あらすじ
【第56回吉川英治文学賞受賞作】
『後巷説百物語』で第130回直木三十五賞、『西巷説百物語』で第24回柴田錬三郎賞を受賞――本作でシリーズ三冠!
「遠野は化け物が集まんだ。咄だって、なんぼでも来る」
盛岡藩筆頭家老にして遠野南部家当主の密命を受けた宇夫方祥五郎は、巷に流れる噂話を調べていた。
郷が活気づく一方で、市場に流れる銭が不足し困窮する藩の財政に、祥五郎は言い知れぬ不安を感じる。
ある日、世事に通じる乙蔵から奇異な話を聞かされた。
菓子司山田屋から出て行った座敷童衆、夕暮れ時に現れる目鼻のない花嫁姿の女、そして他所から流れて迷家に棲みついた仲蔵という男。
祥五郎のもとに舞い込む街談巷説、その真偽は――。
ハナシは、やがて物語になる。どんどはれ。
〈巷説百物語〉シリーズの集大成!
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Posted by ブクログ
目次
・歯黒(はぐろ)べったり
・礒撫(いそなで)
・波山(ばさん)
・鬼熊(おにくま)
・恙虫(つつがむし)
・出世螺(しゅっせぼら)
前作『西巷説百物語』でシリーズが終わったと思っていたので、再び新作を読めて大変うれしい。
私が読書をする一番の楽しみと言ったら、お話の世界に浸れること。
このシリーズはそれを存分に味わうことができるからだ。
ホラーは苦手だが妖怪は好き、という私は、再び至福の時を迎えることができたのだ。
しかも、遠野限定の話のようだから、以前とは登場人物なども違えてくるかと思いきや、いきなり長耳の仲蔵が出てくる。
今は遠野に腰を据えて仕事をしているらしい。
表立っての話としては、遠野南部家の当主の側衆であった宇夫方祥五郎が、幼馴染で話好きの破落戸(ゴンボ)である乙蔵を通して、巷のうわさ話などを聞き真偽を見定め、市井の動向として当主に報告する、という話なのだ。
乙蔵は不思議な話を拾ってくる。
それは昔話のなかの出来事のような、突拍子もないものばかり。
しかし祥五郎の前でそれは事実として起こり、事件は沈静化していく。
祥五郎はたまたま知り合った、遠野保の迷い家(まよいが)に住む仲蔵に、事の真相を聞き、なんとかつじつまを合わせて報告するのだった。
というパターンが決まっているのだが、これがドラマの時代劇のように、ワンパターンの美学でもって私をワクワクさせる。
そして、話が進むにつれ、話も仕掛けも大きくなり、思いもかけない彼までが復活してくれた。
こんなうれしいことはない。
しかし、次作こそ本当にシリーズ最後らしい。
え~!!
最後最後サギでもいいから続いてほしいんだけどなあ。
Posted by ブクログ
以前、巷説百物語自体は読んだことがあったが、内容をあまり覚えていなかったこともあって単に妖怪をテーマにした短編だと思っていた。
が、京極夏彦がそんな単純なものを出すわけがないよなぁ〜!
舞台はなんと遠野。遠野物語と関連が!?と一瞬思ったけど、時代が違いすぎたわ。でも山人とか出てきてニヤニヤできる。
読み始めるとまずは東北弁っぽい語りで妖怪譚が語られる「譚」、これはとても短い。
次にメインストーリーとして主人公が出てきて、街を騒がせる事件や異変が語られ、妖怪の仕業だという説明がされる「咄」。
その事件を解決するために必要なキーマンが、大体の場合困惑してたりため息を付いていたりして始まり、解決のための仕込みが行われる「噺」。
最後に全ての説明が、大抵は主人公である宇夫方祥五郎、そして仕込み役である長耳やその仲間たちとの会話で明かされる「話」。
譚
咄
噺
話
四種類の「はなし」で語られる。日本語ってすげー。そして翻訳できなさそう。
これが6篇入った短編集… と思わせておいての京極夏彦。すべて繋がっている!
そういえばそうだったわ。京極堂シリーズ本編や番外編でも全く同じ構成だったわ。完全に失念していた。
一つ一つは全く関係ない事件のように思えて、実は裏で繋がっている1つの巨大な事件であり、それまで別々の事件で関わったキーマンたちが協力してアベンジャーズ全員集合のような盛り上がりを見せて爽快に終わる。そんな活劇モノ。
ただ、普通ならメインになりそうなアクションシーンや巨悪との戦い自体は基本的に描かれることはない。主人公の宇夫方祥五郎はあくまでも狂言回しというかキーマンたちを繋ぐ役なので。京極堂で言えば関口。
なので、「噺」では裏で何かが起こってそう、もしくは起こってた、くらいしかわからず、首を傾げた宇夫方祥五郎が長耳の家を訪れるというのが大体の「話」の展開。
だからまあ、正直なところ最初の一話はなるほど!と思い、最終話での全て繋がっていた展開は大変熱かったものの、それぞれの話の展開は「はいはい、妖怪が出たということはまた彼らの仕業なんだな」と分かってしまい、そこはちょっとスンッとなってしまったのも事実。
いや、それが面白さを下げているとか言うつもりはないし、京極夏彦作品は仕掛けはまあもちろんわからないのだが、それを推理するお話でもないし、見事なストーリー構成を洒脱な語り口で説明される、演劇を見ているような楽しみがメインだということは分かっている。主人公も後半になるとまたあいつらだなってなってたし、読み手が同じような気持ちになる仕掛けなのかもしれない。
そこで慣れてきたところに最終話で実はあの話は繋がっていたとなり、これまで無事だった主人公も怪我を負い…!と、あえてだれさせてからの喝!という起承転結。
いやー、読後感が良い。
しかし、今更ながら巷説百物語シリーズであり、それぞれ単体で読むより通して読んだほうが楽しいことがわかってしまったので最初から読み直さなきゃいけないじゃないか!今連載中の了巷説百物語でラストらしいので、それが本になったら一気に読むかな。
あと、余りにも自然でいっそ気づきにくいのだが、色々な百姓、色々な武士、それ以外が出てくるが全員話し方が異なり、特に盛岡の方言が声に出して読みたくなる話し方。というか実際何度か声に出して読んでたずもな。サクナヒメに出てきた方言に似ている。
Posted by ブクログ
待ってました大好きなシリーズ
読む前から読み終わってしまうのが惜しくて
自分を焦らしていたのですが、我慢ができなくなりついに読んでしまいました。
このシリーズは、身分の外の人たちが
どうにもならない困ったことを怪異に見せかけて丸くおさめてしまうお話です。
殺さずに悪を成敗する、必殺仕事人のような
情に厚く優しいお話。
最初のお話から遠野の迷家というパワーワード登場に、そうそうこんな世界観だった。と懐かしい気持ちになりました。
今回のキーマンの祥五郎さんが
また百介さんとは違った人の良さが滲み出てました。
娶ったのではなく、添うたのである。
という一文が祥五郎さんの人柄を表していてとても好きでした。
でもやっぱり最後のお話は
あの人登場に胸熱で、、、、
今は亡き小右衛門流のやり方で、しっかり締めくくることで、弔いとしての意味もあるのかなと思いました。
タネ明かしをしている軽快なやり取りが懐かしすぎてホント読み終わりたくなかったです。
おぎんさんが元気でいることも会話の中で伺え、次作は全員集合期待しています。
あぁ、読み終わってしまった。
また、又市さん達に会えるのを楽しみにしています。
Posted by ブクログ
『遠野物語』読んでるなら一層楽しめます。
真逆『遠野物語』のあの人物にこんなところで再会するとは思いませんでした……。然も迂闊にも最後の最後まで気付かなかった。その上なんかちょっとエモい感じに締められたのが悔しい(笑)。
遠野の全てに愛を込めて。著者が彼の地を愛おしく想う気持ちがひしひしと伝わってくる。読み了えた時、そっと表紙を撫ぜたくなるようなやさしさを感じました。
Posted by ブクログ
【2025年131冊目】
遠野には人も、物も、噺も集まる――、御譚調掛として市井の動向を探る宇夫方は、奇怪な事件に遭遇する。事件の裏に潜むのは、化け物か、それとも人か。仕掛けを仕込んで事を収めるのは裏の者共。巷説百物語シリーズ第6作目の舞台は東北へ。
今回は宇夫方さんが、百岡さん的なポジションでしたね。越えてはならない一線を超えずに、現世と裏を行き来する役目ですが、まさか危ない目に合うとは思ってなかったので意外でした。死んじゃうかと思った、良かった生きてて…
柳次のことをずっと又市だと思ってたので、「いや別人なんかい」となったりしましたが、相変わらずかっこいい裏の皆様…。
最後の締め方も良かったです。そうかこれ、章の冒頭の語りは全部乙蔵だったのかという発見。こういう仕掛けいいですね、「絡新婦の理」を思い出しました。ほら!こうやってまた百鬼夜行シリーズに戻りたくなっちゃうんだ!