【感想・ネタバレ】「嫌消費」世代の研究 経済を揺るがす「欲しがらない」若者たちのレビュー

あらすじ

若者の消費が変化している。若者はなぜ、物を買わなくなっているのか。そこには巷間ささやかれている「低収入」「格差」「非正規雇用の増加」以上に深刻な、彼ら独特の心理=「劣等感」が強く影響している。
本書では「収入が十分あっても消費しない」傾向を「嫌消費」と名付け、大規模な統計調査と聞き取り調査をもとに、「嫌消費」を担う世代=20代後半の「買わない心理」の原因と深層に鋭く迫る。ビジネスパーソン必読の一冊。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

★本書を読む目的

バブル世代の消費基準に疑問。
いいものを文化的に残すためにも、
価値と同等に支払うべきは、
金持ち目線の消費基準ではないのか?
消費しない若者の消費基準を知りたい。

★付箋(引用)

p62
「食べるために働く」という倫理観は、家庭でも学校でも失われていった。
「借金は善、消費は美徳、もっと贅沢を知りなさい」と教えられた。
ところがバブル崩壊によって(略)
「借金は悪、地道にコツコツ働いて、貯金しなさい」と
親に刷り込まれるようになる。

→お金とのつきあいの価値観の変化

P158
みせびらかし消費は、みせびらかす相手が購入できないことが前提となる。
相手が入手できないからみせびらかしになる。

→バブル後世代は、他人からの評価を気にしながら消費する。
みぜびらかし消費は、「限定品」とか?
転売の定番キーワード。

P202
現代の日本は、消費に関して、バブル後世代が「勤勉と節約」を
団塊の世代が「余暇と浪費」を代表し、両者の価値意識が鋭く対立している。

→やはりという感じ。

★感想

他にも、何をバブル後世代は購入しているかなども書かれていて商売のヒントに。
世代論は、改めて面白いなぁと、その昔、仕事でマーケティングもどきのレポートを
書いていたことを思い出した。

★実行すること

・扱う商品がみせびらかし商品になっているか?チェックする。
・自分自身の嫌消費体質への変換。(笑)→効果があるメリハリな消費基準を持つ

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2013年09月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

世代の共通意識・特徴

世代とは,同一年代に生まれ,歴史社会的に同じような体験を経て成長することにより同じような価値意識をもち,同じような行動をとる社会集団のことである.

少子化世代(1984~93年生まれ)
親の世代の未婚化,晩婚化によって,同年代の数が少ない.学童期に「9・11アメリカ同時多発テロ事件」や「イラク攻撃」などの世界的事件を体験し,「自分のことを評価してもらいたい」「自分の天職をみつけたい」といった社会的承認欲求の高い世代である.
もっとも強いのが顕示志向,続いて内閉志向,自己実現までの3つの価値意識は全世代のなかでいずれももっとも強い.続いて享楽志向,もっとも弱いのが安心志向である.
「誰かに評価してもらいたい」「他人にどうみられるか気になる」と自分に自信がなく,他社からの承認願望も強いのが特徴.

バブル後世代(1979~1983年生まれ)
バブル崩壊を学童期に体験し,学童・青年期に「阪神・淡路大震災」や「地下鉄サリン事件」など日本の大事件に遭遇した.
顕示欲や周りへの同調志向が強く,劣等感が強いと自覚している.
顕示志向が強く,内閉志向,自己実現安心志向と続き,もっとも弱いのが享楽志向である.享楽志向は,全世代の中で最も弱く特徴的である.
「ワンランク上」「人間関係を広げたい」など他社への競争意識を強く持っているが,潜在的な強い劣等感の裏返しでもある.

団塊ジュニア(1971~78年生まれ)
両親のどちらかが「団塊世代」である率が高い.昭和天皇の崩御と「昭和の終わり」,そして「湾岸戦争」をテレビで体験した世代である.消費に対してはポジティブでもネガティブでもなく,新人類ほどの謳歌意識はない.
バブル後世代と5つの価値意識の強さの順序は同じであり似ている.異なるのは,バブル後に比べて顕示志向が低い水準にあることだ.
「自由気ままな生活」を求め「一寸先は闇だ」「他人の目を気にせずにいたい」など厭世的(えんせいてき:人生や世の中をはかなむ傾向にあるさま⇔楽天的)な意識をもつ.

新人類(1961~70年生まれ)
バブル経済を青年期,学生時代や就職期に謳歌した世代.家庭では「大黒柱」,社会では「中堅やベテラン」としてストレスが多く「ナンバーワンよりもオンリーワン」にもっとも共感を抱き,消費に対してもっともポジティブな意識を持っている.
価値意識の強さの順は内閉志向,自己実現,顕示志向,安心志向,享楽志向となっている.
他の世代に比べて「普段の生活でストレスを感じている」「ナンバーワンよりオンリーワン」に共感している.企業や家庭を支える中堅のつらさがにじむ.

断層世代(1951~60年生まれ)
「断層」と呼ばれるのは,人口数の多さや学生運動の担い手として注目されてきた政治的意識の高い「団塊世代」と,政治には関心が薄く消費好きな新人類世代との狭間に位置し,政治から消費への橋渡しの役割を果たした世代だからである.
バブル後世代の親世代にあたり,青年期に,団塊世代の学生運動などの左翼運動の挫折と高度成長の終焉である「第一次石油ショック」を体験した.環境意識,社会正義などの秩序意識が強く,社会の見方への屈折観も強い.消費意欲も高い.
享楽志向,安心志向がほぼ同程度であるがわずかに享楽志向が強く,内閉志向,自己実現と続き,顕示志向が弱い.
若い世代が弱い享楽志向が最上位にとって代わり,顕示志向が最下位に転換する.若い世代と団塊世代以上の旧世代の価値意識が転換する節目を作っている.

団塊世代(1946~50年生まれ)
出生から定年年齢への到達まで,ライフステージを変えるたびに人口数の多さからさまざまな変化の先駆者となってきた.学童期には,「三井三池争議」「60年安保闘争」「ケネディ暗殺」を経験した.最初のマスメディア世代でもあり,彼らとともに育ったマスブランドは多数ある.
全世代中,享楽志向がもっとも強く,逆に顕示志向がもっとも弱い.間に安心志向,自己実現,内閉志向が位置し,バブル後世代と強弱が間逆の対照的関係になる.
「自分らしさにこだわり」「周りの意見より自分の意見で行動」するなど,独善的と言えるほどマイペースである.

焼け跡世代
終戦までに生まれるが戦争の記憶はない.学童期~青年期に「サンフランシスコ講和条約・日米安保条約の締結」による日本の独立や「国連加盟」を体験する.「自分への正直さ」「他人へのやさしさ」「自国文化の保守」意識が強い.1950年代後半,「三種の神器(電気洗濯機,電気冷蔵庫,白黒テレビ)」を知り,1960年代の「3C(クーラー,カラーテレビ,自動車)」などの選択的耐久消費財の普及に貢献した世代である.
安心志向が他の世代に比べて圧倒的に強い.続いて享楽志向,大きく間をあけて,自己実現,顕示志向,内閉志向となっているが,この3つの水準は非常に低い.
自分の事よりも「日本文化」「歴史や伝統」「環境や社会秩序」の維持に関心が向かっている.

意識については,価値観に関する58項目,エゴグラム(性格診断)に関する35項目のなかで,とくにその世代において特徴的に高い上位項目を取り上げている.(JMR調査2008)


より深い理解の為に,心の深部を読んでみる必要があると考えている.
「アイデンティティ(自我同一性)」で著名なE・H・エリクソンの「個体分化図式」(エピジェネティク・スキーム)と呼ばれるモデルを参考にしている.
エリクソンは,無意識の解明に貢献して精神分析の創始者となったS・フロイトの理論を継承し,社会と心理の関わりで心理が発達していくことを明らかにした分析家である.
エリクソンによれば,人は生まれてから死ぬまでのライフサイクルのなかに8つの心の発達段階をもっている.乳児期(0歳),幼児期初期(1~2歳),遊戯期(3~6歳),学童期(7~12歳),青年期(13~20歳),前成人期(21~30歳),成人期(31~59歳),老年期(60歳~)である.
この時期ごとに,フロイトの解明した性的・内的な発達と親などの家族,近所,学校などの社会との関わりで,さまざまな心理的な危機を迎え,分岐を経験し,課題を克服していく.
この過程で,信頼と不信,自律性と恥,自主性と罪悪感,勤勉性と劣等感,アイデンティティと拡散,親密と孤立,生殖性と停滞性,統合と絶望などの心理的な感覚の葛藤を経験する事になる.この葛藤をどのように通過していくかは個々人によって異なり,バランスのとれた標準的な通過ができなければ,さまざまな心理的な課題を積み残しながらライフサイクルを進むことになる.

この「個体分化図式」のモデルによれば,バブル後世代は,前成人期において家族形成に必要な異性や他人との「親密性と孤立性」の感覚の葛藤課題を経験する中で,異性と向き合う「婚活」の悩みを抱える.
また,彼らの強い劣等感は,学童期(7~12歳)に形成された可能性が高い.この時期に「勤勉性と劣等感」の課題をうまく乗り切ることができず,およそ20年経っても過去を引きずっている.仮に,標準的な通過をすれば,他世代よりも強い劣等感を持つことにはならないだろう.

エリクソンによれば,学童期に,児童は道具の使い方を学び,技術を使って,他人と協力して何かを達成しようとする.これに成功する事によって,社会に順応する能力である「勤勉性」を学び,自分が有能である自身を獲得する.しかしこれに失敗すると,うまく道具が使えない,知識を習得する事ができないという体験を通じ,協力すべき他人よりも劣っているのではないかという「劣等感」を抱くことになる.

バブル後世代に強い劣等感があるのは,この時期に何らかの共通の社会体験があったからと考えられる.彼らの生活史から特定できるのは2つの社会的事件である.
1つは,学童期の1980年代後半から1990年代前半に起こった出来事,すなわちバブル崩壊である.また,この時期に,バブル期に検討されてきた学校での「ゆとり教育」の導入が開始され,週休2日制がはじまっている.バブル崩壊は大きな社会的価値観の転換と混乱をもたらした.コツコツと仲間と何かを成し遂げる勤勉の価値が,バブル期には軽視され,崩壊後は称賛されるようになった.学校で学ぶ「ゆとり教育」の価値とバブル崩壊後に社会で求められる自由競争やスピードの価値はまったく相反するものとなった.こうした勤勉性に対する社会的評価の転換や混乱は,学童期のこの世代の勤勉性の感覚に大きな影を落としたことは間違いない.
もう1つは,「いじめ」問題である.
彼らは,他人を簡単には信頼しない.とくに,女性にこの傾向が強い.他者への信頼性の欠如が,学童期に他人と協力しながら何かを成し遂げる達成経験を減らし,(とくに女性の)バブル後世代の強い劣等感形成の背景となったのではないだろうか.前の世代のいじめは,いじめの加害者と被害者が固定的だったのに対し,バブル後世代のいじめは加害者と被害者が「日替わり」で,自分がいつ何をキッカケに被害者になるかわからない恐怖があったと考えられる.「ある日突然,周りから無視された」,矛先が他の人に移ると「悪いと思うのに,自分がいじめる側にまわってひどく怒られた」こともあった.「学校には登校拒否の人がいつも1人以上はいた」と言う.したがって,「目立たないように」「空気を読んで」「できるだけ深く関わらずに」暮らしていくことを余儀なくされていた.イジメ経験によって,友人への信頼関係がうまく形成できないと,勤勉性の感覚がうまく学習できない事になる.

バブル後世代の不安感は劣等感の強さと関連が強い.
不況下における雇用や収入が厳しい条件になるのは,雇用削減の対象になりやすい若い世代にはより不利に働く.しかしこの不利な条件は,バブル後世代だけでなく,団塊ジュニア世代においても同様に存在しているはずである.しかし,自分に自信がないと,同じ雇用条件でも,より「自分の将来」がみえず,「収入が不安定」になることを恐れ,「自分や家族の失業」をより心配することになる.
劣等感は,ものごとを他者と協力して最後までやりとげる経験を重ね,勤勉性を醸成することによって克服される.しかし,バブル後世代はバブルの崩壊に育った歴史的制約のなかで,他世代に比べて何かをやりとげた経験が少なく,浅いのである.

支出削減意向には劣等感と収入の見通しがあり,収入見通しが悪くなると支出は抑制される.そして,収入見通しは,実際の収入増減に規定され,さらに,それは職業によって異なってくる.
職業と価値意識は消費支出減に影響を与えるもっとも大きな要因であると言える.そして,この2つともっとお大きな関連をもつ要因が世代である.
つまり,共通体験から生まれる価値意識,そして,1990年代の日本の雇用環境の変化の反映である雇用条件の2つの要因をもっとも反映しているのは,世代特性であり,それをもっとも体現しているのがバブル後世代である.

ライフサイクル恒常所得仮説
生涯に得られる収入のもとで,支出を均等化し,使い切るモデルである.
横軸に年齢をとり,縦軸に収入をおよび消費支出水準をとると,まず,生涯の大雑把な賃金あるいは収入曲線が描ける.そして,支出は,全生涯にわたって平準化しようとして支出するものとする.この場合,支出水準は水平の直線になる.
このような全体を置くと,若いうちは収入以上に支出をし,不足分を借入で補い,中年期には賃金水準も上昇するので貯蓄に励み,引退後は収入が減少するので,平均寿命までは資金の運用や預貯金の取り崩しで生活水準を維持すると考えることができる.
退職年齢を迎えている団塊世代は,ほぼこのような賃金プロフィールを描き,支出水準を決定してきたと考えられる.続く断層世代も同じようなプロフィールを描くであろうことが予想される.この世代までが年金の受取額が払込額を上回ると予想されている.
しかし,バブル後世代の状況は異なる.彼らの世代では,賃金曲線が年功序列で上昇していくことはない.賃金プロフィールの不確実性が高く,ピークは低く見積もらざるを得ない.これは言うまでもなく,終身雇用と年功序列賃金体系が崩壊したからである.さらに劣等感はより悲観的な賃金プロフィールを予想する.リタイア後の年金給付などの老後の収入の不確実性は高く,水準は前の世代に比べて確実に低い.どう見積もっても前の世代よりは,生涯年収は低くなる.他方で,平均寿命は延び,医療費の個人負担などの上昇が予想される.親の介護などを考慮すると,生涯の支出は増加することになる.この結果,生涯収入に見合う水準で,上の世代よりも支出水準を低下させ,老後に備えて預貯金を蓄えざるを得なくなる.こうした消費支出の下方圧力に,彼らの世代特有の劣等感が加わり,消費支出水準の低下を促し,平均消費性向の低下をもたらすことになる.この結果,収入があっても支出はしない,という嫌消費スタイルが生まれたといえる.

世代が歴史の変化を説明する要因としてとらえられ,一定の理論になったのは,たかだか100年ほど前のヨーロッパからである.現代の世代論に決定的な影響を与えているのは,『知識社会学』で知られるK・マンハイム(1893~1947年)と,『大衆の反逆』で知られるJ・オルテガ(1883~1955年)である.とくに,マンハイムは,日本で世代論を議論する際にかならず引用される.さらに,両者に影響を与えているのは,『歴史と生の哲学』で知られるドイツのW・ディルタイ(1833~1911年)で,この3人によって,19世紀末から20世紀初頭に現代の世代の理論のアイデアや骨格はほぼ固められたと言ってよい.

ディルタイは,個人の生身の生き方を,歴史に「拘束」された存在としてみる観点が世代論の本質であり,世代を基軸にした歴史観を持った.ディルタイが志向したのは,理性や論理に対する感性や感情の復権であり,科学的な専門分化に対して「生そのもの」をとらえることであった.「生きること」つまり,具体的な生の体験という視点から時代精神をとらえる.

マンハイムは,観念的なディルタイと物質主義的なA・コント(フランスの実証主義者)の両者を統合するように,コントの自然的な同年代生まれの定義に,意識の共有を加えた.つまり,世代とは,ほぼ同年代に生まれ,同じような体験をし,同じような価値意識をもつ社会集団であるとした.マンハイムは,「世代状態」「世代連関」「世代統一」などの独自のキーワードによって世代論を説いている.
マンハイムの要点を以下6つに要約.
1.世代の存在は,生命に限りのある個人によっては不可能な文化(高尚な芸術だけでなく,暮らしぶりや暮らし方も含む)の継承が行われる事実によって証明される.
2.文化は世代によって継承されるだけでなく,革新されもするととらえた.一つの文化を担う世代が,生物学的な寿命によって退場することにより,古い要素が消え,新しい世代の新しい要素が組み込まれ,革新が付加される.つまり,文化の継承と創造を可能にしているのは,新しい世代の出現と退場,つまり,世代交代による.
3.世代形成の仕方.同年代人が同じ環境にあることを「世代状態」と呼び,同じ世代状態を,同じ精神の発展段階で経験することを「経験の層化」と説明している.この経験の層の々「断面層」を人々の意識の「基本在庫」ととらえ,基本在庫が同じ集団を同じ世代であると述べている.つまり,同年代の人たちが,同じ体験を,同じ成長段階に経ることによって,同じような意識をもち,それが同世代を形作る,ということだ.
4.多様な世代行動についての解釈.世代は同じ共通意識をもつが,政治や文化などで同じ態度や行動をとるわけではない.それでも世代としてつながっていることを,「世代関連」というキーワードを用いて説明している.同一世代の異なるグループが,同じ文化現象に対して,異なる対応を取りながらも,同じ意識をもって結びつくことを「世代連関」と呼んでいる.これは同じ世代なら常に同じ行動をとるのか,という疑問への説明である.
5.世代交代によって生まれる時代変化について.1つの世代が大きな時代の流れを生み出すような「世代統一」が生まれることがある.さまざまな政治,社会や文化現象において,一つの潮流を生み,時代を代表するほどの影響力をもつ「世代統一」が生まれるのである.マンハイムは,1つの世代がリードする文化や現象が,全世代に波及し社会現象になることを「世代統一」と呼んでいる.
6.歴史を動かすのは,階級対立などの他のさまざまな要因であって,世代交代は要因の1つであると考えた.マンハイムは歴史を動かす要因の1つが世代交代であると認めているが,主役とはみなしていない.しかし,世代論を歴史の説明理論としてとらえたことはたしかである.

オルテガは,歴史の主役を世代と考えている.オルテガの世代の理論の要点を3つに集約したものを以下に示す.
1.歴史のとらえ方.歴史は1人ひとりの生身の「生」で構成されている.歴史の「原子」は「生」であるとオルテガが言っている.これはディルタイから引き継いだものであり,科学によって,生身の人間が細分化されていくことへの異議申し立てである.
2.世代の定義.社会における同時代人のなかには,個人の次元を超えて,複数の同年代人の集団が存在する.その集団を「世代」と呼ぶ.「世代」とは「生の構造」そのものである.ある特定の時代に生まれ,時代体験を経ながら人が生きていく上での他者との関係,というほどの意味である.つまり,同年代に生まれ,同じ人生の節目で,同じ時代体験を経て,同じ意識を共有することとなった自分と他者の集合である世代を一言で言い換えたものである.
3.世代分析についての仮説的な命題.オルテガは自らの世代論を,16世紀に科学的思想の発展に貢献した「ガリレオ」などの研究に活用している.その際,世代について3つの前提条件を設けている.その1つ目は,「各世代は歴史において約30年間の活動期間をもち,その前後の別の世代と15年間重なりながら連結する.したがって,世代は15年ごとに更新される」というものである.前提条件の2つ目は,世代の活動期間が30年であるので,15年ごとの期間は,常に2つの世代で構成され,壮年の年代層(30~45歳)は新しいものを着想・独創する懐胎期の段階にあり,熟年の年代層(46~60歳)は実践・支配期にあたる.3つ目は,この2つの世代の間には,「対立ないし論争の関係」があり,構造的不均衡を生み,いわば宿命的に社会を動かし,変化させる.その軌跡が歴史であるというものである.

ディルタイ,マンハイム,オルテガの世代論の共通点
1.世代のとらえ方や定義.世代を「同年代生まれであり,共通意識をもつ」と定義.
2.世代の役割や機能は文化や価値体系の継承と創造であるとした.世代が存在することによって,人間の精神体系が継承され,発展されると認識.
3.世代論構築の狙いを,時代変化の説明,つまり歴史観の基軸にすえ,世代から時代を見据えようとした.

世代論の批判点
1.世代の切れ目.世代は連続性を恣意的,観念的に切断するものであり,架空の属性にすぎないとの批判.これは,世代に数学的正確性を要求するものであると解釈できる.しかし,世代論に数学的正確性を要求するのはナンセンスである.
2.世代区分の長さ定義.各国の事情に合わせて,仮説検証的に試行錯誤が必要と考えられる.
3.量的検証の困難.量的データによって世代効果を分析するには,データ上と分析上の2つの制約がある.1つ目は世代区分の長さ=年代区分の長さ=経年変化区分の条件を満たすデータが,統計分析に有効なサンプル数だけ必要となる.同じ設問のデータが長期に渡って実施されることのむずかしさ.2つ目に,例えばコーホート分析を考えると,年齢,時代,世代の3つの変数の答えを2つの方程式で解くしかないということです.通常,変数の数と方程式の数は同数でないと解けない.したがって,ある制約条件を与えて解くしかないため,答えの納得性は制約条件の内容に依存する.
4.政治的な世代分断批判.世代差の強調は,多くの人々の協調を乱すことになるという批判.たとえば,年金問題や雇用には大きな世代差が生まれている.ここで世代差を強調することは,不利な世代による有利な世代への批判になり,単なる分配問題になって,為政者を喜ばせるだけであるとの批判である.
5.分析者の主観の影響.どの世代に属する人間が分析するかによって,世代論,特に特定世代への評価は影響を受けざるを得ない.例えば,「新人類論」はその世代名称からもうかがえるように,主観的な印象の影響が強い.

世代論によってものごとを分析する際の7つの原則
1.世代は一定の年代生まれの共通の価値意識をもった社会集団と定義する.
2.日本の世代は,生活や消費などの価値体系や文化の「継承」よりも,それらの「創造」に寄与し,変化を促進する機能を果たしている.それは世代スパンが短いからであり,ヨーロッパよりも3~6倍速いと推定される.
3.日本の戦後の世代は,誰もがその存在を認め,人口統計上明確な「団塊世代」を「決定世代」の基準に据え,歴史体験の共通パターンから5~10歳までの生年幅で区切る.アメリカでは15歳,中国,韓国ではそれぞれ5~10歳の幅で世代が区分されている.
4.この基準によって,日本は7世代に分類できる.この7世代は,ほぼ同年代で同じ歴史的体験をした集団である.
5.1つの世代は,同じような心理的あるいは自我発達段階に,家族は異なるが,学校や地域社会で同じような社会との関わりをすることから,共通の世代固有の意識を形成する.同年代の同じライフサイクル時の同年代体験を探ることによって,世代に特徴的な意識を抽出できる.
6.歴史的な経年変化は,コーホート分析で想定したように,年齢効果,時代効果,世代効果の3つの要因によって起こっているとみなす.
7.歴史的な経年変化が世代効果で説明されれば,世代交代による人口の世代比率の変化の趨勢(スウセイ)によって,未来の変化を推測することができる.

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2012年02月24日

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