【感想・ネタバレ】鳥たちの横切る空 辻邦生短篇選集 Ombreのレビュー

あらすじ

第二次大戦の癒えぬ傷を抱く学生たちの一夏を描く初期作品から、晩年の知的企みに満ちた意欲作まで。ひたすらに真実を求める人生の陰翳を描き出す精選六篇。生誕一〇〇年記念出版。全二巻。

今回、生誕一〇〇年を記念して、この膨大な作品群から四六判二巻本のアンソロジーを編む役割を仰せつかった者としてみずからに課したのは、できるだけ幅広い時期から選出すること、執筆時期や舞台が異なっても相通じる要素のある作品を二作ずつ組んで流れをつくり、その色合いと感触で陰と陽にふりわけることだった。最初にお届けする本書『鳥たちの横切る空』に翳り「Ombre」、次巻の『竪琴を忘れた場所』に明るみ「Lumière」と副題を付けたのはその結果である。
(堀江敏幸「空に織り込まれること――『鳥たちの横切る空』解説にかえて」より)

(目次から)
洪水の終り
聖堂まで
献身
探索者
叢林の果て
鳥たちの横切る空
空に織り込まれること――『鳥たちの横切る空』解説にかえて(堀江敏幸)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

初期から晩年までの作品から「人生の陰翳を描き出す精選六篇」を、編者堀江敏幸が、著者の生誕100年を記念して選出した、全二巻の、まずは前篇とのこと。

堀江が心がけたのが、「できるだけ幅広い時期から選出すること」と、「相通じる要素のある作品を二作ずつ組んで流れをつく」ること、「その色合いと感触で陰と陽にふりわけること」だったとか。
前篇にあたる、本書『鳥たちの横切る空』は、陰のほう、翳り「Ombre」だとか。
自分的には、おそらく次の陽の「Lumiere」のほうが好みかなと思うが、さて、どうなるか。

戦争の陰、影響を受ける時代の作品が並ぶのは、単なる偶然ではなかろう。
「しかしおれたちは本当に革命に参加しているのかね? それとも、一度はじめた戦争を、いやいや辻褄を合わせているのかね?」(「聖堂まで」)

こうした言葉に、現在(いま)に通じるものがあると編者も思ってのことと拝察する。

この時代を生きる者として、我々は、ウサギのように
「自分たちがいつまでも生きていると思いながら死ぬこと」
しかできないのか、あるいは時代に抗うべきか。

いずれにせよ、
「人間がこの世に織り込まれて生きるためには、情熱で生き延びるほかないんですよ。現在(いま)に溶けこむ以外にないんですよ」

これは諦観か、それとも、賢く生きるための助言だろうか。いずれにせよ、鳥たちが、青く空に染まって飛ぶように、我々は時代と共に歩むしかないのだ。

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2025年11月20日

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