか、その人の機嫌によって周りの心がザワザワする存在で、関わりたくないタイプ。
Posted by ブクログ
エッセイスト「中井ルミン」という人物について、とある人物が関係者への聞き取りを行い、その証言だけで構成されている物語。その証言は食い違い、彼女を神様のように崇める人物がいれば、はたまた悪魔と罵る人物もあり…果たして中井ルミンの本性は天使か、悪魔か。
冒頭に証言者のイラスト付きの一覧があり、それぞれの証言をまとめてあるので読みやすい。中井ルミンの人となりについて推理しながら両極端な証言を読み進めていくのが結構ワクワクして楽しかった。しかし割と序盤から本性がわかってきて、何か最後にアッと驚く展開があるのかと思ったらそのまま終わってしまったという感じで、惜しい。表紙の絵がまさに中井ルミンという人間を表しているんだな。ああいう人は一生あのままなんだろうなと思う。まさに怖いトモダチ。絶対に関わり合いたくない。
いわゆるイヤミス(たまたまこれの前に読んでたのもイヤミスアンソロだった…)嫌な気持ちになりたい方にはおすすめです!
Posted by ブクログ
中井ルミンていう人気のエッセイストはどんな人物なのか?色んな登場人物から語られる「中井ルミン」素晴らしい人と言う人もいれば悪魔の様だと言う人もいる。正体は...
ルミンにそっくりな人が昔の知り合いに居て本を読んでて思い出したΣ( ̄。 ̄ノ)ノ
人当たりがよくて聞き上手、物腰が柔らかいのですぐに仲良くなったけど、何か変?
やってることがルミンそのままだった。
私は逃げて正解だったなぁと思った。
Posted by ブクログ
初読みの作家さん。何かで紹介されてたんだよな。でも読みたい本リストに入れてなかったなー。いわゆるイヤミス的な感じだったけど、最後がいまいちだったな。結局そういうパーソナリティ障害にしちゃうのかと。まさに近くにはいたくないけどね。今のところ思い当たる人はいないからありがたいことだ。チャコさんのように自分で自分の苦しさに気づくことが本当にあるんだろうか。それをカリスマ性と感じる人がいるのが信じられないけど。最初に登場人物よりひとことを入れてるのも好きじゃないわ。最後に読んだけど、ただのまとめって感じ。
Posted by ブクログ
読んでる途中からもどかしい気持ちになりました…それこそ、作者の狙いの一つだっだのかも。周囲の人から見れば、人の評価なんて千差満別なのかもしれません。ましてや、感情が入れば入るほど人とは違う特別な見方になりがちなんでしょうね
好き嫌いがはっきり分かれるかも
あまりにも嫌悪感が勝り過ぎて作品を愉しめませんでした。奥に潜む人間の内面の複雑な怖さを期待したのですが、それとは違いました。読後に残る余韻も感じられませんでした。