【感想・ネタバレ】エレガンスのレビュー

あらすじ

東京大空襲×洋装女性連続不審死
実在した警視庁の写真室所属巡査と〝吉川線〟を考案した鑑識第一人者による傑作ミステリー!

戦争で、空襲でどうせ死ぬ。
それなのに、どうして殺人事件を追うのか?

空襲が激化する1945年1月、警視庁でただ一人、ライカのカメラを扱える石川光陽。写真室勤務である彼の任務は、戦禍の街並みや管内の事件現場をフィルムに収めること。
折しも世間では、女性四名の連続首吊り自殺が報じられていた。四人は全員、珍しい洋装姿で亡くなっており、花のように広がったスカートが印象的なため“釣鐘草の衝動”と呼ばれ話題となっていた。
ある日突然、警視庁上層部から連続する首吊り事件の再捜査命令が光陽にくだる。彼と組むのは内務省防犯課の吉川澄一。光陽が撮った現場写真を見た吉川は、頸部索溝や捜査記録の重要性を説く。自殺説に傾く光陽に対し、吉川は他殺を疑っていた。
捜査が進む中で、四人の女性にはある共通点が判明。激しさを増す空襲の中でも、光陽と吉川による必死の捜査が続き、吉川は決然と捜査の意義を語る――。
「犯罪を見逃すのは、罪を許容することと同義です。空から爆弾を落として罪なき人々を殺している行為を容認することと同じなんです。我々は、許されざる行為を糾弾する役目を担わなければならないんです」
さらに光陽と吉川の前に、戦時中でも洋装を貫く女性の協力者が現れる――。
本作は、統制下という世界によって自分が変えられないようにするため、美しくありたいと願う、気高い女性たちの物語。

戦後80年、次世代へつなげたい著者渾身の記念碑的小説!

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Posted by ブクログ

 物語の舞台は第二次世界大戦下の東京、1944年から1945年にかけて、当時は非国民とされた洋装姿で若い女性が首吊りの遺体として発見される事件が相次ぐ。キレイな遺体で花のように広がったスカートが特徴的であったため、「釣鐘草の衝動」と揶揄される事件を、警視庁の写真室所属の巡査「石川光陽」と、“吉川線”を発表した内務省の「吉川澄一」の2人が明らかにしていく…。このおふたりは実在された方々なんですね!

 この作品の表紙も好きです。正しく“エレガンス”ですね!

 でもそれだけじゃないんです。もうね、読んでください…!!東京大空襲がどんなにひどかったか…!そして、彼女たちが最期まで“エレガンス”でありたいと思う気持ち、感じとってください。

 戦後の時代を生きてきた私は、“エレガンス”でありたいと思ったことはあったかな…!今はこんなにも、自由なのに、ね^^;

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2025年11月18日

Posted by ブクログ

プロローグ

「パン パンパーン!!!」
街の何処かでクラクションが鳴いている
私は、そうした喧騒もどこ吹く風で
シャッターを切りまくった

私の手の中には、ライカМ6が収まっている
レンズは、ズミクロンМ35mmアスフェリカル
街のスナップショットにはもってこいの画角だ

尚、“Leica”とは会社名のLeitz Cameraの略である
過去には、アンリ・カルティエ・ブレッソンや
ロバート・キャパ、木村伊兵衛といった
名カメラマンもこのライカを使用している
世界的な名機なのだ!


ファインダー越しにサングラスをかけ、スカーフを
頭に巻いた女性が映り込む
出し抜けにファインダーから目を上げると
その女性と目が合った
正確には、相手がサングラスだったので
目が合ったように感じた
あまりにも無駄のない所作に、再びファインダーに
目を戻し、懸命にシャッターを切った!
思わず心の中で叫んだ

“エレガンス!!!”

そう、それが佐藤純子との
ファーストコンタクトであった!!!

その一枚の写真が私の、いや日本の行く末を
左右する一枚となるとは、露とも思わなかった

そう、あの事件が起こるまでは、、、


本章
『エレガンス』実にエレガントな描写に華麗なる★5
yyさんのレビュー及びライカというワードに本書を
即断!


時は戦時下、洋装やパーマネントが憚れる時代に
5人の女学生が相次いで洋装及びパーマネントの
髪型で自殺するという、ショッキングな事故が 
起こる
当初は、自殺として処理されるが、殺人ではないかとの疑念が持ち上がり
2人の凸凹刑事が真相を追っていく

その内の一人の刑事が持っているのが、
ライカDⅢだ!
当時の本体価格がなんと家1軒分と同価格の600円!
誠に高価なカメラをぶら下げて、事件現場等の
証拠写真を収めていたのである

ライカは空気感をも写し撮ると云うが、本作でも
その写真が事件を解決する一つのキーワード
となっているのである

6人目の犠牲者が出て、犯人が逮捕された折に
未曾有の空襲が東京を襲う
“東京大空襲”だ!

大空襲の描写は悍ましくも圧巻だ
その地獄絵図の中でも記録に残そうと
ライカのシャッターを切り続ける主人公

戦時下とはゆえ、必死に自身に正直(エレガンス)に生きようとする人たち
それを嫌悪する人たち

正解はない

そういったこちら側と向こう側を産むのが戦争だ!


ライカによって戦争そのものを切り取りとってしまいたい!!!

本を閉じると、そう思った



エピローグ

「プシュッ!」
純子が放った弾丸はマッハ20の速さで彼に迫った
彼女のライフルは、バレット社のMk22である
秒速800mの弾速は、約4秒後には彼へと到達する
彼との距離は約3キロといったところか

それは、運命に導かれたように真っ直ぐと
彼の胸へと突き刺した

その刹那、彼は悟ったのだ
あのファインダー越しに射抜かれた彼の心は
正に本物の弾丸となって自身を射抜いたことを!

胸から飛び散る己の熱い真っ赤な血潮と紅葉とが
彼の眼前で舞い上がった!!


その時純子は、不覚にも泣いていた
何人もの人間を殺めてきたが、泣いたのは
あの時以来であった!
これが巷で言うところの“恋”というものなのか!?


数秒の逡巡後、何事もなかったかのように
ライフルを収めると、踵を返して帰路に就いた!!!


彼女が立ち去った場所には、
真っ赤な紅葉の葉が悲しげに舞っていた



                     完


出典 プロローグ、エピローグ共に
『女工作員 佐藤純子(さとうすみこ)』より
一部抜粋
※尚、本書『エレガンス』の内容とは、全く関係
ございませんので悪しからず

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2025年11月15日

Posted by ブクログ

yyさんのレビューで興味を持ち読みたくなりました。
yyさんありがとうございます。


1944年12月。
警視庁の写真部付属の石川光陽は、裂かれたシーツで首を吊っている女性の遺体を当時六百円するライカDⅢのカメラで撮ります。
美しい遺体でした。
長いスカートが放射線状に広がり、まるで花冠のようで”釣鐘草の衝動”と風聞される死が続いています。
”釣鐘草の衝動”と言われて亡くなった女性は四人となり、さらに続き五人、六人と増えていきます。
女性はドレスメーキング女学院の生徒ばかりです。

最初はみな自殺とされますが石川と組んだ警視庁の吉川は皆、遺体の首すじに吉川線と呼ばれるひっかき傷があることから他殺と断定しドレスメーキング女学院の関係者にあたり始めます。

すると会う人皆「彼女たちは皆生きて働こうとしていた、自殺なんかするはずがない」と言い切ります。
怪しい人物と疑われる者も現れますが、果たして犯人は…?



石川は自分自身に「毎日のように空襲によって人が死んでいるのに殺人犯を見つけることに意味はあるのか」と問いただします。

ドレスメーキング女学院の校長の「武器を捨ててエレガンスに生きる」の主張が痛々しいと思える程の戦争描写。最後のB29の空襲による地獄絵図は読んでいて辛かったです。

犯人の殺人の動機についてもひとこと書きたかったのですがネタバレになるので控えます。

戦中のミステリー小説ではありますが、永井荷風の登場などもあり文学的なテイストもある作品でした。

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2025年11月10日

Posted by ブクログ

考えてみれば当然のことなのだが、B29による爆撃によって燃え尽くされていた太平洋戦争末期の東京においても、空襲に怯え、窮乏に苦しみながらも、人々は日々の暮らしを送っていた。そこでは、警察による犯罪捜査もおこなわれていたし、同調圧力に屈することなくお洒落な洋装で身なりを美しく保とうとする人々も存在した。あらゆるものが戦争と全体主義に埋没していたわけではない。おそらく今のウクライナやガザにおいても、程度は違えど同じ状況があるのであろう。平和な境遇に馴化してしまった我々のバイアスを取り除く、本作のリアリティは実に力がある。
石川光陽氏も、吉川澄一氏も、実在の人物であることを読後に知り、改めて重みを感じる。

それにしても、小説のクライマックス、昭和二十年三月十日未明の東京大空襲の描写は苛烈だ。読んでいて苦しくなって、読み進めるのが辛くなるほどに。
だからこそ、その過酷な状況を尊厳をもって生き抜こうとする人々の底力が静かに輝く。

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2025年11月03日

Posted by ブクログ

 戦時下の東京が舞台で、事実に基づいたミステリー小説です。緻密な取材による実話ならではの臨場感があり、事実に物語性をもたせる構成が見事でした。読者の心を惹きつける良質な一冊と思えます。 

 事実とは、実在した登場人物、①石川光陽(警察官・写真家で戦時の惨状などの撮影に携わった)と②吉川澄一(警視庁鑑識課課長で戦前戦後の科学捜査の発展に寄与した)、そして③「釣鐘草の衝動」(若い女性の首吊り自殺が相次いだ事件)です。

 石川光陽と吉川澄一が組んで、上記事件を捜査していく展開です。吉川は殺人だと決めつけていますが、石川は乗り気になれません。捜査を進めるに連れ、石川の揺れ動く心理が、空襲におびえる市井の人々、東京の惨状とともに描かれていきます。

 「誰が犯人か?」と真相追求が主軸です。しかし、徐々に戦時の様々な理不尽さへ抗う姿が、立場の違う人々を通して浮かび上がってきます。価値観を歪める巨大な権力への静かな抵抗が、怒りとともに伝わってきます。永井荷風まで登場し、戦争の悲惨さを後の世に伝えるその手段は多様です。これらが上手く構成され、完成度・質の高い作品になっている気がしました。

 今の時代、別の意味で大変なことがあっても、好きなことや目標に向かって頑張れることが、いかに大事で有り難いことなのかを痛感させられます。「今、死を撮っている。」で始まり、「今、生を撮っている。」で終わる物語に、感銘を受けました。

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2025年10月20日

Posted by ブクログ

一瞬、戦時下のモード系の話かと思ったら全然違ってたミステリーだった。
私は始めに参考文献とかを見るのが好きなので、それを見てて誤った事に気付いた。これはフィクションなんだと。現実にいらした方をモデルにしていたので、まるでノンフィクションの様な重厚な作品になっている。ミステリーより東京大空襲の場面がリアル過ぎて気分悪くなった。

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2025年10月02日

Posted by ブクログ

ミステリとしてはそこまで凝ってないけれど、事件を通じて主人公たちや事件関係者の戦時下の生き様というか矜持のようなものが見えてきて良いな、と思ってたらそれらすべてを灰燼に帰す東京大空襲の描写に強い衝撃を受けた。『戦争は地獄だ。』そして戦争は今も起きている。

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2025年09月21日

Posted by ブクログ

★5 1945年東京… 死と隣り合わせの時代、自分らしく生きぬく美しい女性たちの物語 #エレガンス

■あらすじ
1945年1月の東京、洋裁学校に通う女学生が連続で首吊り死体として発見された。警視庁で写真記録係だった石川光陽に再捜査の依頼をされる。光陽と組むのは内務省の吉川、彼は頸部の傷があることから他殺を疑っていたのだ。

二人のもとに捜査の協力をしたいと申し出る女性が現れる。戦時下でも洋装をまとい、美しさにこだわる意識の高い女性たちであった。

■きっと読みたくなるレビュー
★5 死と隣り合わせの時代、弾圧にも挫けず自身の生き様を貫いた美しき女性たちの物語です。

戦後80年ですね、私も含めて今や戦争を体験したことのない人たちばかりです。世界ではいまだに戦争は無くなりませんが、日本にとっては二度と体験したくない歴史ですね。本作は女学生の連続不審死の捜査を通して、戦時下に生活している人々を描写しつつ、戦争の悲惨さと人間の尊厳を力強く書き記しています。

警察、憲兵隊、出版社、カメラマン、主婦、美容師、医者、学生、バーテンダー、洋裁師、いまでもある様々な職業のひとたち。苦しい時世であっても、拘りとプライドをもって自身の仕事に向き合っているんです。

私が惹かれたのは美容師ですね、こういう人がいるからこそ、未来が開けてくる。行く先々が見えると人は前向きになり、それぞれの生きがいを胸に歩みを進めていける。毎日仕事を忙殺されると忘れがちになってしまうんですが、自分の知識や技術が人々に貢献できるってのはありがたいことですよね。

何より女性たちが輝いてます。千世と伊吹なんかは、令和の現代だとギャルの生き方ですね。こんな時代だからこそ美しさを求めるなんて… カッコ良すぎて脳天突き抜けました、これは惚れる。

他にも家族を守る母親、生徒を守る女性の先生など、みんな自分の個性を大事にしながら死に物狂いで戦争と戦っている。現代でも固定観念をもってる人たちがいますが、男性とか女性とか性別は関係ないよね、大切なのは心、意識、人間性ですよ。

そして本作の謎解き、誰が女学生を殺害したのか? その手法は? その動機は? 真相を知った時、何もかもが悲しくなりますたね。そしてこの時代じゃなかったら… と考えずにはいられませんでした。

終盤に近づくにつれ、東京への空襲が激しくなってくる。5ページにわたって力強い筆致で描かれる東京大空襲の惨劇… 我々の意識にしっかりと留めなければなりません。戦争などこの世なら無くなって欲しい。

こういった悲惨な体験、その時を生きた人々の人生観を、後世に残していかなければならないと思いますね。素晴らしい読書体験でした、文学賞をとってほしい。

■ぜっさん推しポイント
ミステリー好きなので、法医学の「吉川線」って言葉は聞いたことがあったのですが、どういう経緯でそんな名称になったかは存じ上げませんでした。へー、人の名前なんですね。

そんな吉川澄一はちょっと変な奴なんですが、仕事への拘りも筋が通っていてカッコイイ。光陽は彼と一緒に捜査を進めるうちに、彼に影響を受けて成長していくところも読みどころでした。

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2025年09月01日

Posted by ブクログ

1945年空襲警報が響く中、昨年の12月から4人目となるドレスメーキング女学院に通う女性の首吊り死体が発見される。

この空襲でいつ死んでしまうかわからない時世だから、世を儚んでの自殺だろうと決めつけていたのだが、内閣省防犯課から吉川が捜査に来る。
その手伝いとして警務部写真室の石川が手伝うことになった。

吉川は、遺書がないのに自殺として処理されていたことに、何故自殺と断定したのか、もし殺人ならどのような状況下であっても犯人を探し出さなければならないと…犯罪を見逃すのは罪を許容することと同義で、空から爆弾を落として罪なき人々を殺している行為を容認するのと同じだと言う。

カメラのレンズを通して石川が見たものとは…。

何故この時代にこの殺人だったのか…
どうせ死ぬのなら綺麗に着飾ったほうがいいとは、何とも言えない独りよがりの行為だと。


ラストにある空襲の場面は文字を追うだけでも悲惨な状況なのが想像できる。
火が風の咆哮を誘引し、火花が暴れ回り、あちこちを破壊していく。
逃げ惑う人々の慟哭や叫び声に猛火の轟音が容赦なくすべてを真っ黒にしていくようである。
それらを無かったものをするわけにはいかず、写真に残し、後世に伝えることこそ使命であり、この先の世界をよくする手段の一つと思い、ライカのシャッターボタンを押す石川に壮絶な思いを感じた。

この時代にあったことは、ほんの一欠片なのかもしれない。
本当はもっと隠れていた真実があったのかもと思うと戦争はすべてを狂わせてしまうものだと感じた。






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2025年08月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

当たり前の日常が、目の前の命が一瞬で消える。死が常に目の前にある生活。慣れたくなくても慣れてしまう警報。明日がくるかわからない毎日。人も家も何もかも消し去る空襲。目の前で重なっている人々。炎の中、泣きながら親を探す子ども。目を背けたくなるほどの、生々しい戦争の惨禍を見た。

好きな服を着たい。好きな髪型にしたい。少しでも綺麗でいたいと思うことが許されない。このまま生きても、真っ黒になって、誰なのかすらわからない状態になるかもしれない。どうせ死ぬなら、綺麗に死にたい。あの時代を生きた人にしか本当の意味での理解はできないかもしれないが、私もきっとそう思ってしまうだろう。抵抗、といえばそうかもしれない。ただでさえ勝手に始まった戦争に色々なものを奪われ、個人の尊厳など否定される。自分がしたいことを押し潰されるのならば、なぜ国のために生きていなければいけないのか。明るい未来が約束されているわけでもないのに。
惨禍を目の前に写真を撮るのは、誰でも躊躇ってしまうだろう。それでも、使命を果たそうとする光陽のように、後世へと伝えてくれる人がいる。今だけではなく、次の世代がよりよいものになるように願いながら生きる人がいるからこそ、私たちの今がある。

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2025年08月11日

Posted by ブクログ

elegansが出てきたからまあエレガンスやなぁってのは早目にわかって、ミステリとしてはガチガチでないけれども。でも、時代描写やその世界に生きる人々の姿を細やかに見せてくれて、こんな空気やラストの山津波みたいなあのシーンの為の物語なんだろうなと感じて、良かった。

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2025年11月13日

Posted by ブクログ

優雅さなんて、どこにもない。それでも“エレガンス”だった。

ミステリー小説によく出てくる「吉川線」を考案した吉川澄一と、実在した警視庁写真室巡査・石川光陽。
彼らが、戦時下の東京──銃後が戦場となった街で起きた「釣鐘草の衝動」と呼ばれる連続不審死事件を追う。

終盤にある、4ページ半にわたる東京大空襲の描写は圧巻。
空行も改行もなく、ただびっしりと文字が埋め尽くすページ。
その“文字の暴力”が、まさに空襲の暴挙そのものを表していた。文字だからこそ可能な、極限の表現だった。

物語の主眼は吉川でも事件でもなく、「戦争」そのもの。
ミステリーというより、“戦後80年の文学”として読むべき一作だ。
事件の仕掛けも精巧で、そちらを主軸にしても傑作になり得たと思う。

タイトルの「エレガンス」は、戦時下には不釣り合いに思えるが、読み終える頃にはこの言葉以外、考えられなくなる。

■引用
- 戦争は分別を破壊する。

- 抵抗は、世界に実際的な影響を及ぼす場合も稀にあるが、及ぼさないことのほうが圧倒的に多い。それでも抵抗するのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためでもあるんだ。

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2025年11月06日

Posted by ブクログ

戦時下で次々と見つかる若い女性の死体。花のように広がったスカート、まるで生きているかのような美しい俯く姿。自殺か他殺か。
特殊な状況下での警察の捜査も非常に興味を惹きつけられましたが、毎日繰り返される空襲、先の見えない状態に追い詰められた人々の様子や東京大空襲の様子が細かく描かれており、まるで耳元で悲鳴が聞こえそうな程でした。

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2025年10月06日

Posted by ブクログ

大戦末期の東京。

警視庁で総監から空襲の記録写真の撮影を命じられた石川光陽。
数軒の家に匹敵する高価なカメラ、ライカDⅢを使う「警視庁のドラ息子」。

東京空襲と時を同じくして発生した、若い女性の連続自殺事件の謎を吉川澄一と追う。

吉川は絞殺死体特有の傷「吉川線」の発見や「手口分析」を普及させた鑑識の大家。

女性たちはいずれも洋裁学校ドレスメーキング女学院の生徒たち。
首をシーツで吊られた立位や座位で発見され、スカートが釣鐘草の形に見えることから、事件は「釣鐘草の衝動」と呼ばれる。

吉川は遺体に共通する吉川線から他殺と断定し、連続殺人事件の捜査に切替わる。

もう一人の主役は出版物の検閲・統制を業務とする日本出版会で働きながらドレ女に通う若葉千世。

世情に逆らって身を削っても美しくあろうとするドレ女の生徒たちが自殺するはずがないと考える千世は、友人伊吹ミナとともに捜査への協力を申し出る。

千世の周りにいる、バー「十戒」に集う劇団員、永井荷風、同僚、ドレ女の人々、美容師八並たちは、日に日に敗色が濃くなり息苦しくなる世情の中で自らの信条を貫く生き方を見せる。

石川の周りの警察官たちの生き様も職務の矜持に恥じない。

書名の「エレガンス」は困難な世情の中でも美を貫く女性たち(と美容師八並)、事件の鍵となる物質、千世が大空襲の中で火の猛吹雪やB29に感じる圧倒的な美の3つにかかっている。
(「断腸」ももう一つのキーワード)

中盤までは終戦間際を舞台にした軽めのミステリかと思えたが、空襲が激しくなるにつれて、本書のテーマが前面に出てくる。
本書に通奏する反戦と自由の希求。
特に終盤5ページにわたり改行もなくベタ書きされる、石川の目を通した東京大空襲の惨劇は壮絶。
そこにはなんの希望もなく、ただ単に人々を殺戮するためだけに投入された圧倒的大量の武器の無慈悲な冷酷さ(と背後にある計画者の悪意)だけが存在する。

吉川は言う。
「犯罪を見逃すのは、罪を許容することと同義です。空から爆弾を落して罪なき人々を殺している行為を容認することと同じなんです。我々は、許されざる行為を糾弾する役目を担わなければならないんです」

生命の危険を冒して大空襲下の下町を撮影しに行った石川の胸にも同じ想いが宿ったか。

明かされた犯行動機も空襲下の若い女性の矜持に関わるものだった。

大空襲の猛火の中を不意に出現する知己たち(恐らく死んでいる)に導かれて死地を脱した千世は新しい生と時代の象徴か。

石川、吉川とも実在の人物。
多量の資料から本書を紡ぎ出した作者の労は多とすべき。

作中には出版元の河出書房も登場する。
戦時下で唯一文芸誌の刊行を続けたという河出書房からただのミステリが出版されるはずはなかったのだ。

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2025年10月02日

Posted by ブクログ

何といっても印象深いのは
3月10日の東京大空襲の描写。
3ページに渡って全く改行がないので、
心して読み進めました。

そこには、
息をつかせる間も与えない、
この世とは思えないほどの
地獄絵図が描かれていました。
本書を持つ手が震え、
脳内が痺れるような感覚になりました。

正直に言うと、この3ページで
洋装女性の連続不審死に関わる
ミステリーの解き明かしの要素が
すべて吹っ飛んでしまうくらいの
破壊力のある描写でした。

ああ、戦争とは本当に本当に恐ろしい…。

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2025年09月16日

Posted by ブクログ

太平洋戦争末期の東京。洋装の女性の連続不審死を捜査する内務省防犯課の技師・吉川と警視庁写真室記録係の警察官・石川。実在した二人を主軸に、戦争の地獄とその時勢でも抵抗を貫いた様々な人々を描く戦時下ミステリ。

ミステリ好きならピンとくる「吉川線」の生みの親吉川澄一が出てくるだけでも期待が高まる。空襲で多くの人が無惨に亡くなる中、自殺とも思える数人の女性の死を捜査する意義を見出せないでいる石川。「罪を見逃すのは、罪を許容することと同義なんです」吉川が語った言葉が重い。

空襲の惨禍、死にゆく人を記録写真に残すという任務に疑問を抱く石川が、吉川の毅然とした姿に自らの任務の重さを自覚していく過程がいい。
吉川も石川もそれぞれの道で、未来を明るく照らす一助として天職を全うしようとする姿に感動する。
そして、永井荷風をはじめとするバー“十戒”の常連たち、ドレ女の女性たち、美容師の八並など市井の人々がそれぞれの方法でこの理不尽な戦争に抵抗している姿が尊い。究極の同調圧力の中で変わらないでいることって本当に難しいと思う。

そして圧巻はやはり東京大空襲の描写。見開き4ページにわたる改行なしの短文による畳みかけに圧倒される。
石川光陽さんの写真展、今年昭和館でやっていたんですね。見にいけば良かったと後悔。次に機会があったら必ず行きます。

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2025年11月28日

Posted by ブクログ

太平洋戦争末期の東京、洋装の若い女性の連続首つり自殺が起こる。自殺と扱われていたが、不自然さを感じた内務省の吉川澄一は、警視庁所属のカメラマン石川光陽と捜査を始める。
米軍の空襲が激しくなった東京、軍部の推奨するモンペを嫌い、禁止されているパーマをあてたヘアスタイルで自作の洋装を纏う女性たち。エレガンスへのこだわりと、連続偽装自殺の関連は?

実在した鑑識担当の吉川澄一とカメラマン石川光陽だけでなく、永井荷風も登場する。実在した人をモデルにした登場人物もいて興味深い。ドラマか映画になりそう。
3月10日の東京大空襲の場面は、読むのがつらい。

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2025年09月18日

Posted by ブクログ

内容を知らずに読んだら戦中の話で驚いた。吉川線の吉川さんはこの時代の方だったんだ。事件も興味深かったが、戦中の描写が読んでてしんどかった。空襲、撮影するカメラマン、モンペを拒否して自分の好きな服を作る女性たち。自分が子供の頃は戦争は歴史の一部でしかなかったけど、今はむしろ身近に感じられて恐ろしい。

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2025年08月28日

Posted by ブクログ

第二次世界大戦中に起きた洋装女性連続不審死

貧しく、死が身近にあった時代に美しく“エレガンス”に生きようとした女性たちがいた。
非国民だと誰に非難されようとも、美しくいきたいと願った女性たち。事件を追う中でそんな女性たちに出会う。

そんな生き様に触れ感動

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2025年08月23日

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