【感想・ネタバレ】世界は五反田から始まったのレビュー

あらすじ

30年前に手渡された、祖父が残した手記。便箋に綴られていたのは、家族の物語と、地元五反田を襲った「もうひとつの東京大空襲」の記録だった。戦時下を必死で生きた祖父の目を通して、タワーマンションの光景が町工場の記憶と重なり合う。

大宅壮一ノンフィクション賞作家が描く、
東京の片隅から見た等身大の戦争と戦後。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

ネタバレ

五反田から戸越銀座にかけての昭和の初めから戦後に至るまでの街の歴史と、それにまつわる筆者の家族(筆者の祖父は外房から出てきて小さな工場を作り上げた)の歴史。
筆者が私と同世代であるためか、親や祖父母に聞いた話が同じ(焼け跡には早く戻って杭を打つべし、とか)。
五反田を離れるが、国際基督教大学は中島飛行機の工場が米軍に接収されたその跡地にできた(建物の一部は中島飛行機のものをそのまま使っている)、というのには驚いた。
五反田かいわいに興味のある人や、私と同年代の人は読むべし。
筆者はあの「転がる香港に苔は生えない」の人。

0
2025年11月24日

Posted by ブクログ

祖父の手記をきっかけに自分の家系をさかのぼった『コンニャク屋漂流記』の、いわば姉妹編。今回は時間の向きは逆で、祖父が移り住んだGreater Gotanda(五反田駅を中心に半径2キロ)の昭和の歴史をたどる。
五反田の北東側はハイソで閑静な住宅地。一方、南西側(旧荏原区)には町工場が立ち並ぶ。戦時下には軍需産業の下請けとして機能し、城南大空襲に遭い、焦土と化した。が、東京大空襲は死者10万人超だったのに、死者は数百人でしかなかった。なぜ少なくて済んだのか。
そこにずっと住みながら、知ることのなかった過去。祖父が書き残した手記をヒントに、いろいろな疑問が解き明かされてゆく。よくも悪くも、コロナ禍で遠出ができなかったおかげで、居住地五反田にじっくり腰を据えて、優れたルポルタージュが生み出されたような気がする。
そしていま、五反田圏内は、武蔵小山などに代表される再開発の波。その変わりゆくさまに、著者の心中は穏やかではない。映画『シン・ゴジラ』を見にゆくと、その武蔵小山が登場。タワマンが壊されるのを期待したが、そうはならなかった。スクリーンに向かってそっと舌打ちする著者。そこを読んで、笑ってしまった。

0
2025年05月05日

Posted by ブクログ

祖父の手記から始まった家族の歴史をめぐり、解き明かされていく過去。空襲や集団移住…。現在タワマンが立つエリアの戦前戦中の歴史。知らなかったことも多々あり読み応えありです。

0
2024年09月24日

Posted by ブクログ

祖父の手記から、作者の生家のある五反田周辺でおきた歴史の物語を著した、歴史土地ノンフィクション。

さすが、星野さんである。
教科書のように味気なくなりがちな郷土史を、家族の歴史や自分の話とが絡み合いながら、楽しく、悲しく紹介していく。
かつては軍需工場が多くあった五反田付近の、戦争にまつわる話は、自分もよく知る場所だけに、リアルに感じられた。それも星野さんの技術なのだろう。

0
2023年12月04日

Posted by ブクログ

タイトルから勝手に五反田のアンダーグラウンドの話とかサブカル系の本かと想像していたが、著者のファミリーストーリーから、戦前から戦後にかけての日本の、そして五反田界隈の人々の歩んだ苦しい道程が綴られた、日本人が読むべき一冊だった。

0
2023年11月22日

Posted by ブクログ

「焼け野原になったら、何が何でも戻ってきて、杭を打とう。」帯のこの言葉に吸い寄せられるように手に取りました。戸越銀座で町工場を営む星野家。本書は著者のファミリーヒストリーですが、庶民の目線で描く(著者風に言えば)「大五反田」の戦前〜戦後史とも言えます。小林多喜二の小説の舞台となった場所、品川大空襲、武蔵小山の満蒙開拓団など本書で初めて知ったことも多いです。自分は著者と同年代でとうぜん祖父母や父母も同年代。また「大五反田」に多少縁のある自分としても興味深く読みました。おススメです!

0
2023年10月20日

Posted by ブクログ

「んなこたぁない」から始まり、「いや、あるかもしれない」、そして最後は「そうに違いない」、読書中の私に思考をそのまま文字にするとこうなる。

「世界は五反田から始まった」、いやに挑発的なタイトルと言っていい。私は現職のオフィスが五反田であり、JR山手線を通勤で利用しているが、駅の階段に本書の広告が大きく掲示されていて、見るたびに「んなこたぁない」と思っていたのだが、読後の今はこう思っている。「世界は確かに五反田から始まった」と。

本書は五反田で町工場を営む家系に生まれ育った著者が、亡くなった祖父が残した日記を元に、ファミリーヒストリーを語るという構成になっている。しかしながら、本書が作品として素晴らしいのは、そのファミリーヒストリーがさながら日本の太平洋戦争をどう一つの家庭が生き抜いたか、という類い稀な戦争史になっているからである。

そういう点で、本書は著者の一人称で描かれてはいるのもの、実質的な主人公は千葉から一人この地に移り住んで工場を創業して家族を作った祖父と言える。祖父が創業した町工場の事業が少しずつ拡大し、戦争中には軍需品の部品づくりをしながら妻や子供たちを埼玉に疎開させ、終戦末期の大空襲で全てが焼け落ちる・・・、その歴史を現代の五反田の姿と対比させながら、物語っていく。

一見、極めて個人的な話のように見えて、そこには確実に一種の普遍性につながるリンクがある。そのリンクをこうまでにクリアに作品の中に表現するこの手腕に強く感動し、本書のタイトルに強く賛同するのであった。

0
2023年09月25日

Posted by ブクログ

渋谷に育った私(産まれて数年は父の故郷九州に居たので若干ロンダリング)にとって、大五反田は近いけれどほとんど縁がなかった地域。それが高校生の頃、実家が引越して通学や通勤の乗換駅である中延や五反田が生活圏の一部になったから本書に出てくる路線や地名の雰囲気はよくわかる。関東大震災の前年に麹町で(文字通り乳母日傘で)生まれ育った母が「語り部」気質だったのか、戦前と戦後では価値観をガラリと変えなければならなかったこと。人間、死ぬ気になったらなんでもできること。ふつうの人は戦争したら損するだけ。だから戦争だけはしちゃいけないと何度も何度も繰り返し聞かされた。著者とはほぼ同世代だが高度成長期の子どもだった私にとって戦争の話は昔話しに思えて、話半分で聞き流していたことを今になって悔やんでいる。

0
2023年06月11日

Posted by ブクログ

著者の星野さんと同世代なので、昭和の暮しの風景は何となく想像できました。
星野さんのおじいちゃんが小さかった孫に言い残した「戻りて、ただちに杭を打て」は、絶望の中から微かに覗く光のように感じられます。
今の星野さんの実感として語られる「しかしいまは少なくとも、戦争、あるいは戦争に擬似した何かが起こることは十分ありうる(というか、すでに始まっている)」という文章が何とも謂えない余韻を残しています。

0
2023年04月12日

Posted by ブクログ

ちょっとだけ珍しそうな本を読むつもりで手にしたが、いやいや面白かった。
たった半径2kmほどの大五反田圏で生きた家の物語がこれほどの本になるとは。空襲を中心とした戦時の話はリアルだが人々の明るさも感じられて温かい気持ちにもなれた。
自分のルーツなど知りようもないしそれでいいが、結構な物語があっただろうなとも思う。ちなみに亡き母は関東大震災も東京大空襲も経験し生き抜いた。

0
2023年03月02日

Posted by ブクログ

本当にすばらしい本だった。
現実に戦争が起こり、今が「戦前」になってしまうかもしれない時期だから、より一層ガツンときた。
分厚い区史や自費出版の郷土資料を参照し、こんなにすてきな文章と装丁の作品ができることにも感動した。

0
2022年12月25日

Posted by ブクログ

『一般論ではない。これは私が所属する世界の話である。しかし一方では、こうも思っている。五反田から見える日本の姿がきっとあるはずだ』―『はじめに』

2007年に出版された「迷子の自由」で嵌まって以来ぽつりぽつりと読み継ぐ作家、星野博美。ルポルタージュを主とする文筆家であるにも拘らず、この人の視野は決して広くは感じない。見えているのは手の届く範囲、常に足元ばかり見ていると言っても過言ではない。けれど、一端その視野に入って来たものがあれば、それがどこから来たのかという問題提起を皮切りに、軽快なフットワークで自身の立ち位置を移動し(取材範囲を広げ)、結果として身近な世間が想像だにしなかった世界と繋がっていることを詳[つまび]らかにする。そして、よって立つ地面の確かさを確かめるつもりでいた筈なのに、それが案外と脆い基盤の上に立つものであったことに気づくという経験を、繰り返しこの作家は文章にする。それは取りも直さず、自分自身の感じているこの印象は確かなものなのかという冷静な思考の表れだと思うのだけれど、駆け出すに際してどちらかといえば激情に駆られてという雰囲気を星野博美は醸し出す。その食い違いが実は癖になる

本書は、文中でも度々言及される「コンニャク屋漂流記」のいわば続編というような位置付けになる本。祖父の故郷である千葉の御宿岩和田における実家の屋号「コンニャク屋」から端を発して、江戸時代に漁を生活の糧とする祖先が紀州から移住してきたこと突き止めるまでを、極めて私的なルポルタージュという印象を残す一冊にまとめた前著から時代の流れを引き継ぎ、作家の呼ぶ所である「大五反田」へ上京して町工場を起こした祖父の残した足跡を辿る、というのが大まかな流れではある。けれど「コンニャク屋漂流記」の中でも、江戸時代初期に御宿沖で遭難したスペイン船を地元の人々が救助したという話を切っ掛けに、自身のルーツを遡る旅は脱線を繰り返し、日本におけるキリシタンの歴史を探る旅へと広がっていった(それが「みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記」へと繋がっていったり、リュートを習い始め「旅ごころはリュートに乗って 歌がみちびく中世巡礼」へ繋がってゆく)ように、本書の中での祖父の歩みを辿る旅も、祖父の歴史を通して必然的に大五反田における戦前戦後の出来事への深堀へと繋がってゆく。そんなふうにして辿る探訪の行く先には、工業地帯としての五反田の発展・衰亡があり、急成長した工場で過酷な労働条件で働かされる無産者のプロレタリア活動の痕跡があり、町工場の軍需産業への組み入れの歴史があり、そして幾度かの空襲の記憶、国から不要不急の産業と決めつけられ転職を迫られた商店街の人々からなる満蒙開拓団の歴史があり、と幅広い。

その脱線の過程は好奇心のなせる業というよりも、当たり前と思い深く考えもしなかったことに対する本質的な気づきともいうべき思考過程なのだが、この作家には再定義を迫る事実の声なき声が嫌でも聞こえてしまうのだ。やや軽薄な好奇心の裏側に潜む偏見。それを多くの人は全く気づかないか、見て見ぬ振りをしてやり過ごす。しかし星野博美はそれを掘り返して見ずにはいられないのだ。

そして祖父の起こした町工場を受け継いだ父親が新型コロナ感染症が猛威を振るう中で廃業するという出来事をもって、この本の元となった連載は幕を閉じる。「コンニャク屋漂流記」から始まった多岐にわたる旅はこれで一段落着いたということになるのだろう。思えば「コンニャク」という屋号の不思議さから始まった旅は随分遠くまで旅路は伸びたのに、いつの間にか現時点の足元に戻って来たことになる。それは、この作家の思考過程そのもののようであると言ってもいいのだろうと思う。

0
2022年12月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

誰かの自分をさかのぼる旅に付き合うことが救いになる。きわめて個人的なことが大きな文脈の中にすとんとはまる。尺取り虫のように領土を広げる話は大叔母の紛争を理解させてくれた。それも時代だったのか。

0
2022年10月19日

Posted by ブクログ

筆者の地元五反田。死期の迫る祖父が遺した手記をベースに描く五反田と星野製作所。

祖父から父の二代の星野製作所。バルブの部品を加工する工場。五反田には多くの町工場があったという。

五反田の忘れられた歴史。小林多喜二と荏原郷開拓団そして城南大空襲。戦禍にもたくましく生きる人々。

コロナ禍で取材旅行でできない中、地元を巡った作品。身近な土地にも多くの歴史、ドラマが潜んでいることを本書は教えてくれる。

「コンニャク屋漂流記」と並ぶ傑作だろう。

0
2022年10月01日

Posted by ブクログ

筆者の生まれ育った五反田の町工場の歴史から、庶民にとっての戦争を見つめ直す1冊。平和教育だけでなく「どう生き延びたのか」を語り継ぐ事の大切さが心に響く。満州開拓団に関する記述が哀しすぎた。

0
2022年07月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

五反田に2年住んでいたので、単純にタイトルが気になって全く期待せずに読んで見た。

お、おもしろーい!
知ってる場所の知らないことのオンパレード。FRIDAYの場所は知ってるけどそこに映画館があったことは知らかった。駅前の歓楽街は知ってるけど、町工場が沢山あるからというのは知らなかった〜。駅前の歓楽街と隣山の高級住宅地(池田山)の配置ずっと気になっていたんよね〜
あと、五反田の土地の低さ、めっちゃ分かる!魅力屋(ラーメン屋)らへんだとめちゃくちゃ感じる。

めちゃくちゃ個人的な五反田史と思いきや、途中から始まる戦争の話めちゃくちゃ興味深かった。武蔵小山から満州に渡った人々のしたこととたどった運命。戦争に行かなくても、戦時下では戦争に関わらずを得ないということ。個人の歴史であり世界史。

0
2024年04月18日

Posted by ブクログ

題名からして、おふざけの部分の多い本なのかと思ったら、大間違い。極めて、真面目な、真摯な内容で感服した。ご自身のルーツをたどりながら、五反田にまつわる社会的歴史的な考察が盛りだくさん。九十九里の方からやって来た祖父が開いた町工場、それは大五反田という土地だった。
なぜ、五反田周辺に町工場が多いのか?戦時中に果たした軍需工場という役割。無産者(いわゆる生産手段を持たない、資本家に対しての労働者)の闘い。さらには、空襲、疎開、焼け野原と、戦争にまつわる話が続く。五反田は小林多喜二や宮本百合子、プロレタリア文学と言われる小説の舞台でもあったらしい。その視点がなかなか面白い。
本の中に出てくる立会川や武蔵小山という土地が、実は私にも馴染みのある場所柄なだけに、よけい興味を惹かれて、面白く読んだ。

0
2024年03月15日

Posted by ブクログ



ゲンロン叢書 星野博美 「世界は五反田から始まった」


五反田の歴史や家族の歴史を通して生きようと模索した人々の声を取り上げた本。東京大空襲の中の祖父の言葉「生きて戻ったら、すぐに 自分の名前の杭を打てろ」は 生き抜く意思の強さを感じる


デビュー作「謝々!チャイニーズ」のような 個性の強い人は出てこないが、国のシステムの中に組み込まれず、生きようとする意思の強さは共通している


戦争に反対するだけでは生き抜くことにはならないとし、プロパガンダに呑み込まれず、権力者と距離を置き、孤立して生き延びることを見出している




「物書きというのは自分が見た世界を、あたかもそれが唯一の世界観であるように提示する〜他者からの視線を常に意識した有名人の戦争体験は少し距離を置いて見るべき」というのは、なるほどと思う


被災した一般市民〜国に対して声を上げることこそしなかったが、自分の頭で考え、生き延びる方法を必死に模索していた











 




東京大空襲
1.昭和19年11月24日〜
軍事施設、軍事工事への爆撃
零戦を製作した中島飛行工場を爆撃


2.昭和20年3月10日〜
工場地帯、人口密集地域への爆撃
江東方面が廃墟と化した
王子 蒲田


3.昭和20年5月24日〜
日本を降伏させるための総仕上げ。まだ焼けていない残存市街地へ爆撃
城南空襲(品川、荏原、大森など)
京橋、麻布、芝など



















0
2024年03月14日

Posted by ブクログ

最初は何の本かわからなかった。

東浩紀のゲンロンカフェのメンバーの一人である著者が、

自分の実家のある五反田について書いている本、、、

おじいちゃん子だったということで、いろんな記憶がある。

さらに、癌を患った祖父が書き残した自伝もあずかっている。

記憶と自伝をもとに、五反田をめぐる旅、大河ドラマが始まる、

というところだろうか。

五反田、、大五反田と称しているが、

白金も含むそうだ。

白金、、、高校時代からの友が住んでいた。近所ってことか。

たびたび出てくる「清正公」という地名がそれを感じさせる。

記憶がある。

妹が著者と同い歳。なんだか親近感がわく。



話は五反田をきっかけに大きく展開する。

場所の割に家賃が安い。それは工場労働者の街だったから。

戦前の軍需工場。祖父の代から経営していた。

工場労働者、そこから話は小林多喜二に広がる。

さらに戦争。満州へ。

そして空襲。

3月の東京大空襲の後、5月にこの地域にも空襲があったとは

知らなかった。

しかも爆弾の量は東京の2倍。

しかし死者は少ない。

それは東京空襲の惨状を知って消火に当たらず逃げることを優先したから。

命よりも火を消すことが優先された3月の空襲。

戦争の、時の軍政の恐ろしさだ。

これはこの本を読んでの一番の驚きだった。



満州に多くの人が出向いたのは、火災予防で家が間引かれたから。

というのもすごい話だ。人権も何もない。

まあそれで大火を免れたわけだが、、、



そして焼け野原の後、土地の権利を泥棒する輩がいるという。

杭を打て!敗戦後は正義もなにもなかった。。



おじいさんの手記が立体的になる。

凄い本だ。

0
2023年11月16日

Posted by ブクログ

五反田の近く、戸越銀座で育った著者。
実家は祖父の代から続く町工場である。
本書はその祖父の半生を中心に五反田界隈の街の変遷や戦時中の出来事などが書かれている。
戦争と言って思い起こすのは、原爆であるが、市井の人々は空襲という恐怖も味わっていたのである。
本書を読んで改めて身に染みた。というのも、私自身過去に五反田の近くに住んでおり、本書に出てくる地名に馴染みがあったから、街の風景を思い出しながら読むことができたからだ。
馴染みのある地名が出てくると、俄然身近に感じる。
あのあたりも関東大空襲で焼けたのだそうだ。
今でも残る五反田独特の雰囲気や、その周辺の下町の様子を思い浮かべ、当時の人の営みに触れることができたような気がする。

0
2023年09月11日

Posted by ブクログ

とてもインパクトのある、しかし、ややふざけた感じの「世界は五反田から始まった」という題名。中身は星野家の家族三代と、彼らが住んだ五反田という土地についての物語だった。
外房から上京し、五反田近辺に工場を持った星野博美の祖父は、亡くなる前に手記を残した。星野博美は、それをベースに、更に調査を加え、五反田に住みついた星野家の物語を書いている。クライマックスは、終戦の年の、五反田周辺も巻き込まれた、米軍による東京・城南地区への空襲であるが、五反田近辺の大正、あるいは、戦前からの歴史も交えて、面白い物語となっている。たしかに、星野博美にとって、世界は五反田から始まっているのだ。

私の祖父も自伝を残してくれている。自費出版であるが、製本された立派なものである。私の母親の父親なので、世代的には私よりも二代前ということになる。星野博美の本書を読んでいても思ったのだが、二代前の人物である祖父の生活・暮らしぶりは、二代後の私の生活・暮らしぶりと全く違う。その間の時代の変化はすさまじいものがあったということだ。大分県国東半島で生まれた祖父が長崎県五島列島で生まれた祖母と知り合い、私の母親が博多で生まれた。母親は大分県出身の父親と知り合い、京都で私が生まれた。私の亡くなった妻との間の子供達は埼玉と川崎で生まれ、私の二度目の結婚相手の妻はタイ人であり、子供はバンコクと神奈川県で生まれている。
本書を読んで、自分自身の家系についても思いをはせたが、家族三代の物語というのは、ダイナミックなものであり、また、巡り合わせのものでもある、と改めて思った。

0
2023年08月09日

Posted by ブクログ

明治36年生まれの祖父が大正5年に芝白金三光町の町工場で働き始め、戸越銀座で住居と工場を構え、昭和49年に自宅で71年の生涯を閉じた。五反田を中間地点とする東京生活の起点と終点に当たる。
筆者は私より若いが、祖父母、父母の生きた時代が重なり、五反田、武蔵小山、NTT病院、中島飛行機の武蔵野製作所、ICU大学・・・知り合いの住んでいる場所や行ったことがある場所が重なり、とてもリアルに読める。スペイン風邪、満州開拓団、小林多喜二、東京大空襲など、昔の話ではなく、ついこの間のことだったのだと感じられる。「焼け残ったら戻ってきて杭を打て」との言い伝え。戦争の記録は重いが、生き残る知恵が詰まっていると思えば、読み継ぐべきと思う。

0
2023年07月16日

Posted by ブクログ

東京住みでありながらこのへんの地域には全然馴染みが無いものの、地図を見ながら興味深く読めた。戦時中の話、自身の生家の工場の話、祖父の書き遺しから紐解くあれこれ。満州開拓移民の話は全く知らぬことだった。お祖父さんとても聡い人だなぁ。

0
2023年05月10日

Posted by ブクログ

読み進むにつれ、どんどんひきこまれていった。自分の生まれ育った土地から、両親祖父母の人生の軌跡から、世界を再認識する。こんなことができるんだと目を見張る思いだった。自分のいる場所を歴史と地理の中に位置づけることを、「教養を身につける」と呼ぶならば、これはまさにその生き生きとした実践。説教臭さのない語り口で、読みやすいのも良い。

歴史の流れを俯瞰すると、ともすれば、大きな動きのなかで個人は翻弄されるばかりだと思いがちだ。特に第二次世界大戦時の日本の状況については、知るほどに絶望的な気持ちになる。しかし、著者は悲観と諦念に逃げ込まず、よく見ることでその経験から汲み取るべきものがあると考える。そのたくましい視点が本書を貫いている。たとえば、以下のようなくだり。

「夥しい数の人々のあまりに悲惨な死にうちひしがれて『起こしてはならない』で止まってしまうと、『もしまた起きたら』に一向につながらない。」
「この、失敗と呼ぶにはあまりに手痛い戦争の経験から何かを学ぶとすれば、私は生き延びる方法を知りたい。」
「壮大な物語に呑みこまれず、立ち止まる力。浅はかな有力者や権力者と距離を置き、孤立しながらも生き延びる方法。重大な局面に立たされた時の、判断力。頼る人も組織もない場所にたった一人取り残された時、しなければならない交渉術。気高さとも感動とも程遠い、ずる賢さ。」

ああ、そうなのだ。「物語に呑みこまれない」という言葉を肝に銘じたいと思った。




蛇足
・最初の方で挫折しかかった。また東京人がよくする「住んでるところはどこか」関連話か、と思って。東京の人の感覚を既定の事実のように語られると、すごく白ける。まあ、地方にも似たようなことはあるので、僻んでるだけですけど。
・気になったのは、何回か出てくる「奇しくも」という言い方。特に「奇しく」はないのもあったよ。

0
2023年03月19日

Posted by ブクログ

祖父母も終戦の年に生まれた世代のため戦争の話を親戚から聞いたことが無く、生まれ育った場所で空襲があったかどうかも知らない。そのため、この本の話はとても強烈でした。自分から知ろうとしなければならないと感じさせられました。

0
2023年02月06日

Posted by ブクログ

祖父の日記から広がっていく五反田から見た日本の歴史.小さなことから大きなことへと想像の翼が羽ばたく,軍需産業、疎開,空襲,満州など,とても興味深く考えさせられることも多かった.

0
2022年11月11日

Posted by ブクログ

戦後前の五反田の姿をしれて面白い。工業地帯一帯で戦後焼かれて今のようなオフィス街となったのかなぁと。五反田は焼け野原だったのかと思うと少し怖い。

0
2025年09月01日

Posted by ブクログ

自分の生まれ育った街、家族を愛してるということがひしひし伝わって好ましかった。「コンニャク漂流記」も読んでみたい。
戦争を生活の中から見つめることはとっても大切だと思う。自分ごととして考えるようになるもんね。でもコロナの3年間ももう、朧げになってる。流されずに生活していくのは大変。

0
2025年05月29日

Posted by ブクログ

家族で過ごした街、時代が自分と重なる部分が多く、タイトルに惹かれて読み出しました。

一二章は痛快、楽しく読み始めましたが、中間部分で小林多喜二、宮本百合子著作の解説部分が比重を占め、読み始め当初の期待と距離が出来てしまいました。しっかり見つめなくてはならない時代ですね、今でも当時のままと思えるニュースが飛び交います。大事ですが、、気分が暗くなってしまいました。
とはいえ家族の歴史と地域、日本の現代史を熱く書き進められた著者のエネルギーは素晴らしいと感じました。

0
2023年12月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

予想を超えて面白い本だった。さすが大佛次郎賞。戦争観が変わるというか,表面的なことしか知れてなかったなと思わされる。
私の街もこんな風に見るといろんな話が出てくると思うので,誰か書いてくれないかなと思う。
筆者は男性だと思い込んでた。星野智幸さんとごっちゃにしていたためと思われるが,ジェンダー観が・・・と思う。

0
2023年04月05日

「ノンフィクション」ランキング