あらすじ
バラが咲き乱れる家で、新進気鋭の建築家・青川英樹は育った。
上品で美しい母。仕事人間の父。自由に生きる妹。
ごく普通の家族だと思っていた。
だが、妻が妊娠して生まれてくる子が「男の子」だとわかった途端、母が豹変した。
記憶の彼方にしまい込んでいたあの日、一体何が起きたのか――。
身も心も震える、圧巻の家族小説。〈解説〉藤田香織
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Posted by ブクログ
遠田潤子『イオカステの揺籃』中公文庫。
古くから続く『家』や『家督』、『跡継ぎ』といった日本文化を土台にした、息が詰まりそうになるほど非常に重苦しい家族小説だった。遠田潤子らしいと言えば、全くその通りなのであるが、最期には救いが用意されていることが、何時もの遠田潤子らしくない。
ストーリーの大半は、過去から心の中で引き摺る罪の意識と、それぞれが強い思いを抱える家族が、突然起きた小さな波により脆くも壊れていく姿を描いている。家族の絆というのは、こんなにも脆い物だったのだろうか。
妻の美沙と幸せに暮らす新進気鋭の建築家の青川英樹は、大手ゼネコンで働く仕事熱心な父親の誠一と上品で美しい母親の恭子に、バラが咲き乱れる家で育てられた。英樹の妹の玲子は両親とは一線を引き。自由気ままに生活し、鍵屋の羽田完という年下の男性と同棲していた。
英樹にとっては普通の両親だと思っていたのだが、英樹の妻である美沙が妊娠し、産まれてくる子どもが男の子であることが判ると母親の恭子が豹変する。妊婦の美沙に何かあってはいけないと異常なまでに干渉し、挙げ句の果てに美沙を自宅の2階に軟禁してしまう。
一方、英樹の父親である誠一は、仕事が多忙なことを言い訳に23歳年下の部下の長束悠乃と10年もの間、浮気していたが、突然、悠乃が違う男性と結婚すると言い出し、2人の間で揉める。そんな場面を玲子と完は目撃する。
やがて、明らかになる家族の忌まわしい過去の記憶と罪の意識、母子の間の異常な干渉の連鎖。僅かな均衡の上に辛うじて成立していた家族は一気に壊れていく……
本体価格980円
★★★★★