【感想・ネタバレ】袋小路の男のレビュー

あらすじ

高校の先輩、小田切孝に出会ったその時から、大谷日向子の思いは募っていった。大学に進学して、社会人になっても、指さえ触れることもなく、ただ思い続けた12年。それでも日向子の気持ちが、離れることはなかった。川端康成文学賞を受賞した表題作の他、「小田切孝の言い分」「アーリオ オーリオ」を収録。(講談社文庫)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

登場人物の立ち位置や距離感、禁欲的でありながら他者を拒絶していないところに好感がもてる。だからといって自己卑下もなくて、人づき合いに疲れている時に読みたくなる本。

てらいないように書かれているけど、きっとこんな作品を書くのは大変なスキルとセンスが要るのだろうと思う。

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2025年04月17日

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こういう、どうしようもない、抗えない、恋かどうかすら分からないけれど離れられないって話、すごく好きです。同時収録の話も大好き。

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2023年10月20日

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どうしようもない男と、そいつを一途に好きな女の両面エピソード

以下、公式のあらすじ
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高校の先輩、小田切孝に出会ったその時から、大谷日向子の思いは募っていった。大学に進学して、社会人になっても、指さえ触れることもなく、ただ思い続けた12年。それでも日向子の気持ちが、離れることはなかった。川端康成文学賞を受賞した表題作の他、「小田切孝の言い分」「アーリオ オーリオ」を収録。
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表題作の方は女性の一人称視点で描かれている。
高校一年生のときに男と出会い、恋人未満で友達のようなそれでいて近しいという不思議な関係のまま十数年
就職して遠距離になっても気になるあいつという、何とも昭和的な風情が漂う
男の方はまぁ、典型的な「だめんず」なので、「嗚呼なるほど、これがだめんず・うぉ~か~か」という妙な納得感がある
顔が良くて、仕草や態度も無頼を気取っていて、大学卒業後も定職に就かずに小説を書きながらもまったく受賞しないという体たらく

どうしてこんな男を好きになってしまうのか不思議ではある
ただ、次の「小田切孝の言い分」になると、男側から三人称視点で描かれているので、二人の関係性の印象がちょっと変わる
「私」と「あなた」だったのは、「大谷日向子」と「小田切孝」となることで、二人に対する客観的な視点が見えてくる

まぁ、それでもだめんずだし、だめんず・うぉ~か~だなという印象派大きく変わることはない
だけど、こんな二人って、割れ鍋に綴じ蓋のように、丁度よい関係なのかもと思わないでもない



・アーリオ・オーリオ

叔父と姪との手紙のやり取りのお話

個人的にはこっちの話の方が好みだな

多分、テーマは「距離」もしくは「距離感」だろうか?
叔父と姪という関係もそうだし、年齢差もそう
そして、手紙というツールを使うことで、やり取りに発生する時間を二人の距離として感じる

三光日というのは科学的には正しくないけど
コミュニケーションの取り方とその手間を考えると良い表現だなぁと思った

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2024年12月18日

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うん、好きだ!

3編からなる短編集。
『袋小路の男』と『小田切孝の言い分』は
同じ男女を描く視点違いの2編。
この2つ好きだわ〜。
名前はつけられないような関係性。
とくに“バカだな”のくだりがしびれた。

『アーリオオーリオ』は叔父と姪の文通で、
星座や星がキーワードになっている。
こちらも静かな物語で素敵だった。

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2024年03月06日

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ネタバレ

なんかもぞかしいというか、厄介というか、お互いにどっちもどっちな気がする。人の恋愛を見てもぞもぞしたい人にはいいかも

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2024年01月14日

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最初の2つは同じ登場人物を視点を変えた話で、そんな構成ありかよ!最高。と思いました。絲山さん2冊目にして何となく男の登場人物の傾向が分かった気がする。どっちつかずでダメだけど、セックスや結婚がセットにならない、友達とも恋人とも違うぬるま湯のような関係が心地よい。十円玉の温度で手のあたたかさを知る、すごい一文だった。アーリオ オーリオは美由の瑞々しい感性がが光る作品だった。時間のかかる手紙でのやりとり、哲と美由の距離感と星の話がリンクして美由の淡い恋心が流れ込んでくるようだった。かなり好き。

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2023年02月06日

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ネタバレ

2005年(第2回)。4位。
「袋小路の男」日向子は高校の先輩に恋をした。しかし、大学に入りOLになっても、いわゆる友人以上恋人未満。その中で恋(日向子は浮気という)もしたけど。なんかさ、思い出すよ、若いころ。なんだかうまくいかない恋ってあるよ。
「小田切孝の言い分」男の側からの日向子との関係。
アーリオオーリオ」中学生の姪と文通する30代男。パスタばかり食べてるらしい。これは、唐突に終わった感が。
不思議な世界観で、機会があれば読んでみたい作家かなぁ。

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2022年11月23日

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ネタバレ

表題作の『袋小路の男』、『小田切孝の言い分』『アーリオ オーリオ』の3編。 
前2作は、12年間思い続け手を触れたこともなく「10円玉の温度で暖かさを感じる」。こういう男女の関係を純愛というの?女性が男性に振り回されている感はありますが、一線を超えたらこの今の関係が崩れてしまうのを恐れているのでしょうか。もどかしいけれど、なんだか懐かしい感覚も抱きました。
『アーリオ オーリオ』は叔父と中学生の姪が手紙でやりとりをするお話。微笑ましい。

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2022年09月26日

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読書開始日:2022年9月19日
読書終了日:2022年9月24日
所感
【袋小路の男】
【小田切孝の言い分】
小田切孝は虚勢を張る。
つい弱音を吐くと、メッキが剥がれ、人が離れていく。
わたしは小田切孝がハリボテだと気づいているが、愛しているから離れない。
小田切孝もそれに気づいているから離れない
でも近づきすぎると、小田切孝が自身の弱さを目の当たりにし、わたしもわたしで小田切孝の弱さを受け止めきれないかもしれないと不安に苛まれ、先に進まない。
それでも時間をかけ、進まないことこそが二人の関係性とお互いが気づき、袋小路のぺんぺん草になった。

【アーリオ オーリオ】
素敵なお話のようだったけど、理解ができなかった。
きっと自分は譲側であり、小島側なんだと思う。
でも哲のような、自然の中でも見えない自然にまで興味を示せる人間は、好奇心があってカッコイイと思う。

袋小路にはまってる。
反時計廻りに回った
なんて無謀なんだろう、なんて素敵なんだろう

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2022年09月24日

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究極の片想いの話。

二人称のあなたで語られる事で、読者それぞれのあなたに重ねて物語を読むことができる。

小田切が入院して弱っている時、包み込んで抱きしめてあげたいけど、それは「してあげること」だから許されない。限りなく似ているのに、違うことだから...
彼女にしか許されないことをしてあげたいのに、今の関係が壊れることを恐れてできないもどかしさがうかがえた。

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2022年01月21日

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プラトニックながら心は差し出す。
ただ期待したような反応がないだけ。
恋愛って大部分がそういうもんじゃなかろうか。
差し出したものと同等のものが感じられる恋愛は、
相当の観察と場慣れの成果だと思ってる。私は。
(少数派なのかも。わからない。。)
それでもどちらかの熱量が大きくて、その比重のデタラメさをもろともしない恋愛が、これなんだろう。
何度も傷を作って、泣いて、不貞腐れたり、腹を立てたり。そして落ち着いてホームと言うべきこの場所へまた戻る。そんな長くて辛い恋愛。
その大きな気持ちを受け取る男は、女のことを適当にしているわけではなかった。
《饒舌で自分の思うところはもちろん、関係のない仕事の話や友達の話までもしたがる。概して彼は聞き役に回ることを不快に思わなかった》
から解るように、一方通行と思われた恋愛にちゃんと応えていた。ただ、女が気づかなかった。空回り。

騒がしく空回りしながらも離れない2人を微笑ましく読みました。
小田切孝の言い分 を読んでから読み返すと全然違った話になって、再読おすすめです。

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2021年09月17日

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「袋小路の男」「小田切孝の言い分」
今までこういう話はやきもきしたりじれったいなあと思いながら読んで、最後は(軽い言い方になるけど)こういう恋愛にいい意味で酔って終わることが多かったけどこの作品だとなぜか穏やかな見守るような気持ちで見れたし、爽やかさすら感じる読後感だった
かっこいい小田切からかっこ悪い小田切への変化が全然嫌じゃなく、まさに「嫌いも含めて好き」というやつだった
「アーリオ オーリオ」も素敵だった

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2020年10月19日

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ネタバレ

淡々とした文章だけど、降り積もって味わいが出てくる感じですごくよかった。
日向子は「かっこいい」の額縁を作って抱えてそれ越しに小田切を見ている感じ。一途と言えば一途だけど思い込みもあるし流されやすいし、平気で人んちの物パクったりする人間性。小田切は小田切でそんなかっこよくない、日向子以上にいい加減なダメ人間ではある。
あくまで日向子の額縁が前提で、額縁越しの関係だから続いてる関係なのは、二人とも薄々分かってる。日向子はあんなにしたがってるのに、そんな魔法が解けるようなことはお互い絶対しないという……。

長い年月を経て額縁が透明になってしまっても、それを掲げ続ける日向子の覚悟が好き。本当はかっこ悪いところも現実も全部見えてるのに、小田切さんは絶対大丈夫って確信する覚悟。
覚悟じゃなくて残った選択肢がそれしかないだけじゃないか、ということかもしれないけど、それにしたってきちんと自分の手で選び取った、というのが最後の決断で表明されているのだと思う。
そして最後の2行、小田切が自分の表明を受け入れてくれたことを日向子がそっと悟るのがあまりに良かった。関係は変化していないようで、決定的になったのだと感じる。「あなたにとって私って何なんですか」っていう自分の問いに、自分で答えを出したんだね。

アーリオ オーリオもロマンチックでよかったな、星と目に見えないエネルギー、終わりの話。ちょっとづつ距離を詰めてくる無邪気な美由がかわいいし、その純粋な終わりへの恐怖にせつなくなる。
「でもアーリオ オーリオがあるから大丈夫なのです」
彼女はそう最初に書いていた。そう、大丈夫なんだ、自分がいなくなってもそこに世界があるっていうのは、救いじゃないかなと思うのだけど。

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2020年07月24日

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「袋小路の男」というこの本の中に収めてある三つの小説のうち、「袋小路の男」「小田切孝の言い分」という二つの小説は、いわゆる恋愛小説だが、ちっとも恋愛小説ではない。
 同じ関係を男の側と女の側から描いて、二つの話にした感じだが、変な男と困った女の奇妙な関係が淡々と続くだけだ。まぁ、たとえば、高校生向けとはいえない。
 三つめの「アーリオ オーリオ」という小説は中三の少女と叔父さんの話。叔父さんと宇宙の話なんかしているのは受験勉強の邪魔だとしかられた少女が叔父さんに出した最後の手紙には「私が死んでしまっても、世界はこのままなんでしょうか。宇宙もずっとあるんでしょうか。」と書かれている。
 現実の生活の「終わり」に気づくと、現実は揺らぎ始める。自分がいつどこで生きているのかなんて、わかりきっていることだったのに。何万光年という宇宙の時間の、一体どこに私たちはさまよっているのだろう。そんな問いに、ふと取り付かれて小説は終わる。

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2019年02月22日

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人の数だけ、絆の形 や 独特の距離感 があっていいんだと、肯定してくれる
女と男 双方の視点から書いているのがいい

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2019年01月25日

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2005年第2回本屋大賞第4位。
3つの短篇集です。
2つは連作になっており、同じ二人について、女性目線と第三者目線とで、それぞれ描かれています。
距離感って大事です。

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2025年08月23日

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 2004年第30回川端康成文学賞を受賞した表題作含む3編収録の短編集。
 他人が自分のことをどう思っているのか、またあまり大きな声で言えないが、自分が他人のことをどのように捉えているか。このあたりの心理描写が巧みに描かれている。

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2024年11月30日

Posted by ブクログ

純愛というより、特定の他人に対して甘えることを通して、それによってなんとか自分と世界のバランスを維持している、そんな関係を描いている。それは一種の共依存なのだろうが、その言葉で簡単に片付けてはいけないと一方でそのようにも考えてしまうのは、描かれた二人の時間の確かさにあるのだと思う。

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2024年05月23日

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3つの話から構成されていて初めの袋小路の男がラブレター?で2つ目がそなアンサー的な話になっている
不思議な関係の2人の物語
出会ってしまったが結ばれる事なく続いていく、これはもはや純愛なんだろうかと思いました
くっついたらいいのにと思ってしまいますが、そうならないのが不思議な関係なんでしょうね
3つ目のお話は別の話と思うのですが、何か関係が隠されてるのでしょうか?
最後がすっと終わってしまいよくわかりませんでした

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2024年04月08日

Posted by ブクログ

なんとやっかいな…指一本触れられないからこそ、前にも進めず嫌いにもなれず、諦めもきれずに生殺し 実際そんなに大したことない男でも、恋する女の献身的で盲目的な恋愛には、厚さ15cmくらいあるフィルターがかかっていて、周りの声もまったく耳に入らない そうなんだよねえ、知ってます 感情を持て余しすぎて自己消化不全に陥って、むしろ冷静に置かれた状況や自分の感情を冷静に捉えている日向子の分析や思いに多分に共感して読んでいて苦しくなりました

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2023年11月11日

Posted by ブクログ

最近仕事忙しくて本読めなかったけど、合間に読みました。短編が3つ。1つ目と2つ目は同じ登場人物の話。恋愛小説ですが、心理描写は細かくしているものの、全体的には淡々と簡明に書いている印象。共感とかはなかったけど、詩的で良いんじゃないでしょうか。

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2022年12月15日

Posted by ブクログ

 切ない平行線。互いの心情は包み隠さずストレートに表現される反面、男女が心身共に交わる事なく時が流れる。読み手のその時の感情によっては歯痒くも感じられる場面が次々と繰り返されるものの何故か納得感も覚えさせられ、物語と読者との距離も接する事なく一定の間隔を保ったまま結びの行までだどり着いてしまうような不思議な短編たちでした。
 気付かぬうちにするりと読み進めえられるのは話の展開だけでなく文章の書き方が上手なのかもしれない。滞りなく文字を追う目が先に導かれていった。

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2022年06月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

これは恋愛?純愛?なんとなく綺麗だけど、実は、ものすごくドロドロで。

わかるようなわからないような…引きづりますね。

2話目でただの閉塞感は薄まりましたが。

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2022年06月14日

Posted by ブクログ

「袋小路の男」には三作品が掲載されていて、一番初めの物語、「袋小路の男」は書き方、いや主人公の語り口調がとても好きだと思った。その理由はなぜか、大抵改行があまり行われていない文字の羅列は、開くたびに時折うっとなってしまうことがある(そんなこというなら小説なんて読むな、という話であるが)が、絲山秋子さんは違う。
この改行のない文章は、主人公思考の過程を表しているのではないか、思考が思考を呼び、その思考はたしかに存在しているにもかかわらず、この主人公の身の一つとなる構成要素の一つとなる。
文字の繰り返し、会話、文字の繰り返し、会話、このリズムは、自然と私たちの頭の中に入ってきて、スッと消えて入っていく。

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2022年05月29日

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最近、積読を積極的に消化しようキャンペーンをやっていて、この本も随分と前に古本屋で購入してあった本。
まず、袋小路の男と小田切孝の言い分。
デカダンス的な男女の何とも割り切れない十数年。2人が、世の中で名前がついている関係にならないのは、2人がどこまでも自己愛から抜け出せないエゴイストだからかなと思います。別にそれが良いとか悪いとかじゃなくて、2人はその自己愛の依存関係が心地良いのだから、そういう関係性もあるのだろうけど。臭いモノを、臭いとわかっていながら何度も嗅いでしまうような、そんな気持ちで読み進めてしまった物語でした。
私が好きだったのは、アーリオ オーリオの方。
中年独身男と姪っ子の文通のお話なのですが、中学生の伸びやかな、ともすると宇宙大の思想と、まだ何者にもなっていないただ歳を重ねた少年としての哲が、手紙を通して触れ合う様が美しくて、美しくて、夢中になって読んでしまいました。大人になれば、何かの役目や責任を引き受けなければなりません。それは社会にとって必要不可欠な尊いことなのだけど、親であるが故に子供の将来を心配するがゆえの制限は、1人の人間であるはずの親の思考そのものにも制限を与えていて、本来自由であるはずの思考の世界がどんどん枠にはまっていってしまうものなのだなぁと思いました。それが普通の大人になるということなのかもしれませんが、その不自由さに敏感でありたいし、その制限の逃げ場を常に用意しておきたい。それが私にとっては、読書であり、音楽であり、映画であると思いました。

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2022年02月27日

Posted by ブクログ

家にあった本。意外や川端康成文学賞作品。

十年に及ぶ女性の片思いのの物語と思いきや、実は両思いだけどなかなか交際には発展しないもどかしい二人の距離感を、時に暖かく描いている作品。

淡々と読みながらも、ホントふとあったかい表現がうまく使われてます。直接的な表現は少ないのでぼーっと読んでると見落としてしまいそうな。

特別結論に向かうような作品ではなくゆる~い感じなので、はっきりしたエンディング好きな人はちょっと物足りないかも。

でもまぁどっちかというと女性向けでしょうか。

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2022年01月06日

Posted by ブクログ

大谷日向子の心境はさぞ辛いだろうなと思う。

読んでいる私からすれば、日向子と小田切、お互いの胸の内を読者として知っているから、これはこれでいい関係かもしれないと思うけれど、片思い中の当人にとっては、たまったもんじゃない。ただ、答えが出たら、そこで何かが終わってしまうかもしれない怖さもあり、改めて恋愛の複雑さを思い知る。

はっきりさせていないが、これは恋愛でしょう。
日向子はわかりやすいし、小田切にしても口は悪いし、駄目な部分も多々あるが、クズでもない。日向子への気遣いを持とうとしている時点で、「それだよ、あなたの~は」、と私は思ってしまうが、人の恋路に口出しは無用。だって、相手の心の内を微妙に勘違いしながらも、それでもなんとかなる人間の奥深さを感じたし、絲山さんの書く、人間心理の描写の巧みさもすごい。

それに、辛いだろうなと思う場面もあるが、それと対照的に心底楽しそうだなと思う場面もあり、そこでの幸せそうな日向子を見ていると、求めたいものがあるから、辛いことにも耐えられるのかもしれないなんて思い、そういえば遠距離恋愛していた頃、仕事終わりに、夜中車を走らせて待ち合わせしたことをふと思い出したが、なんでこんなことしてんだろうとは微塵も思わなかった。だから分かる部分もすごくあるし、私も当時の自分の世界が崩壊するのがすごく怖かった。

ちなみに、もう一つの短編「アーリオ オーリオ」は、まだ見ぬ世界の夢と不安に揺れ動く中学生の姪と、それによって違う未来が見えようとしている孤独な男との、ささやかな交流が味わい深い作品となっております。

小田切を庇うわけではないが、印象的な場面をひとつ書いて終わりにします。小田切の生き様を考えると、プロポーズのようにも聞こえてしまうが。


「ありがとう」
消え入りそうな声で日向子が言うと、小田切は、
「俺がこんなとこ来るの、最初で最後だろうな」
と言った。それから声のトーンを変えて、
「最後にしてくれよ」
と低く笑った。

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2021年10月30日

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高校時代から気になっていた異性とのドライ?クール?な付き合いに友達以上の関係性を感じられない主人公は連絡の途絶えた20歳の時に同じ大学の彼氏が出来るが卒業時に別れる、社会人になって東京を離れてもなんとなく恋人でもなかった筈の高校時のドライな彼を思い出す日々。。。

 帰京の際に偶然に彼と出会い、何となく近くて遠いドライなお友達関係が復活する。彼はバイトをしながら小説を書き作家デビューを目指しているがある時自殺未遂をしてしまう、、、

 彼の棲む家の場所は袋小路だが執筆に悩む彼も袋小路に陥って居りそんなドライな彼に恋心を抱く主人公もまた袋小路に捕まった女なのだ。

 二人ともリスの様にヒマワリの種を食べてグルグル同じ所を走り続けるだろうこの後も、、、

 著者は私の大好きな作家の一人でその作品はせつない恋がテーマとなったものが多く、車・タバコ・アルコール・小説・音楽を小道具として遠距離・事故・怪我・友人等が効果として主人公を際立たせ男女の切なくもほんのり暖かい物語を創り上げてます。

 

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2021年04月17日

Posted by ブクログ

表題作「袋小路の男」は、高校のときに好きになった先輩の小田切孝を見つめつづける大谷日向子の物語です。一方「小田切孝の言い分」は、二人の関係を小田切の視点を中心に、三人称の文体でつづっています。

ある意味では、著者の文章は小田切と日向子の自意識を容赦なく抉っているともいえるのですが、突き放した視点でえがきつつも人間の哀れさのようなものを教えてくれるといったまとめ方には収まらない、不思議な読後感がのこりました。けっして温かいまなざしではないものの、どうしようもない二人をそのままに受け止めるといった感じでしょうか。

「アーリオ オーリオ」は、松尾哲とその姪の美由との手紙のやりとりを中心にした物語です。こちらは二人の心温まる交流がストレートにえがかれている、ロマンティックな内容でした。

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2020年09月03日

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ばかだな、と言われるのが好きだと小田切は知っていて、それで毎回のようにばかだな、と言う。何度言われても日向子は快さを感じた。いつもきっちりしていて虚勢を張っている自分が、ばかだな、という言葉の前で角砂糖が紅茶に溶けるようにほろほろと崩れて、甘い気持ちになる。

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2020年07月31日

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