【感想・ネタバレ】激しく煌めく短い命のレビュー

あらすじ

集大成的恋愛小説、圧巻の千三百枚

二人の恋の炎は、すべてを焼きつくす。
京都と東京を舞台に描く、集大成的恋愛小説

「誰かを傷つけるのはこわいけど、傷つけなければ生まれない感情もある。」――綿矢りさ

京都に暮らす久乃(ひさの)は、中学校の入学式で出会った同級生の綸(りん)にひと目で惹かれ、二人は周囲の偏見にも負けず、手さぐりで愛をはぐくんでいく。
「名前なんか、どうでもいーやん。私は久乃が好き。久乃は私が好き。それで十分やろ」
しかしあることがきっかけで二人は決定的に引き裂かれる。
そして十数年後、東京の会社に勤める久乃は思いがけない形で綸に再会するのだった――。

綿矢りさ史上最長、圧巻の1300枚!

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Posted by ブクログ

激しく煌めく短い生命。なぜ分からなかったんだろ。どれだけ長生きしても、人生は短い。
本文中の一節。
短い人生だからこそ、後悔ないように生きたい。

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2025年11月28日

Posted by ブクログ

綿矢さんが、所謂女性同士の恋愛を扱った作品は他にもありましたが、質も量(ページ数)も満足な読み応えでした

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2025年11月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「私は久乃が好き。久乃は私が好き。それで十分やろ」

この2人の関係は、レズビアン(女性同性愛者)であった
中学の頃に、同性と付き合った不安や周りからの差別の目に耐えられず、別れた。
自分たちが、レズビアンということを知らず、互いが互いを好きでいるだけのあの頃が1番幸せだったのかな…?
そう思っていた…。

しかし、32歳の時に、2人は再開し、再熱した。
その時、久乃と綸は、運命に導かれる2人なのかなと思った。

2人が中学生の頃について話していると出てきたこの台詞がグサリと心の中に刺さった印象が残っている。

「偏見ってさ、他人の中やなくて自分の中にあるんよね。大人になってから気づいた」
本作は、中学生のシーンから、道徳の授業や、出生についてなど、差別や偏見について考えされられるシーンが多くあり、考えさせられる部分も多かった。

私的には、レズビアンやゲイの方々が、結婚できるように、法整備が進めばいいなと本作を読んで強く感じました!

読後はほんとうによかった。
分厚くて読めるか不安だったが、話が細切れになっているため、読みやすい作品◎
ここまで読んできてよかったと思える大作。
これは、私の中の今年トップ10入り決定!
なんとしても買いたい!
そう思える作品だった!!

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2025年11月20日

ネタバレ 購入済み

生々しい作品

物凄く長いと聞いていたので覚悟して読み始めました。
もっと読んでいたい…終わってほしくない…という気持ちと、早く次のページを読みたい!という気持ちがせめぎあって大変でした。

パッキパッキ北京を読んですぐ本作を読み始めたので、綿矢りさの振り幅大きさに驚きました。
中学生時代のパートが想像上にボリューミーでしたが、中学生ならではの残酷さのようなものが物凄く生々しくて、当時の空気感が文字になると、懐かしさ以上に切なくなります。

再会のパートは展開が目まぐるしかったですが、橋本君がいい清涼剤になっていて救われました。
久乃はかなり危ういし、最後の最後まで結局しっかりと謝れていない所にもどかしさも感じましたが、それが人間かなぁとも思いました。
久乃の母方のおばあちゃんは若い頃に亡くなった、と書いてあった気がするけれど。これを指摘するのは野暮かしら。

女性同士の恋愛云々が特別ということではなく、結局みんな人と人、人生なんだなと思います。
差別意識は自分自身の中にある、ということにもハッとしました。
人は周りの空気感、時代の流れ等に流されてしまう、弱い生き物であるということも。
人間臭さの漂う綿矢りさ作品が私は好きだなぁ。

#切ない #感動する #エモい

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2025年11月17日

Posted by ブクログ

636P

綿矢りささんの『生のみ生のままで 』って第26回島清恋愛文学賞受賞したんだ。この本は450ページだったけど、『激しく煌めく短い命』は600ページの長編でどんどん長くなっていって凄いなと思った。罪と罰とかアンナ・カレーニナレベルの長編という。

綿矢りさの史上最年少芥川賞の時も思ったけど、綿矢りさの細かい性描写いいなと思う。インタビューで性的な場面を省略して、次の朝からの二人を書く方が上品だと思うけど、激しさの中の魂を描きたいからそこを省略すると生気が無くなりそうだから書いてるって言ってた。

政治はレズの俺を救ってはくれないけど、芸術とか文学は救ってくれるんだと改めて思いました。

この描写読んで、処女の人としたことが無いことに気づいた。何人か付き合ったけど、処女居なかったな。だから、レズビアンは男の良さを知らないから説嘘だと思う。完全なビアンでも、マイノリティになる事への恐怖とかから、男性と付き合った経験のある人の方が多かったな。私の知る限りでは。

綿矢りささんが京都出身なんだけど、被差別部落差別問題のリアルを書いてて、京都は特に酷いらしい。東京では一切聞いたことないよねこういう問題。

綿矢りさ『激しく煌めく短い命』読み終わった!帯に「二人の恋の炎は、すべてを焼きつくす」て書いてあるからドン暗メリバ百合だと思っていたら、ふたりの関係性を通して丁寧に丁寧に描いた主人公の成長譚だった 久乃の隣に綸がいて本当によかったね…

「 綸みたいにいつも周りに人がいっぱいいる人に、私の気持ちは分からない。気難しそうな自分がちょっと話しかけられただけで舞い上がり、簡単に攻略されて、好かれていると勘違いしてるって、他のクラスメイトに思われるのもいやだ。情けないけど、あんまり人と打ち解けないことで私はプライドを保っていた。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「花が咲いてる木みたいな、居心地良さそうな顔。久乃って学校やといつもバリア張ってて無表情やし、たとえばこの前のクラスのみんなで学級旗作ってるときとかさ、めっちゃ冷めた表情してたもんなぁ」「私、そんな顔してた?」  また言われた、〝無表情〟。自覚がないけど、ロボット並みに表情を変えないのが、私なのかもしれない。「してた、してた。おとなしいだけで、協調性いっさいないよな、久乃って。とっとと早く終われよ、と思ってるのん丸分かり。自分の気持ちを態度に出せるとこ尊敬するわ、私も見習いたいくらい」  そっくりそのまま私も綸に同じことを思っていた。自分の気持ちを外に出せるの、うらやましいなって。「笑ってないだけで、ふつうの顔やろ」「どこが!  教室おるときは、大体目つきが完全に氷点下やん。どんだけ白けてんねんっと思って私、久乃のこと盗み見しながら笑いこらえるのに必死やった」  あのときは白けるというより、どうやってクラスの人たちの話し合いに参加していけばいいのか、旗を作るのをどう手伝えばいいのかも分からなくて、自分の居場所の無さを情けなく思っていたのだけれど。「あとさ、久乃ってなんでお母さんにときどき敬語使うん?」「え、使ってた?」「うん、〝はい〟とか〝今します〟とか〝分かりました〟とか」「ああ、短い返答のときは確かに使ってるかも。自分で気づいてなかった」「ほんま?  私だまってたけど、聞いててびっくりしたわ。なんであんなお母さんとキョリあんの?  家族やのによそよそしい」「お母さんていうか、家族とはあんまりつながり感じてないねん。父親も、あんまし家に帰ってこんしなぁ。あ、お兄ちゃんのことは好きやけど、最近お兄ちゃんとも、あんまり口きかへんようになっちゃった。高校卒業したら家を出て一人暮らししたいと思ってる」「えーっ、いまからそんなん考えてるん?」  綸の驚きっぷりに私の方が意外だ。「綸は考えたことないん」「一回も無いわ。てか、本気で言ってる?  ドライすぎん?  家族と離れて一人で住むとかさびしくない?」  もしかして私の考えてることって、すごく特殊なのかな。あんまり自分の考えを話してこれ以上綸に引かれたくないから、ただあいまいに笑う。「そうかな?  色んな家庭があるし、色んな子どもがいるのが普通ちゃう」「そんな決心がもうついてるなんて、久乃は大人びてるな。いや、そうやないか。反抗期やからカッコつけてそんなこと言ってるだけや!  見抜いたで!」  綸が勢いよく私の背中を叩き、むせそうになる。彼女の目に映る私は、協調性が無くて、反抗期で、実際の私よりも気ままで自由そうだ。彼女のなかのイメージの私みたいに生きれたら、どんなに幸せだろう。本当の私はドライの正反対、湿った重いぞうきんだ。「さっきさ、久乃のひいおばあさんと二人きりになったときに、〝久乃は友達少ないから仲良くしたってな〟って頼まれた」」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著


「「おれはそう思わへん。緊張して楽しく過ごせへんほど好きになってもうたら、きっと付き合ってからも苦しいやろ。相手のこと気になりすぎて。そしたら今までの楽しかった記憶も薄まりそうやんか。おたがい、ほどほどに好きな方が、彼氏彼女になっても上手くいくやろ」  橋本くんが恋愛についてこんなに考えてるのは意外だった。もはや中学生の意見とは思えないほどに達感している。きっと二年半の片想いの間に、色んな気持ちを味わったんだろう。それにしても橋本くんと綸の小学校では、小学生のうちから同級生が普通に付き合ったりしてたのもすごい。うちの小学校ではそんな話、ほとんど聞いたことがなかった。  彼の冷静な話しぶりに綸はたじたじとなったものの、まだ納得できなそうに口をとがらせた。「好きすぎたらアカンなんておかしい。そら嫌われてんのにつきまとったらキモいけど、加藤さんもあんたのこと好きなんやから、いいやん」」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「 まるで自分が失恋したみたいに泣きそうになっている綸の肩をなでる。学校では色んな人の色んな気持ちが渦巻いて、ときどき苦しい。わざと人を傷つけたい人は少数で、大半の人たちは真面目に毎日登校して、勉強して、部活して頑張ってるだけなのに、トラブルが起きたり、仲間割れが起きたり、失恋したりする。交差する思いがややこしく絡み合い、そこに挟まったら最後、なかなか出てこられない。でもようやく這いずって網の目から脱出しても、人の輪から完全に抜けきってしまえば、学校に通う意味も見出せなくなってしまう。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「綸の唇が私の指に触れるまえ、同極同士の磁石が向き合うように、小さな磁場の狂いが起きて反発し合った。でも目に見えない圧のかたまりを超えて触れ合ったら、身体がとけそうになった。幼稚園ぐらいの年のとき、女の子の友達同士でふざけてちゅっちゅしあう遊びはやったことあるけど、あのときとは全然違う。私の手に顔を埋めてる綸の、笑いながらもずっとこっちを見つめてる目を思い出すだけで、心が火傷しそうになる。あんなに綸と近付けた、それだけで十分うれしいはずなのに、こんな気持ちはおかしいと分かってても、もっともっと近付きたい、触れ合いたい、綸を一人占めしたい。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「なぁ、久乃は将来もし彼氏ができたらしてみたい、あこがれのシチュエーションとかある?」「えー、なんやろ」  ほんとに綸はこういう恋とか男子の話が好きだ。というか、同じぐらいの年の女子たちは、みんな好きか。昼休み中ずっとそんな話をして盛り上がってる。私も嫌いじゃなかったはずだけど、最近は綸と夢見る将来の彼氏の話をするのが苦しい。いつかは私たちの間にわいてくるその存在を想像しただけで、気分が落ち込む。綸を含む他の女子たちの気持ちの方向と、私の気持ちの方向がどれだけ違うのかも、はっきり分かってしまうし。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「のどかそうに見えるけど、同じ京都に住んでるのに、京都の人らは階段みたいに細かく、誰が偉いとか誰は誰に比べて劣るとか、決めてる人たちばっかりや。みんながみんな、人をナチュラルに見下してて、身分差が冠位十二万階ぐらいある。  あかん、いくら心のなかでとはいえ、神前で参拝客にいちゃもんつけてたら、神様に心を見透かされて、ばちが当たりそうや。それに身分を気にする人なんて、京都でも一部の人たちだけって分かってる。京都人みんなそうって思ってしまうのは、ひどい偏見や。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「なぁなぁ、お前らって仲ええのん?」  前よりも学校で自由に話すようになった私と綸の近くで様子を興味深げに眺めていた男子が聞いてきた。近くにいた橋本くんが、私たちの間に顔を出した。「お前知らんかったん?  そいつら親友やで」「へえ、でも二人とも、グループが違うやろ。女子って違うグループの奴とは、仲悪いやん」「私らは違うねん。だって私と久乃は勇気りんりんチームやからさ!」  綸の言葉を聞いたその男子は、不思議そうに首をかしげている。  綸のグループの他の子たちは未だに、私が綸と話しているとにらんだり、後で聞こえよがしにひそひそしたりするけど、美穂の態度は前よりもトゲがなくなった気がする。美穂と綸は今年もまた同じクラスの四組になったから、新クラスでの人間関係が主になり、他クラスの目立たない女子である私なんかに、かまってられなくなったのかもしれない。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「棺のなかの冷たくなったひいばあちゃんの身体の周りに百合の花を置いたとき、心のなかで誓った。  ひいばあちゃんの夢を引き継いで、私が百まで生きるからな。  そう決心したとたん、ひいばあちゃんの心が乗りうつったみたいに、私自身も本気で長生きしたくなった。長生きするのもいいもんじゃないって、知ってる。病気で苦労したり、周りの人がみんな亡くなってまで生きていたくないと、母ははっきり言っていた。その気持ちも分かる。  でも私は、どれだけ孤独でも百歳まで生きてみたい。きんさんぎんさんみたいに、みんなから愛される有名なおばあちゃんにはなれなくても、周りに誰もいなくて最後布団から起き上がれなくても、ひっそり百歳の誕生日を迎えてみたい。  ひいばあちゃんの遺品は、畳に敷かれた白いシーツの上に並べられ、欲しいと思った品を親族が順に取っていったけど、大半の物は捨てられた。土地も迅速に叔父の所有になり、ひいばあちゃんの家はめどがつき次第取り壊されることになり、母は遺産と呼べないくらいの少しのお金をもらった。それで、終わりで、ひいばあちゃんがどんな人生を歩んできて、どんな人だったのか、百まで生きたいと願っていたことも、どこにも残らずに消えた。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「私も綸が好きと周りにバレたら、狂った愛情と思われて、恐がられるのかな。〝男に幻滅〟したから、女子を好きになったとか思われるのかな。違うのに。綸はどうか知らないけど、私が綸を好きになったことに、男の人は一ミリも関与してない。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「学校では、レズよりオカマやホモの方がからかいの対象になることが多く、本人たちが自分はそうだと言ったわけでもないのに、しぐさが女性っぽい男子や、男子に距離が変に近すぎると判断された男子たちは、すぐに〝あいつオカマっぽい〟〝ホモっぽい〟とレッテルを貼られた。異質(かもしれない)な者を排せきする勢いは、女子の世界より男子の世界の方が乱暴であけすけで、数人がかりのリンチのような暴力とセットだった。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「〝同性愛の傾向がある子をどう指導すればよろしいか〟という章を指さす。「えー、長そう。久乃が読んで」「しょうがないな。えーと、〝同性愛は異性愛の対照語ですが、男同士の同性愛をホモセクシュアリティ、ホモ、女同士の同性愛をレスビァニズム、レズと呼んでいます。同性愛を倒錯、異常行為とみるのは、十九世紀末から二十世紀始めにかけての精神病理学の見解がいまも尾をひいているからで、最近の精神医学、発達心理学では、それを病気、異常とするのは間違いだとする考えが一般的になってきています〟」」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「もちろん知ってたよ。レズビアンて言葉は、他のドラマや本とかにもよく出てくるやんか」「ホモはなんとなく知ってたけど、レズビアンは初めて聞いたわ。絵の具の名前みたいやな、緑色の」「それはビリジアン」  まさか綸が〝レズビアン〟を知らなかったとは!  女子同士で付き合うってなったとき、他の女子と男子のカップルと私たちは違うけど、私たちはどういうタイプの人間なのかな?  と、一瞬でも気になって調べたりしなかったんだろうか?  しなかったんだろう。それが綸という人だ。私と違って綸は行動が先にあり、他は特に何も気にしないタイプだ。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「〝①思春期の同性愛(一過性同性愛)  性意識の発達過程では性に対して羞恥や潔癖さをもったり、異性に対して抵抗感をもったりする時期が過渡期的にあらわれます。そういう過渡期には同性に対して愛情を感じたり示したりします。  このような時期(中学生期)にあらわれる同性愛をアメリカの心理学者エリザベス・ハーロックは「クラッシュ」(砕かれる)と呼んでいます。このような精神的同性愛は性意識の発達上一過的なものとして消え、精神的恋愛(プラトニック・ラブ)からさらに性愛的な異性愛へと発展するのが普遍的です。……  したがって、思春期には一時同性に関心が向く時期がありますがこれは一過性の同性愛ですから、自分は異常なのだろうかと心配することもいらないし、親のほうでもあまり気にする必要はありません。〟」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「最後の文章を読んだとき、ほっとしながらも辛くなった。思春期特有の、一過性の同性愛。いつか過ぎ去る、幻みたいな〝好き〟の誤作動。  私が本を読んでれば、綸も興味を示すかと思ったけど、そっぽを向いたまま。「なんでこんな本を、私に読まそうとするん?」「だれかに私たちの関係がバレたらどうするか、一緒に考えたいと思って」  大人向けのドラマのシーンを見たり、からかわれる新入生を知り不安になったから、とは言い出しにくい。「聞かれたら、別に普通に答えればい ーやん、付き合ってるって」「そうかな。いや、やっぱりみんなに言うのはやめよう」」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「何度も聞いてしまい、ついに聞いた瞬間を、ちょうどプリクラに撮られてしまった。綸は大笑いしてその写真を選び、下の方に〝たのしいよ æ〟と手書き文字で書いた。印刷されたのをペンケースに入ってる小さなハサミで切り取り、プリクラ帳に貼る。私のプリ帳の中で写真を一緒に撮ってるのはほとんど綸で、千賀子ちゃんとが二枚ほどある。綸のプリ帳の写真はたくさんの友達がうつってて、他校の子まで混じってる。どうやってこんなたくさんの人と知り合ってプリクラ一緒に撮るほどの親しい友達になれるんやろ、とシールを貼り過ぎたせいでものすごく分厚くなってる、ピンクにラメのカバーの綸のプリ帳をめくりながら思う。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「 手渡された人形は重さがリアルで、なぜか顔立ちは西洋風だった。うちの学校でハーフではない白人を産む子は、一人もいないはずなのに、変なの。そういえば下着のモデルも男女とも白人が多い。肉体の生々しさを取り除きたいときに、白人が駆り出されるんだろうか?  人形だからとかはあんまり関係なく、可愛いとはならない。その気持ちがまだ自分のなかで育ってないのか、それとも元々無いのか。  大人になっても無いままだったらどうしよう。  可愛いと思えないのは、きっと私だけじゃないはず。でもほんのり罪悪感があるのはなぜだろう。リレーで次から次へと違う腕に抱かれてく赤ちゃん人形は、もう見えないほど遠くなっている。気味悪がるけど、誰一人間違えて落っことしたりしない。先生もその点を見ていて、授業の最後に、「動物には本能で赤ん坊を大切にする力が備わってる」という話をされた。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「 両方好きどうしの人たちもいるだろうけど、この雑誌の表紙ぐらいの年齢の子で、しかも泣いてるなら、多分無理やりなんだろう。世の中には実の親に犯される子もいるんや。自分のことを赤ちゃんの頃から知ってる、血のつながった人間に犯されるなんて。  それに比べたら、お母さんとは違うけど、よその大人の女の人とセックスしてるだけの私のお父さんは、まだましやな。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「なんで違うのん?  皆言うてるで、あんた女が好きなんやろ?  自分で自分のこと、気持ち悪いと思わへんかったん?  一生治らへん病気なんやったら、あんた結婚できひんのとちゃう?」  しゃべっているのは福田だったけど、声は私だった。  福田はいじめ開始を知らせるラッパを吹いた。彼がみんなに言い回ったのか、その日からどんどん教室内の雰囲気が変わっていった。初めてラッパが自分に向かって鳴り響いてからようやく、自分が教室内のいじめにどれだけ無関心だったかを知った。今までターゲットの子が怒鳴られ馬鹿にされ笑われているのを、ただ顔をしかめて避けていた。輪に参加しないだけでいじめていないと思っていた。今度は私が自分の他に誰もいない輪の真ん中へ招ばれる。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「テレビの世界では同性を好きな人は、特に男の人が好きな男の人は、好色でクネクネして、他のストレートの男性に言い寄り困らせ、他にもたくさんいた個性的なキャラクターの一人として、おもしろおかしく登場した。テレビは私たち中学生の一番の情報源、流行の発生源で、人気の高い番組が放映されたあとは学校で必ずその話題が出るくらい、みんな毎日見ている。だから彼らの間で自分がどんな存在として今うわさされているかは大体想像がついた。私だって最近までテレビで、自分とはまったく関係ない存在として、笑いながら見てた。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「そこを擦ると気持ち良い気がして、私の指が綸の指になり、激しく動き始めた。私は間違っていた、綸と一緒に裸で布団に入ったとき、迷わず、できるところまで綸と混ざり合うべきだった。あのとき怖がらずに、最後まですれば良かった。けいれんするほどの快感が指をきつく締め上げて、いったあと、おそるおそる引き抜く。触ってるときはどこが膜かなんて分からなかったけど。  指は想像と違って血まみれではなく、中指と人差し指の表面だけうっすら赤く染めて、指紋の渦巻いた丸い模様が浮き出ていた。血の垢が細い糸になり爪の間に挟まっている。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「昔はネットのなかの常識と、本当の世間の常識はかけ離れているのが当たり前だった。でも段々、現実の世界でもみんな、ネットで読んだようなことばかりを口にし始めている。  有名人のスキャンダルトピックも読みつくす。芸能人の不倫、政治家の失言、文化人のツイッターの炎上、嫌われものへの辛辣な悪口は大歓迎され、人気者への悪口はぶざまな嫉妬と見なされる。でも人気者だった人たちもいずれは嫌われてゆき、尊敬と憧れの対象からサンドバッグへとなり果ててゆく。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「でも自分より偉いはずの人が、他人に言えないほどの恥部を抱えて、それが露呈して失脚していくさまは、愉快というより安心する。  本当は誰かに慰められたいと、一縷の望みを抱いてスマホを覗き込んでいる。でも私だけに向けられた慰めの言葉なんて、こんなにたくさんの言葉や動画が発信されていても一つも無くて、やけになって他人が悪口言われてるのを野次馬しに見に行く。下品で乱暴な言葉遣いに辟易しても、少なくともネットの公開処刑場はにぎわってて、活気があって、さびしくはない。一日中上司に叱られたり、翌日に大きな仕事が控えて不安な日の夜ほど、批判トピは有能な子守唄になる。果てしない劣等感を他人への悪口で癒やす。そんな自分は嫌いだけど、やめられない。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「中学のころなんてもうほぼ二十年ぐらい前のことなのに、未だにこんなに気にしてる自分に驚く。京都にいたころは家も家の電話番号も知っていたのに綸に一切接触しようとしなかったくせに、大学進学を機に上京してから私はネット上で綸の痕跡を絶えず探していた。綸はギャルだったし友達もたくさんいるし、絶対に SNSをやってるだろうと思って本名を検索したり、中学のとき綸と親しかった人たちの SNSの友達欄に彼女の名が無いか一個一個確認して回ったが、綸はいなかった。 SNSとかいかにも好きそうだったのに不思議だなと思いつつも、大学生になっても、中学生のときあんなケンカ別れした綸のことをいつまでも忘れられない自分にも嫌気が差して探すのを止め、社会人になってからはすっかり忘れていた。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「大人になった綸はどんなだろう。もう三十二歳だし、あの明るい性格ならもう結婚してるだろうな。私と付き合ってたときも彼女は、他校のかっこ良い男子とか男性アイドルに夢中だったから、女の人と付き合ってるイメージは持てない。二十歳ぐらいで結婚していても驚かない、子どもの一人や二人はもういて、怒るとちょっと恐いけど普段は明るくて優しいお母さん。ママは若いころは問題児だったと、子どもに話す日もあるかもしれない。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「確かに目薬芸のインパクトは抜群で、取引先に私の名前を一発で覚えてもらえるようになった。革靴にビールを注いで飲むなどの他のビール芸よりめずらしく、何より女性なのにそこまで身体を張ってくれたのだからと、相手が情けをかけてくれる。あまりにもバカバカしいせいで、深夜にしかウケないが、お互いあんまり人に見せられない乱痴気騒ぎ寸前までいって、共犯意識みたいなのも芽生える。羽目を外すと絆が強まるのは友情でも仕事でも同じだ。信頼してもらうには賢さをひけらかすより、恥部を分け合うのが秘密な分、より結束の強い契約になるなんて、学生のときは思いもつかなかった。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「久乃はやっぱり昔から賢い子やったわ。中学の頃から勉強ちゃんとして、秀才やっただけある。私なんて中学生の頃、なんも考えてなかったから、いま男に頼るしかない。高校受験も、久乃は私と別れてから努力して勉強して良いとこ行ったけど、私は遊び続けて、底辺校も落ちて夜学行ったし。ほんまあのとき、私ら別れて正解やったな」  正解?  私はあのときの時間を大事にしなかったこと、今になってすごく後悔してる。でも言い出せなかった。ようやく綸の笑顔が見れるようになって打ちとけてくれたのに、この雰囲気を壊したくない。「私たちが付き合ってたことは、覚えてくれてたんだね。私にとっては大事な思い出だから、うれしいよ。私の心の支えになるよ」「そんな大げさに言わんでもええやん。でもハッキリとは覚えてないで、なんか昔、何を血迷ったんか女子と付き合ってたことあったよなー、みたいな。あんたと再会してようやく思い出した黒歴史ていうか」」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「一本通りが違うだけで厳しく線が引かれ、公然と存在するのにどこかひっそりとした差別が、いくつもの暗黙の了解が網の目のように張り巡らされていた。埋めつくす無数のツタを手でかき分けて、壁に古いひび割れを見つけたとしても、誰に報告できるわけもない。気軽に投げた石がすぐ側の近しい人の額に当たり、血が流れないとも限らない。でもそれが語られるときのトーンは極めて軽く「あの人、部落なんやって」「あそこ、そういう人の住む団地らしいよ」「あの店、在日がやってるねんて」と、スキャンダラスな情報として語られた。くすくす笑いながら。笑いながら語られる情報は重要だ。子どもっぽい無邪気さと大人のゲスさが混じった噂が一番、京都では伝播力が高いから。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「枕営業ってみんなが想像してるほど万能な奥の手ってわけじゃなくて、確実に契約の取れる枕なんて、ほんの一握りなの。あとになって考えると、〝あれってムダ枕だったな〟と思う案件が大半だよ」  綸に怒られたり軽蔑されたりしたくて言ったけど、綸は声を立てて笑った。「ムダ枕!  アンタもスレたなー。大丈夫、それまでが多分真面目すぎたんやって。私も清盛と出会う前の学生時代は、だいぶ遊んでたしなぁ」  怒られるどころか、逆に親近感を持たれてしまった。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「やっぱり緒方さんも枕だったんだ。そんなもんだよね、緒方さんなんて私よりよっぽど若いし綺麗だし、やるに決まってるよね。業績上げても美容に努力して綺麗になっても、しょせん女はもっと上の立ち位置にいる男たちのための景品なんだから。女の価値を上げれば上げるほどピカピカに輝いた優勝のトロフィーカップに近づいていって、最後は隣にアシスタントとして座れるけど、本物の勝利を手にする王座には着けない。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「電車に揺られながら、どうして自分はこんな価値観になったんだろうと思いをめぐらせた。思春期の時代に日本に流れていた空気が関係してる気もする。九〇年代後半の日本はギスギスギラギラして、みんな同じものに憧れて、テレビに影響を受けすぎていた。ヴィトンプラダシャネル、高校生のころから持つのがカッコいいとされてたけどあんなものが何故信仰の対象になったのだろう。 CMにもポスターにも華やかな商品の宣伝にはいつも金髪碧眼の西洋人が起用されていた。西洋といえば常にアメリカのイメージだったので、英語を話さない西洋人もいると知り、小学生のころに驚いた。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「顔の見えないフロントの人相手にチェックインして、女性同士の入店はお断りと言われたらどうしようと、びくびくしていたけど、特になにも言われずに通過できて階段で二階まで上がった。古めかしいホテルの鍵で中に入ると、綸はベッドに座って一息ついた。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「綸はしばらく黙って私を眺めていた。「本気なんやな。じゃあこっち来て。そんなに見せたいなら、見てあげるよ。ほら、また脱いで」  綸は私の腕を引っ張って、ベッドの上へ連れて行き、自分も隣に座った。綸の考えてることが分からない。  綺麗な身体でも無いのに。後悔と恥ずかしさで冷たくなった指先で、ボタンをすべて外すと、綸はパジャマを開いて、隅々まで眺めた。「ふうん、こんな感じやったんや」「何が?」「あんたの裸。付き合ってたとき、一回でええから、ちゃんと見たいなぁと思ってた」「ほんとに?」「うん。ずっと忘れてたけど。触りたいなとも思ってた。あんたはガードが固いから、全然触らせてくれへんかったけど」  手を伸ばしてきた綸が、私の左の乳房を摑み、次第に力を込めた。「痛い?」「ううん」  本当は痛みで声が出そうだったけど、唇を固く閉じて耐えた。  指の跡が赤くつくほど力を込めたあと、綸は親指で私の乳首を優しく押しつぶした。「この身体、中学生のときから私の物やったはずやのに。久乃から離れていった」「ごめんなさい。でも今でも綸の物だよ」  首を引き寄せるようにしてそっとキスすると、綸の舌が私の舌に絡みついてきた。私は心底驚いたけど、この機会を逃したくなくて、できるだけ優しく舌を動かした。「綸の身体も、私のものだったはずだよ」  と囁くと、綸はぼんやりしていた瞳の焦点を私に合わせた。「そうやった。思い出した。私の身体も、あんたの物やった」  綸の着ていたシャツの裾をめくって脇腹にキスすると、綸ははじけたように笑いながら私の頭を押しのけた。「ちょっ、めっちゃくすぐったいやん。ヤメロ」  私も笑ったままやめないで、また綸に近寄っていって素肌の腰を抱きしめて頰ずりした。「なにもう、甘えすぎやで」「綸は私のあとに、誰か女の人と付き合った?」「あるわけないやろ」「私もないよ。ていうか、白状するけど私、綸としか付き合ったことない」「それは、なんとなく気づいてたわ」「試してみよっか、二人で」「何を?」「中学生のときは、できなかったこと。お互い最高の相手だったかも」  シャツの裾に突っ込んでいた頭を抜き出して、ぼさぼさの髪のまま、やんわり綸を抱きしめた。緊張で、綸の身体にぐっと力が入るのが分かる。でも突き飛ばされない。かなり危ういけど。  綸の肩にかかってる髪をやさしく払って、首筋に唇を乗せた。これぐらいのこと、中学のときにもしたよね。覚えてるよね。言葉には出さなくても昔の通りにやっていく。綸は肌の表面にだけしっとり触れる優しいキスを、首全体にしてもらうのが好きだった。  久乃にそれをされると、鳥肌が立ったあと全身がありえへんほど気持ち良くなると言って、私にねだったことがあった。今もキスする度に私を撫でている綸の腕に鳥肌が浮き立ってくるのが分かる。息を潜めてぴくりとも動かない綸は、私の獲物みたいだ。  綸の服を脱がせると、記憶にある中学生の綸の裸より、ずいぶん瘦せて見えた。体温は昔と変わらず私より高い。彼女の太ももの間に自分の太ももを割り入れ彼女の乳首を口に含むと、興奮と共にまろやかな安心感に包まれた。うめくように漏れる嬌声を聞けるのが嬉しい。「なんでこんないいこと、私たち中学生のときに、しなかったんだろうね?」「もししてたら、これしかしなくなってたやろな」  怒ってホテルを飛び出したのに、結局戻ってきてくれて、こうして私と向き合ってくれてる綸の優しさに、私は甘えている。  綸は手を伸ばし、片方の乳房を、まるで重さを測るように手のひらの上に乗せ、そっと揉んだ。「昔さ、付き合ってたとき、久乃ってどんな身体してんのかなって、いつもすごい気になってた。お風呂とか一緒に入ったことはあったけど、ちゃんと見たことなかったから」  じ ーんと軽く甘いしびれが全身に走って、また何も言えなくなる。「久乃の好きな人って、ほんまに私なん?  昔、恋人やったから?」「私はいまの綸が好き」  綸が躊躇なく私の性器に冷たい指で触ったとき、私は泣きたくなった。彼女の爪は伸びていて、きれいな赤色に塗ってあったから、彼女は器用に指の腹だけ使って私を可愛がった。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「偏見ってさ、他人の中やなくて自分の中にあるんよね。大人になってから気づいた」  ぽつりと呟いた綸の言葉に、顔を上げて彼女を見た。綸は斜め下に視線を流しながら、ゆっくりした低い声で話した。「人からどう見られようと、自分を強く持ってれば、差別や偏見はあってもないようなものやねん。不当な扱いされれば、怒る元気もある。でも自分の心が弱って、隙ができると、そこから他人の心ない言葉が入り込むねんな」「分かる気がする。私も幼いころは、色んな種類の差別がたくさんある京都が全部悪いと思ってたけど、上京して京都を離れて何年も経ってから、ようやく自分が、自分の中の差別から逃げてたって気づいた。私が女の人しか好きになれないのは、京都とは関係の無い、私の個性だった、って」」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「中学生のころ、綸と遊ぶなと言われたことを私はまだ根に持っていたけど、親は忘れているようで彼女を歓待した。  家はとても綺麗で、それが逆に普段人が訪れてないのが伝わって、痛々しかった。排他的な態度で、自慢ばかりしていたらどれだけ人が寄りつかなくなるか、私たちは彼らの生きざまを見て学んだ。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「頭のなかが冷えた言葉で埋め尽くされて、頭痛がした。久々に会って、みんな和やかに話しているのに、明らかに私だけが異常だ。進んでゆく会話に参加できずに曖昧な笑顔で頷いているだけの自分が、不思議な存在に思える。わっと黒い感情が湧き上がって、制御できなくなりそう。私こそこんな年齢になっても、まだ親に感謝の気持ち一つ持たないで恨んでるなんて、幼稚の極みだ。やっぱり私には実家の門をくぐるのはまだ時期尚早だった。  父と母は、常にけんかし、もめていて、相手への悪口や不満やストレスは、私というゴミ箱に放り込み、兄には最大限気を遣うという関係性を維持していた。幼いころの私の家族は、私も含めて家族というものを最大限に勘違いしたまま、錯覚のモヤのなかを毎日生きていたようなものだ。誰も支え合ってないのに、誰も逃げ出さないから、きっと上手くいってるんだろう、他の家族もこんなものだろうと勘違いしていた。抜け出すためにはそれまで持っていた多くのものを手放して脱走するしかなかった。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「責めへん、責めへん。なんで私が久乃を責めて、あんなよく知りもせんジジババの味方する必要ある?  あ、久乃の親やのにジジババとか言ってごめんな。でも久乃が苦しむようなことしてきた人らなんやったら、もう私でも会いたくないわ。よく見れば意地悪そうな顔してたし、きっと根性悪な夫婦なんやろ。久乃のこと、どんだけ深刻な問題か分かってなかった気がする、ごめんな」「ううん、きっかけ作ってくれてありがとう。なんかもう……やっぱダメだって再認識できた」「そっか、無理させたな。辛かったやろ。ほらもう全部忘れて、元気出して、一緒に京都楽しもうや。めんどいイベントはもう終わり、あとはもう楽しいことだけ」」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「私らさ、連絡取り合うのをやめるのを、やめような」「なにって?  ややこしいな」「中学の卒業式の日に喧嘩別れして、ずっと連絡せ ーへんかったやろ、私ら。でも私、それを今さら後悔してる。会ってへん間に、久乃がどれだけ孤独に暮らしてたんやろと思うと、苦しくなるねん」「何言ってんの。そんな孤独だったわけじゃないよ」  レモンハイを飲みつつ答えながらも、綸の気遣いのぬくもりが心に染みる。  この光景を、一生覚えておきたい。私たちはカウンターの下で手を繫ぎながら、熱い牛肉の串カツをはふはふしながら食べた。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「家のなかに二人でいるときの、ふんわりした愛撫が好きだ。綸の優しくてなんの癖もない、暖かい抱きしめ方、撫で方。優しくも、どこかざっくりした雰囲気で私の身体に触れてくる彼女に合わせて、私も軽めに心地良い範囲の情熱で返す。でも、しばらくくっついてると、次第に身体が熱くなってくる。髪から、服の間から少し体温の上がった綸の匂いが伝わってくると、もうダメで、つい本気のキスをする。  嫌われない範囲、恐がられない範囲、ごく狭い幅の許されるゾーンで自分の欲求を満たしてゆく。背中を優しく撫でて、ゆっくりと引き寄せて。彼女が体重の重みを私に預けてくっつくと、お互いの身体の前面の丘陵が服二枚を隔ててもよく分かり、自然に息が熱く重くなる。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「綸の肉体は服を着ているときよりも裸で佇むときの方が、何倍も存在感が濃い。服のせいで普段は隠れている、シャープだけど女らしい身体の曲線が浮き彫りになる。  綸の寝室にあるチープな明かりのライトが好きだ。無駄にカラフルで、ちょっと濁ってて、散らばって点滅する、 LEDとは程遠い、ドロップみたいなチカチカした明かりが、部屋を埃のように舞うのを見上げていると、古ぼけた世界に閉じ込められたような、怪しい夢見心地になる。「あ、気持ちいい」  うつろな瞳になった綸が声を上げる。人が咲く瞬間があるとすれば今だろう。まるで木のように生きながらおしゃれして綺麗な服を着て飾りたてた瞬間に咲くわけじゃない。外からの刺激だけではまやかし。綺麗な服を着たり化粧をしたりは、花の擬態でしかない。でもこの瞬間、薄く開いた唇、きつく閉じた瞳、紅潮する頰、人は本当に咲いている。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「綸の肉体が、どれくらいの乱暴に耐えられるのか、私は少しも試してみたいとは思わなかった。少しの反応も見逃さずに喜びに応えたかったし、彼女が欲しがるなら絶頂を、デリバリーサービスのようにすぐにお届けしたかった。「自分の良いときにいって」「でも恥ずかしい。一人でこんな盛り上がって。いっしょにいきたいねん」「愛してるよ」」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「久乃のことは好き。大好き。でも将来の不安が消えん。久乃のこと好きやけど、私たちが一緒になるのは、私がつい最近まで頭の中で描いてた未来と違いすぎて怖いねん」「昔なら分かるよ。私たちが出会った初めのころ、私たちの年齢はもちろんだけど、世間も私たちみたいなことあり得ないって風潮だった。でも今は違うでしょ?  そりゃ結婚は出来ないかもしれないけど、私たちの意志が固ければ、周りも認めるだろうし、自然な流れになるはず。怖がる必要なんてない」「他人の問題じゃない。私が私を、認められへん。私が私と、闘ってるねん。  久乃とは、こんなことしたらあかんのに、と思いながらいつも寝てる。異常やもん、やっぱり」  罪悪感のにじむ声でそう言うと彼女は私から顔を背け、私は横目でさっきまで二人で寝ころんでいたベッドを眺めた。幸せでしかなかった思い出の数々が、急に汚れてゆく気がした。さっきまで溶けあうように抱き合っていた綸を急に遠くに感じて、自分の皮膚も一緒に剝がされたみたいにひりひりと痛い。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「深く傷つけられた腹いせに、深く傷つけたい衝動が、むらむらと立ち上がってきた。「今日初めて実物を見たけど、清盛さんって、本当にすごく格好良いんだね。背も高いし、冷たそうに見える顔立ちで、とっつきにくそうだけど、しゃべると意外と親しみやすいし」  私が清盛さんを褒めている間も、綸は顔を上げない。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「 私の頭はまだどこか冷静な部分が残っていて、本当は綸は清盛さんをずっと好きで、私といるときも忘れられなくて、それが今こうなった一番の原因なのに、私たちの問題が原因ということにすり替えようとしてると判断を下していた。悩んでいたのは事実だとは思うけど、今さら同じ性という問題を出してくるのは不自然だ。綸は根っから男性しか好きじゃないというタイプではない。でもそれが綸のプライドの高さゆえの逃げなのか、彼女の私に向けた最後の優しさゆえなのかが分からない。なんとなく後者のような気がして、彼女が私のために一生懸命演じてくれた芝居を貫き通してほしい気持ちと、最後くらい真実を知りたい気持ちが入り混じる。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「それでも仕事の無い日は、家でただ寝そべっているだけで、頭のなかでは常に綸の幻影を追い求めていた。気分転換したくなって、ネットでリラクゼーション施設を探していると、隠れ家風の地下のヘアサロンでアーユルヴェーダの施術が受けられるプランを見つけた。アーユルヴェーダはインド・スリランカ発祥の伝統医療で、シロダーラという香油を額に垂らす施術が気持ち良さそうで前から一度体験したいと思っていた。睡眠の質も向上すると書いてあったので、寝不足気味だからそれも良いと思い、予約して店を訪れた。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「同年代の大多数の女性とは違い、現状を変えたい、結婚したい、家庭を持ちたいと、焦燥感に苛まれる夜も無く、将来ずっと一人で過ごす人生を念頭に置いて計画的に貯金し、淡々と自活の道を歩む自分が、誇らしくもあり頼もしくもあった。  でも最近の私は、行儀の良い客で居続けるのに疑問も感じている。頭蓋骨の外にはみ出たら死ぬと十分に理解している聡明な薄灰色の脳が、こつこつとノックし続ける音が、骨伝導を通して内耳に伝わる。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著


「次の休日は家にいると悲しみが襲ってきて、いてもたってもいられなくなったので、自転車で一時間半ほどかけて、荒川区三ノ輪にある、吉原遊郭の遊女の投げ込み寺だった浄閑寺を訪れた。寺も神社も都内は色々あるのに、なんでそんな由来の暗い寺にわざわざ行くんだ、と思わないでもなかったが、かつて枕営業に勤しんでいた身としては、どこか遊女に親近感を覚える気持ちもあり、またひょうひょうとした作風が好きで随筆を読んでいた作家の永井荷風の筆塚もあると知り、前々から行きたかったのを実現させた。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「橋本くんから連絡があったのは、綸と連絡を取らなくなってから半年弱ほど経ったときだった。〝東京行く用事できたし、また会おうや ー。今度は二人で!〟  あまりにもあっさりしたメッセージに拍子抜けする。橋本くんとは綸と一緒のときしか会ったことがないので、彼に会うイコール綸と会うイメージだった。全然二人きりで会ってもいいけど、めずらしい誘いだ。一体なんのためだというのだろう。東京に来たからせっかくだし会おうというだけかな?  考えれば考えるほど気になりすぎて、 OKの返事を出し、京橋の焼き鳥屋で橋本くんと一緒に晩御飯を食べることになった。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「え、結婚してないって、どういうこと?  あ、いまは色々いそがしいから、落ち着いてから入籍したり、式を挙げたりするってことか」  橋本くんがため息をついた。「違う。清盛は、子どもできたって知ってプロポーズしたんやけど、綸の方が断りよった。やっと目が覚めた、この人とは子どもを一緒に育てていけない、家族にはなれないって言い出してさ」「は?」  あんなに清盛さんに惚れてた綸が、子どもができた途端、清盛さんからのプロポーズを断った?  一体どういうことだろう。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「ほんまやな。おれは逆に悠木がなんで綸のことなんか好きになったんか、その方が不思議やわ。中学のときから、全然性格違ったやろ。二人は女子同士やったわけやし、途中まで普通に友達やったんやろ?」「うん。私もどうして綸とだけそうなったのか、自分でも今でも分からない」「ほら、お前ら中学の卒業式の日に取っ組み合いのけんかしたことあったやん?」「あった……。よく覚えてるね」「あのときおれも側にいてさ、職員室に無理やり連れてかれた綸の方についてって、あいつと一緒になぜかおれも先生にめっちゃ怒られてん。なんでおれもやねん、とばっちりやんなぁ……っていうのは置いといて、綸がめずらしく先生に全然反抗し ーひんからなんでかと思ってたら、先生が一瞬目を離した隙に俺に〝久乃探してきて〟って。〝あの子目の近くを私のせいでケガして心配やし探して連れてきて〟って。やから俺、まだまだ怒られ続けそうな綸を置いて職員室から逃げて、学校から出ておまえの事探し回って、橋の上で見つけた」」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「中学生のときの橋本くんは、陰ながら私たちのことを支えてくれてたんだね。いや、今もか。ありがとう」  卒業式に橋の上で会ったとき、橋本くんはさりげない態度だったから、まさか綸に頼まれて、私を探し回ってくれていたとは、少しも気づかなかった。「無理やり巻き込まれるねんて、綸のせいで。でもそれが面白かったな。一分一秒自分の気持ちのために生きてるあいつ見てると、なんでかおれの方まで〝生きてる〟って感じるねん」」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「綸はまだ私のことを好きだという。会いたいという。それはうれしいことだ、色んなことがあり、裏切られもしたけど、最後には清盛さんの手をふり払って私の方へ戻ろうとしてくれてる。  でも子どもができて、変化した綸に会うのが恐い。恐らくずっと変化することのない私と、絶えず変化してどんどん母として成長していく綸。  お腹のなかの子が、どのくらいまで成長しているのか分からない。私の想像のなかでその姿はまだ胎芽といってよく、自分で動くこともせずただ細い管で綸とつながっていた。その絆の強さに圧倒される。彼女がとても喜んでいるというその命は、あまりにも強く輝いて何よりも決定的に私と彼女の境界線になる。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「赤ん坊は、とても現実的な問題だ。私は産んでないけど、愛や恋だのロマンチックな幻想だけで乗り切れはしないと知っている。加えて、女同士で付き合うだけでもめずらしいのに、一緒に子育てするとなれば、海外にはいそうだけど、少なくとも周りには、そんな人たち見たことも聞いたこともない。  常識では考えられない。  でも常識の尺で考えることって、そもそも必要だろうか?  常識って、もともと視野の狭い考えだ。  視野の広い常識は、もはや常識ではない。  私はそのことを、幼いころ京都に住む経験のなかで知った。京都では少しでもはみ出すと常識外になるので、常識の外に飛び出すのはどんな些細なできごとでも勇気が要った。  自由を得るためには、からかわれたり、差別される代償も引き受ける必要があった。  でもそれもまた、自分の内側で作り出した、視野の狭い常識のなかの話で、本当の、ほんまもんの京都は、出てる杭は最初は打つけども、それでもくじけず、にょきっと杭の頭を出し続けていれば、いつかは〝この人はこういう人やさかい〟と周りの人たちが認めてくれる社会だったかもしれない。  私はいつも最初の時点で、釘の頭をはたかれる攻撃のときに諦めて頭を引っ込めていたから、次の新しい景色を見ずに終わってたのかもしれない。  綸は私に子育てには参加してほしいとまでは思ってなくて、子育ては自分だけで完結し、私たちの付き合いは恋人どうしとして今まで通り継続すればいいと考えてる可能性があるが、私の方はそんな良いとこどりの関係は望まない。  法律は許さないけど、本当は綸と結婚したいと思っていたのだし。  結婚!  正式に婚姻することはできないけど、私たちの間で結婚するとなると、私は綸と清盛さんの子の継父の役割になる。一緒に住んで、赤ちゃんの面倒を一緒に見たり、教育したり、生活面の費用も払う。  想像すると頭がくらくらしてきて、理想の気もするし、悪夢の気もするから、陶酔と頭痛が一緒に来た。  もし私が了承しても、成長した後の子どもは、女同士の私たちが両親だと受け入れられるだろうか?  親の両方ともが女であるよりは、綸だけのシングルマザーの方が、よっぽど気持ちの整理がしやすいのでは?  それとも性別はなんであれ、親二人分の愛情が注がれる方が、子どもにとっては好ましいんだろうか。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「一人で悩んでいても結論が出ず、かといって相談できる人も思い当たらなかったので、『同性婚』という題名の新書を買ってきて読んだ。同性愛者について書かれた本を読んだのは、中学校の図書室以来だった。この本は弁護士カップルの片方の男性が書いていて、母親に同性愛者だと受け容れてもらうことに時間がかかったこと、職場でのカミングアウトの葛藤など書かれていて、私は家族や職場に言うつもりは無いんだと、自分の気持ちを再確認した。また結婚については〝愛情があっても法律がなければ、守られない権利もある〟と書いてあり、法律上は結婚してない同性婚では、相続する権利が無いことを知った。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著


「職を失くした五十歳代の男性が一番多く飛び込んでると情報で知っても、そのカテゴリに入る人たちがもしかしたら今この国でもっとも苦しんでるのかもなんて考えもしなかった。可視化できるはずの苦しみを、他人事の一例と切り捨てて、千例も二千例も見過ごし続け、自分の日々の些細なストレスにばかり目を向けている。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「職を失くした五十歳代の男性が一番多く飛び込んでると情報で知っても、そのカテゴリに入る人たちがもしかしたら今この国でもっとも苦しんでるのかもなんて考えもしなかった。可視化できるはずの苦しみを、他人事の一例と切り捨てて、千例も二千例も見過ごし続け、自分の日々の些細なストレスにばかり目を向けている。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「激しく煌めく短い命。なぜ分からなかったんだろう。どれだけ長生きしても、人生は短い。  永遠に生きられるわけでもないのに、嫌なことがあるとき、緊張することがあるとき、逆に近い未来にわくわく楽しみなことがあるとき、〝時間が早く過ぎますように〟と人生のうちで何度願っただろう。もしかしてあんなふうに時間を無駄にしたことを、私は死ぬとき後悔するだろうか。今ならどんな時間も貴重だと痛感するほどに。だとしたらこれからはどんな出来事も慈しもう。スキップしていい時間なんて一秒も無いという風に。  百歳まで生きたとしても、人間の尺では長生きだけど、宇宙の尺からすれば一瞬。悠久の時の視点から見れば、百歳で死ぬのも、もっと幼い歳で死ぬのもさほど変わりない。どれだけ長生きしても、人生は短いと言い切れる理由が人間にはある、なぜなら人間もまた生き物として時に完敗する存在だから。目の前を慌ただしく行き交う、早歩きの人々の群れを眺める。どの人の顔も、泣き出すのをこらえてるように見える。なぜだろう、たとえ百まで生きたとて、人生はこんなにも短いのに、なぜみんな時間を無為に過ごすんだろう。自分も。電車を乗り換えて乗り換えて、一体どこを目指してるんだろう。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「私はほんま愚か者やったけど、もしまだ少しでも久乃の気持ちが私に残ってるなら、やり直させてほしい。変な常識とか欲望にとらわれずに、これからは久乃と一緒に生きていきたいし、お腹の子もそういう自由な考え方と雰囲気のもとで育てたいって思ってる。……どうかな?  久乃はどう思う?」  私は、恋って恐いな、と思っていた。かつて清盛さんにいっしんに捧げた愛情を、綸は今度は私に捧げようとしてくれてる。それは以前の私にとったら、飛び上がりたいくらいの喜びのはずだったけど、今の私にとってはある種のあきらめを漂わせる。綸は変わらない。こういう風にしか生きられないし、愛せない。でもすべてひっくるめて、私が引き受けよう。もし彼女の私への愛情が枯れることがあったとしても、そのときは友達として側にいよう。私だってもう、綸からは離れられないのだ。長い年月の間で、あまりにも多くの幸せな時間を綸からもらい続けた。」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「喜んでたよ。いままで結婚を先延ばしにしてたのは何やったんと思う位、急に入籍する気になってた。できたら堕ろせって言われるのも覚悟してたから、意外な反応やった。産むけど結婚はし ーひんって言ったら、落ち込んでた。清盛はアホじゃないから、私の様子見たら決意は固いって分かったんやろな、しつこく結婚しようとは言ってこなかったけど。あんな姿初めて見たわ、顔も暗くて、肩落として、何日間も鬱みたいに元気が無かった。きっと自信喪失したんやろな。でもいままでどれだけ私のことを落ち込ませてきたかを考えたら、それぐらいは耐えろやって、私は心のなかで思ってた」」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「この子ができて初めて、人を、自分を、大事にするっていう意味が分かった気がした。清盛には、大事にしてほしい大事にしてほしいって、そればかり思ってしがみついてたけど、一緒に協力してこの子を守りながら生きてくのは無理って、やっと気づいたわ。周りからは何回も言われてたことやのに、今さら気づいて情けないわ。それと一緒に、久乃といるときどれだけ楽しかったか、安らげてたかを思い出してん。私と久乃の間にあった、あんな風なあったかい愛情のある雰囲気を、産まれてくるこの子にも味わわせたいと思った。勝手なことばっか言ってごめん」」

—『激しく煌めく短い命 (文春e-book)』綿矢 りさ著

「「そうやで!  子どもできたから、お情けで結婚してもらうような女と、私はちゃうで。それに、こんなモヤモヤした気持ちを抱えて結婚するのは、生まれてくるこの子にも良くないって思った。この子には楽しい雰囲気の中で育ってほしい、ギスギスした夫婦げんかなんか見せたくないわ。私は私自身を愛してくれる人と結婚したい」  綸はそう言って、まっすぐ私を見つめてくるので、私はドギマギして「そうなんだ」と無難に答えてしまった。「それにもちろん、私自身が愛してる人と結婚したい。私にとって、愛する人は、久乃やった。気

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2025年11月03日

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あっという間に読んだ。
同じ世代で、あの時代を思い出しながら、懐かしみながら読んだ。今年読んだ本の中でも圧巻です。心の本棚に大切にしまいました。

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2025年10月24日

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ネタバレ

自分が1番幸せでいられる選択をするのは多様性の時代である今らしい選択だった。周りと同じようにしないといじめられたり、大人になる過程での体の変化や異性を意識する態度など中学生の頃の嫌な感じを思い出してしまった。大人になるまでの経験から、人間は違うことが当たり前だと学ぶのだけど、中学生だと悪意なく揶揄ってしまったりするんだと思う。

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2025年10月16日

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オイラの好きな作家さんのお一人、綿矢りささん。
その綿矢さんが600ページ強の長編小説を刊行!

これは読まねばならぬ笑。

主に600ページ強をかけて、2人の登場人物の心情を「繊細」に書かれています。

600ページ強の大作が短く感じました。

ご一読をお勧めします。

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2025年10月01日

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2025/10/5

悠木久乃と朱村綸で、勇気りんりんチーム。いいね。

中学女子の「すき」
同性愛やいろんな差別がテーマなのだろうけれど、日常の描き方がすごく上手くて何度も自分自身が中学生に戻ってた。
600P超えの大作だから分厚くて、通勤読書には大変だったけど、中盤からのめり込んで一気読み。

別に誰が誰を好きでもいいのにね。
橋本くんがいてくれて良かった。
綸はそのうち逃げそうだけど....


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本当は大人にこそ言ってほしい、若いだけなんて価値が無い、若い女子が特別なわけもない、自分たちはガキなんかに興味ない、年取ってからの方こそ楽しいって。でも若い子たちを買ってるのは、いい年した大人ばかり。

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2025年10月05日

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ネタバレ

紆余曲折を得て最終的には結ばれる、ハッピーエンドで美しい作品であった。自分の感情に対して真正面から向き合う2人に感銘を受けた。自分も思ったことは言葉にして、相手に伝えることを積極的に行っていきたいと改めて思った。

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2025年11月29日

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ネタバレ

同性愛の女性2人の物語
と書くには重く複雑で人間の生々しい部分や、幸せとは何かを考えさせられる作品
中学で出会い、一度離れ離れになり、10年後に再開する2人
上手くいくはずのない関係が、徐々に繋がっていく
爽やかに一気読みさせられた

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2025年11月24日

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激しく煌めく短い命
2025.11.21

同性愛についてのお話。最近大学の講義でジェンダーについて学習し、色々なことを知って視野が広がったなと感じていたところでこの物語を読んだ。身近に同性愛の方がいたとしても簡単に質問できるほど、現在の日本ではオープンなテーマではないので具体例というか当事者目線での感覚を知れたという点ではタイミングがとてもよかった。同性愛が社会的に認められにくい時代に、綸と久乃の出した決断が今後のロールモデルのようになればいいなと思う。(隠すことや批判されることを恐れずに、同性愛者としての生き方を確立することを目指す人が増えるという意味でのロールモデル。)人々の理解が得られ、認められるまでには多数の実例が必要だと思うから、こういった小説は価値観や社会の変化に欠かせないだろうなとも感じた。
同性愛嫌悪といった感覚が根強い日本では、LGBTQ+の方々がまだまだ困難を強いられる時代が続くと思う。しかし今、この短い命を燃やしながら生きている自分に噓をついて後悔することは避けるべきだなと、何においても言えることであるが改めて考えさせられた。

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2025年11月21日

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綿矢りささんは私にとって特別な作家です。
芥川賞を同年代の少女が受賞したと知った時の衝撃は今でも覚えています。
才能のある若者への羨望と尊敬。
何より、何者にもなれていない自分に焦りました。

あれから20年以上が経ちこの本を読みました。
同じ時代に中学生だった私。
懐かしくて恋しいあの時代。
もう忘れかけていたあの頃の感情。
本作を読んでいる間、あの頃に戻ったようなそんな感覚になりました。
同性を好きになった時の葛藤や不安、そして周りからの差別。
それでも「好き」だけは変わらない。
辛くなる部分もありますが、とても美しい物語です。

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2025年11月16日

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著者の本、初めて読破した。
しかもめっちゃ長編。この世界(レズビアン)を少し垣間見れた気がしたけど、それにしても中学時代は地味でまじめな優等生だった久乃が大人になって(32歳)老舗の広告代理店の営業で成績をあげるために枕営業までしてるってとこは解せなかった、そこがなんとも違和感。
再会した綸はすっかり中学時代のあの淡い触れ合いを忘れたかのようにツレなかったけど、やり手の彼の子どもまで宿ったのにその彼を振ってまた久乃と再熱。
きっと綸はバイセクシャルなんだろうね。久乃はガチだけど。
中学時代は久乃に共感したけど、綸のほうがよっぽど好もしい。
それを言ったら中学時代、同じ家庭科部だった千賀子ちゃんが一番まっとうな考え方をしてて共鳴できたよ。
このタイトルからどっちがか死んじゃうのかと思った。
ラストの方の人身事故、綸かとも思ってしまったよ。
もちろん違くて相思相愛になったふたりは一緒に綸の子を育てていんくんだろうね。

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2025年11月16日

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京都の中学校の入学式で出会った久乃と綸。女の子同士でありながら友情以上に惹かれ合うが、少しのずれが大きくなり離れてしまう。30歳ごろ(?)に再会し、不器用にも関係再構築に向けて進められていくストーリー。全体的な流れ、描写はしっくりきたが、久乃の考え方や行動が一人の人間として結びつかなくて現実味を持たない人物のような感じがした。女性同士を描く難しさなのか、このようなことが現実でもよくあるのかわからない。

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2025年11月12日

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600ページを超える長編。
持ち歩くには辛すぎたー。でもよかった。
13歳のときに知り合った久乃と綸。
中学時代の話はわかるなぁ、そんなふうに感じたなぁと懐かしくも共感ができ読みやすかった。
90年代の時代も反映されてて、色んな意味でなつかし!だったのに、32歳の再会は久乃の変貌っぷりに驚き、気持ち悪く感じてしまいちょっと読むのがしんどかった。
かなり気持ち悪い思考なのにたんたんとしてるとこが余計に気持ち悪かったなぁ。
とはいえ、二人が幸せになったらいいな。
清盛はきっと結婚しても変わらないだろうし、ある意味綸の選択は間違ってないんだろうな。

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2025年10月30日

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同性同士の恋愛がテーマなのかもしれないが、そこはあまり意識せず読めた。
同性同士故の葛藤は描かれているけれど、自分がリベラルな考えだから気にならなかったのか、綿矢さんの筆力がそう思わせたのだろうか。
同じ経験はなくても、学生特有の心の機微や時代背景は共感するところがあった。

街中で同性同士で手を繋いでいる人たちを見ることが増えたけど、日本人より外国人カップルのほうが多い気がする。(主語が大きいけど)日本人カップルは幼少期に経験した排他的な感覚が、大人になっても残っているのから堂々としづらいのだろうか。
とはいえ、異性カップルが手を繋いでいても何も意識しないのに、同性カップルをみると「あっ」と反応してしまう自分がいる。そういう数秒の表情の変化が、当人に生きづらさを与えていたら申し訳ないなと思ってしまう。
だけどやっぱり意識しないように努力できるものでもない。世の中全体から多様性という言葉がなくなって「普通」となっていけばいいな。

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2025年10月25日

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★3つと4つの間。
題名から、もっと激しいものをイメージしていたが、そこまでではなかったかな。それは、世代の違いがあると思う。作者よりほぼ20年前に産まれた私の時代には、もっと激しい愛を扱った作品がいっぱいあったから。というか、作品だけではなく、若者は、少なくとも私は、恋愛至上主義たったから。何よりも大切なものは運命の人を見つける恋愛だった。今風に言えばコスパやタイプ的には割に合わないこと。でも、そんなこと考えもしなかった。そんなに知識も知恵もなかったんだ、昔の若者は。得る知識は知り合いからの口コミか本・雑誌・テレビ・新聞だったからね。

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2025年10月20日

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ネタバレ


あったかくて、辛辣で、眩しくて、痛々しくて、それでもやっぱり暖かい作品だった。

"レズ""ホモ"同性愛者を表現する言葉があるけれど
どこか卑下した言い方というか。
異性愛者が正義だと思っている考え方が浮き彫りになる呼び方な気がして、好きじゃなかった。

中の久乃と綸は同性に恋をした。
周囲の友達が異性に恋をする中で、同性の親友に恋をする。
自分の気持ちに気付いたときは、葛藤や戸惑いの気持ちに押しつぶされたかもしれない。
けれど、お互いがお互いをきちんと見つめて
自分の気持ちに蓋をしないで、気持ちを通わせたところが
すごく暖かくて、煌めいていて眩しかった。

久乃が綸に対する気持ちに気付いた瞬間が
綺麗で切なすぎる。
側から見ても仲がいいと認められている男子が
同じ現場で輝いている中
同性の友達に惹かれている自分に気がついたとき
なんともやるせない気持ちになるのかもしれない。
なんで輪なんだろ?
なんで山尾くんじゃだめなの?
心にきゅんとズキズキが同時に来るんだろうな。

恋ってどうして真っ直ぐじゃないと
人から白い目で見られてしまうのでしょう。
本人同士が大切と思える恋なら、胸を張って手を繋げる世の中に早く変わってほしいと願う。

最後の最後、久乃が
人生を、「激しく煌めく短い命」って気付くシーンがすごくよかった。
ここでタイトル効いてくるのかー!!!ってぐわーって心がもってかれる。
気持ちにまっすぐすぎる綸の気持ちに、やっと応えられるラスト、、最高でした。

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2025年10月26日

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ネタバレ

後半の怒涛の展開に対して終わり方はあっさりしてたかなあスムーズなオチ

でもハッピーエンドだったので 
読み終わって一息、ふぅっと力が抜けた、良かった

大好きな綿矢りささんの長編が読めて楽しかったです。

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2025年10月20日

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中学生時代に出会った久乃と綸は所謂同性愛を育んで行くが、ある出来事をきっかけに別れてしまう。
大人になって再会した2人は愛を確認し合うが、2度目の別れが待ち受けていた。
綿谷りさ作品の中でも超大作だった。
ラストまで目が離せなかったが、2人が選んだ道を応援したいと思った。

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2025年10月18日

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中学生で女性同士惹かれ合い付き合った2人が大人になって再開する話。
綿谷りさのレズビアンがテーマの小説といえば「生のみ生のままで」だが、今作は中学生編と大人編で分かれているのが新鮮だった。本の表紙を開いたところにあらすじが書いてあり、中学生時代の2人が引き裂かれることが予告されているので即ネタバレを喰らった。何も知らず読みたかったな。
主人公の久乃と相手の綸の性格が対照的で、どちらかには共感できるようになっているので引き込まれた。中学生時代の話が思ったより長く、早く大人編にならないかなぁ…と思いながら読んだ。
タイトルに「短い命」とあるので早死にしちゃうとか?と邪推したがそういう意味ではなく安心。
最後の決断は世間的にはかなり逆風もあるだろうがこの2人なら何とか乗り越えていけるのかなと思えた。

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2025年10月14日

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綿矢さんの新作は634頁、重量636gの超大作。

寝転んで読もうものなら、手を滑らせた瞬間に凶器に成り得る分厚さ。

だが内容は軽やかで、久乃と綸、二人の恋の行方を見守る様にゆっくりと3日掛けて読み進めた。

出逢いは中学校の入学式。
LGBTQなどの言葉が世間に認知されていない時代に惹かれ合った二人は周囲からの偏見に苦しめられる。

まだ中学生、純粋さと幼さゆえの攻撃性も併せ持つ彼女たち。
ある事がきっかけで亀裂が生じたが、二人の17年ぶりの再会に心躍った。

一度きりの人生、ソウルメイトの様な二人を心から祝福したくなる。

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2025年10月03日

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本音痴の私が言うのは僭越ながら私が綿谷りささんに抱いていたイメージ通りの作品だった。なにしろ600ページを超える大作ゆえなかなか進むのに骨が折れるが久乃さんの思いに引きずられ読み進めて行ってしまった。ふたりのこれからに幸あれ。

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2025年10月02日

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つ、疲れた…めちゃくちゃ大作でパワー感じまくる一冊なんだけど、こちらも読んでて体力消費する感じが。面白いんだけどね、同世代なのもあってその当時、同じ時代を生きたってだけでなんか懐かしくて。(まぁでも私はルーズソックス世代ではギリないのだけども)
自然と惹かれあって女の子と付き合うシーンがよかった。

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2025年10月01日

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中学時代の2人の愛情と別れ、32歳になって東京での再会。600ページ越えの長い物語。一貫して差別偏見をテーマにしていて、考えさせられることも多かった。舞台が京都なのも差別体質の土壌だからなるほどだった。

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2025年11月07日

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300ページ辺りからようやくハマってきた。13歳のエピソードが長くて挫けそうになった。久々の鈍器本。
最後はそうなるか〜と展開だったけど、映画にあるチョコレートドーナツみたいなお話。
同性愛に付き纏う、将来が見えない展開は自分がその立場ではないけど読んだり聞いたりすると、辛い。
少しでも生きやすい世の中になってほしいけど、難しいんだろうな。

13歳を減らして20代〜の内容が欲しかったな〜

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2025年10月25日

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ネタバレ

本作をレズビアン小説とするのは、あまりにもレズビアンの理解が浅いのでは。
女性として女性を愛するのに、男性と枕営業をする主人公の行動は不可解すぎるし、男性と結婚も子供も望んだ人をレズビアンとして描くなら、多数のレズビアンを出した上での、一例にすべきだと思う。
読者を惹きつけたかったのか、作者がこういう流れお好きなんか知らんけど、前半の描き方から後半への転落は、生きた人間の属性を扱っている自負はあるのか、心配になった。

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2025年10月24日

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新しい恋愛小説。斬新な感じはします。でもちょっと長めかな。ここまで分厚いと読むのにもハードルが高い感じがします。

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2025年10月21日

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ネタバレ

本筋を補強するような脇道の細かいエピソードが丁寧なのだが、読んでいてこれ本当に必要? と思ってしまうことが多々あった。
地の文の描写の美しさはさすが。

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2025年10月11日

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女性を恋愛対象とする方がいとも簡単に枕営業なんてしちゃうかな。
第一部の中学時代も別になくても良いようなエピソードが多いなと思った。もっと10代後半から20代の話が欲しかった。中学時代は子供っぽかった久乃がどういう経験を経て大人になっていったのか。

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2025年10月03日

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