あらすじ
没落した家運を剣によって再興しようと淵辺道場に入門した平手幹太郎(造酒)は、稽古おさめの試合で筆頭代師範を破るが、その夜、破門を命じられる。強い自負心と出世への野望を秘め、酒も飲まず女遊びもせずに剣ひと筋に励みながら、その努力が空回りし、ついには意味もなく人を斬るまでの失意の青春を描く『花も刀も』。ほかに『枕を三度たたいた』『源蔵ヶ原』など全8編を収める。
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Posted by ブクログ
長編の『樅ノ木は残った』が想像よりも地味で抑揚のない印象だったのに比べ、短編集のこちらはどの話もいろいろな方向に色彩豊かで面白かった。
「落武者日記」「若殿女難記」「古い樫木」「花も刀も」「枕を三度たたいた」が好きかな。
「落武者日記」 実直で誠実でここぞというときに恐るべき肚の座り方を見せる祐八郎。石田三成にはこういう家臣がいただろうなーと思った。
「若殿女難記」 オチは早い段階で読めてしまうものの、テンポがよく楽しかった。「解説」には戦後の解放感が広がる時期に書かれたとあり、なんか納得。
「古い樫木」 福島正則やなヤツだーなどと思いながら読んでいたが、予想外に爽やかさの残る結末だった。
「花も刀も」 平手造酒(この話では幹太郎)という人物を初めて知った(『天保水滸伝』の登場人物として昭和の中頃まではかなりメジャーだったのね)。めぐり合わせの悪さが連続し、それが臨界に達して破綻するまでの過程がつらかったが、不思議と爽やかさもあった。
「枕を三度たたいた」 予想外な結末で面白かった。林之助の行動はぶっ飛んでいるが、人間性の本質は『樅ノ木は残った』の原田甲斐に似ているのだと思う。
(2025.9.23)