あらすじ
災害により甚大な被害を受けた地にボランティアとして訪れた女性二人組。宿の娘は、生涯独身を貫いた伯父の遺品であるミニチュアの文机と本が入れられたボトルを彼女たちに見せる。ボトルの中の本の開けない頁に記されているはずの言葉をみつけるため、三人は伯父が少年時代の夏の追憶を綴ったノートから、隠された秘密を探っていく――表題作ほか、通り魔殺人が連続して起きている北の果ての町で、アパートの隣室同士になった孤独な男女の交流が思わぬ展開を遂げる「地の涯て(ランズ・エンド)」など五編を収録する。〈七海学園シリーズ〉の名手が満を持して贈る、技巧と叙情が紡ぐミステリ短編集。/【目次】刹那の夏/魔法のエプロン/千夜行/わたしとわたしの妹/地の涯て(ランズ・エンド)
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Posted by ブクログ
淡く幻想的な世界観ながら、救われない人間の足掻きや現実を強烈に描いたミステリー短編集 #刹那の夏
■きっと読みたくなるレビュー
家族や親族など、深いつながりの中に残酷さ… その運命に対して抵抗したり向き合ったりする人々を描く作品集。表題作『刹那の夏』は長めのお話になっており、他四作は短めの短編です。各作品、綿密かつ上品な筆力で書かれています。
読んでいると重みに潰されそうになってしますね~、でもこの深海に潜っていくような感覚が本書の一番の読みどころ。最後まで読んでも、ほとんどカタルシスを得られることなく悲しく終わってしまうのが魅力。
特に少年少女を描いた作品では、淡く幻想的な世界観が感じられながらも、人間の利己的な部分や厳しい現実が見え隠れするですよ。なんかこう、心が壊れていくような感覚に陥るんですよね。
まずイチ推しなのは『刹那の夏』ですね。序盤から惹きつけられましたね~、まず伯父のかつての謎ってのが魅力的ですよ。
青春っていいよねーって感じで読んでたら、中盤以降は想像以上にスリリングな展開にびっくり。謎解きも唸りましたね、人間の奥底にある動機、トリックの真相にも顎がはずれる勢いでした。また七河迦南先生らしい仕掛けもあって、ファンとしては嬉しいですよね~
どこまでも読んでてシンドイのは『魔法のエプロン』。未就学児二人の世話をする女子小学生、辛い環境にあるヤングケアラーを描いた作品です。ヤングケアラーの小学生はもちろん、保護活動している職員たちの心情が切々と吐露される。ひりついた現実に目が離せませんでした。
また、ポオとワーグナーを愛する親族の家で過ごすことになった少年の物語『千夜行』は、親族間の愛情が激しくも憂鬱に描かれています。
本作は秋の夜長、深夜になんかにおすすめですね。何処までも落ちていけます。そしてあなたの心は、痛みと余韻で満たされることになるでしょう。
■ぜっさん推しポイント
透明感あるんだけど、どこまでも救われない人間の足掻きが強烈。人間が欲情する、怒るなど、負の感情を出す「刹那」が描かれている作品だと思いました。読んでいると突然するどいナイフを突きつけられるような、どきっとした瞬間が何度もありましたね。