あらすじ
戦没詩人の“幻のノート”が導く南の島へ――
大戦の記憶、民族と宗教、友情と神秘…
予測不能の旅に男が見たものは!? 千変万化のエンターテインメント!
激戦地ルソン島で戦死した、詩人竹内浩三の幻のノートを追って――須藤は、TVディレクターの職を捨て、彼の足跡を辿るべく現地へ渡る。到着直後、謎の西洋人男女に襲われたところを救ったのは、山岳民族の娘ナイマだった。大戦以来の日本人への反感を隠さない彼女は、須藤をミンダナオ島独立闘士ハサンの家に伴うことに。だがムスリムの一族は、秘密を抱えていた……。
第70回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞作
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Posted by ブクログ
戦時中の詩人“竹内浩三”の幻のノートを求めて、中年のバツイチ男が仕事をやめてフィリピンで“自分探しの旅”に出る、そんなイメージで読み始めた。
ところが、案外これが不思議な冒険活劇になっていく。
フィリピンは複雑な歴史をもつ。
もともと複数民族がルソン島とミンダナオ島を中心に多島に散らばって文化圏を形成していた。
そこにイスラム文化が入り続いてスペインがキリスト教とともに入る。
その後独立を約束したアメリカに裏切られ日本に占領される。
あいだで何度も独立宣言するも短期間で消滅し、大戦後ようやく独立を勝ち得た。
そんな複雑な歴史とともに人々の感情も一様とは程遠く渦巻く……そんな印象もちゃんと伝わってくる。
この『遠い他国でひょんと死ぬるや』と言う題名から受ける“軽妙”でありながら“孤独”を感じさせるのが、また、良い。
最後の章では痛烈な戦争批判を感じ、自分探しや冒険だけでは無い読後感を味わうことになる。
「いちど染み付いた死臭は消えない。国もまた……」
意味は深い。