あらすじ
ふたつの時代をカレーがつなぐ
心にしみる“からうま”な物語
偏屈な祖父と二人で暮らすことになってしまった孫息子・桐矢。
昭和の高度成長期にレトルトカレーの営業マンとして働き、カレーを囲む時間だけは打ち解ける祖父が、半世紀の間、抱えてきた秘密とは――。
生きることのままならなさと愛おしさを描く、スパイシーな味わいの傑作小説。
【感動の声、続々!】
「ひとの持つどうしようもなさ、そこから生まれる愛おしさ。味わい深く余韻ある作品!」
――町田そのこさん
「あの時代を生きてきた祖父と、この時代を生きている僕。どうしようもない噛み合わなさと、どう向き合うか。
いま必要なテーマをじっくり煮込んだ、これぞテラチ風味の極うま長篇」
――瀧井朝世さん
「時を追って進む回想は、それまでただの頑固ジジイだった義景の人物像を、立体的に生々しく浮き上がらせてみせる。
なぜ自分の考えを押しつけるのか、なぜカレーを食べている時だけは幸せそうなのか、なぜ強いことを無条件に善だと考えるのか。
理不尽にも見えた義景の言動が、一人の人間の生きた証として胸に迫ってくるのだ」
――北大路公子さん(解説より)
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Posted by ブクログ
お祖父ちゃん、生きたまま終わって、桐矢の人生をもう少し見ていて欲しかった。けど、本の通りの方が現実的なんだろなと思いました。
ご都合主義な展開にならず、どれもそうだよなという受け止め方や流れになって、けど登場人物たちの考えや受け止め方は、どれもピリリと刺激されるものになっていて、最終盤のセリフは誰のどのものでも印象に残りました。
新谷さんの、やりがいに関する話。桐矢の傷つく権利の話。守りたい、弱いから守るべきものと思うこと。みんな自分の芯があって、そこから必然に感じること、ちょっと危うくても変えることは出来なくて、でもそれがあるから何とか生きてけるんだよな、と思いました。
Posted by ブクログ
年齢が離れれば生きてきた時代も違い考え方を理解するのも難しいものですが、人を大切に思う気持ちは年代を超えて同じなんだと思いました。
この小説みたいな、食べ物と家族のあたたかさを描いた物語はとても好きです!
Posted by ブクログ
ミステリ小説ならば真実は一つと言いたいところなのだが、これはミステリ小説にあらず。
だからキャラクターの数だけ真実が、正義が、価値観が、信条があり、それがキャラ同士でなかなか重なり合ってくれない。
例えそれが血族である祖父と孫の間でも、親子の間でさえ。
相手の背景を心情を知っても、その相手の真実を受け入れられるとは限らない。
押し付けがましいと突っぱねるも受け入れるも、それもまたその人の自由であり権利なので。
そんなことをつらつら思った作品だった。
「カレーが美味しいね」で済む話なら簡単でほっこりできる話だったんだけれども、そんなことは全くなく、何とも奥深い話だった。
Posted by ブクログ
孫である主人公からはどうしようもない老人に映る小山田義景という人間の生涯が、回想により徐々に実体を持って明らかになる構成に引き込まれた。
読者は双方の考え方や生き方に共感や理解を覚えるが、当人同士は最後まで分かりあうことがなく、すれ違いを抱えたまま終わるのも良かった。
お互いにわだかまり無く和解するという物語を予想していたが、清々しいまでに裏切られ、家族とはいえ実際のところは他人だよなぁ、という人間関係のやるせなさに、物語の美しさを感じた。
そしてやはり、読後はカレーが食べたくなる、そんな一冊でした。
Posted by ブクログ
おそらく、この本のテーマは「愛」と「時間」だと思う。
たとえ狭くても自分の世界を快適に保ちたい今どきの若者・桐矢と、ガサツで声が大きく、配慮のない昔気質の男・義景。性格も生き方も正反対の二人が、少しだけ一緒に暮らし、義景が亡くなるまでの物語である。
祖父の義景は、三人の娘や孫たちにまで避けられ、嫌われ、恨まれている。妻は三人の娘を捨てて家を出ていったが、実は別の男性のもとへ行っていたことが後に明らかになる。
義景は過去にさまざまな経験をしてきたが、それを表に出さないために誰からも理解されない。そして、彼自身も理解されたいとは思っていない。彼の本当の姿を知っているのは、読者だけ。
実際、物語の中で、義景が万博公園で子どもの重みに涙したり(これは意外だった)、思春期の娘を理解できず呆然としたり、子育てに苦労する姿が描かれる。そうした瞬間に、彼の中にある人間的な部分ふと垣間見える。
しかし、この物語は「昭和の頑固な男が実は優しかった」「みんなが誤解を解いてハッピーエンド」といった安易な話ではない。問題はすべて解決するわけではなく、互いの誤解も残る。主人公の桐矢も、特別に強く成長するわけではない。それでも、登場人物それぞれが少しずつ変化していくのが心地よい。その“わずかな変化”こそが、この物語の温かさだと感じた。
読後、特に心に残ったのは「時間は流れ去るものではなく、地層のように積み重なっていくもの」という一文である。過去の出来事も感情も、完全に消えることはなく、自分の中に積み重なっていく。そうした“時間の厚み”の中で人は変わり続け、形成されていくものだと、この作品を通して感じた。