あらすじ
1948年、終戦後の日本。中学2年になったイコの周囲には、やけどを負った同級生や傷痍軍人の物乞いなど、今だ戦争の傷跡が多く残されていた。母を早くに亡くしいつも心のどこかに不安を抱えるイコだったが、英語の授業で習った【~ing=現在進行形】にがぜん夢中になる。「現在進行形、今を進むという事!」急展開で変わっていく価値観に戸惑いながら、イコは必死に時代をつかもうとする。そして「いつかどこかへ行きたい。私ひとりで」そう強く願うようになる。でもまだ、日本からの海外渡航が許されない時代。手段も理由も見つからないまま大学を卒業したイコに、ある日大きなチャンスが巡ってくる……。「魔女の宅急便」の著者・世界的児童文学作家、角野栄子の『トンネルの森 1945』に続く自伝的物語。戦後の日本を舞台に、懸命に自分の路を探す少女の成長をエスプリとユーモア溢れるタッチで描く著者の原点ともいうべき作品。87歳、角野栄子は今も現在進行形だ!
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
泣きながら読み終わりました…。胸がいっぱいです。
角野栄子さんの「トンネルの森1945」の続編です。「トンネルの森」は戦時中に、小学生くらいの主人公イコが、東京から千葉(だったっけ?)に疎開し、たくさんの辛い経験をしながら成長する物語…だったけど、こちらは戦後です。
さぁ、戦後…!新しい社会がつくられていく時代に、感受性豊かで芯が強く、好奇心旺盛な…でもある意味、ごく普通の女の子のイコが、どんな風に成長するのか…って考えただけでもドキドキする。
イコは、勉強は特に得意ではない。数学はてんでダメで、戦後、進駐軍のお金持ちの家の中をのぞいてみたい(っていうか実際にのぞく)、英語で話してみたい、外国の映画を観てみたい…などの好奇心から、英語の勉強だけは頑張ろうとする。
この小説の魅力的なところは、それでイコが勉強を頑張って劇的に英語を話せるようになるとか、そういう感じではなく、いつまでたってもイコの才能が開花するなんてことはなく、ずっと迷い続け、やろうやろうと思いながらも、心に決めた1冊の原書をちゃんと読み終えることすらせず、人間の弱さがそのまま描かれているところだ。
ただ、タイトルに「イコ・トラベリング」とあるように、あるときイコは学校の英語の授業で「現在進行形、ing」を習った時に、「現在進行形って、なんかいいな!私も進行形でいこう!」みたいなことを心にとどめて、ずっとそういう感じで、興味があるものに対して前のめりに進んでいくのだ。
そしてまた、特に自立心がある女性、という描き方でもないのだが、何かに興味をもって、やってみたい!行ってみたい!と思うとき、それは「一人で」やったり、行ったりしたいのだ。
戦後すぐのその時代、庶民が外国に行くことはできなかった。それでも「外国に行きたい」と思い続けている彼女に、ちょっと恋仲になりかけた男性から「僕が連れて行ってあげる」みたいなことを言われるんだけど、そのセリフにイコは「ふくらんでいた風船が急にしぼむような感じ」を覚える。
彼女ははっきりと、自覚するのだ。「行くなら、一人で行きたい」と。
このシーンはとても印象的だった。
物語の終盤、無事に大学を卒業し、魅力的な人たちに出会い、就職して生き生きと働くイコ。でも、外国に行きたいという気持ちを押さえられない。
残りページ数が少なくなるとともに、頻繁にお父さんがまた登場し始める。子どものころのお父さんとの思い出の回想。帰りが遅くなっていくイコを無言で心配するお父さん。読者は、イコに世界に羽ばたいて欲しいと思うが、お父さんの気持ちを考えたら切なくなる。
1948~のこの時代、娘に「好きなように生きろ!外国にでもどこへでも行ってこい!」と言える庶民の親はなかなかいないと思われる。
2人の気持ちを考えながら読み進めていて、最後の方は涙が止まりませんでした…。また読み返したいです。