【感想・ネタバレ】漂流のレビュー

あらすじ

江戸・天明年間、シケに遭って黒潮に乗ってしまった男たちは、不気味な沈黙をたもつ絶海の火山島に漂着した。水も湧かず、生活の手段とてない無人の島で、仲間の男たちは次次と倒れて行ったが、土佐の船乗り長平はただひとり生き残って、12年に及ぶ苦闘の末、ついに生還する。その生存の秘密と、壮絶な生きざまを巨細に描いて圧倒的感動を呼ぶ、長編ドキュメンタリー小説。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

・あらすじ
1785年、土佐藩の船乗り長平は悪天候と黒潮の影響により3人の船乗り仲間とともに無人島にたどり着く。
そこは土佐から700km離れた鳥島という場所だった。

食物も育たない活火山の岩山で雨水をのみ、アホウドリを食べ心身ともに極限状態の中を生き抜き生還した長平の12年間。

・感想
さすが吉村先生、面白かった。
江戸時代の奉行所の公的文書でしか残されていない漂流者の記録から、壮絶なサバイバル生活を綿密な取材と想像力で描写してた。
淡々とした文章ながら、いや、だからこそ厳しく牙をむく自然が恐ろしく感じたし、絶望、孤独感、諦観などの人間の心理に納得させられた。
手に汗握る展開もありするする読めるからあっという間に読み切ってしまった。
後半は展開が気になって寝不足になりつつちょっと焦りながら読んじゃったかも。
いつかじっくり読み直したい。

これまで読んできた羆嵐、高熱隧道と同じく自然と相対した時の人間の無力さ。
でもその無力でちっぽけな人間が、だからこそ知恵を出し合い、助け合っていくことが大事なんだよな。
お互いに助け合うこともだけど自分で自分を投げ出さず、諦めない精神の強さも大事。
軟弱な現代人である私は多分3日で死ぬか発狂すると思うけども。

仲間の3人が死んでから2年ほどはたった1人であの環境を生き延びる決心をした長平の「なるようにしかならない。いつか助けがくることを祈念し、その時のために達者で生きるしかない」という境地にいたれる長平すごっ…。

後年に合流?してくる他の漂流民も船乗りという特性上ある程度協調性を持ってる人達ばかりでみんなで力合わせて帰郷できて本当に良かったよー。
ただ冒頭のアナタハン島みたいにここに1人でも女性がいたらまぁだいぶ環境は変わってたんだろうけど。
色んな意味で男だけで良かったな…!!

現代は自然科学やテクノロジーの発展により類稀に見るほど自然をコントロールできている時代だと思うんだけど、江戸時代なんて己の理解の範疇を超えた現象には神仏にすがるしか方法はなかった訳で、やっぱり信仰心というのは精神の支柱になるんだな、と思った。

読み終わったあとYouTubeで鳥島を検索したら絶滅危惧種であるアホウドリの保全活動団体の動画と昭和30年代の観測隊?の動画があったので視聴した。
本当に何もない環境だった…昔の漂流民の痕跡は今も残っているのだろうか。

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2024年08月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

一気読み、ドキドキ面白い。作者の調査と想像力がすごい。漂流し無人島での生活等が描かれる。無人島で何もすることもなく無気力に過ごし、仲間たちが精神や身体を病む様子は現代人への戒め様にも感じてしまう。主人公の長平は前向きかつ島暮らしを達観し修行僧のよう、他の漂流者とともに大自然相手に難しい仕事に取り組むことで生活にハリが出て長い時間をかけ未来を切り開く。これが実話に基づいていることが恐ろしい。

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2024年07月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

江戸時代の漁師の漂流サバイバル小説。この小説を読むと、次のような効能が得られると思う。

・困難な状況に置かれた時、どういうメンタルで過ごすのが自分にとっても他人にとっても最善なのか
・日々食事にありつけるありがたさ、運動の大事さ
・ものを大切にしようとする気持ちが深まる
・一方で、必要最低限のものでも生活することができるんだというミニマリスト思考にとっても参考になる
・サバイバルの知識つけといた方がいいなという危機感


冒頭に日本人のサバイバル例として戦後のアナタハン島の話や、横井庄一さん達のエピソードが紹介され、それも興味深く読み進めることができる。しかし本編はそれどころでない面白さで、江戸時代土佐の長平の話が始まり、漂流生活が始まるあたりから終幕まで一気読みしてしまうハラハラドキドキの展開の連続でした。

まず船が漂流する怖さが存分に伝わってきます。悪天候のため2km先の島に泳いで行くこともできない無力感や、漂流時間が経てば経つほどにどんどん離れていってしまう無力感が存分に伝わります。

漂流ものだと、例えば海外ドラマ「LOST」のように、漂流者同士のいざこざを描きがちですが、私はそういう人間の汚い部分を読まされるのは苦手です。この本ではそういった人間の汚い部分の描写が少ないので、読者として気持ちよく読み進めることができました。希望も見出しづらい極限の無人島生活なので、いざこざを起こしている場合ではないということもあるのですが、合計三度の漂着者が総じて「気持ちの良い男達」であり、困難な状況でも助けあい、思いやりがある日本人らしさが描かれているようで良かったです。

また、私自身は無宗教で、どちらかというと欧米の宗教感に懐疑的でさえありますが、無人島生活でのこの状況で信心深くなっていく長平や、当時の人達が仏にすがる宗教感は説得力があり、それによって心を支えている姿がとても真っ当でリアルに感じました。

これまでの読書歴ではサバイバルものだと、さいとうたかおの「サバイバル」が一番かなと思ってましたが、純粋なサバイバルの「過酷さ」「心理描写」「先行きのわからないドキドキさ」で考えるとこの小説の方が面白いと思います。

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2023年12月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

江戸時代中期に伊豆諸島最南端、絶海の孤島である鳥島に流れ着いた漂流船の物語。

寝泊りする洞窟を見つけ、アホウドリの肉と雨水を得る方法を体得してからは、仕事もしなくてよい、誰にも拘束されないため、堕落してしまい、毎日寝て暮らすようになる。栄養が偏り体に異変が現れる。そして希望の無い境遇を嘆き、卑屈になり、所有物(家屋や妻)への執着を見せるようになる。
そうやって仲間が次々と体調を崩し、絶望しながら生涯を終えていくなかで、主人公(長平)だけは自分の芯を強く保ちながら生きながらえる。

・毎朝日の出を眺めながら念仏を唱えるルーティン
・亡くなった仲間たちの墓参り
・体力増強と健康維持、規則正しい生活(漁と運動)
・「将来故郷に帰還できたら絶対に鶏肉を食べないという誓いのうえ」アホウドリを殺生

そして、後に流れ着いた漂流者達に食料を与え、生活の術を教えるだけでなく、毎日励まし続けた。もちろん、彼らは食料を消費したり、喧嘩をしたりと長平の足手まといになるのだが、長平にとっては「居てくれるだけで有難い、心の支え」という存在になっている。

長年の孤独な無人島暮らしの中で、モノへの執着や絶望を一通り味わった長平にとっては、漂流者の苦しみやトラブルなど酸いも甘いも知り尽くしていたのだろう。

そして、後に島を脱出するための造船作業において、その漂流仲間たちは、まさに頭脳であり労働力となった。長平1人の力ではなく、全員のチームプレーで数年かけて船をこしらえ、互いを鼓舞し、日本帰還という希望に向かう様子は感動的であった。

絶望的な極限状態においても一筋の希望を失わずにいること。孤独の中で、今現在に集中し、日々の生活を丁寧にすごしながら心身の健康を保ち続けること。人間として尊く生きるために、基本的ではあるが持続することはとても難しいことである。長平の成長とともに、人間の弱さと強さを徹底的に描いた一冊だと思う。

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2023年07月31日

ネタバレ 購入済み

「創作する遺伝子」小島秀夫推薦

断崖絶壁の木も生えない火山島で12年余りを過ごし、無事生還した人の記録を掘り起こした素晴らしい作品です。火打ち石が無く、火も起こせない、穀物も植物も取れない、ナイナイづくしの中で生きるすべを編み出し、一人になっても生きる気力を保つ前半部と、後半の帰還への努力と苦悩が深く胸を打ちます。色々なものがありすぎて、すぐに手に入るこの時代にこそお勧めです。

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2019年12月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

漂流した人の話などは、テレビやネットで見る事があったが、本で読むと想像も膨らみ過酷な状況下だと言うのが詳細に知れた。

目標を見つけた時の頑張る気持ちは、今の時代にも共感でき大事な事だと思った。

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2024年12月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

自分だったら、長平のように心身の健康を保つことはできないとおもう。あんな状況になったら、とても正常ではいられない。

季節のめぐりに応じて、アホウドリが飛び去っては戻ってきたり、飛魚が飛んだり、嵐がきたりと、同じ描写が何度も繰り返される。もういいよと思うのだが、それが自然というものだと読んでいて気づく。読んでいるだけでこれなのだから、実際に12年も島で過ごした長平にとっては、さらにつらいものだっただろう。

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2024年08月12日

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