【感想・ネタバレ】でえれえ、やっちもねえのレビュー

あらすじ

コレラが大流行する明治の岡山で、家族を喪った少女・ノリ。
ある日、日清戦争に出征しているはずの恋人と再会し、契りを交わすが、それは恋人の姿をした別の何かだった。
そしてノリが生んだ異形の赤子は、やがて周囲に人知を超える怪異をもたらしはじめ……(「でえれえ、やっちもねえ」)。
江戸、明治、大正、昭和。異なる時代を舞台に繰り広げられる妖しく陰惨な4つの怪異譚。
あの『ぼっけえ、きょうてえ』の恐怖が蘇る。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

以下、チラシの裏。
岩井志麻子を数作、集中的に読んだのは2017年。
その後は深追いすることなく、豹柄タイツでハッスルする姿やワイドショーで発言が炎上したりする様を、ネット記事で見知っていたが、実は心の奥底で、結構尊敬していた。
その根拠を思い出すと、2014年大晦日から2015年元日にかけて放送された「ツキたい人グランプリ〜ゆく年つく年〜」に行き着く。
岩井氏の動く姿を見たのはその一度きりだが、まずべろべろに酔って除夜の鐘を撞くときに「50歳になって生理が上がったから中出しし放題だぞー!!」と叫んでいた。oh……
この番組自体は、フジテレビで、坂上忍がとにかくその年に流行った人物を呼ぶだけの、賑やかで鬱陶しい番組だった。
泥酔して眼の座ったヤカラの大沢樹生が、誰彼構わず殴りかかったり蹴りを入れたりする無法状態の中、確か佐村河内守騒動で引っ張り出された新垣隆が、氷風呂に突き落とされた挙句コメントを求められて、モゴモゴしているのに業を煮やした大沢樹生が蹴りを入れようとするのを、周囲のお笑い芸人が真顔で静止しようとする中、岩井氏は新垣氏を庇うように背後から抱きかかえて落ち着かせようとしていた……この映像が、今も忘れられない。

文庫書下ろしとかKADOKAWAに一極集中とか事情はあるかもしれないが、好きです。
本書も面白かった。

■穴掘酒 ……よくある話だが、手紙の文体と、穴掘酒という風習が重なって、凄み。柳田國男の「葬送習俗事典:死穢の民俗学手帳」にも項目あり。
■でえれえ、やっちもねえ ……表題作だが、うーん怖いというよりライトなシニカル小噺という感じか。しかし令和のコロナ禍の夜で読む意味はある。ちなみに作中ではモブキャラに近いが、孤児院を創設した人物のはモデルは石井十次と思われる。
■大彗星愈々接近 ……★少女、老婆、に平凡な男が翻弄される、このへん山岸凉子の絵で再生された。藤子・F・不二雄「ドラえもん」で忘れがたい「ハリーのしっぽ」のハレー彗星1910年、しかも「内田さん」まで出てきた上、ガルシア=マルケス「百年の孤独」も連想できる、大変に美味しい短編。平凡な男と描写されたが、実は歴史上の人物、浮田幸吉だったというのも、極上の味。どなかたwikipediaに加筆してくれれば。
ハリーのしっぽ
■カユ・アピアピ ……★上京志望、作家志望という点で、作者の投影かと思っていたら、なんとシンガポール(新嘉坡)でカユ・アピアピ(炎の木)って、あー金子光晴と妻の森三千代だ! と驚いた。作中の古賀根安和って、「こがね蟲」を書いた作家の本名は金子安和だから、間違いない。森三千代は愛媛県宇和島出身なのでモデルに過ぎないだろうが、かなりあのふたりの核心に迫らんとする力作だと思う。また話は変わるが、矢野絢子の歌の一節に「ホンソホンソ」とあったのに聞き流していたが、こういう意味の方言なのね。瀬戸内海近辺かしらん。

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2022年06月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ある男のせいで獄中に放り込まれてしまった女。しかし、女は男を恨むことなく、慕い続け牢の中で男に向けた書をしたため続けていた。やがて、恩赦のおかげで出所できた女は、同じように男に向けて手紙を書き続ける。男を想う一途な心を込めながら……。

***

前回絶賛した、「ぼっけえ、きょうてえ」の正式な後継作とされる「でえれえ、やっちもねえ」をさっそく読んでみた。第一話目は腐った花の香りをかぐようなくらくらした気持ちになりながら読んだ。
ただ、前作は全編がなんとも言い難い妖艶な雰囲気を常に湛えていたのと比べて、こちらはなんとなく生々しい。

前回は幽霊の様なものが登場人物の前に現れて、惑わし、狂わせ、翻弄していたものだが、今回はその様子は鳴りを潜めていた。

うっそりとした、静かで不気味で怖い。いつの間にか寄り添っている、恐ろしいものに鳥肌が立つ、という雰囲気はいくらか希釈されており、前回のままの様子が好きであるという方にはちょっと物足りないかも。
前回の毒性ありありの作品は現代だと何か問題でもあるのだろうか?いやまさか。

出てくる女性たちも不幸であるのだが、前作よりは幾分か恵まれており、良い生活を送ったりしていた。
全てが最初から破綻しているという雰囲気の話が一つしかなかったのは残念かも。

第一話目と同じ流れで、男に執着する情念、怖いがしかし美しい。という流れだったらなぁと失礼ながら思わずにはいられなかった。

特に毛色が違ったのは「大彗星愈々接近」という話。煽情的なほとんどなく、今までにない話だった。怖いというよりは、ユーモラスで面白い。
これはこれで乙なのだけれど、作品の雰囲気に中てられる気満々だったので、些か驚いた。

同作者の既読作品は「楽園」であったので、こういう煽情的かつ猟奇的な話を書く人なのだと思っていたので本当に面食らった。

ただ、第一話目は本当に素晴らしかった。ほかの作品も面白いのだけれど、これだけが飛びぬけて面白い。
異様ではあるが、静かだった女の情念がぱっと一瞬燃え上がり、相手の男も一緒に燃やさんとする。
憎悪にも似た愛情がぼうぼうと燃えていて、ぞっとした。
岩井志麻子さんのこの手の話が大好きになってしまったので、これからもこういう話を続々読みたい。

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2022年05月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

岩井志麻子の明治から昭和初期を舞台にした貧困と土俗の信仰、迷信、伝説が入り交じった郷愁的で恐ろしい作品群、つまり「岡山モノ」の起源にして頂点「ぼっけぇ、きょうてぇ」の正統な続編ということで期待した一冊。
結果からすると「ぼっけぇ、きょうてぇ」の続編と名乗るには少々足りないながらも「穴堀酒」のようなトリッキーな作品や「大彗星…」のようにファンタジックな作品もあり岩井志麻子の作品の中でもふわっとした入門編といった感じである。
しかしながらやはり物足りない。もっと濃厚な岡山の闇を描いてきた作者の作品にしてはとにかく薄く広いのである。
とにかく物足りない一冊。

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2021年09月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

岡山の田舎の闇再び。
『ぼっけえ、きょうてえ』より艶めかしさは少し薄まった印象だけど、作中の「ハレー彗星なんぞ、きょうてえものじゃあないで。ほんまにきょうてえものは、飢えじゃ。病気じゃ。戦争じゃ。そいから、人の心の中にあるものじゃ」を存分に体感できる。
一話目の「穴堀酒」は元女囚の書簡という形で話が進み、これがどう怖くなるのかと好奇心が膨らんだ果てに一気に目の前が暗転。悲しみとヒヤリの余韻を残す表題作、摩訶不思議な印象の「大彗星愈々接近」…でえれえ、やっちもねええぐみととろける甘露の融合にほろ酔い。

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2021年06月23日

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