【感想・ネタバレ】七三一部隊の日中戦争 敵も味方も苦しめた細菌戦のレビュー

あらすじ

七三一部隊にとどまらない細菌戦の実態 日中戦争のさなか、人体実験や細菌兵器の開発と製造に携わったとされる関東軍防疫給水部、通称七三一部隊。組織の中心にいたのは、部隊長・石井四郎を筆頭とした、日本を代表するエリートたちだった。また細菌戦は満洲の七三一部隊だけではなく、他の四つの部隊でも実行された。日中戦争史の専門家が、陸軍参謀本部の視点や作戦史も踏まえながら、細菌戦の知られざる実態に迫る。なぜエリートたちが細菌戦にのめり込んだのか? 【本書の要点】●細菌兵器はもともと対ソ戦で使うはずだった ●七三一部隊は石井四郎を中心とした京都帝大医学部閥 ●葛藤しながらも細菌兵器の製造に加担した軍医たち ●新発見! 「藤原ノート」が示す重要な事実 ●ペスト菌に感染させたノミを投下するPX攻撃 ●中国軍も細菌戦を実行していた? ●日本本土で細菌兵器が使用されたかもしれない 【目次】●序章:七三一部隊と細菌戦の研究史 ●第1章:細菌戦部隊の実像 ●第2章:細菌戦の始まり 一九四〇年浙江省寧波・衢州・金華の細菌戦 ●第3章:日中戦争最前線での細菌戦 一九四一年常徳細菌戦 ●第4章:「後期日中戦争」と細菌戦 ●第5章:華北における細菌戦 ●終章:細菌戦部隊の最後

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Posted by ブクログ

 1928年に中国の奉天で張作霖(ちょうさくりん)爆殺事件に端を発し、1931年の満州事変「中国名は柳条湖(りゅうじょうこ)事件」、1937年の盧溝橋(ろこうきょう)事件と日中全面戦争は、別名「日中15年戦争」と言われる。日本軍は中国において長期的に侵略と謀略を繰り返し、国民党軍と中国共産党軍は中共合作をもって、連合国の支援も受けながら日本軍に徹底抗戦した。
 本書は、日中戦争とその後のアジア太平洋戦争期の中国で行われた日本軍の細菌戦を、日本側に残る資料や元兵士の証言、中国の資料、戦後ソビエトに抑留されたハバロフスク裁判録など、多彩な資料を縦横に駆使し、日本軍七三一部隊の細菌戦をあぶり出す。1928年のジュネーブ議定書で国際的に細菌・化学兵器が戦時利用できなくなったにもかかわらず、物資確保のため東南アジアに戦端を広げたことで、中国で戦闘を続ける日本兵の補充の代わりに細菌戦を活用したとする。日本軍が中国で細菌戦を始めることになった日本軍の事情、細菌戦の具体的作戦内容と実際の行動、細菌戦の中国の被害と対策、及び日本軍にも被害が及んだ悪名高い浙贛作戦(せっかんさくせん)を詳細に検証する。なお、今日に至っても日本人の一部は七三一部隊が行ったことに目を背け、その歴史に蓋をするどころか、「自省史観」で捉えるべきところを「自虐史観」の大合唱となっている。日本政府の消極的な対応は、2025年3月21日に参議院予算委員会で七三一部隊を取り上げた日本共産党の山添拓偽委員の質疑に対して、中谷防衛大臣が従来の日本政府の見解を踏襲し、「七三一部隊の存在は認めるが、活動の詳細を示す史料は見あたらない」と答弁している点からも明かである。敗戦から80年を迎える今年、日本の加害の歴史に向き合うべく、多くの人が本書を手に取って、歴史の事実の積み重ねと向き合って欲しい。

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2025年08月01日

Posted by ブクログ

 731部隊を出発点とする日本軍の細菌戦部隊が中国戦場で細菌戦を行った軍事的理由と実相に迫ろうとした一冊。後期日中戦争史を研究する著者らしく、中国側の資料を積極的に採用したことで、国民政府や八路軍が日本軍の細菌攻撃にどう対処したかも追跡されている。
 本書の議論で重要な点は3つ。①中国戦場での細菌戦は陸軍中央(参謀本部)主導で行われ、日本軍の対ソ・対南方戦準備が進められる中で、兵力削減を余儀なくされる中での「合理的な」戦線維持の方策として注目された。②日本軍における細菌戦部隊は満洲の関東軍防疫給水部を親部隊として、華北(甲部隊)、華中(栄部隊)、華南(波部隊)、シンガポール(威部隊)と拡張されたが、方面軍管轄下の各部隊に石井の子飼いたちが送り込まれることでヨコの連携が確保されていた。③石井や日本陸軍中央は細菌兵器開発の水準に自信を持っていたが、国民党・共産党それぞれが防疫対策を推し進めた結果、日本側が期待したような「戦果」は挙がらなかったばかりか、日本軍兵士たちが逆に細菌に感染してしまう事例も起こっていた。

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2025年08月24日

Posted by ブクログ

日本が戦争中に行った細菌戦と言えば、石井四郎中将率いる731部隊による研究や実際にそれを用いた中国戦線での戦いが有名だ。本書を読む以前から、吉村昭氏の「蚤と爆弾」や森村 誠一氏の「悪魔の飽食」を始めとし、細菌兵器に染まる日本軍の戦いについて物語形式のものには触れてきた。然し乍ら、日中戦争から太平洋戦争に至り、敗戦までの全体を通じて、前述の731部隊にとどまらず、様々な部隊や戦局で行われた細菌戦について、全体を俯瞰して眺める機会はそれ程なく、戦後80年を迎えるこのタイミングで、一度読みたいと手に取ったのが本書だ。日本がかつて行ってきた兵器としての細菌研究、そして戦時だからこそ躊躇なく行われた、捕虜に対する人体実験。そしてやはり戦時という厳しい上下関係の中で昇進という誘惑に駆られていく医師たちの存在。様々な異常下に於いて、繰り返された研究と殺戮の歴史について学ぶ機会を得る事ができる。
日本軍はコレラ、ペスト、マラリア、赤痢など、戦時下以外でも人類を苦しめてきた病原菌などから、身を守るための「盾」としての研究。そしてそれらを攻撃兵器として用いようとした「矛」としての研究。それらは全く逆の目的であり、研究成果は人命を守るだけでなく、人命を奪うためにも利用される。本書には戦争という現代の日本人からすれば非現実的な世界に見える状況に於いて、特に攻撃面で用いられた事実の記載に目を背けたくなる文字が溢れている。戦時国際法からは虐待が許されない捕虜を「マルタ」と称し、次々と繰り返される人体実験。細菌の媒介者として用いるノミやネズミの飼育(製造)。一般市民の住む街への空からの投下、そして井戸や河川の汚染など、感染力の確認や拡大経路の分析、更にはその防止力を確認するための防疫への協力など、矛盾する行為も含みながら様々な研究が行われてきた。
戦後、戦犯容疑で拘束された者はその事実を心の中に封じ長きにわたって苦しむものが多かったが、中心人物であった石井中将はアメリカへの研究結果の譲渡という形で戦犯容疑からは逃れる。戦勝国の手に渡った研究成果はその後の医学に大なり小なり貢献したであろうが、人類の倫理観を遥かに超越したこれら日本軍の行為が正当化される事は永久に無い。敗戦と共に多くの一時資料は焼却廃棄された為、その事実の解明は未だ未だ充分とは言えない状況にあるという。戦争を経験した世代の多くが鬼籍に入る中、更にそれら事実の究明は難しくなるだろう。戦後80年を迎える今、戦争を知らない世代は改めて過去の日本が犯した過ちに目を向け、未来に平和を唱え続ける意義や意味を感じ取ってほしい。そのきっかけにもなる一冊だ。

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2025年07月25日

購入済み

新しい発見だ!

フリーズドライ細菌兵器とは?
ドライイーストの発明は?<第二次世界大戦中(1939年以降)、アメリカ人ビジネスマンのチャールズ・ルイス・フライシュマンさんが、米軍向きに粒状の活性乾燥酵母(イースト)を開発しました。> 731部隊はすでにそのころ、フリーズドライ細菌兵器を発明してました.にほんすげ~~~ なんで戦争に負けたん?実に不思議...(棒) 本書でも述べられている通り、中国はペストやコレラの流行地だったん.そんなとこでペストやコレラをばらまいたら、免疫のない日本軍が先に死ぬのは子供でも分かる.どうして中国でペストやコレラの細菌兵器をばらまく発想になるの?だから石井は狂人だと?
飛び跳ねる蚤をどうやって爆弾につめこむの?誰も教えてくれないの.
 それに若い著者は知らないみたいだが、大東亜戦争中、初期抗菌剤のサルファ剤を米軍は大量生産できていたが、日本軍はもっていなかった.1942年には米軍はさらにペニシリンの大量生産を成し遂げた.日本に入ってきたのは敗戦後だ.この医療技術の差も日本の敗因といわれる.なんで抗生剤すらない環境で細菌をばらまくの?
 ホントすごい!イースト菌は真菌(カビの仲間)で細胞壁がある.細菌には細胞壁がないので乾燥させれば死んでしまう.イースト菌よりはるかにむつかしい.731は現代からタイムスリップした?かわぐちかいじの「ジパング」か?
 しかし、なぜ彼らは731がペスト菌をばらまいたというストーリーを作って広めたがるのか?本当に生物兵器を製造して中国人を殺したいのなら、中国で流行していない中国人に免疫のない病原体を選択するはずだ.これもどこまで史実か不明だが、よく知られたストーリーで、「北米で英仏が植民地を争った18世紀フレンチ・インディアン戦争で英軍の将校がフランスと同盟関係にあったインディアンの部族に、天然痘患者の使用した毛布を贈って、天然痘を流行させて滅ぼそうとした」というのがある.西洋人が新大陸に上陸するまで南北アメリカ大陸に天然痘が存在しなかった.西洋人の上陸による天然痘ほかの流行で短期間で人口が3分の1にまで減ったという説もある.18世紀の北米ならまだ天然痘の免疫保持者は少数だったろうから、合理的判断だ.しかし、中国はペストの流行地で日本人はペストの流行を経験していない.ああそうか731がばらまかなくても、ペストが流行るたびに日本軍のせいにできる.

#笑える

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2025年09月28日

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