あらすじ
学生時代の友人同士で立ち上げたベンチャー企業「ぐらんま」で働く社員たちは、多忙な日々を送っている。不規則な生活のせいで食事はおろそかになり、社内も散らかり放題で殺伐とした雰囲気だ。そんな状況を改善するため、社長は会社で家政婦を雇おうと提案をする。やってきた家政婦の筧みのりは、無愛想だが完璧に家事をこなし、心がほっとするご飯を作ってくれる。筧の作る食事を通じて、社員たちは次第に自分の生活を見つめ直すが、その矢先思わぬ出来事が……。人生の酸いも甘いもとことん味わう、滋味溢れる連作短編集。
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Posted by ブクログ
原田ひ香さん好きです。
特に本作はご飯が美味しそう!食べてみたいなぁ!という感想より登場人物の思いや生い立ちやエピソードが重すぎて中和しきれてない感じでした。
でも私にとって重い部分をとても楽しく読ませてもらいました。原田ひ香さんの中でもこの作品好きです。
学生友達でベンチャーを立ち上げて、軌道に乗ってきたこの頃、みんなそれぞれの思いや立場を抱えて仕事をしてるけど、少しずつ違和感を感じ始めている。
田中が呼んだ家政婦さんが来て、久しぶりにみんなでご飯を食べたら、あの頃のようでとっても嬉しかった。この場所を守りたいと思った。けれど柿枝はいない。どこで何をしているのだろう。
この男をめぐってのメンバーの思いが交錯して行き、家政婦さんも巻き込んでのこのラスト!いいですねぇ。
会社勤めの経験がある、会社を興した経験がある方は、空気感に共感することも多いのではないでしょうか。何にせよオススメです。
Posted by ブクログ
ご飯が美味しそうに描かれていてほっこりする。最終局面で場面が一気に変わってビックリ。まずはこれ食べて、それから云々。面白くて一気に読んでしまった。
Posted by ブクログ
ただ美味しい物を食べさせて心をほぐしてくれる人の話かと思ったらびっくりの展開でした。人のことを軽く見て思い通り動かすためにウソもつく、そういう人がいるのだなあ、とがっかりしました。でも他の人はいい人ばかりでよかったです。
Posted by ブクログ
まずはこれ食べて。食が人を繋ぐし、宥める。誰でも美味しいご飯があれば、心が落ち着く。組織が大きくなるスピードと中の人間の成長が噛み合わないとうまく回らない。心の成長が自分の立場の成長に見合ったものでありたいと共に食を楽しめる心の余裕を持って生きていたいと思う。
Posted by ブクログ
ただのおいしそうなご飯が出る小説かと思いきや、
ひとひねりあつておもしろかった。
筧の口調が少し慣れなかったけど、
柿枝の闇が知りたくてすいすい読めた。
柿枝、光る魅力があるんだから闇堕ちして欲しくなかったな。
他人で全く知らないショーダショウタになんで、お金を出せるか腹落ちしない。
ショーダショウタのエピソードいる?
桃ちゃんはいい男すぎる。
やっぱりご飯って
エネルギーだ。
Posted by ブクログ
学生時代からゆるく起業し軌道に乗った小さな会社が舞台の群像劇。それぞれのメンバー目線でほのぼの描かれる流れかと思いながら読み進めると終盤で思わぬ方向に話が展開する。連作短編は最終章を読ませるための土台というか伏線であるイメージです。エピローグの一歩手前の章でのどん底の展開からエピローグでの鮮やかな締めくくりが爽快です。物語の中心となるみのりさんがいい感じです。料理ができる人は人を幸せに出来る能力があるのではないか、と感じます。最後は多くを語られていないですが、みのりさんも参加した状態で円満に会社が存続していくだろうと感じます。
Posted by ブクログ
タイトルから想像していた優しいお話ではなかったけど、
いつの間にか入り込んで最後まで読んでいた。
かきえだの行動は虫唾が走るというか狂気的だなと思ったけど、
ここの登場人物たちのような人には入り込みやすかったのだろう。
最後の終わり方はよかった。
スッキリ
Posted by ブクログ
美味しい料理とほっこり話かと思ったら…
人間には誰にでも違う面がある。
それは表裏というほどの差ではないかも知れない。それは善とちょっと角度の違う善かもしれないし、どす黒い面を隠し持っているかもしれない。
誰にも言えない秘密を抱えていて苦しんでいる顔かもしれない。
表裏が無い人ですね~なんて言われる人もそうでは無いんだろうなと思ってしまう自分です。
この作品を読んでもなるほどなと感じました。
それにしても、まさかそういう帰結をするとはね。
筧さんによってぐらんまのみんな色々踏み出せて良かったよね。
そう思う事にします。
はらださんの作品は美味しい物がたくさん出てきていいなと思うし、色々思わせてくれるのも好きだな。
Posted by ブクログ
現代社会で生きている人たちが悩む少しモヤッとした事をご飯でホッとさせ、また次から頑張ろうと元気づける。ご飯は食べるものではあるけれど胃に入れる以外にも、人を安心させたり誰かと話しながら食べることで凝り固まっていた頭が解れる。食への大切さ。楽しさ。を改めて考えさせられた一冊。読みやすく、どんどん展開が進んでいき飽きない物語でした。
Posted by ブクログ
ご飯系のお話はやさしい気持ちになれるものが多いのだが、このお話はずっと重かった。
作中の皆の閉塞感や不安、ピリピリとした空気が伝わってきそうだった。ご飯がある時だけは少し和らぐのだけど、予想とは違う。
家政婦さんは部外者かと思ってたんどけどな。最初から欠けたメンバーが解決してくれるのかと思ってたら逆だった。欠けたメンバーはある意味重要だが、必要ではない。彼のおかげで今があり、彼のせいで今がある。
収束に向かう話の先は漸く霧が晴れるようだった。彼らの門出がよいものとなればよいな。
ご飯系のお話なので作中ちょいちょい出てくるのだが、鯛めしと玉子焼きが美味しそうだった。いいなあ。
Posted by ブクログ
途中まで、あまり肌に合わないなぁと思っていたけれど、後半も後半、毛色が変わってきて、そこからあっという間にラストへ。ちょっと急展開すぎるような。
よい終わり方ではあったけれど、ううむ。
Posted by ブクログ
仕事に行き詰まったり迷ったり悲しんだりした時は、たいていご飯が助けてくれる。
味覚も嗅覚も胃も掴まれたら幸福感に満ちてよしって立ち上がれるもんね。
意外にもこの連作短編は少しミステリー寄りで食より人間関係の複雑さが突出していた気がする。
人を支配してやろうという邪な心を持つ人は結果的に誰も寄り付かなくなるんだから、平和に生きていきたいね。
Posted by ブクログ
題名、そして各短編を通じての主人公である家政婦・筧が料理を通じて織りなす温かい小説……を想像していた。しかし、序盤の胡雪と筧のやりとりを読むにつけ違和感を抱いた。同じ大学で学んだ仲間と起業したIT会社。発起人の失踪後から物語は始まる。そこに、筧の暗い過去が「合流」し、重さが増していく。最後はマイルドなサイコパス小説のようで、あまり後味は良くなかったな~
Posted by ブクログ
筧さんの作る料理にほっこり。文章から料理の丁寧さや温かさが伝わってきた。筧さんのキャラクターも好き。それ以外の人はあんまり好きじゃないかもー!笑
Posted by ブクログ
家政婦みのりさんのご飯が素朴なんだけれど、丁寧な仕事をしていて、想像しながら読み進めていく。全てが、なんて美味しそうなんだろう!りんごを焼くだけデザートからはじまって、まるで野菜の煮物のような具たくさんけんちん汁、オマケの鯛のアラから作った鯛飯、お吸い物、、、全部全部食べてみたい。
人はお腹が満たされると心も満たされていくんだろうなぁと感じた。美味しいものを腹いっぱい食べることは大事だ。
ラストは意外な展開だったけれど、もっと深いエピソードがそれぞれあったらもっと面白しろくなるのではないかと思った。
Posted by ブクログ
大学時代の友人同士で立ち上げたベンチャー企業『ぐらんま』
社員達は日々の仕事に忙殺され、不規則な生活に乱れた食生活、オフィスとして使っているマンションの1室は散らかり放題。
荒んだ状況を改善するため雇ったちょっとぶっきらぼうな家政婦さんの作る美味しいごはんに社員達は癒されていく、ほっこりするお話。
かと思ったら、最後はイヤミスのような…サスペンスのような…色々な要素がつまっていた。
Posted by ブクログ
ほっこりみんなの悩みを解決する美味しい料理〜て感じかと思ったら、最後の方は本当に悪と?戦う展開でちょっとびっくりした笑
表紙イラストの通り、作中で出てくるごはんはどれも美味しそう(^^)筧さんのだし巻き卵食べてみたいな〜〜
ぐらんまのみんなと筧さんに幸あれ。会社を起こすのも続けるのもきっとすごく大変。でも仲間と始めたからこそ、売る決意をするのはすごく辛く勇気も必要だっただろう。でも売って会社を手放す=終わりじゃなく、新しいはじまりだから。みんなでまた集まっててほしい
Posted by ブクログ
美味しそうな表紙に相応しい美味しそうな料理シーン。お腹が空いてくるような文章で良かったです。
個人的には焼きリンゴとアイスが誰か作ってくれないかな…と思うほどでした。
後半に進むにつれて憤りを感じる展開になっていきます。柿枝の言動を読んで、漫画ジョジョのセリフに吐き気をもよおす『邪悪』とは、なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ。という言葉がありますが、その言葉が思い出されました。
Posted by ブクログ
人は他人を見れば幸せそうにみえたり、何も不具合なく生活しているようにみえるが、みんな何か抱えながら生きている。
そんな悩みや隠し事がありながらも生きていく、同じ職場で働く主人公たち。
食べることは生きること!
そう思わせてくれる小説でした。
Posted by ブクログ
あなたは、食べることが好きでしょうか?
人が生きていくためには衣食住の3つは欠かせません。どんなに仕事に夢中になっていたとしても”腹が減っては戦はできない”ですし、お腹が空くことによる集中力の欠如は良い仕事にはつながりません。また、行き詰まってしまった時こそ、一息入れることは大切です。
『さあ。まずはこれ食べて』
そんな一言の先に美味しそうな”食”が目の前に並べられ、そして、そんな”食”で空腹を満たすことができたとしたら、私たちは再び集中力を取り戻していくことができるのだと思います。
さてここに、そんな一言の先にさまざまな”食”が提供されていく様を見る物語があります。『家政婦』が登場するこの作品。そんな『家政婦』を雇用する側の社員の日常が描かれていくこの作品。そしてそれは、”彼女の料理は「ままならなさ」を抱えた社員の心をほぐしていく”と本の帯にうたわれる”オフィス飯”のある日常を描く物語です。
『まず、玄関が違った』と、『外回りの営業から帰って』『玄関のたたき』の『小汚い靴が』整理され、『床も、さっぱりとほこりがなくなっている』という光景を見てそう思うのは池内胡雪(いけうち こゆき)。それを見て、『本来なら、喜べるはずの光景なのに、胡雪は眉根を寄せ』ます。『学生時代、友人たちと医療系のベンチャーを起業した』胡雪たちは、『住居としても使える、2DKのデザイナーズマンションを事務所にしてい』ます。そんな事務所へと入った胡雪は『左手にあるキッチンに、背の高い、痩せすぎな女が、こちらに背を向けて』『何か洗い物をしている』のを見ます。『その手前にある洗面所』へと向かうと『くるりと振り返った』女は、『頬骨の高い、がっちりとした顔立ち、短く切りそろえた髪には白いものが交じってい』ます。『今日からこちらに来てます。家政婦のみのりです』と『抑揚のない、低い声』で挨拶する女を見て『女らしさをみじんも感じさせないその風貌に』ほっとする胡雪は、『あ、池内胡雪です』と『ぶっきらぼうに応え』ます。そんなところに『皆にモモちゃん、と呼ばれている、IT担当社員の桃田雄也が』やってきて『冷蔵庫、開けて良かったですか』と訊きます。それに『あ、もちろん、どうぞ』と返す みのり。用を済ますと『桃田はひょこひょこお辞儀をしながら出て行』きます。一方で『洗面所に入った』胡雪は、『洗面台も、鏡も蛇口も』『ぴかぴかになって輝』き、整頓された棚を見て『衝撃を受け』ます。『念のため、風呂場をそっとのぞくと』こちらは掃除はされてはいるものの『共用のシャンプーとリンス』の『底にねばねばした黒い水垢か、カビのようなものがこびりついてい』ます。『なんだ、家政婦とか言って、家事のプロのはずなのに、こんなことにも気づかないの?』と『思わず、にやりとした笑みがこぼれるのを抑えられな』い胡雪。その時、『まだ、完璧な掃除じゃなくて』と『後ろで急に声がして、シャンプーのボトルをとり落としそうになる』胡雪。『いつのまにか、胡雪の後ろに筧が立ってい』ました。『これから、二回三回と来るうちに、完璧になるから』と言うと出て行った筧を見て『やっぱ、いけ好かない女!忍び寄るなんて、気味が悪い。口の利き方まで偉そうだ』と、『怒鳴りたくなる気持ちを』なんとか抑えこむ胡雪。『家政婦を雇おうと思う』と、『胡雪たちが学生時代の友人と立ち上げた会社「ぐらんま」のCEOである、田中優一郎がそう言い出したのは一ヶ月ほど前のこと』でした。『このところ、忙しいのが続いているじゃん』、『仕方ないと思うけど、水回りとかいつも汚れているよね』、『会社の空気が殺伐としている感じがするんだ』と話す田中は、『毎日じゃない、一週間に三日、十四時から十八時まで四時間いてもらって、水回りの掃除と夕食と夜食を作ってもらう』と自らの考えを説明します。『家政婦代、食費は会社の経費から出す』と続ける田中に『家政「婦」ということは女性なのね?』と訊く胡雪に『まだ、決まってない…まあ、家政婦というくらいだから、女性かな』と語る田中。そして、『家政婦を雇うこと』が決まり、そんな初日を迎えました。『社内で家事を努めてやらないようにして、ずっと過ごしてきた』という胡雪は、『女だからといって、会社の中で家事をしなければならないわけではないはずだ。それが創業メンバーの「紅一点」という立場だったとしても』と思います。そして、『トイレを出た』胡雪は、『CEOの田中がいる部屋の前で立ち止ま』ります。『普通のマンションなら居間にあたる部屋を田中や胡雪、伊丹といった、事務と営業畑の人間が使って』いるという居間に入りにくいと感じる胡雪は、『半年前からずっと接触していた、阿佐ヶ谷レディースクリニックの契約が、どたんばで白紙に戻った』ことを思います。『結局、やっぱりね、患者さんのプライバシーが一番大事なのよ』と言われ『ですから、もちろん、うちもそれを何より一番に考えて…』と『もう何度繰り返したかわからない説明を』した胡雪は、あとから『その時の口調が、もしかしたら、少し強かったのかもしれない』と振り返ります。『大先生と呼ばれている、おばあちゃんの先生に、「少し考えさせてくれる?」と断られただけでなく、きっぱりと「しばらく来なくていいから」とまで言われてしまった胡雪は、『いったい、あそこにはどれだけの労力と時間を割いてきただろう』と思います。
場面は変わり、『ふと、視線に気がついた』という胡雪は、『筧みのりがドアのところからこちらをのぞいている』のに気づきます。『こっちこっちと言うように、手招き』する みのりの元に仕方なく席を立って向かう胡雪はキッチンに入ります。『あのね、これが夜食ね』と説明し出した みのりは『冷凍庫に冷凍うどんが買ってあるから、電子レンジでチンして…』と細かく手順を説明します。『…それ、私がやるんですか?』、『私が女だから…』と声を荒げる胡雪は、やがて泣き出してしまいます。そんな胡雪に、リンゴを取り出し調理を始めた みのりは小皿に『焼いたばかりのリンゴ』にアイスを添えると『さあ。まずはこれ食べて』と『スプーンを添えて』差し出します。ベンチャー企業『ぐらんま』で働き出した家政婦の みのりと、社員との関わり合いが描かれていきます。
“学生時代の友人同士で立ち上げたベンチャー企業「ぐらんま」で働く社員たちは、多忙な日々を送っている。不規則な生活のせいで食事はおろそかになり、社内も散らかり放題で殺伐とした雰囲気だ。そんな状況を改善するため、社長は会社で家政婦を雇おうと提案をする。やってきた家政婦の筧みのりは、無愛想だが完璧に家事をこなし、心がほっとするご飯を作ってくれる。筧の作る食事を通じて、社員たちは次第に自分の生活を見つめ直すが、その矢先思わぬ出来事が…”と内容紹介にうたわれるこの作品。6つの短編と〈エピローグ〉が連作短編を構成しながら展開していきます。
そんなこの作品には、『家政婦』が登場するのが一つの特徴です。『家政婦』が登場する作品というとTVドラマとして、古くは市原悦子さん主演「家政婦は見た!」、近年では松岡昌宏さん主演「家政夫のミタゾノ」が有名だと思います。一方で小説となると、成田名璃子さん「今日は心のおそうじ日和」が思い浮かびます。掃除に洗濯に、そして炊事にとさまざまな知恵を活かしながら取り組んでいく『家政婦』の”お仕事”を見る成田さんの物語は読み味抜群です。それに対してこの原田ひ香さんの作品は原田さんの他の作品にも多く見られるように、複数の人物に視点を回しながらそれぞれの人物の内面を描いていくのが特徴です。そうです。必ずしも『家政婦』として登場する筧みのりだけに光を当てる物語というわけではないのです。しかし、書名と表紙のイラストが象徴する通り、この作品では、筧みのりの作る”食”に一つの魅力があることに違いはありません。では、そんな”食”の描写を少し見てみましょう。
『まずはこれ食べて』
決め台詞のように登場する言葉に合わせて筧みのりが出した『小さな丸皿』には、『小さな小さなハンバーガーが載ってい』ます。
『今日、スーパーに行ったら、パスコの超熟のロールパンが消費期限ぎりぎりで半額になってたんだよね。それで、棚にあるだけ買って、ハンバーガーにしてみた』
そんな風に説明する筧みのり。『確かに、こぶりのパティとアボカド、トマトが挟まれている』のを見るアルバイトのマイカは早速口に運びます。そこにこんな会話が生まれます。
マイカ: 『これ、おいしい。パティがお店で食べるハンバーガーの味してる』
みのり: 『簡単だよ。牛肉の挽き肉を買ってきて、そのまま何も入れずに成形して、塩胡椒で焼くだけ』
マイカ: 『何も入れないの?本当に?』
みのり: 『合い挽きにしたり、玉ねぎやパン粉入れたりすると、よく焼かなくちゃいけないから硬くなる。牛肉百パーセントならさっと焼くだけでいいし、肉のうまみも楽しめる』
そして、『だけど、高いからそんなにたくさんできないけどね』と笑う筧。”食”について活き活きとした会話がなされていくのがこの作品の特徴です。しかし、書名と表紙の印象から、”食”の描写がふんだんに登場するのでは!と期待するほどには”食”の描写は多くはありません。”食”の描写を楽しみにし過ぎると肩透かしに遭うかもしれません。
そんなこの作品ですが、上記の会話シーンでどこか違和感を感じないでしょうか?具体的には筧みのりの言葉使いです。分かりやすくもう一箇所会話のシーンを抜き出してみましょう。
桃田: 『カレー一口、味見させて』
みのり: 『少しだけだよ』
桃田: 『うまーい!』
みのり: 『油揚げとちくわと玉ねぎが入ってる。食べる時に、ネギを別に載せるんだ』
これでいかがでしょうか?短い抜き出しだとわかりづらいかもしれませんが、ここで私が言いたいのは『家政婦』、そして『五十二』歳という筧みのりのイメージからはどこか違和感のある喋り方のことです。派遣先の『ぐらんま』は、二十代の社員ばかりであり、会話が崩れることがあるとしてもどこか違う雰囲気がそこに感じられます。それこそが、登場人物の一人である桃田が語るこんな説明が表すものです。
『筧さんはどっちかって言うと、家政婦というよりも、ハードボイルド系だからな』
そうです。この作品で描かれていく『家政婦』の筧みのりは『ハードボイルド』と言って良い雰囲気を纏っているのです。今までに950冊以上の小説ばかりを読んできた私には一冊だけですが、同様な印象を受ける作品が思い浮かびます。それが、故・永井するみさんが遺された”ガールズ・ハードボイルド”の傑作、「カカオ80%の夏」です。この作品の筧みのりの印象はまさにそんな『ハードボイルド』の雰囲気を感じます。少なくとも上記で”家政婦もの”として挙げた成田名璃子さん「今日は心のおそうじ日和」とは大違いです。そして、この『ハードボイルド』な『家政婦』が醸し出す雰囲気感が、表紙の美味しそうな”食”が描かれているであろう温和な雰囲気との間に大きなギャップを生んでいきます。
そんな物語は、自分たちで起業した『医療系のベンチャー』で働く4人の正社員と一人のアルバイト、そして『家政婦』の筧みのりを主要登場人物として描いていきます。そんな面々はアルバイトのマイカの冷静な視線の先にこんな風に映っています。
『いつも不機嫌そうな胡雪、ほとんど会社に住んでいて趣味もなんにもなさそうな桃田、逆にほとんど会社にいない伊丹、そして、不自然なくらいニコニコしていて感情が読めない田中』
物語では、そんな彼らに短編ごとに順番に視線を移しながら展開していきます。そこには、それぞれの今に思い悩む彼らの姿が浮かび上がります。そして、そんな彼らに『まずはこれ食べて』と、筧みのりが美味しそうな”食”を差し出す、これが基本的なストーリー展開です。しかし、そんな筧みのりが『ハードボイルド系』であるところもあって、ほっこりとした物語からは全く縁遠い雰囲気感が物語を終始支配していきます。また、そんな筧みのりを含め、登場人物の誰一人として感情移入をしたくなる人物がいないところもこの作品のポイントです。このことがどこかよそよそしさを与え、物語に入っていくことを拒むかのような印象も与えます。そして、そんな作品は、徐々に明らかになっていく物語の背景に匂わされる、ある真実に光を当てていきます。そこには、まるでイヤミスとも言える物語が展開していきます。これは全く予想できなかったことであり、驚きが読者を襲います。とは言え、そんな物語はどこかスッキリしない中に相当唐突に終わりを告げます。なんともスッキリしない中途半端感だけが漂うその結末。う〜ん、この物語はなんだったんだろう…なんともモヤモヤ感が拭い切れない読後がそこに待っていました。
『さあ。まずはこれ食べて』
そんな言葉と共に美味しそうな料理を差し出す『家政婦』の筧みのり。そんなこの作品には、筧みのりと社員たちそれぞれが抱える悩み苦しみが描かれていました。表紙の”食”の印象ほどには”食”が登場しない残念感があるこの作品。『ハードボイルド系』の『家政婦』という独特な設定が最後まで違和感でしかないこの作品。
登場人物の誰にも感情移入できないもどかしさの中に、モヤモヤ感だけが残ってしまった作品でした。
Posted by ブクログ
筧さんの作るご飯がどれも美味しそうで、その点は読んでいてよかった。
中途半端なミステリー要素を入れずに、全体を通して、ほんわかと登場人物が抱える悩みが解消されてパッピーエンド。みたいな方が良かったのではと思う。この手の本にミステリー要素は期待して読んでいないし、ラストで伏線回収されてスッキリ!って感じも少ない。
ただ前半部分は登場人物の抱える苦悩と、料理を通してそれを解決に導くコンセプトが面白かった。途中から迷走したように感じる。
Posted by ブクログ
出てくるごはんがどれもおいしそう。
私もおなかすくと不機嫌になるし、おいしいもの食べてる時はうれしいもんな。
食は大事かも。
筧さんは勤めてた会社で作法など学んだようだけど、ぐらんまではなんであんなにタメ口でしゃべるのかな?
ほっこりな表紙からは思ってもみない展開です。
Posted by ブクログ
無愛想だけど仕事はきっちりこなす家政婦の筧さん。それぞれ癖のあるぐらんまのメンバー達と、色々な関わり方を通じて最後には筧さん自身の問題が明らかになる。
生きていくのに美味しいものって絶対必要だよな、と思う。
Posted by ブクログ
作中おいしそうな食べ物がいっぱい出てきてお腹が空きます笑
おいしい食べ物とほっこりなお話…かと思いきや。
原田ひ香さん初めて読んだけど、文章も読みやすくて、キャラクターも魅力的で、他のも読んでみたくなりました。
Posted by ブクログ
後半の怒涛の展開は驚きでした…
後半までは登場人物一人一人の物語でしたが、最後に一気に動きだす物語…
最後はある意味綺麗に終わった…のかなぁ…
ともかく面白かったですが、求めていたグルメ小説では無かったかも…