あらすじ
映画原作『犯罪小説集』とあわせてシリーズ累計20万部突破! 著者のライフワーク第2弾
「もう、逮捕でもなんでもしてくれんね」
高校卒業後、地元の北九州を出て職を転々としてきた福地秀明。特に悪いことをした覚えもないのに不幸続きで、年老いた母親と出口のない日々を送る秀明は、一方通行違反で警察に捕まった時、ついに何かがあふれてしまった。そのまま逃走を始めた秀明は……(「逃げろ九州男児」)。
職を失った男、教師と元教え子、転落した芸能人、失踪した郵便配達員――日常からの逸脱を描く4つの物語。
「小説の最前線に位置する短編集」(解説より) 酒井信(文芸批評家)
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吉田修一の短編小説集で『逃げろ九州男児』『逃げろ純愛』『逃げろお嬢さん』『逃げろミスター・ポストマン』の4作が収録されている。
どの話も実際にあった事件を彷彿とさせる内容で、個人的には『逃げろお嬢さん』がとても良かったと思う。夫が大麻取締法違反で捕まった舞子が逃亡し、その舞子をかつて推していた宿の経営者宮藤康太がひょんなことから舞子を助け「テレビのドッキリだな」という壮大な勘違いをしてしまい、その結果、大騒ぎになるというもの。
クスッと笑ってしまう表現とハラハラする表現の塩梅が最高でのめり込むようにして読んでしまった。
また、吉田修一は社会的弱者とされる立場の人たちの描写をこちらの心が痛くなるほど上手にしているが、それは作者本人がそのような立場の人たちに本気で寄り添いたいと強く願うからこその裏返しだとも思った。この作品も読み終えたときに自然と優しい気持ちにもなれる不思議な作品だった。
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吉田修一の『犯罪小説集』に続く日常からの逸脱をテーマとした連作短編集。本作品集としての特徴は実際に起こった事件を題材にしていることにあるのですが、解説でも触れられていた通り「日常からの逸脱」自体は吉田修一の他の多くの作品にも描かれる重要テーマ。実際の事件を下敷きにしている本作はそうした日常からの逸脱が決して特異なものではなく私たちの日常と地続きのものであることを考えさせてくれる。『犯罪小説集』『逃亡小説集』ときて、次が出るならなんだろうか。
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いろんな状況で「逃亡」する人々の話。
なんていうか…やりきれなさが拭えない。
つくづく不公平だよなぁと思う、気づいたらどん詰まり。というか始めっから行き詰まっててどうにもならない。もちろんわかってたけど…何かのきっかけでそのことがもう嫌になって、夢を見ているみたいに、アクセル踏み込んで検問突破したり、郵便の荷物を乗せたままフラッとどっかへ行ったり。
逃亡。願望…ですらないのかなぁ。でも長く人生に苦しんでる人が屋上に登ったら死にたいと思ってなくても突発的に飛び降りてしまうみたいなのににてるんじゃないのかな。
悪人の時も思ったけれど、普通の状態なら真っ先に考える「先のこと」が全く考えられなくなってそう。ていうかそんなことは頭にないんだろう。
なんだろ…普段フツーに暮らしてて、突如異常なことが起こって現実逃避(現実感が喪失)してしまうのはよくある、その時は感覚が上滑りして、意識のうわっつらだけで物事が進んでいく感覚。一時的な、とりあえず的なのはよくあるからわかる。
でもそっから「普通」に戻らないってことなんだよな。
逃げろお嬢さん、警察と宿の主人の温度差が滑稽ですごく見てて笑えた。
普通に今日わーって来たのに、いきなり帰れとか怒鳴り散らし始めて。なになに、何いきなり?ちょっと落ち着いてよって…警察からしたら意味がわからんでしょ笑笑
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『ああ、俺、もしかしたらずっと逃げたかったのかも』
ヒリヒリした緊迫感の中で逃亡の果てにつぶやいた者の言葉だ。4つの短編のどれもが、ふとしたことがきっかけで逃げなければならなかった者たちの、明日は我が身の物語である。
どのお話も、つい先日 テレビのニュースで見たようなリアルな現実感がある。逃亡するだけの犯罪を犯したということよりも、ごくまっとうな人々が事件を起こし逃げるまでの過程がストンと腑に落ちて共感を呼ぶ。作者 吉田修一さんの、人間の心の動きを見つめる目が好きだ。優しい。
ふと、偉大な社会派推理作家、松本清張さんを思い出す。松本清張さんも犯罪の背景と、罪を犯した者の心理に共鳴を覚える描き方をする人だった。
この逃亡小説集、緊迫感の中にも読みやすい展開が気持ちいい。
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いろんなしがらみから逃げたくなる時って度々あるけど、結局踏み留まることが多いワタシ。それが良いのか悪いのか、、、。
この短編集では、逃げた後、幸せになれるどころか大切な人や無関係な人まで巻き込んで不幸になるだろう未来を予感させる結末。
辛くなったら逃げれば良い、なんて人には簡単には言えない。
逃げた後、ちょっと希望がみえるそんな話も読んでみたかったな。
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解説を読んで、作者は逃亡劇に対する文学作品を得意とするんだなと納得した。
最初の逃げろ九州男児は、一通を逆走し警官に止められたとき、ふと何もかもどうでもよくなり犯罪歴のない男性が母親を乗せたまま車での逃亡劇。走馬灯のように過去の思い出が蘇るが、逮捕され冷静になるものの、最後はまた逃走で終わる。
2作目の逃げろ純愛は、教え子と教師のまさに純愛。結果未成年との交際で逮捕されるがその際に押収された交換日記が何とも青々しい。
3作目、逃げろお嬢さん。あとがきでも述べられている女性芸能人の逃亡劇と、それをドッキリと勘違いした熱烈ファンとの邂逅。
勘違いもここまで来ると立派と思わせる良作。
四作目、逃げろミスターポストマン。
郵便配達員の逃亡劇。何気ない日常からの逸脱。ふとしたところに狭間の入り口がありそうな情景が思い浮かぶ。
全体的に練られているストーリーではあったと思う。ただ、そこまで惹きつけられなかったので、星3つ。
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何かのきっかけで突然逃亡することを決めた人達。逃げ出した後はきっと大変だろう。それでも何もかも捨て去りたくなる瞬間。経験はないはずなのに、登場人物達の心情が伝わってきて辛かった。「俺、もしかしたらずっと逃げたかったのかも」本当の気持ちに気づいてしまったとき、私ならどうするだろう。きっと逃げられないだろうな。
Posted by ブクログ
「逃げる」短編集
生活保護の申請に市役所に車で行った帰りに
警官に呼び止められて
母を後部座席に乗せて逃走する男
交換日記のやり取りをする男女の逃亡
昔からの大ファンの女優の夫の俳優が覚醒剤で逮捕される
女優は逃げる
ファンの民宿の主人の前に現れた
離婚した妻の弟が配送の仕事中に逃走
警察も動き出した
逃走の先に見える景色
登場人物達は逃げ切れるのか
どうしようもない気持ちに
少しだけ救いの光がさしている
描き方が上手い!!
Posted by ブクログ
職を失った男、教師と教え子、転落した芸能人、失踪した郵便配達員…。日常からの逸脱を描く4つの物語。
逃亡はその設定だけで物語になる。逃げ切れるのかというスリル、偶然の出会いからの人間ドラマ、過去の後悔と未来への希望。そんな贅沢なストーリーが4編ってのが堪らない。
Posted by ブクログ
「パーク・ライフ」以来吉田さんの作品を読んで
無かったのですが、久々に新刊として、出てたので
買ってすぐ読みました。本作のテーマは「逃亡」で、人生につまづいたり、何かの拍子に行き止まりにあった人たちの行き場のない逃亡劇が描かれています。本作の兄弟作でもある「犯罪小説集」と、共通しているのが、実在の事件をモチーフにして、描いている点で、吉田さんの作品の醍醐味だと感じています。そして、登場人物たちが、何かから逃げる
様を色濃く作品に投影していると私は感じています。是非実写化して欲しいし、吉田さんの作品はこれまで、多く映画化されているので、設定がしっかりされているイメージです。