あらすじ
東京大空襲×洋装女性連続不審死
実在した警視庁の写真室所属巡査と〝吉川線〟を考案した鑑識第一人者による傑作ミステリー!
戦争で、空襲でどうせ死ぬ。
それなのに、どうして殺人事件を追うのか?
空襲が激化する1945年1月、警視庁でただ一人、ライカのカメラを扱える石川光陽。写真室勤務である彼の任務は、戦禍の街並みや管内の事件現場をフィルムに収めること。
折しも世間では、女性四名の連続首吊り自殺が報じられていた。四人は全員、珍しい洋装姿で亡くなっており、花のように広がったスカートが印象的なため“釣鐘草の衝動”と呼ばれ話題となっていた。
ある日突然、警視庁上層部から連続する首吊り事件の再捜査命令が光陽にくだる。彼と組むのは内務省防犯課の吉川澄一。光陽が撮った現場写真を見た吉川は、頸部索溝や捜査記録の重要性を説く。自殺説に傾く光陽に対し、吉川は他殺を疑っていた。
捜査が進む中で、四人の女性にはある共通点が判明。激しさを増す空襲の中でも、光陽と吉川による必死の捜査が続き、吉川は決然と捜査の意義を語る――。
「犯罪を見逃すのは、罪を許容することと同義です。空から爆弾を落として罪なき人々を殺している行為を容認することと同じなんです。我々は、許されざる行為を糾弾する役目を担わなければならないんです」
さらに光陽と吉川の前に、戦時中でも洋装を貫く女性の協力者が現れる――。
本作は、統制下という世界によって自分が変えられないようにするため、美しくありたいと願う、気高い女性たちの物語。
戦後80年、次世代へつなげたい著者渾身の記念碑的小説!
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Posted by ブクログ
当たり前の日常が、目の前の命が一瞬で消える。死が常に目の前にある生活。慣れたくなくても慣れてしまう警報。明日がくるかわからない毎日。人も家も何もかも消し去る空襲。目の前で重なっている人々。炎の中、泣きながら親を探す子ども。目を背けたくなるほどの、生々しい戦争の惨禍を見た。
好きな服を着たい。好きな髪型にしたい。少しでも綺麗でいたいと思うことが許されない。このまま生きても、真っ黒になって、誰なのかすらわからない状態になるかもしれない。どうせ死ぬなら、綺麗に死にたい。あの時代を生きた人にしか本当の意味での理解はできないかもしれないが、私もきっとそう思ってしまうだろう。抵抗、といえばそうかもしれない。ただでさえ勝手に始まった戦争に色々なものを奪われ、個人の尊厳など否定される。自分がしたいことを押し潰されるのならば、なぜ国のために生きていなければいけないのか。明るい未来が約束されているわけでもないのに。
惨禍を目の前に写真を撮るのは、誰でも躊躇ってしまうだろう。それでも、使命を果たそうとする光陽のように、後世へと伝えてくれる人がいる。今だけではなく、次の世代がよりよいものになるように願いながら生きる人がいるからこそ、私たちの今がある。