あらすじ
「人間は、さ。わけわかんねぇ方向から、なんでっていうことで、無理やり救われちまうことがある」蟲の怪異に怯える私に名も知らぬ金髪の人はそう言った。そして古書店で働く霊能探偵を紹介してくれたのだが――『B.A.D. AFTER STORY』。狐との決戦後、白雪は未だ小田桐と再会できずにいた。一族の掟と自らの恋心に悩む彼女の前に婚約者を名乗る男が現れ……『恋しき人を思うということ』他3編を収録したチョコレートデイズ・セレクション第4弾!
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Posted by ブクログ
最後の短編集でありシリーズ最終巻だけれど、収録されている話の半分が時系列に初期の初期である点は少し面白い
全てが終わり、小田桐とあざかが平行線のまま穏やかに終幕へと辿り着いた事を思うと、今にして初期における小田桐とあざかの関係性を見直す事で見えてくるものもある。そうした段取りを踏むからこそ、本編終了後のアフターストーリーも味が滲み出てくるのだろうし
『小田桐は今日も理不尽と戦う』と『七海は幽霊を信じない』は本編では明かされていなかった小田桐と七海の関係が始まる物語だね
七海が小田桐みたいなぬぼーとした人にどうして入れ込むようになったのか疑問だったのだけど、利用価値を見出した事が始まりだったようで。まあ、小学生相手に丁寧な物腰をし、彼女の発言にほいほい従って危険地帯へ、問題を解決してみせた(ように見える)小田桐ほどに都合が良い相手は他にいなかったろう
対する小田桐は残念な事に七海を完全に子供扱いしているし、七海が利用できると思っている程には賢くない
ただ、小田桐が七海を子供扱いしていたから、七海のかなりアレな面には気付かないまま交友関係を築き、彼女の傍に綾が居る状況も許容出来たのだろうと思えたよ
…もし、早い段階で小田桐が七海の性質に気付いていたら、二人の関係はどうなっていたんだろうね?
『繭墨は今日も僕の隣で微笑む』は短編らしさが有りつつ、同時に小田桐とあざかの関係性を象徴する話ともなっているね
あざかは陰惨な事件を好む、小田桐は平穏な日常を望む。何処までも平行線な二人、けれど小田桐が腹に鬼を孕む限りは望む望まないに関わらずあざかの傍を離れられない。彼女が鑑賞する陰惨な事件に巻き込まれ続ける
ただ、こうして本編が終幕を迎え、そして改めて時系列初期の物語が描かれる事であざかの側には小田桐を傍に置き続ける理由があまり無かったと気付かされる
当初こそ「腹に鬼を飼っているなんて面白い」という理由で傍に置いていたけど、そんな理由は長時間持つものではない。それでもあざかは小田桐を傍に置き続けた
空白となった理由を勝手な邪推で埋める事は可能だけれど、結局何を言ってもあざか相手なら正しくない気もする
どちらにせよ、厳然たる事実として存在していたのは、小田桐勤は繭墨あざかの隣に居て、繭墨あざかは小田桐勤の傍に居続けた点だけだろうね
そして本編終幕後の物語が小田桐達を見知らぬ者によって語られているのは印象的
ひかりはこれまでに小田桐達が辿ってきた地獄を知らない。その意味では本編終幕後に小田桐達にどのような変化が有ったかを知るには十全の役割を担えるとは言い難い
けれど、話の中心にいる小田桐が穏やかな態度で雄介やあさと達と関わり続けていると、ひかりを通して読者が知る事で今の彼らはとても幸せなのだと判る。こうした視点は何も知らないひかりだからこそ出来るもの
ここで気になるのは折角地獄から抜け出せたのだから新たな問題に関わるなど嫌なのではないかという点
けど、そんな認識は不要。本編の時点で不用意な程に他者と関わっていた小田桐が地獄を経験した程度で人助けを辞める筈がなく。それが彼の周囲に人が集まる理由となっているのだと判る
ひかりの問題は本編で扱われた異変と比べれば遥かに単純で問題の程度は低い。ただ、放置し続ければひかりの心が大いに傷つく未来が見えると云う話で
彼女の周囲に舞う蟲は拒絶の象徴。下手に関われば痛い目に遭うのは一目瞭然。ならば小田桐は関わる訳だ。自分が痛い思いをする程度で誰かを助けられるなら彼は迷わない
あさとが言うように小田桐の本質は異界から帰ってきても、鬼やあざかから引き離されても変わらない
そしてもう一人の主役と言えるあざかとて、小田桐が変わらないならあざかだって変わらない
異能をほぼ失っても己の楽しみの為に陰惨な事件に関わるのを辞めない。それはあれだけの目に遭った小田桐がそれでも人助けを辞めない行為に似ている気がするけれど、人死にと人助けならベクトルはやはり交わらないままで
平行線だった二人は離れた事で互いに思うが儘に過ごせる人生へと到達した。それは地獄のような物語の果てに辿り着いた境地としては充分過ぎるものと言えるのだろうね
人の狂気が何度も描かれ、道を踏み外した人が容易に死に、他者を死の運命に巻き込む悪意が跋扈し…
あまりに悲惨な物語で時に目を逸らしたくなるシーンも有ったけれど、それでも読み続けられ、そして今にして再読したくなる原動力となったのは偏に小田桐勤と云う人物が地獄に絶望しながらも地獄に抗い続け、時には地獄に自ら突き進んだ上で関わった者達を助けようと藻掻いた姿勢があまりに眩しいから
その反面、あざかが導く陰惨な事件をもっと見たいとの興味も薄れず有るから、小田桐だけでこの物語は構成できなかったとも思う
小田桐とあざかが同調した協力者ではないからこそ紡がれる、地獄の中で救いを求めるかのような物語には本当に魅了されましたよ
半年ほど掛けて再読したわけだけど、こうして読み終わってしまうと寂しい感覚に襲われてしまうね
いずれ本作を再び読み返すのか?それともここで読み返した事が新たな物語に出会うきっかけとなるのか?
やはり良い作品と接するのは良い体験だと思えますよ
Posted by ブクログ
小田桐が七海に利用される話、小田桐が七海に利用される話パート2、B.A.D本編が始まる前に小田桐が初めて繭墨と依頼を受けた話、B.A.D本編終了後の後日談、4つの話の短編集。
1話、2話でそもそも知っていた七海の異常性と狡猾さを改めて知った。個人的には七海が好きじゃないので2話分七海絡みの話を読むのは苦痛だった。3話はB.A.D特有の怖さと気持ち悪さと後味の悪さがあって最期まで変わらない雰囲気が心地よかった。
4話は後日談、あんなに始終ワタワタしていた小田桐が菩薩のようになっていたのが感慨深い。意外と繭墨に会っている関係性になぜかホッとしてしまった。主従関係は解消されても2人には少し離れたところに並んで立っていて欲しかったのでよかった。
Posted by ブクログ
シリーズ番外編最終巻。今回は、本編ストーリーの前や前半の頃に起こった出来事を描いた話と、本編終結後から何年か経た後の小田桐たちの姿を描いた話が収録されています。
第1話「小田桐は今日も理不尽と戦う」は、小田桐が七海の依頼で、彼の住むアパートの怪異に挑む話。第2話「七海は幽霊を信じない」も同様に、小田桐が七海の離す幽霊に関する噂の真相を確かめる話。
第3話「愛しき人を、思うということ」は、本編第5巻の話の一部を、白雪の視点から描いたものです。
第4話「繭墨は今日も僕の隣で微笑む」も本編前の話で、ある一家の息子たちを襲う怪奇事件を繭墨が解き明かします。
最後の第5話「B.A.D AFTER STORY」は、本編終了後に繭墨のもとを離れ、霊能探偵をしている小田桐と、彼のもとに寄せられた依頼を描いた話です。本編では、小田桐と白雪のイチャイチャぶりが楽しく読めたのですが、両者とも恥も外聞もなくデレっデレになってしまったこの話は、さすがにちょっと胃もたれがしそうです。