【感想・ネタバレ】ばかもののレビュー

あらすじ

高崎で気ままな大学生活を送るヒデは、勝気な年上女性・額子に夢中だ。だが突然、結婚を決意した彼女に捨てられてしまう。何とか大学を卒業し就職するが、ヒデはいつしかアルコール依存症になり、周囲から孤立。一方、額子も不慮の事故で大怪我を負い、離婚を経験する。全てを喪失し絶望の果て、男女は再会する。長い歳月を経て、ようやく二人にも静謐な時間が流れはじめる。傑作恋愛長編。

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 高崎の大学生、大須秀成(ヒデ)は吉竹額子27歳に夢中。でも2年後、額子(ガクコ)は結婚。その後、ヒデは、山根ゆきや翔子と付き合うが、28歳の時はアルコール依存症に。酒を断つか命を断つか。3ヶ月入院。額子の母に会い、額子が事故で左腕を切断、離婚して片品で一人で住んでることを聞く。電車とバスで2時間、バス停に総白髪の女性が。額子の家で食事をした後、額子はヒデにお願いを。右腕をゴシゴシ洗ってほしい。そして、右の腋毛を剃って欲しいと。秀成と額子の長い年月をかけて辿り着いた愛の物語。絲山秋子「ばかもの」。

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2022年03月16日

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ネタバレ

 結局、他人の心の内は分からないが、誰かに想われている、信じられていると感じることだけが人を救うのだと思う。そして、それを知るには長く迂回をする必要がある。ネユキが理解し得ない宗教という壁の向こうから、ヒデを祈るように。額子が、別れ際にヒデに残酷な仕打ちをしながら、後にはアル中になったヒデを髪が白くなるほど心配したように。

 みんな生きながら何かを失っていく。そして失ってしまったことに耐えられず、幻を作り出す。時には安定を求めた現実自体に裏切られて。だが、誰もが、行き場はないことに耐えなければいけない。街の子宮はえぐり取られている。ヒデは酒に手を出し、ネユキは宗教にすがった。ヒデは友人を、額子は腕を失った。だが、額子は片腕でなんでもできるようになった。ヒデは、おばやんや額子に支えられてなんとか生きている。

 ヒデを酒へと駆り立てた「行き場のない想い」とは、失うことへの不安だろうか。現在を生きることが、他の可能性の放棄であり、それ自体小さな死の経験である。それとも、もう失ってしまって取り返しがつかないという絶望だろうか。アルコール依存症は、誰でも陥り得る現代の凡庸な不幸の一類型だ。そして、無音の、無臭の街の姿は、酔いから醒めても現実は行き場としてないことを表している。制度や伝統はあてにならない。一番強いのは人が人を想う気持ちである。

最後の場面が特にいい。川端康成の「雪国」のラストの翻案だと思う。

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2013年03月17日

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ネタバレ

等身大の人が落ちていく様を生々しく書いていてとても怖かった。
内容しては大学生の主人公と年上のパートの女性の恋愛物語。初めは歪ながらも付き合っていたが、女性の方が結婚して主人公は別れる。その後主人公別の彼女や就職といった普通の人生を進んでいくがふとした瞬間に躓いてしまう。躓いて周りに助けを出すが助からず最後にはパートの女性の親戚に頼りそこからまた彼女との関係が結びついていく物語。
正直、主人公の方はかなり共感をさせられてしまい読んでいてかなりきつかった。

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2025年04月29日

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な。なんだこれ?という小説だなあ、って印象。読んでいて、ビックリするほどに「そう行くのか!?」という展開。いやあ、驚きでした。中編?というか、短編?というか、極めて短い、あっちゅう間に読んでしまえるのに、ここまで展開変わるかね?という驚き。

いきなり、主人公と、年上の恋人の女とのエロエロのシーンから始まり。その後。問答無用でフラれる。
学生時代からの女友達が、何故かいきなり。宗教にハマりまくっている。
主人公、気が付いたら、バンバンにアルコール中毒のダメ人間になる。
そっから一応回復?して、まあ、あの、ええなあ、って感じの終盤に、流れ込む。

という。いやもう。え?なんなんこの展開?という、全く予想していなかった流れにドンドンと話、進むんです。ビックリした。なにこれ?なにこれ?という物語。

だが、それが、なんだか、こう、妙に納得できるんですよ。ああ、、、こういうの、、、あるかもなあ、、、ってか、うん。なんじゃこら?この展開、意味わからんぞ?という感じでは、ないのです。なんとも、納得、できてしまうんです。不思議と凄い。

凄い不思議な味わいでした。コレってアリ?ナシ?なんなん?って思いつつ揺れ動きつつ読んで、いやでも、うん。アリですね。って思う。思うに至った気持ちの動き。自分としては。面白かったですね。

どうなんだろう?好きか嫌いか?って、結構分かれるんじゃないかなあ、、、って内容でしたが、自分としては、最初は意味わからん、って思いつつ、途中から愛おしくなり、終わり口は極めて納得。ああ、ええもん読ませてもらいました、という印象。なんじゃこの感想?って感じですが、うん。好きです。こういうの。決してアルコールに溺れないようにしたい、、、という気持ちを、できるだけ持ち続けたいです。うん。

それにしても「ばかもの」って。「馬鹿者」ではなくて、なんか、ひらがなで「ばかもの」って、愛があるなあ、って、思いますね。日本語って、いいなあ。

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2020年06月04日

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この本に出てくる人間たちは、ひとりなのにひとりでない。何か自分を補完するものを必要としていて、寄りかかる”自分”というものが欠落している。そんな、自分という枠の中がスカスカで、何かをその“スキマ”に詰めないと固い”自分”が存在できないような脆い人々の話だ。私たちの心の中の弱い部分をそのまま抜き出したような人々だ。そんなどうしようもない弱さを「ばかもの」と一蹴されるような、物語にすると滑稽だろうと嘲笑うかのようなタイトルなのだこれは。

主人公ヒデは額子を失ったことで、次第にアルコールへと依存していく。寄る辺ないネユキは、失恋を機に宗教団体に依存していく。スキマを何かで埋めなければならないからだ。「行き場のない思い」というのは、このスキマがスースーしてしまう喪失感とそれを何かで埋めたいという個の完成への欲求だ。彼らは真の意味で自分自身と向き合うことができない。そのスキマに詰まったものに個が左右されてしまうからだ。そしてネユキは個を侵されて崩れていく。

額子は物理的に自分の一部を失ったことで、ヒデやネユキが抱えたのと同じ“スキマ”を身体的にも精神的にも抱えることになった。そのスキマを埋めたのはヒデだ。そしてヒデは、“想像上の人物”によって額子の両腕を感じることができるようになる。“想像上の人物”は額子の身体的スキマを埋めたのだ。「俺は今、想像上の人物を必要としていないのかもしれない」最後にヒデは思う。ヒデのスキマは額子の両腕によって満たされた。そして額子へ「ばかもの」と言えるようになるのだ。

絲山秋子の小説自体にも不可思議なスキマがある。一見奇想天外に見える急展開だったり、不自然な語感のセリフだったり。“想像上の人物”はそんな物語のスキマも埋める働きをしているように思う。スキマの補完として描かれる“想像上の人物”は、きっと私たちが抱えるスキマにも気付かないうちにそっと寄り添ってくれているのかもしれない。人生のありとあらゆる物事が、自分の想像に依っているのだから。

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2017年12月08日

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ネタバレ

気ままな大学生活を送るヒデは、年上の女性額子との性的な関係に溺れていたが、結婚を決意した彼女に手ひどく振られてしまう。
社会人になったヒデは、いつしかアルコール依存症になり立ち直るきっかけをつかめずにいた。
一方額子も不慮の事故で左腕を失ったうえ離婚し、一人山間の村で生活していた。
全てを失い、絶望した二人が長い年月を経て再会した・・・

絲山さんの文章は読みやすく、気持ちが良い。
ヒデがなぜアル中になったのかよくわからなかったが、実際に酒浸りになるときもそんなものかもしれない。
ずっとヒデが抱いていた「行き場のない思い」って何なのだろう・・・額子もまた行き場なく山奥の村に流れ着いた。
互いに大きな欠落を抱え行き場をなくした二人が、互いを思いあい、共に生きていくことを決めるシーンは自然で美しかった。

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2016年08月14日

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