あらすじ
私たちが普段読む本には、冒頭に目次や序文や献辞があり、ページ数が振ってあり、文章は句読点で句切られ、時折書体を変えて強調されている。巻末には索引がついていたり、時には正誤表が挟み込まれていたりもする。持ち歩いたり寝そべって読んだりするのに文庫本サイズはとても便利だし、書店に高く積まれたベストセラーには興味をそそられる。
実は、いま太字で強調したものすべては、今からおよそ500年前、たった一人の人物によって生み出されたものである。グーテンベルクによる活版印刷技術の発明からわずか半世紀後の自由都市ヴェネツィアを舞台に出版の世界に大変革を巻き起こし、現在も使われている書籍の体裁を発明した“出版界のミケランジェロ”ことアルド・マヌーツィオの激動の物語。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
特に深い理由もなく、題名に惹かれて購入しましたが予想以上に面白かったです。本書の主人公アルド・マヌーツィオは15世紀後半~16世紀前半のイタリア人で、現代にもつながる多くのイノベーションを出版分野で生み出した人物。本のオビにも書いてありますが、今では当たり前の目次、カンマ、ページ番号、献辞、文庫本というスタイルを生み出しました(ところでオビは誰が発明したのでしょう?)。私は出版業界の人間ではありませんが、本書によれば、出版業界の人間からすれば活版印刷を発明したグーテンベルクと同じくらい有名な人物のようです(2015年には没後500周年を記念した大々的なイベントが世界的に行われたとのこと)。
マヌーツィオの出版事業は500年前のヴェネツィアを舞台に展開されます。本書によれば当時のヴェネツィアはヨーロッパ中で(つまり世界全体の中で)一番書籍の出版が盛んだった場所とのこと。その背景には、教会にしばられない自由な風土と、様々な民族、人種が入り混じった多国籍の人々が住んでいたからです。そのためラテン語や俗語だけでなく、ギリシャ語や様々な言語の書籍がヴェネツィアで出版されていたようです。
私が特に印象に残ったのは、マヌーツィオが文庫本というスタイルを発明したこと。それまでの本はサイズが大きく、とても持ち運びできるモノではありませんでした。しかも読者は聖職者や学者、一部の貴族に限られていたわけです。しかしマヌーツィオは、良質な作品(典型的には古代ギリシャ時代の作品)のサイズを小さくすることで、本を「ポータブル」にし、読者層を格段に広げました。この背後には、人々が当たり前のように良質な作品に触れることで自らの良識や判断力を高めること、それこそが人類の発展と世界平和に重要だと考えたからに違いありません。
マヌーツィオの価値観は当時の基準からすればかなり異質なものだったようです。たとえば自分の娘たちに、人生は自由に決めるように、また結婚相手も財産ではなく人柄で選べと言い残していたようで、あたかも21世紀的な価値観の持ち主だと言えます。私自身がマヌーツィオに親近感を持つ最大の理由はこのあたりにあるのかもしれません。本当は21世紀に生まれるべき人物が、なにかの拍子で15世紀イタリアに生を受け、人類の子孫のために、読書というかけがえのないチャンスを広げてくれた、ということでしょうか。