あらすじ
「より高く、より困難」なクライミングを志向するアルパインクライマーは、突き詰めていけば限りなく「死の領域」に近づいてゆく。
そんななかで、かつて「天国にいちばん近いクライマー」と呼ばれていた山野井泰史は、山での幾多の危機を乗り越えて生きながらえてきた。
50年の登山経験のなかで、生と死を分けたものはいったい何だったのか。
極限の登攀に挑み続ける筆者が初めて語る山での生、そして死。
2014年11月刊行のヤマケイ新書『アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由』に、2023年インド・ヒマラヤのザンスカール無名峰への挑戦記と、南伊豆の未踏の岩壁初登(ルート名:登山のすべて)の登攀記録を追記。
■内容
第1章 「天国に一番近い男」と呼ばれて
第2章 パートナーが教えてくれたもの
第3章 敗退の連鎖
第4章 2000年以降の記録より
第5章 危機からの脱出
第6章 アンデスを目指して
文庫版のためのあとがき
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Posted by ブクログ
山野井泰史『アルピニズムと死 ぼくが登り続けてこられた理由』ヤマケイ文庫。
2014年11月刊行のヤマケイ新書『アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由』に、2023年インド・ヒマラヤのザンスカール無名峰への挑戦記と、南伊豆の未踏の岩壁初登の登攀記録を追記して、文庫化。
山野井泰史自身による『垂直の記憶』は、圧倒的な高度感とリアリティを伝える素晴らしい登山記であった。また、NHKスペシャルで放送され、書籍にもなったNHK取材班の『白夜の大岩壁に挑む クライマー山野井夫妻』、沢木耕太郎の『凍』も、その活躍や過酷な登山と山からの生還の描写を伝える傑作であった。
本書は、登山家、アルピニストの山野井泰史のこれまでの登山やクライミングの軌跡と、過激な挑戦と生還という相反する2つのバランスを如何に成立させるかを伝えるエッセイ集である。
若い頃は「天国にいちばん近いクライマー」と呼ばれるくらい過激な挑戦を繰り返す山野井泰史だったが、実は全てに慎重であり、決して生還を諦めない強い精神力を持っているようだ。従って、時には撤退することも受け入れているのだ。
山野井泰史の最大の生命の危機は、『垂直の記憶』、沢木耕太郎の『凍』にも描かれているギャチュン・カン北壁の登頂と生還であろう。ギャチュン・カン北壁からの下降の途中で雪崩に見舞われた山野井泰史と妻の妙子は生きることを諦めずに何とか生還するのだが、手足の指の多くを失ってしまう。
しかし、もう一つ山野井には生命の危機に瀕した事件がある。自宅のある奥多摩でトレーニング中の山野井は背後から迫る子連れの熊に襲われ、右手を20針、顔面を70針縫う重症を負う。当時は新聞記事にもなり、何と不運なことだろうと思ったのだが、現在は街中にも熊が出没し、人を襲ったりしている。重症を負いながらも山野井は熊を撃退し、自宅に向かい逃走し、隣人に救急車の手配を依頼したことは強い精神力のなせる業であろう。
定価1,100円
★★★★★