あらすじ
「親愛なるダディと、ぼくの大好きなメイ・プリンセス号へ」──豪華客船船長の父と少年をつなぐ寄港地への手紙。父の大切な薔薇を守る少年が告げた出来事とは──「薔薇盗人」。リストラされたカメラマンと場末のストリッパーのつかの間の、そして深い哀情「あじさい心中」。親友の死を前にして老経営者に起きた死生への惑い「死に賃」。人間の哀歓を巧みな筆致で描く、愛と涙の6短編。
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Posted by ブクログ
子育て中にどうにか確保した30分でどうしても本が読みたくて飛び込んだ古本屋さんで見つけた一冊。
なぜだか気になって購入したが、私にとって大当たり。
こんなにも過不足なくすっきりしているにも関わらず、どれも濃厚な短編小説に出会えるとは。
「あじさい心中」
美しい。しばらく余韻が抜けなかった。
どろっとしてもったりと濃厚で美しいながらも切なく哀愁漂うノスタルジックなたった一晩の夢と、朝が来て現実に戻っていく様の描写が秀逸すぎる!
『千と千尋の神隠し』の終わりのような、絶対にあったのに現実味を帯びていない、時が止まっていた、もしくはパラレルワールドにいたような時間。
夜のまま終わるのではなくて、そして身体を重ねるのではなくて、寝ている時に見る「夢」と願望を思い描く「夢」どちらとも取れるような一夜が明け、「それでも生きていく」現実にそれぞれ戻っていく。
人生の中でたった1度だけ交差した2人は、きっともう2度と会うこともないだろうけれど、きっと一生忘れることもできないのだろう。
恋愛物ともヒューマンとも似て非なるもの。
美し切ない物語。
リリィって名前がまた良いなあ。
舞台は少し前の廃れかけていた熱海のような雰囲気かな。
「死に賃」
世にも奇妙な物語、もしくは週刊ストーリーランドの不思議なおばあさんの話のようなシュールで痛快な物語。
誰しもがいつかは通る「死に際」をどう終わらせるのか、究極の「終活」を考えさせられる話。
「死に賃」として多額の金銭を払った挙句、詐欺と後に報道されてしまう先に旅立った友人のニュースを見た後に、幸せな終わりを迎える主人公。
「死に賃を払いそびれてしまった〜」からの最後の2行が震える。
ラッキー!ではなくて、このように最後まで綺麗な身のこなしをできるような人間性を養わなければと痛感。
美也子の心境の描写も、こじれた人間関係も、どろどろと人間臭くてリアル。
「奈落」
これは…
どれも濃ゆくて主役級の中にピリッと入るスパイスのような物語だなと思った。
中心に差し込まれているのが絶妙。
おかげで一度クールダウンできた。
好きではないのと、私の未熟さでは物語の終わりを読み解けなかったが、良い意味で水を差された感覚。
「佳人」
えーーーーーーーーー!!!?
となるどんでん返しさを、絶妙で軽快なコメディ加減で描かれた、「引きが良い」小節。
あとの2作を考えると、「奈落」「佳人」は絶妙すぎる箸休め。
「ひなまつり」
私だけじゃないと思うが、「あじさい心中」に並んでお気に入りの物語。
ひなまつりという「女の子の行事」に準えて、母も娘も不器用に、とても純粋な心でお願いごとをする。
2人の「おひなさま片付けなくちゃ」に込められた気持ちが、この物語の全てを収める。
願いよ叶って!と思わず心の底から応援してしまった。
「薔薇盗人」
父に向けた手紙で、自分の失敗と反省を一生懸命伝えているつもりで、実は母の不倫を父に伝えてしまっていたことを、読者も含めて登場人物の大人が全員「あちゃー」となる物語。
主人公(息子)が自分の落ち度を反省して一生懸命になればなるほど、大人(母親)の罪を事細かに伝えることとなっていき、子供はとんでもない失敗をしてしまったと落ち込んでいるのに反して「誠実」さを構築していくのに対し、それに反比例するように母親が「ダメな大人」に落ちぶれていく皮肉さがリアルで面白い。
第三者でいたいなあ、と心から思う。
渦中の人間は一切見えないんだろうなあ…。
Posted by ブクログ
久しぶりの浅田次郎の小説を読んだ。
泣かせるというか、心にすっと入ってくるというか、
市井に生きる人々の矜持を描いたら最高の書き手といわれるだけのことはある。特に6篇の短編のうち、私が一番気に入ったのは「あじさい心中」です。リストラされたカメラマンが、偶発的に訪れた温泉街のストリッパーと心中してほしいといわれ、”不都合なことは思い当らない」
Posted by ブクログ
浅田次郎は長編が好きだなあ。
浅田次郎は短編とはいえ、その世界を描きだすのが上手いのだ。
だからすぐに情景が目に浮かんで、「で?」ってなってしまう。
もう一段の上を期待してしまう。
本来なら短い文章でその世界を描き切ること、できれば余韻をもたせることが短編小説に求められる部分なのかもしれないけれど、「蒼穹の昴」や「壬生義士伝」などの、圧倒的な描写の巧。
畳み掛けるように押し寄せる感情のうねり。
または「地下鉄に乗って」のように、視点によって見えているものが違い、事実が必ずしも真実ではないことを突き付ける一瞬。
そのようなものを、短編で期待してはいけないのだけど、期待してしまうのだ。
上手いから。
そういった意味で面白かったのは「奈落」
まだ着いていないエレベーターのドアが開き、一歩踏み出したために命を落とした会社員・片桐。
その事故で露わにされる、彼の半生。
そして彼の死が会社の歯車をも狂わせる!…のか?
ドラマ化する際には、ぜひ片桐役を緋田康人さんで。
女手一つで自分を育ててくれる母の苦労がわかるから、いろんなことを我慢して我慢して我慢していた少女が、この先一生わがままを言わないからと母にねだったものとは。「ひなまつり」
やっぱりこういうの書かせると上手いよなあ。
長期不在の父に代わって薔薇と母を守り、父に手紙で近況を報告する少年。
純粋な少年の目を通して描かれる近況から透けるように見える現実。
この透けっぷりが、大抵の大人にはガラス越しのように丸見えで、どこで話しをオトすのだろうと思って読んでいたら、ストレートに終わりました。
ジョン・ラッツの「腐れイモ」くらいのどんでん返しを期待したんだよね。
一方的な手紙だけで構成された小説だったので、つい…。
薄汚れちまった読者ですみません。
Posted by ブクログ
短編集。
「ひなまつり」主人公の女の子がしっかりしたいい子なんだなあ。
もうそんなに泣かせないでください。
「薔薇盗人」主人公の男の子がピンと来ないのにイライラした。
わざとだったら怖い。
Posted by ブクログ
人々の様々な形の愛を描く短編集。
浅田次郎お得意の感動系を期待していたが、シュールな展開に物もあったりと、少し期待はずれ感はあったが、心が洗われる物語が多かった。
特に好きなのは「死に賃」と「ひなまつり」の2つ。
「死に賃」戦後の動乱の時期を勝ち残った社長が同じ時代を生きた級友から莫大な料金を引き換えに自分が死ぬ間際の苦痛を取り払ってくれるサービスがあると話を聞く。
その級友が亡くなり、自身も急な病に倒れたときそのサービスを使おうとするが。。。。
最後の意外な展開に加え、献身的な愛の形が露になったとき思わず泣けた。
「ひなまつり」東京オリンピックが始まる昭和の時代、シングルマザーの家庭に育つ女の子が大人の事情にふりまわされながらも、大好きな母と”おとうさん”のために奔走する物語。
自身の孤独や"おとうさん"に対する好きだけど自分ではどうしようもできない想いが語られ、その心中を察するだけで胸がいっぱいになってしまった。