あらすじ
なぜイギリスで最初に起きたのか?
「産業革命」をめぐっては、長い論争の歴史がある。
なぜ、産業革命は、1800年ごろまでは優勢だったアジアではなく、ヨーロッパ、なかでもイギリスで最初に起こったのか。産業革命が「革命」と言われるのはなぜか。産業革命によって人びとの生活はどのように変化したのか。
その歴史的な前提条件や影響を考察することは、グローバル化のなかでの格差や貧困の拡大、奴隷制の過去や人種差別の存続、そして気候変動や環境破壊といった現代の構造的問題を問うことにもつながる。
本書は、狭義の経済史的アプローチだけではなく、グローバル・ヒストリー、環境史、科学史、社会史・文化史など多様なアプローチを通じて、産業革命の歴史を概観している。
総じて、本書では、「産業革命はなかった」とされてきた修正主義的な見解に対して、新たな観点からの産業革命の意義を擁護している。
産業革命はもっとも重要なテーマであるにもかかわらず、日本では意外と真正面から論じた本が少ない。本書は、この間の論争や研究成果をもとに産業革命を論じた最良の一冊である。『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』などで知られる世界的権威による記念碑的著作!
[目次]
謝辞
第1章 過去と現在
第2章 産業革命の前提条件、一五〇〇~一七五〇年
第3章 なぜ産業革命はイギリスから始まったのか?
第4章 イギリスの変容
第5章 改革と民主主義
第6章 産業革命の世界的拡大
訳者解題
出版社による謝辞
読書案内
参照文献
図版一覧
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Posted by ブクログ
本書は産業革命史研究の泰斗であるロバート・C・アレン教授による入門書(原著:The Industrial Revolution : A Very Short Introduction , Oxford Univ. Press, 2017の翻訳)である。アレン教授はすでに A Very Short Introduction シリーズの1つとして Global Economic History , Oxford Univ. Press, 2011.があり(翻訳は『なぜ豊かな国と貧しい国があるのか』NTT出版、2012)、本書の内容と重なる部分もある(とくに第2章「産業革命の前提条件、1500〜1750年」)。
アレン教授は、第2章で近世における最初のグローバル化(それは交易の拡大によるアジア物産のインパクトでありその模倣の過程でもあった)のなかでのイングランドの対応が高賃金経済と安価なエネルギーの利用をもたらし、さらにその高賃金が労働者の健康と体格を改善して教育への投資を有利なものにしていったことを実証的に示している。
さらに第3章「なぜ産業革命はイギリスから始まったか?」では、グローバル化とはほとんど関係のない17世紀の「科学革命」が「産業的啓蒙」「技術革新」(蒸気機関)と結びつきつつ、産業革命を推進していったことが述べられている。1760年代において紡績と捺染から始まった機械化は1840年代に力織機が手織りを駆逐することで完了するが、さらに1870年代までにはほかの産業における機械化が完了し、産業革命は終了する。
第4章と第5章は産業革命によってイギリス社会がどのように変容したのか、またそれによって政治改革がどのように進行していったのかについて階級格差、階級内格差などを中心に論じられている。訳者の長谷川氏は「やや包括生を欠くとい印象を否めない」と訳者解題で述べているが、私自身は第5章の時系列的な説明はわかりやすかった。
最後の第6章に話は、前著とほぼ重なる。周辺国の「標準モデル」や「途上国のビッグプッシュ」など。
なお訳者解題での近年の産業革命史研究の整理は大変有益なものであった。
Posted by ブクログ
産業革命について、なぜ西欧、とりわけイングランドから発生したのか、どの産業から興りどう敷衍していったのか、国民や諸外国にどう影響きていったのか、政治的な影響はどうだったのかを記述している。
統計データもしっかり示されていて説得力のある内容だが、社会構造変化も起こっているため、その複雑な変化を把握、理解するのはなかなか困難だった。一般的なイメージである「劇的変化」や「酷使される労働者VS強欲な資本家」といった単純なものではないということがよく分かるし、個人的にはそういった"分かりやすさ"に飛びつかない訓練にもなった。
また、先進国がやがてサービス業に偏重していくかもザックリと理解できた。
読書体力を要する内容でありやや難易度は高かったが、学びの多い一冊だった。