あらすじ
異才が10年の間に書き紡いだ、危うい魅力に満ちた10の白昼夢。人間の身体を侵食していく植物が町を覆い尽くしたその先とは(「白昼夢の森の少女」)。巨大な船に乗り込んだ者は、歳をとらず、時空を超えて永遠に旅をするという(「銀の船」)。この作家の想像力に限界は無い。恐怖と歓喜、自由と哀切―小説の魅力が詰まった傑作短編集。文庫書き下ろしの掌編「ある春の目隠し」も特別収録!
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Posted by ブクログ
全編通して幻想と現実の境界を揺るがすような物語が静かに、心を侵食してくるような作品だった。
物語の多くには「死」の影がつきまとうが、それは決して単なる恐怖の演出ではなく、
人の内面にある弱さや欲望、そして無意識の衝動を映し出す鏡のように感じる。
登場人物たちが一様に、淡々とした態度のまま、しかし確かな「好奇心」に突き動かされて、
踏み入ってはならない領域へと足を踏み込んでしまうという点。
その「一歩」の先にあるのは、異世界であったり、どこか歪んだ現実であったり、時には犯罪や狂気の世界であったりする。
そして誰もが持っている「知りたい」「確かめたい」という衝動をひしひしと感じさせる。
そうした人物像が、物語全体の幻想性と絶妙に絡み合い、息苦しいほどのリアリティを生み出している。幻想世界にただ美しく浸るのではなく、有機的で湿った何かが絡みついてくるような読後感があった。
Posted by ブクログ
11の短編集。怖いまではいかないような不思議な話が多く、ときどきホラーが挟まる。
好みだったのは「銀の船」という未成年者だけ乗ることができる時空船の話。労働がなく歳を取らず病気にもならないなんて、乗船してしまう人が多いんじゃないかと思う。
この話のよいところは、船の主の暇つぶしで乗船者を増やしていると明かされるところ。地上での人生を捨ててきた者たちの覚悟に対してまったく見合わない、なんの意味もなくなんの救いもなくて良かった。この船に乗れたこと自体が十分救いになった者もいるかもしれないが。
全体で感じたのは作品内での時間の流れが早いこと。時はあっという間に過ぎていき無常ではあるが、すべては人間の物差しで進むのではないという感覚になって、大きな時の流れを感じて癒される。