【感想・ネタバレ】三浦綾子 電子全集 銃口 (下)のレビュー

あらすじ

激動の時代を描く三浦綾子の長編小説!

昭和16年、思いもよらぬ治安維持法違反の容疑で竜太は、7か月の独房生活を送る。絶望の淵から立ち直った竜太に、芳子との結婚の直前、召集の赤紙が届く。入隊、そして20年8月15日、満州から朝鮮への敗走中、民兵から銃口をつきつけられる。思わぬ人物に助けられやっとの思いで祖国の土を踏む。再会した竜太と芳子の幸せな戦後に、あの黒い影が消えるのはいつ……過酷な運命に翻弄されながらも人間らしく生き抜く竜太のドラマ。
「第1回井原西鶴賞」受賞作品。三浦綾子、生前最後の小説。

1996年(平成8年)、NHKで「銃口 竜太の青春」としてテレビドラマ化され、作品が第14回ATP賞‘97奨励賞を受賞した。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

二度目の『銃口』。今回は北森竜太が戦場で出会った近藤上等兵に胸が熱くなり、それだけに喪失感が大きかった。山田曹長の人間性と判断力にも揺さぶられた。
読み終えた時、昭和という激流の時代を生き抜いたようなそんな錯覚をおぼえた。
綴り方に熱心な教師が、何の罪もおかしていないのに,逮捕され拷問された時代。多様な考えを持つことが許されなかった時代はまさに狂気の時代だ。戦争に被害者も加害者もない。巻きこまれた人達はみんな被害者だ。その時代を確かに生きてきた父と母から私は生まれた。父は,飛行機の設計をしていた。母は満州に渡って,敗戦とともに日本にひきあげてきた。満州開拓団の集団自決には心に痛みが走った。自分が生まれ、今ここに存在するということは奇跡に近い。
子どもの頃,中国の話を母から聞いた。黄河の広さ,裕福な暮らし,そして敗戦。天国と地獄を味わった母の話は,幼い私の心をとらえてはなさなかった。
私の今の生活はこの『銃口』の時代の延長線上にあるのだろうか。今の私は,拷問されて亡くなった人たちや戦争で命を落とした人々と本当につながっているのだろうか。きっとつなげていかなくてはならないのだ。
この『銃口』にも救いはあった。主人公が,芳子という女性と結ばれたことだ。結納の直前に特高警察に引き裂かれ,結婚の直前には赤紙に引き裂かれた彼らが結ばれたのはうれしかった。
戦争が終わっても,彼らの心は決して晴れやかにはならなかった。失ったものがあまりに大きすぎたのだろう。
三浦綾子さんが残してくれたものをこれからも味わって生きたい。

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2025年07月17日

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「銃口」とは結局何だったのか。
古参兵から曹長に向けられた銃口。
集団自決をした男の銃口。
曹長の夢に出てきたもう一人の自分が向けてくる銃口。
帰国後竜太が背後に感じた銃口。

同調圧力が言葉の感覚として近いのだろうか。
個人の何かへの信じ方の問題かもしれない。

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2021年01月30日

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三浦綾子の作品はいつも心洗われる.戦時下の小学校教師の苦悩を描いたこの作品も根底に慈愛が満ち溢れている.著者の出身でもある旭川が舞台なので,神楽岡などなじみのある地名も多数出てくる.教育関係者にはお薦め.

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2018年10月09日

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感動する小説は世の中に数多あります。
ただ、打ちのめされる小説に出合うことは滅多にありません。
打ちのめされました。
世に言う「北海道綴り方教育連盟事件」を題材にした94年刊行(単行本)の小説です。
と聞けば、こういうご時世です、「反戦平和小説ですか」「サヨクですね」と揶揄する向きもあるでしょう。
それは半可通というものです。
早合点するなかれ、主人公の竜太は紛うかたなき皇国民です。
陛下の大御心を理解し、奉安殿に向かって深々と、それは見事な最敬礼をする青年です。
そういう青年が「アカ」と疑われ、治安維持法違反で過酷な取り調べを受けたのです。
げに恐ろしいのは法律の中身でも政治家でもない、法律を拡大解釈し、政治家の意を体して現場で運用する官憲なのだと思いました。
いや、まあ、それはいい。
ある種の小説を読むと、すぐに「テーマは何か?」「この小説の教訓は?」と考えてしまうのは私の悪い癖です。
本作は、一個の物語として実に読み応えがあります。
小説は、主人公の竜太が小学3年のころから書き出されていきます。
大正天皇が崩御して昭和に変わっていく時分です。
小学校で竜太は坂部先生という恩師に出会います。
教育に情熱を注ぐ坂部先生の影響で、竜太も教師を志すようになり、やがて師範学校を出て夢を実現します。
ところが、たまたま綴り方連盟の会合に顔を出し、記名したことで無実の罪を着せられ7か月間にもわたって拘留されることになります。
この間、厳しい取り調べが続いたわけですが、竜太が何にも耐え難かったのは教員の退職を強要されたことです。
保護観察の身となって娑婆に出た竜太を、さらなる悲劇が待ち受けます。
同じく綴り方連盟に加担したとして逮捕、拘留されていた坂部先生が、厳しい取り調べの末に亡くなっていたのです。
竜太は慟哭します。
私もこの場面では涙を禁じ得ませんでした。
竜太はさらに時代の波に翻弄されます。
召集令状が来て、兵隊として満州へと渡るのです。
そこは死と隣り合わせの戦場でした。
実は、思想犯の前科のある者は、とりわけ厳しい任に就かせるという不文律があったのだそうです(しかも竜太は思想犯では断じてない!)。
この点、先年読んだ吉村昭の「赤い人」を想起しました。
ただ、そんな竜太にも心の支えとなってくれる人がいました。
その一人が、何と言っても、竜太の小学生時代からの同級生であり、恋焦がれて来た芳子です。
治安維持法違反容疑での拘留、そして戦争とさまざまな障害に阻まれながら、芳子との恋を成就し、敗戦直後に挙式する場面は目頭が熱くなります。
竜太を陰に陽に支えた家族、短い教員生活で出会った尊敬すべき教師たち、さらに戦場でも心優しい戦友に恵まれ、その交流のひとつひとつがジンと胸を打ちます。
そうそう、小説のごくはじめの方に登場する金俊明という男に触れないわけにはいきますまい。
タコ部屋から逃げ出してきた朝鮮人です。
この男が物語のキーマンの一人だったのですね。
興趣を殺ぐことになるので、これ以上は触れませんが…。
戦争は言うまでもなく、人の命を脅かし、大切なものを有無を言わさず奪っていきます。
著者の筆運びは淡々としていますが、行間からはそんな声が聞こえてきそうです。
ただし、そんじょそこらの反戦平和小説では断じてありません。
物語の最終盤、竜太が愛する祖国の敗北に涙を流したことを付記して筆を置きます。

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2017年03月12日

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上巻に引き続き再読です。

学生の頃、貪る様に読んでいた割には内容は余り覚えておらず。

結婚目前に召集された主人公は北海道から満州へと行きます。
そこで様々な人に助けられる。

最後の最後に『昭和が終わってもまだ色々な事が尾を引いている』と書かれていますが、本当にその通りだと思う。
戦争が終わっても、人の心に残った傷は消える事は無いのだと改めて思いました。


やはり、三浦綾子作品は私のバイブル的存在だなぁ。
これを機に、他の作品も読み返してみよう。
新たに感じられる部分が沢山あるのだろつな。

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2016年08月06日

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治安維持法のもと、いわれない無実の主人公がその経歴の為に翻弄される。
主人公だけでなく、あらゆる人々が人としての生き方を戦争によって蹂躙され、そんな中でも人として正しく生きることの美しが描かれる。
三浦綾子の長編としては最近の作のため、平易で美しい文章で読むことができる。

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2013年09月03日

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今『銃口』の読書会に参加中。
ふだんはひとりで向き合う本に、みんなで向き合う。
感じるものは本当に人それぞれ。
毎回新たな発見があったり、自分の感受性を肯定的に捉えてもらえたり。

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2012年10月12日

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人としてどう生きるか・・・何を選び、何を大切にするか、時代の波の中で誠実に向き合うことの大切さを教えてくれる本です。私のこころの1冊です。

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2011年01月01日

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ネタバレ

主人公の北森竜太は治安維持法違反容疑で半年以上もだらだら勾留がつづいたあげく、教職の辞職届を出さざるを得なくなって釈放。その大量の教師を逮捕した事件は特高に忖度して新聞にも報道されず、どこに就職しても特高の尾行がつづきスパイ呼ばわりされ居心地が悪くなる。恩師の坂部久哉教師は衰弱の挙句亡くなってしまう。失意の中、招集通知がとどいたときも教職を失ったので幹部扱いからひらの兵隊となり、理不尽な暴行を受けて片耳の聴力も失う。満州で盲腸になり、親しくしてくれた近堂一等兵との別れ、山田曹長との終戦直後にソ連や中国の連中を避けながら決死の逃避行の中で、朝鮮人の抗日派につかまる。その抗日派につかまって殺されるしかないとなった矢先、、、助けてくれたのは旭川で命を助けたたこ部屋から逃げ出した金俊明だった。金俊明もまた決死の努力で日本に戻るすべをつくってあげて、日本に戻ることができる。弟保志は戦死していたが、懐かしい芳子とついに結婚できた、ついには教職に復職できたという、戦前の思想弾圧の不合理を上手に描いた感動作である。

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2021年06月19日

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下巻でこんな展開になるとは思わなかった。戦争が悪というよりも、戦前から戦中に見られた一部の日本人の愚かさや自惚れっぷりが印象に残った。今はどうなんだろう?

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2019年08月18日

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主人公の竜太が勾留、戦争により非常に苦しい状況に陥る。そんな中でも坂部先生、近堂一等兵、山田曹長、金俊明など竜太に優しく接してくれる人々がいる。竜太は自分の至らなさを嘆くが、竜太自身の思い、行動があったからこそ彼らの優しさを受けられたと思う。
こんな時代もあったのか、と感動的な物語と受け取ることもできるし、今の時代に通ずる行動指針を学ぶこともできる良書。

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2018年02月04日

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タイトルにサスペンス的な空気を感じたけど、
想像していたような話とはまったく違ってた。

女史が描く公正明大な人物たちは心清らかで真っ直ぐで、
その隙のなさ、溢れる暖かさに泣かされることしばし。

人を信じられなくなったときにオススメ。
かな。

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2015年09月07日

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ネタバレ

「人間はいつでも人間でなければならない。獣になったり、卑怯者になったりしてはならない。(中略)苦しくても人間として生きるんだぞ。人間としての良心を失わずに生きるんだぞ」

文中のこの言葉が心に残る。私がなりたい人間と重なっている部分がある。

主に旭川を舞台に、神、キリスト教、宗教、戦争が主なテーマ

特に日々の生活のなかで戦争が忍び寄ってくる様子がじっとりと書かれています。
力ずくで他人の思想を縛ろうとしている世相など。
この本を読んで、どんな戦争も反対したいと改めて実感しました。

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2014年10月10日

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教師を一生の仕事と心に決めた少年の一生。成長し、教師になり、治安維持法のもと教師の職を追われ、兵士として満州へ行き、日本へ帰ってきて再び教鞭をとる。

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2010年01月07日

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すごくすごく、戦争が解る本やった。
汚い所も全部書いてあって、絶望だらけで、
もう読むのが辛すぎて
途中何回も読むのやめようかと思った。
でも読んでよかった。相変わらずのキリストやったけど、この人の本はそれだけじゃないからいい。沢山考えさせてくれて、戦争の事にちゃんと向き合おうって思った。

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2012年05月10日

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大学の文学の時間に課題だったのか,薦められただけだったのか忘れたけど紹介されて読んだ作品。普段軽い小説を読みがちだけど,たまにはこういうのも読んでもいいかもと思った。2巻とも厚いけど読みきった。

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2009年10月04日

Posted by ブクログ

複数巻を平行読破。三浦綾子の最後の長編だったのね。

北海道綴方教育連盟事件に巻き込まれた竜太。わけもわからず退職届を書かされ、見張りがついたまま釈放される。しかし、留置所移送の際にお互い留置中の坂部先生に出会ったことから、気持ちを強くする。その後徴兵で満州に渡り、数々の出会いと偶然が彼を救っていく…。

戦争で、軍隊の記述だから読みにくいかなーと思っていたが、全くそんなことはなく、流れるように読めていくのが三浦綾子。小難しい記述もなければ、血なまぐさい表記もない。

流石に長編小説の女王だけあって、キャラクター設定及び心の拠り所、考え方というものがしっかりあり、あまり増えはしないが、登場人物が数々出てきても全く混乱しない。その中にあって、意識的にか無意識にか竜太を陥れる楠男の存在が異彩を放つ。

ほんとにね、楠男は戦争でひどい目にあってほしいと思いながら読んでいる人がほとんどだと思う。

さて、本人もあとがきで書いているとおり、満州時代と帰還に関しては、それまでの詳細な情景描写がなかったかのようにぼんやりとなってしまっているのは残念。人間同士のドラマで必死につなぎとめているものの、戦地の焦燥感などというものはほとんど描けていない。

また、終盤には回想とはいえ、同じ記述が繰り返し使われるのもいただけない。

留置からの釈放、戦地での敵襲からの回避、帰国のための混乱、それらに伴う葛藤のあたりは、不自然なほどに省略されているので、ちょっと肩透かしを食らった気もするが、連載小説で読まされている人にはちょうどよかったのかもしれない。

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2019年08月31日

Posted by ブクログ

思想犯として捕らえられ、その後苦難の道を歩むが、必ず助けてくれる人に接する。これを運とするのか、自らの善行が引寄せているとみるのか。感謝の気持ちを持つことにより実際以上に強く印象づけられるのか。
最近の北朝鮮をめぐる情勢は、対日石油禁輸、海外資産凍結の戦前の状況と似ているように思う。書店に戦時のことが書かれた小説も減っている。風化させてはいけない。2017.10.28

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2017年10月28日

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