あらすじ
高校の先輩、小田切孝に出会ったその時から、大谷日向子の思いは募っていった。大学に進学して、社会人になっても、指さえ触れることもなく、ただ思い続けた12年。それでも日向子の気持ちが、離れることはなかった。川端康成文学賞を受賞した表題作の他、「小田切孝の言い分」「アーリオ オーリオ」を収録。(講談社文庫)
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Posted by ブクログ
登場人物の立ち位置や距離感、禁欲的でありながら他者を拒絶していないところに好感がもてる。だからといって自己卑下もなくて、人づき合いに疲れている時に読みたくなる本。
てらいないように書かれているけど、きっとこんな作品を書くのは大変なスキルとセンスが要るのだろうと思う。
Posted by ブクログ
2005年(第2回)。4位。
「袋小路の男」日向子は高校の先輩に恋をした。しかし、大学に入りOLになっても、いわゆる友人以上恋人未満。その中で恋(日向子は浮気という)もしたけど。なんかさ、思い出すよ、若いころ。なんだかうまくいかない恋ってあるよ。
「小田切孝の言い分」男の側からの日向子との関係。
「アーリオオーリオ」中学生の姪と文通する30代男。パスタばかり食べてるらしい。これは、唐突に終わった感が。
不思議な世界観で、機会があれば読んでみたい作家かなぁ。
Posted by ブクログ
表題作の『袋小路の男』、『小田切孝の言い分』『アーリオ オーリオ』の3編。
前2作は、12年間思い続け手を触れたこともなく「10円玉の温度で暖かさを感じる」。こういう男女の関係を純愛というの?女性が男性に振り回されている感はありますが、一線を超えたらこの今の関係が崩れてしまうのを恐れているのでしょうか。もどかしいけれど、なんだか懐かしい感覚も抱きました。
『アーリオ オーリオ』は叔父と中学生の姪が手紙でやりとりをするお話。微笑ましい。
Posted by ブクログ
淡々とした文章だけど、降り積もって味わいが出てくる感じですごくよかった。
日向子は「かっこいい」の額縁を作って抱えてそれ越しに小田切を見ている感じ。一途と言えば一途だけど思い込みもあるし流されやすいし、平気で人んちの物パクったりする人間性。小田切は小田切でそんなかっこよくない、日向子以上にいい加減なダメ人間ではある。
あくまで日向子の額縁が前提で、額縁越しの関係だから続いてる関係なのは、二人とも薄々分かってる。日向子はあんなにしたがってるのに、そんな魔法が解けるようなことはお互い絶対しないという……。
長い年月を経て額縁が透明になってしまっても、それを掲げ続ける日向子の覚悟が好き。本当はかっこ悪いところも現実も全部見えてるのに、小田切さんは絶対大丈夫って確信する覚悟。
覚悟じゃなくて残った選択肢がそれしかないだけじゃないか、ということかもしれないけど、それにしたってきちんと自分の手で選び取った、というのが最後の決断で表明されているのだと思う。
そして最後の2行、小田切が自分の表明を受け入れてくれたことを日向子がそっと悟るのがあまりに良かった。関係は変化していないようで、決定的になったのだと感じる。「あなたにとって私って何なんですか」っていう自分の問いに、自分で答えを出したんだね。
アーリオ オーリオもロマンチックでよかったな、星と目に見えないエネルギー、終わりの話。ちょっとづつ距離を詰めてくる無邪気な美由がかわいいし、その純粋な終わりへの恐怖にせつなくなる。
「でもアーリオ オーリオがあるから大丈夫なのです」
彼女はそう最初に書いていた。そう、大丈夫なんだ、自分がいなくなってもそこに世界があるっていうのは、救いじゃないかなと思うのだけど。