あらすじ
文化センターで働く30歳の実日子。実家で何不自由ない生活を送っていたが、両親が交通事故で亡くなり、母方の叔母と同居することに。箱入り娘で、家事ができず、世間知らずな実日子と合理主義の叔母は全く波長が合わず、実日子は人生初めての一人暮らしを決意するが……。新居であるメゾン・ド・ミドリで出会った大学生サイトーくんや声優の新田さん、お見合い相手の椎名さんとの交流の中で、実日子は少しずつ強くなっていく。大人になり切れない大人の葛藤と進歩を描く、ハートフルストーリー。
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Posted by ブクログ
PHPでの連載も読んでいて、実日子に対する最初の印象は「あ、うちの子どもになんか似ているかも」でした。
そんな日常生活もままならない実日子を我が子を見守るような気持ちで読んでいましたが、やさしさはそのまま、でも「大人」になるために身につけないといけないものも自分のものにしていつの間にか「どこへでも」行けるように成長したのをまぶしいと思って読み終えました。
連載時にも声を出して笑った新田さんのトイレットペーパーのくだり、メゾン・ド・ミドリの素敵なロビー(自分で思い描いていたと勘違いしていたけどPHP連載時のイラストだった。本当にすてきなイラストでした)などなど小さなエピソードも相変わらず気が利いていて、ああ佐原ひかりさんの小説だーとにやにやしながら読みました。
連載にはなかった所長のエピソードがちょっと苦しかったけれどもそれは実日子が「向こう側」に行くためにとても重要だと思ったし、実日子のやさしさだけではない気持ちがあふれていてすごくよかったなと思いました。
そしてなんといっても椎名さん!マイペース中のマイペースなのにここぞというところで的確なことを言ってくれる大好きなキャラクターでした。
PHP連載時の「天国よりも、どこへでも」というタイトルをえらく気に入っていて(「どこへでも」は本作ですごく大きな意味を持っています)、改題したのなんでだろうと思っていましたが、読み終えてすごく納得しました。
そして最後の実日子の決断に「乾杯」です。
読みながら自分にある実日子のおばさまみたいな気質が自分にもあるよなーとか、自分が突然死んでもいいように自分の子どもも実日子のようにどこへでも行けるようになってほしいななどとも思いました。
佐原さんの最高傑作ですという感想も見かけたけれども自分もそんな気持ちになりつつあります。オススメです。