あらすじ
ここにもある袴田事件、免田事件、財田川事件、足利事件の理不尽。
生きるということは、かくも哀しく美しいものか。照らし出される司法の闇、冤罪の虚構、人間の絆。作家の才能に嫉妬する。―堀川惠子(ノンフィクション作家・代表作『教誨師』)
突然、父親を奪われた少女に救いは訪れるのか? 事件の謎は戦前から令和まで引き継がれ、慟哭の結末は我々に生きる意味さえ問いかける、前代未聞かつ究極の「冤罪」ミステリー。世代を超えて社会の歪みと戦い続ける者たちの行き着く先とはいったい何なのか。
時代を超えて受け継がれる法律家の矜持に心が震えた。―五十嵐律人(作家・代表作『法廷遊戯』)
わたしはこれ以上のリーガルミステリを知らない。―染井為人(作家/代表作『正体』)
冤罪と冤罪で翻弄されたものたちが辿る刮目のドラマ。戦中、時局に媚びる社会情勢の中で苦悩する弁護士のギリギリの戦いは、本人が戦場に送られて戦争が終わってからも、正義を信じる弁護士や検事により引き継がれる。彼らが報われる日は来るのか? 社会のひずみを壮大なスケールで活写したリーガル・ミステリーの雄の渾身作。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
直木賞ノミネート作品ということで拝読。
戦時から今の令和の時代まで、途方もない時を巡り、事件の真実に辿り着く。
こんなにも人の想いが受け継がれていく物語は、他にないのでは。
この物語は、時代の流れに沿って、3人の人物の視点で展開されていく。
それぞれの苦悩や迷いが丁寧に描かれていて、それ故に読んでいる読者側もしんどくなる。
ただ、そのしんどさの中でも、この3人の信念は煮えたぎるほど熱いものだった気がする。
そして、信念を貫き通すことは、大切な誰かを傷つけてしまうリスクもある。
人は、時として、誰かの親であったり、子であったり、配偶者であったり、恋人であったりする。
どれかの立場であろうとすると、信念を曲げないといけなくなる時がくるかも知れない。
それも間違いではないのだと思う。
ただ、その後に待っているのは苦悩だったりする。
自分はどうするだろうか。
ある登場人物がそうであったように、大切な人を守るために信念を曲げるのだろうか。
この作品は、司法の闇と同時に、人間の心の闇にも光をあてているのだと思う。
Posted by ブクログ
昭和十八年、宇治山田市で起こった一家殺人事件で犯人として逮捕された谷口喜介は死刑判決を受けた。彼は無実を訴えるものの、時代が変わっても判決は覆ることはない。父親の無実を信じる波子を中心に、冤罪事件の重さとそれに立ち向かおうとする人々の戦いを描いたリーガルミステリです。
証拠物件の適当さといい取り調べの横暴さといい、戦時中日本の時代情勢がそういうものだったから、と言ってしまうのは簡単ですが。しかし時代を経ても冤罪を雪ぐことはなぜこんなに難しいのでしょうか。もちろん判決の揺るぎなさというものがなければその判決に安心できないというのも納得はできますが、それでも冤罪の被害者からするととんでもないことです。そして人権が今ほどに重く捉えられなかった当時においても、谷口喜介の冤罪を信じながらも表立って動けなかった人たちの多いことに哀しさを覚えました。これもまた時代だけの問題でもないのかもしれませんが。
多くの時代を経て、再審請求に関わった多くの人たちの奮闘が熱い物語。そしてミステリなので読者としてはやはり真犯人が気になってしまうところなのですが。「真犯人なんぞ、どうでもええ」というのにははっとさせられました。再審請求の主眼は冤罪から被害者を救うことであって、真犯人の訴求ではない、ということに気づかされます。確かに冤罪事件は稀なものだけれど、だけれどあってはいけないことだと心底感じました。
Posted by ブクログ
テーマ 冤罪事件を親子に渡って解決しようとする弁護士 戦中から戦後 伊勢
何十年にわたってようやく無罪が立証できるところで、実は、真犯人が---だったとは。
これを立証すれば、自分は家族は弁護士をやっていられないばかりか 普通の生活はできないだろう さて どう進めるのだろうか
Posted by ブクログ
昭和十八年四月、宇治山田市内の民家に侵入し、一家三人が皆殺しにされるという事件が起きた。逮捕されたのは谷口喜介は死刑が確定している。検事から弁護士になったばかりの吾妻太一は偶然、夜道で苦しむ少女を救助する。彼女は死刑囚である谷口喜介の娘だという。面会した吾妻は谷口から、『わしは無実や』と聞かされる。吾妻が目撃証言者である伊藤乙吉を探すことに。しかし彼は闇米購入の取り調べの際中、脳溢血で亡くなってしまった、という。しかし頭部に不審な大きなこぶがあった。
というのが、本書の導入。私は恥ずかしながら本書を読むまで知らなかったのですが、実際にあった事件、正木ひろしの「首なし事件」がモチーフになっているそうです。ひとつの事件をめぐって、昭和十八年からはじまり、令和のほぼ現在にいたるまで続く法曹関係者たちの長い長い闘いを、その事件に大きく携わることになった吾妻太一、本郷辰治、伊藤太一の三者の視点から描いた作品になっています。
もしかしたらラストの決着の付け方、そこに付随する登場人物の性格設定が受け入れられない、というひともいるかもしれませんが、ある意味ではそういう展開だからこそ、この作品は徹頭徹尾、『冤罪』の物語だということが際立つ異様な迫力を生んでいるようにも思ってしまいました。『理由』までもが、昭和十八年のあの日に立ち返っていくように。
Posted by ブクログ
ちょっと落ち着いたのでじっくり読もうと思っていたら、貸し出し期限内には読み終えないなと思って、延長しようとしたらちょうど直木賞候補になってしまい、あっという間に予約数がいっぱいになって延長できなかった...
戦前に起きた事件だったゆえに余計に再審請求への道というのはとても険しいのだなと。しかも死刑は執行されてしまっているし。
Posted by ブクログ
3代に渡り冤罪を得ようと奮闘する弁護士。そして引き継いだ弁護士、代議士と様々な人らの働きによって裁判をやり直そうとするが一度決まった判決を覆すのは至難の業。挫折、屈辱を乗り越えていく話に加えて浮浪児だった人や家族の中で出来の悪かった人のドラマもあり物語の中にひきずりこまれていく。舞台がよく知る三重県伊勢市だったのもよかったのかも知れないが冤罪の難しさを知る。
雪冤をテレビで観たけど同じ作者だった。あの話も父親の息子の無実の訴えと息子が何故恋人を殺害したと言ったのかの苦悩だった。判決を覆す難しさをこのドラマで最初に知ったことを思い出す。
Posted by ブクログ
冤罪をテーマに描いたミステリー
だがその一言では言い表せない素晴らしい作品だった
この作品では主人公が三代に渡る
理想に燃える弁護士
浮浪児から検察になり、特別な女性のために冤罪を証明しようとする検察官
最後に落ちこぼれだったが、父の意思を継いで冤罪を追及する弁護士
それぞれの生き様が鮮明に描かれている
最後まで飽きさせないミステリーであり、大河ドラマのような読み応えのある作品だった
正義とは何かという問いに応える作品かもしれない
Posted by ブクログ
戦中。三重で一家惨殺事件が起こるが犯人とされる男は8歳の娘と祭りに出かけていた。
◎
弁護士の吾妻が事件を解く。
殺人現場から走り去る犯人を見たと証言した乙吉は警察署で死ぬ。頭に殴られた痕があっても脳溢血判定。
証人の息子の捨次郎は遺体の首を切り落とし、法医学者の元に持っていき司法解剖をすると、外傷とのこと。弁護士会総出で挑む。
大立ち回りで裁判を転がすも、被告人の暴行警察官が首吊り自殺をしたとのことで、裁判が終わる。
ちょっと追い掛ければすごい技で返してくる…
その暴行警察官から死ぬ前に書いた手紙が届く。そこには本当は目撃者が嘘の証言をしたと言いにきたが、今更撤回すると天皇陛下のお墨付きで死刑にしたのが嘘などとは許されないので殴ったことが書かれていた。刑務所長や検察官などに話すも、これだけだと厳しいと言われ、なんと赤紙が届いて出征し死んだ。
◎
砂利を運搬する船に乗って名古屋まで行った戦後生まれ。時は昭和30年ぐらい。名古屋で落ちてた時計を売ったら、強盗殺人容疑で逮捕。前回の証人の息子が弁護士として助けに来る。その男は弁護士の事務所で働いて、波子が好きになるが、証人も出てきたのに、父親の死刑が執行されてしまい、波子は旅立つ。後に検事になったらしい
◎
後編は検事になった本郷の話。昭和60年。伊勢市の轢き逃げ事件で検事の本郷と弁護士の証人の息子が交差する。昭和30年ぐらいには調子の良かった悪友がコソ泥で逮捕されたり。伊勢の式年遷宮の祭りで波子を探す。犯人と思しき岡麟太郎が戦争中に死んだと思われてたが生きている気がしてくる。轢き逃げの被害者が岡の社長の愛人。無人島にて監禁されてる岡麟太郎を発見する。
当時の第一発見警察官が、証拠物件血止めのシャツを持って現れる。犯人の母親から岡麟太郎が11人も殺していることを聞き、そして波子を見つけて一緒に再審要求を戦っていくことを決めた時に暴力団員に刺し殺された。
◎
捨次郎の息子の太一31歳が主人公。平成13年ぐらい。兄はエリート弁護士。自身は落ちこぼれて就活中。再審を高裁まで行くも認めない判決で、捨次郎が急逝。
時代は令和に。太一は弁護士になり、結婚して裁判官の嫁と小5の娘がいる。その嫁がアメリカに単身赴任し、太一は伊勢へ。娘と波子が仲良くなり、麟太郎の葬式で娘が麟太郎の歯を抜いて持ち帰りDNAをゲット。ただ、そのまま使えないので、匿名の犯人からの手紙をでっち上げて弁護団の知らない本郷の部屋で見た検察の情報を混ぜる。だが、なんと太一の兄の乙彦は父親の捨次郎から真犯人は父親の乙吉と聞いていた。シャツのボタンが違うのがきっかけで。なので乙吉の歯にすり替えて提示しDNAが一致する。しかしタイミング悪く財布を落として死んだ、当時火事場泥棒をした曽我さんが真犯人だと言われた。
兄弟は真実を語ったのか、後に余韻を残す。最後の語りの波子も、生きているのか、れいなのか…
めっちゃ壮大な長い冤罪の話。どんでん返し付き。すごい。
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弁護士のことを三百と罵る。明治時代の無資格弁護士を指して三百代言という。300文(安価)でいい加減。
尾崎咢堂(おざきがくどう)は憲政の神様、世界平和を訴え衆議院議員に二十五連続当選の江戸末期から昭和初期(戦後)の政治家。
Posted by ブクログ
山風賞受賞作。やっぱ安心のブランドやね。本作もなかなか。冤罪の父と、その娘との物語。かなりのボリューム感を誇るし、内容も同一の事件を各視点から繰り返し語られるから、ともすれば冗長とも取られかねない。それを拒むのは、実際の冤罪に思いを致した場合、永遠に続くとも思えるような無力感に心当たるから。そのやり切れなさをも見事に現出している点でこの物量は必然だし、問題提起力も強いものとなる。