【感想・ネタバレ】新装版 虚無への供物(下)のレビュー

あらすじ

アパートの一室での毒殺、黄色の部屋の密室トリック――素人探偵・奈々村久生(ななむらひさお)と婚約者・牟礼田俊夫(むれたとしお)らが推理を重ねる。誕生石の色、五色の不動尊、薔薇、内外の探偵小説など、蘊蓄(うんちく)も披露、巧みに仕掛けたワナと見事に構成された「ワンダランド」に、中井英夫の「反推理小説」の真髄を見る究極のミステリー!
新装版へのあとがき、地図、年譜を収録。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

めちゃくちゃ面白かった。

想像は時として現実をも凌駕し、新しい物語を生み出す。蓋を開けてみれば、なんだ、こんな感じ?
なんだけど、時代の背景と相まって、なんとも言えないスカッとしない感じが底にあって面白い。

読んだ本と知識が半端なくすごいと思うのだが、
『黄色い部屋の秘密』なんかも、あ、犯人言っちゃうんだ…

『現実に耐えられなくて逃げこんだ非現実の世界は、現実以上の地獄で、おれはその針の山を這いずるようにして生きてきたんだ。』

終章の蒼司の告白が最高だった。考えて考えて考え出した答えは歪曲し、別の方向へ怒りとして矛先をかえる。自分が納得した形があれだ。
無責任な好奇心の創り出すお楽しみ...
どうやって自殺を食い止めるのか。

真犯人は私たち御見物衆。ちょっとだけ無責任な好奇心の先にある物語。まさに虚無への供物。

この本は読めてよかった。

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2023年07月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

まず、単純に面白い。奇書とか墓碑銘とか何も気にせずに読んだとしても、不動ー薔薇ー犯罪の符号(特に黄色の薔薇には驚かされた)や、三重の密室トリックはとてもレベルが高く、珍説もあるものの、推理合戦はかなり楽しかった。

そして”楽しんだ”後に訪れるのがあの仰天とも肩透かしともとれる真相。
しかし、これは「肩透かし」だと思ったらもう十分に犯人たる資格を有していることになるのだ。事件が起こる前からヒヌマ・マーダーなどと騒ぎ立てている久夫たちと同じく、これは殺人事件でなにか突飛なトリックが使われているに違いないと思い込み、”楽しみ”にしているということなのだから。

反推理小説であり、著者自身は「反地球での反人間のための物語」とまで言った作品だが、やはりこれほどまでに評価され読まれ続けているのは、解説にもある通りこの作品自体が面白いからに他ならない。
流暢で読みやすく、それでいて独自の世界を築いている文体もどこかクセになる。
これからも推理小説史に間違いなく燦然と輝き続けるだろう。

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2022年02月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

三大奇書の一角にしてアンチミステリーの代表作、という前情報は得ていたので途中から段々「あれ?もしかしてこれ全部ただの事故や自殺なのに探偵役らが勝手に殺人事件に思い込んでキャッキャしてるだけなのでは…?」とヒヤリとしましたがちゃんと犯人はいました。よかった(?)
アンチミステリーの所以たる一連の『他人の不幸をよってたかってエンタメにしてんじゃねーよバーカ!』の流れにはギクリとした方も多いことでしょう。ハイわたしです。
巻末には約20年後の短編が収まっておりなんだかんだで皆元気そうで何より。

…ところで玄次の事件ってただの自殺ってことになってますがあの不可解な状況や齟齬は結局なんだったんですかね…?

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2023年05月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「事件が起きる前に、殺人を犯しそうな人物を予想する」まではまだ理解できたんですが、これが「起きるに違いない事件を小説に書き下ろしてみて、その犯人とトリックを推理する」までくると理解できるようなできないようなで、さらにそこから「叙述トリックがありました!」って、叙述も何もまだその殺人起きてないんだけど!?とまさにワンダランドの世界。 推理合戦で一度は否定された推理がやっぱり正しかったり、かと思わせておいて正しくなかったり、読み終わった時には”面白かった”以前にようやく迷宮を抜けた達成感がありました。

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2022年12月20日

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ネタバレ

読み終わってすぐの感想は、あんまり奇書感無かったな。と。
で、アンチミステリと言われる所以は、突然作中作が挿入されるところと、クライマックスで蒼司が亜利夫を始めとする探偵ポジションの登場人物たちを痛烈に批判するところかと思ったら、ネット上の見解では事件が起こる前に推理合戦が盛り上がるところを指してるらしい。
私自身はどれもトンデモ推理だったから「この話大丈夫?」としか思えなかった。
ちょっと抱いた感覚を間違えちゃったみたい(笑)。

舞台となっている1954〜55年の実際の社会事件を取り入れながら物語は進むんだけど、語り口が少し後世から振り返ってる視点なので、ちょっと分かりにくい。もう少しストレートに描写して欲しい。
ほかにもいろい読みにくいところがあって、誰か得手のストーリーテラーにリライトして欲しいと思った。京極夏彦あたりとか。違う話になりそう(笑)。

でも、残り6分の1くらいまでは「これマトモに終わるの?」って気分だったけど、真相に近づくにつれトンデモ推理だったものが伏線となって少しずつ真実に迫っていたことが明らかとなる過程は、普通に作品として素晴らしかった。犯人候補が何度となく入れ替わる展開も見事で、果てに行き着いたホントの真相もちゃんと合理的で納得できるものだった。
蒼司の亜利夫達に向けた魂の叫びのような批判は心に刺さったし、読み応えあった。
悲しいことがあった時、精神の逃げ場になる妄想力が欠如した理系人間は大変なんだな…(←そこ?)

何が言いたいかといえば、牟礼田の出し惜しみ感がムカツク。ホント何をしたいのか分からない。
だからこそ、ラストの久生から牟礼田への「お前こそが黒幕だ」との糾弾は、本作品の(私にとっての)価値を高めてくれた。

その意識で再読してみるといいかもしれない。

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2021年06月02日

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ネタバレ

下巻に入って一気に面白くなる。牟礼田は相変わらず思わせぶりなことを言うばかり。最初から最後まで人のよいアリョーシャがあわれ。黄色い部屋の謎も読まないと。読者が犯人とされる小説と聞いてどんなカラクリだろうと思ったのだが、事件でもないものを事件と騒ぎ立てる探偵やそれを喜ぶ読者に対する批判と読み取ればよいのかな。なるほどアンチミステリーであり奇書である。

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2021年04月02日

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ネタバレ

三大奇書のうちの一冊を、やっと読んだ。
ずっと、いつか読まなきゃと思っていて、竹本健治の『ウロボロスの基礎論』を読んで、いよいよ読む時が来たと、読まなくちゃいけないと思って、読み始めた。

アンチ・ミステリーというものがどういうものなのか、わかったような、わからないような。私にとっては、そういう呼ばれ方、ジャンルってあんまり関係ないのかも。
ただ、推理小説というもの、謎があって、それをどうにか解こうとする人たちとそれに付随する物語が好きなんだなと思った。

最後の告発、すごい迫力だった。
蒼司の告発も、牟礼田、久生のも、全部……。
推理小説を揶揄したり自嘲したりで「意外性を狙って探偵が犯人、犯人不在、果ては読者が犯人とか……」みたいな文章をたまに読むけれど、この物語が発端なんだろうか。

全部読んで、また最初から読み直したくなったし、何度も読み返す人がいるのもよくわかる。
蒼司はあのあとどうしたろう。
切ない。悲しい。

どうにもならない事故や災厄に、人間の作為、悪意をまぶせることで、どうにか自分の気持ちを落ち着けたくなる、人間として死んだのだと思いたいという、そういう気持ちは、今、この時代にもすごくわかる事のような気がする。
切ない。

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2020年10月09日

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ネタバレ

上下巻の感想。
途中まではついていけてたと思うんだけど…
色んな人がいろんな推理をして、それが全部覆されて、結局…あー、アンチミステリってそういうことか、と納得するも何かすっきりしない。
藍ちゃんがかわいかったり、蒼司の鎖骨が美しかったり、そういうところばかり気になってしまう…

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2019年05月28日

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ネタバレ

登場人物の一人にすごくイライラしながら読んでいたので、下巻ラストの犯人の告白にはスカッとした。と同時に、あの犯人は私自身(読者)のことも指摘したように思う。物語とはいえ私も安全地帯から事件を眺めているので私だってお化けであり、また虚無の一部であるんじゃないかと…。現実の世界で私はお化けになっていないだろうか?もしなっているとすれば、お化けじゃない存在になるためにはどうすればいいんだろう?

あと謎が一つ。犯人は自身のしたことを「別の意味で[虚無への供物]といえる」と語っているけど、この意味をあまり理解できていない。この本のタイトルが使われている台詞なのですごく重要だと思うのだけど…お化けがいるという虚無に対し、自分自身の行為を供物としてささげたということだろうか?もう一回読んだり解説を見たりしながらでないと理解できそうもない。

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2018年12月27日

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ネタバレ

古典を読んでみようシリーーズ!!
題名とミステリの金字塔的な位置づけ?(違うかも)なのぐらいしか知らずに読んでみましたが、…こんな感じかぁ~という感想。
なんか耽美な感じ??最近でいうと古野まほろみたいな???
とりあえず脳内再生のアイちゃんは若いころの美輪明宏さんでした(笑)

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2024年06月21日

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ネタバレ

「虚無への供物は、それでも次々と葉を噴き出していた。その葉も白緑に若々しく、縁のギザギザだけがうっすらと紅い。とげはまだオルゴールの針に似て固いが、これもすぐ蜜蝋をたらしたように透きとおってゆくのであろう。」

凶鳥の黒影。1955年。洞爺湖転覆。連続火災。奇怪な事件。密室に次ぐ密室。存在しない花の組み合わせ、五色の不動尊や色との不気味な暗合。
緑司や玄次の死、アイヌなど、大して種明かしはなく偶然や思い込みで片付けられてしまって、トリックが一貫した動機の解明と満足感があるかというと、そうではない。また、登場人物の会話と推理がすぐれているかというとそうでもない。推理小説としてより幻想文学として、言葉や巧みな隠喩と、洋楽や他の文学作品の知識に裏打ちされた世界観が次々と繰り出される様で、不在と予感のうちに事件が幕を閉じる、咲かないままに抜かれる薔薇「虚無への供物」のような小説があってもいい、そういう意味での「奇書」なのかと思いました。

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2022年05月22日

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ネタバレ

ミステリ好きとしては伝説的な本作をなんだかんだではじめて読みました。感想は上下あわせてのものです。
なんというか・・・ところどころ楽しく面白く読んではいたんですが、読み終わってみると「ピンとこない」の一言・・・ですかね。まあ序盤からしてミステリ好き達が実際の事件をおもしろおかしく話しまくってるのを見てどことなく不謹慎さを感じつつも「そういう時代だったのかなあ」と思っていたらそれこそが・・・という。最後になって急に登場人物に糾弾されましたが「いやお前が言うな」という気分に。
あとミスリードな部分とか探偵役の思わせぶりな話とかがさすがにちょっとしつこく感じましたかね。

ところで自分が読み逃してしまったのか理解が及ばなかったのか・・老人ホーム火災の「一人増えた遺体」は結局誰なんでしたっけ??

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2021年10月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【ネタバレあり】



とりあえず読んだだけでいっぱいいっぱいだった初読時よりは内容を理解できた…と思う…けど、正直どこまでが事件の本筋だったのか、あやふやな感じです。
紅司の殺害現場に意味ありげに洗濯機の中から出てきたゴム毬ですが、犯人いわく「なぜそんなことをしたのか、自分でも説明できないが、そうせずにはいられなかったから」という、力技にはちょっと笑った。なんじゃそりゃ。
ミステリ的には疑問に思うところもいっぱいあったけど、この小説の暗くて妖しい雰囲気はとても好き。
犯人は狂ってると思ったけど、一番恐ろしいのは牟礼田なんじゃないかという気がしました。

読者として読んでいる分には素人探偵たちの推理合戦は面白いけど、事件当事者としたら実際の事件をオモチャにされて引っ掻き回されて、たまったもんじゃないだろう。この小説の時代から60年以上経った今読んでも、ラストの犯人の台詞にはどきりとさせられる。新聞やテレビで報道される事件を、推理小説を読むように、心のどこかで面白がってはいないだろうか。ステージをネット上に変えて、現代の「虚無」が生み出されていくのだろう。

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2019年08月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

満を持して登場した牟礼田さんがあんまりにもあんまりだった件。
含みのあることを言いつつ、すぐはぐらかすし。ぎぎぎ。
久生さんよ、結婚はやめとけーやめとけー…と余計なことまで思いつつ。
藤木田翁は結局下巻は出番が無くて残念。
くどいけど、牟礼田さんのあとだと好感度が上がる不思議。ふっしぎー。

引用される推理文学の、ポーや乱歩は全然読んでないので読んでみたくなりましたねぇ。
コナン・ドイルも結構抜けてるの多いから、探してみようっと。

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2025年05月28日

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